iPhone 5は圏内、203Zは圏外

現在、当ブログメディア「S-MAX(エスマックス)」内の別記事でソフトバンクモバイルのモバイルWi-Fiルーター「Pocket WiFi 203Z」(以下、203Z)のレビューを行っています(記事1記事2)が、この機種をソフトバンクモバイルの他の機種、例えば、Apple製スマートフォン「iPhone 5」と一緒に持ち歩いていると、iPhone 5は使えても203Zは圏外ということが普通に発生します。

これは携帯電話事業者(この場合は「ソフトバンクモバイル」)が提供するネットワークのすべてに機種が対応していないために起こる現象で、スマートフォンとモバイルルーターとの比較に限らずさまざまなケースで起こりえます。

そのため、間もなく発表される見込みの新型iPhoneにおいても、ネットワークへの対応状況が注目されています。そこで、今回の連載「スマホのちょっと深いとこ」では、最近特に複雑になってきているこのネットワーク状況についての話題を取り上げていきたいと思います。

【「通信方式」と「周波数帯」に注目】

現在、携帯電話事業者は複数のネットワーク(*1)を提供しており、スマートフォンやタブレット、モバイルWi-Fiルーターなどはそれらのうち自分がつながることができるものを選んで接続しています。もしあるエリアで提供しているネットワークに自分の機種が対応していない場合は、そのエリアでは圏外になってしまいます。

*1:「ネットワーク」という言葉がわずらわしい場合は、単純に「ケータイの電波」と置き換えるとわかりやすいかもしれません。

携帯電話事業者が提供するネットワークは、ざっくり言ってしまえば以下の2種類の指標によって分類されます。

(1) 通信方式
(2) 周波数帯

(1)の通信方式は、携帯電話とネットワークが使用する「言葉」のようなものです。日本語と英語で会話しても通じない(*2)ように、携帯電話とネットワークが同じ通信方式(言葉)を知っていないと通信は成り立ちません。

一般的に新しい通信方式のほうがより高速に通信を行えます。最近でいえば「3G」と呼ばれる古い通信方式と「LTE」あるいは「4G」 と呼ばれる新しい通信方式があり、後者のほうが高速です。

一方(2)の周波数帯は、携帯電話とネットワークが通信に使用する電波の「通り道」のようなものです。新幹線の線路を山手線の電車が走れないように、こちらについても携帯電話とネットワークが同じ周波数帯(通り道)に対応している必要があります(*3)。

つまりある機種がネットワークに接続できるかどうかは、その機種の対応する「通信方式」と「周波数帯」によって左右されることになります。基本的に通信方式や周波数帯が既存の機種にソフトウェアアップデートなどにより追加されることはなく、新しい通信方式や周波数帯を利用するためには新しい機種が必要です。

*2: ボディーランゲージなどは考慮しないものとします。
*3: この例えでいえば複数の周波数帯に対応する機種は「新幹線も山手線も走れる」ことになります。余談ですがこのような列車は実際に「フリーゲージトレイン」として開発が進められています。

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通信方式・周波数帯のサポートは機種により様々
(写真はiPhone 5のパッケージに記載された対応通信方式・周波数帯)

【複雑さを極める事業者の通信方式と周波数帯】

実際に国内の携帯電話事業者が現状提供している通信方式と周波数帯を簡単に紹介します。

[NTTドコモ]

通信方式 周波数帯 サービス名
3G 800MHz帯
1.7GHz帯
2.1GHz帯
「FOMA」
LTE 700MHz帯(予定)
800MHz帯
1.5GHz帯
1.7GHz帯
2.1GHz帯
「Xi」(クロッシィ)

[KDDI(au)]

通信方式 周波数帯 サービス名
3G 800MHz帯
2.1GHz帯
「CDMA」
LTE 700MHz帯(予定)
800MHz帯
1.5GHz帯
2.1GHz帯
「au 4G LTE」
WiMAX
WiMAX 2+(予定)
2.5GHz帯 「+WiMAX」
※UQコミュニケーションズからの提供

[ソフトバンクモバイル]

