北朝鮮唯一の携帯電話サービス「koryolink」のロゴマーク。千里馬がモチーフとなっている。

世界中のマスメディアを賑わせる「朝鮮民主主義人民共和国(以下、北朝鮮)」。日本でも毎日のように北朝鮮に関連したニュースが報じられているが、北朝鮮の携帯電話事情は報じられることが少ない。そんなまさに“近くて遠い国”の代表格とも言える北朝鮮には日本からの渡航者も少なく、北朝鮮の携帯電話事情について知る機会もあまりないだろう。

携帯電話事情は文化などと同様に国や地域によって多種多様であり、それは北朝鮮においても同様だ。そこで、今回は謎に包まれた北朝鮮の携帯電話事情について実際に渡航して得られた内容も含めて数回に分けてお伝えする。まずは第1回として北朝鮮においてどういった携帯電話のサービスが行われているのかを歴史とともに紹介する。

◯北朝鮮唯一の移動体通信サービス「CHEO Technology」
これから北朝鮮の携帯電話事情をお伝えするにあたり、最初に北朝鮮の移動体通信事業者など基本的な情報について説明する。2014年9月現在、北朝鮮における移動体通信事業者は1社のみが存在している。北朝鮮国内においてはCHEO Technology JV Company(以下、CHEO Technology)が北朝鮮全土で移動体通信サービスを提供する。平壌市普通江区域に位置するINTERNATIONAL COMMUNICATIONS CENTREのビル内に本社を置く。「koryolink」として知られることが多いが、正しくはCHEO Technologyが企業名であり、koryolinkは移動体通信サービスのブランド名となっている。2008年12月15日より移動体通信サービスを提供している。

CHEO Technologyは2007年5月に設立された企業で、エジプトのOrascom Media and Technology Holding S.A.E.(以下、OTMT)と北朝鮮のKorea Posts and Telecommunications Corporation(以下、KPTC)の合弁企業であり、KPTCは北朝鮮逓信省傘下の国営企業で、実質的には北朝鮮逓信省と同体である。

CHEO Technologyの設立時はOrascom Telecom Holding S.A.E.(以下、Orascom Telecom)とKPTCの合弁企業であったが、Orascom Telecomが2011年11月に一部事業を分社化した際にkoryolinkの事業を引き継いだため、現在はOTMTとKPTCの合弁となる。なお、Orascom Telecomは2013年9月に社名をGlobal Telecom S.A.E.に変更している。CHEO Technologyへの出資比率はOTMTがOrascom Telecom時代と同じく75%、KPTCが25%となっている。


◯北朝鮮の携帯電話の歴史
先述の通り、2014年8月現在はCHEO Technologyのみがkoryolinkとして北朝鮮で移動体通信サービスを提供する。しかし、北朝鮮における移動体通信サービスはkoryolinkが初めてではなく、以前には他の事業者もサービスを提供していた。そこで、koryolinkが開始されるまでの歴史についてもを紹介しておくする。

北朝鮮で最初の移動体通信事業者はNortheast Asia Telephone and Telecommunications(以下、NEAT&T)であり、タイのLoxley Pacificと後にCHEO Technologyへ出資することにもなったKPTCの合弁会社だったである。出資比率はLoxley Pacificが70%でKPTCが30%であり、2002年11月より平壌市や羅先市において、900MHz帯を使用してGSM方式のサービスを提供していた。利用者は2003年12月末時点で2万に到達したとされるが、2004年5月に北朝鮮当局が携帯電話の使用を全面的に禁止したことで事実上の事業停止となる。携帯電話の使用を禁止したことは、2004年4月22日に発生した列車爆発事故に携帯電話の関与が疑われていることが原因と予測されている。

しかし、北朝鮮での移動体通信サービスが完全に停止したわけではなく、NEAT&Tの設備を利用してKPTCがブランド名をSunNetとして継続していた。SunNetは主に限定された外国人を対象に提供していたが、2010年末にネットワークの運用を終えている。サービスの提供はそれよりも早くに終了していると思われるが、その正確な時期は不明である。

koryolinkは2008年12月15日に開始しているため、一時的には2つの移動体通信サービスが存在していた可能性がある。SunNetの存在は公にされなかったが、国際電気通信連合(ITU)に登録されていた情報から存在していたことは確かである。

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koryolinkの広告では最初の3Gネットワークであることを強調している。待受画面は千里馬である。



◯「koryolink」のサービス開始
一方、CHEO Technologyは2008年5月に2.1GHz帯(Band I)を使用したW-CDMA方式の試験運用に成功し、2008年12月15日より正式にkoryolinkとしてサービスを開始している。試験運用と同じく2.1GHz帯のW-CDMA方式で提供し、NEAT&Tが提供していたGSM方式は第2世代移動通信システム(2G)であったるため、北朝鮮における第3世代移動通信システム(3G)はkoryolinkが初となった。koryolinkは最初の3Gネットワークであることを強調してマーケティングを展開しており、現在はパケット通信にHSPA方式を導入している。

CHEO Technologyはサービスの開始と同時に25年間の事業運用免許と4年間の事業独占権が与えられており、事業独占権は2012年末に満期を迎えたが、2015年末までの3年間の延長が認められている。

利用者数はOTMTの発表によると2013年5月末に200万を突破しており、利用者は北朝鮮国民や外国人を問わず、基本的にkoryolinkのプリペイド式となっている。サポートとしては販売店の窓口以外にコールセンターを用意し、コールセンターの番号は移動体通信サービスに関する案内(999番)と携帯電話に関する案内(666番)に分けられている。

なお、ロゴマークは上述のように千里馬をモチーフとしている。千里馬は北朝鮮の象徴ともされる伝説上の動物で、北朝鮮で販売されている携帯電話には千里馬の壁紙がプリインストールされていることもある。また、koryolinkのスローガンは「더높이 더빨리!(もっと高く もっと速く!)」であり、千里馬を意識したものとなっている。

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koryolinkのロゴマークのモチーフとなった千里馬。平壌市内には巨大な千里馬の銅像が建てられている。


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koryolinkが販売しているスマートフォン「Arirang AS1201」には千里馬の壁紙がプリインストールされている。


記事執筆:田村和輝


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