通信方式 周波数帯 サービス名
3G 900MHz帯
1.5GHz帯
2.1GHz帯
「SoftBank 3G」
1.5GHz帯は「ULTRA SPEED」
LTE 900MHz帯(予定)
2.1GHz帯
「SoftBank 4G LTE」
AXGP 2.5GHz帯 「SoftBank 4G」
※Wireless City Planningからの提供

[イー・モバイル]

通信方式 周波数帯 サービス名
3G 1.7GHz帯 「EMOBILE G4」
LTE 1.7GHz帯 「EMOBILE LTE」

一般にサービス名は通信方式とほぼ対応しますが、周波数帯は同じ通信方式において複数存在することがわかります。上で説明したように、通信方式に対応していても周波数帯に対応していない場合はそのネットワークに接続できません。例えば、NTTドコモの「Xi(クロッシィ)」に対応した初期の機種は2.1GHz帯にしか対応していないため、800MHz帯や1.5GHz帯のエリアではXiのネットワークには接続できないことになります。

また近年では、世界的な周波数利用状況も無視することができません。例えば、イー・モバイルの1.7GHz帯LTEや各社の2.1GHz帯3G・LTEは、他国でも同一通信方式・周波数帯における利用実績があるため、特に海外メーカー製機種がサポートしてくれることが期待されます。逆に1.5GHz帯は世界的に見ても日本だけで利用されているため、機種サポートという意味では不利です。

それでは冒頭で取り上げたソフトバンクモバイルの例で、機種の通信方式と周波数帯への対応を見てみます。比較するのは203ZとiPhone 5、同社Androidで最新機種となる206SHです。なおソフトバンクモバイルでは機種によってはイー・モバイルのネットワークも利用するため併せて記載しています。

通信方式 周波数帯 対応状況
203Z iPhone 5 206SH
3G 900MHz帯 ×
1.5GHz帯 ×
2.1GHz帯 ×
LTE 2.1GHz帯 × ×
AXGP 2.5GHz帯 ×
3G(イー・モバイル) 1.7GHz帯 × ×
LTE(イー・モバイル) 1.7GHz帯 ×

どの機種においても、対応していないネットワークが存在しています。203Zは2.5GHz帯のAXGP(SoftBank 4G)とイー・モバイルのLTE・3Gに対応するものの、ソフトバンクモバイルの3Gにおいてはエリアの限定される1.5GHz帯のみの対応となっています。そのためソフトバンクモバイルがエリア拡大に力を入れている周波数帯(3Gの900MHz帯・2.1GHz帯、LTEの2.1GHz帯)に対応するiPhone 5と比較したときにエリアに差が出てくるわけです。また2013年9月現在、ソフトバンクモバイルのAndroidスマートフォンは最新機種においてもSoftBank 4G LTEの2.1GHz帯には対応せず、代わりにAXGP(SoftBank 4G)の2.5GHz帯に対応しています。

【人気機種の周波数帯対応が事業者の命運を分ける時代に】

機種を購入する側からしてみれば、事業者が提供するさまざまなネットワークをできるだけ多く活用したいのが人情でしょう。ただ実際には事業者や機種メーカーの意向、技術的な問題などにより、機種が対応するネットワークに制限が存在するのが現状です。

むしろ最近では、iPhoneなど人気機種が対応する周波数帯を事業者が優先して整備する動きも出てきています。ソフトバンクモバイルがiPhone 5に対応している2.1GHzの自社LTEに加えて、同じくiPhone 5が対応するイー・モバイルの1.7GHz帯LTEも使えるようにして「ダブルLTE」を打ち出したのはこの典型的な事例です。

対照的にKDDIがiPhone 5に対応していない周波数帯のエリアをiPhone 5に対応しているように表示した件で消費者庁から措置命令を受けたこともありました。

このように人気機種に対応した周波数帯でのエリアをいかに充実させるかが、携帯電話事業者の競争に大きな影響を与える時代となりました。間もなく新型iPhoneの発表が予想されますが、今度のiPhoneが自社のサービスしている周波数帯に対応してくれるかどうか、事業者にとっては大いに気になるところでしょう。また利用者にとっても、どの事業者で使えばiPhoneがより便利(広いエリア、高速通信)なのか、その鍵を握るネットワーク対応状況は要注目です。


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