北朝鮮のスマートフォン「Arirang AS1201」から日本に国際電話をかけた様子

数回に分けて紹介している「朝鮮民主主義人民共和国(以下、北朝鮮)」における最新携帯電話事情だが、前回は実際に渡航し、唯一の携帯電話サービス「koryolink」のプリペイドSIMカードおよびスマートフォン「Arirang AS1201」を購入したレポートをお伝えした。

そこで今回は、実際に購入したプリペイドSIMカードとスマートフォンでkoryolinkのサービスを試してきたので、現地で検証した内容などをお伝えする。利用可能なkoryolinkのサービスは限られるが、スマートフォンを使って提供エリアなどを確認できた。

◯北朝鮮から国際電話を使う
すでに紹介したように筆者が購入したプリペイドSIMカードは音声通話専用で、しかも北朝鮮国内に電話をかけられないため、実質的に国際電話専用となる。koryolinkの販売店には国際電話の通話料が一部の国だけ記載されていたが、店員には記載されていない国や地域への通話料は不明だと言われた。今回選択したプランは初期残高が10ユーロ分で、通話料が記載されていなかった日本と香港に国際電話をかけたが、合計で10分も経たずに初期残高を使い切ってしまった。とはいえ、通話自体は音声が聞き取り辛いようなことはなく、北朝鮮からの国際電話が問題なく使えた。

このようにkoryolinkのサービス自体は問題ないのであるが、国際電話を使う外国人の多くはホテルの電話を利用するという。プリペイドSIMカードは料金の高さや認知度の低さが影響して利用する外国人が少ないとのことだ。平壌順安国際空港にあるkoryolinkのブースは分かりやすい位置にあるとはいえ、見落す可能性は十分に考えられるほか、料金は最安の30ユーロのプランが新設されても国際電話のみであることを考えると高く感じることなどが理由だろう。

筆者が北朝鮮に渡航した際に4度目の北朝鮮訪問となるロシア人と出会ったが、一度もkoryolinkのプリペイドSIMカードを購入したことがないと言っていた。そもそもプリペイドSIMカードを購入することができることを知らなかったと言うので、購入場所や料金を伝えると、翌日にはプリペイドSIMカードを購入していたが、やはり料金が高すぎると話していた。


◯北朝鮮国民のSIMカードは国際電話をできない
北朝鮮では基本的に外国人が単独で行動することは許されず、少なくとも2名の指導員が付き添うことになる。この指導員自身もkoryolinkの利用者であり、北朝鮮における携帯電話の話を詳しく聞くことができた。指導員によると北朝鮮国民もポストペイドではなくプリペイドが基本だという。北朝鮮国民が利用するプリペイドSIMカードは国内電話専用で、海外に電話することができない。当然ながら、外国人用プリペイドSIMカードの電話番号と、北朝鮮国民用プリペイドSIMカードの電話番号は相互にかけ合えない。


◯登録外の携帯電話で試してみる
北朝鮮はIMEIホワイトリスト制度を採用し、プリペイドSIMカードの購入時に北朝鮮で使う携帯電話のIMEIを登録する必要がある。筆者は北朝鮮で購入したArirang AS1201のIMEIを登録したが、日本から持ち込んだ携帯電話のIMEIは登録していない。そこで、IMEIが未登録の持ち込んだスマートフォンにkoryolinkのSIMカードを挿入してみたところ、SIMカードは認識してもアンテナピクト(画面に表示される「電波マーク」)は圏外の状態で利用できなかった。Arirang AS1201にSIMカードを戻すと利用できるようになり、IMEI登録の処理は正常に行われていることが確認できた。

また、このIMEI登録は北朝鮮国民に対しても行っているということで、原則として北朝鮮国民はkoryolinkが販売する携帯電話を使う必要があり、IMEI登録は不正に流通した携帯電話の使用を防止することに効果があるということである。

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IMEIが未登録のスマートフォンにkoryolinkのSIMカードを挿入すると圏外になる。SIMカード自体は正常に認識するが、サービスは利用できない。



◯電波状況や基地局を確認
koryolinkの提供エリアは非公開であるが、人口カバー率では90%に達するとされている。これは平壌市郊外から開城市までの道中はまったく圏外にならなかったことから、エリアがそれなりに構築されていることを体感できた。ただ、平壌地下鉄は地下深くにあるせいか、駅や乗車中はずっと圏外であった。また、平壌高麗ホテルのエレベータの中など大型施設の屋内でも圏外となることがあり、屋内基地局は設置していなかった。
平壌市内では建物の屋上に設置されている基地局が多い。建物の屋上にはスローガンを掲げたパネルがよく見られ、その裏に基地局が隠れていることもあるが、横から見ると丸見えの状態となっていた。平壌市内では見えやすい位置に基地局が設置されており、特に基地局を隠す意図はないようである。一方、平壌市と開城市を結ぶ高速道路沿いは建物がなく、一面に畑やなだらかな山が広がり、基地局は道路から離れた場所にある鉄塔に設置されていた。

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金日成広場に向けて電波を吹くkoryolinkの基地局。正面から見るとスローガンが掲げられたパネルに隠される。基地局は中国のファーウェイ(英語名:Huawei Technologies、中国語名:華為技術)製である。


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平壌市と開城市を結ぶ高速道路沿いの基地局。遠くに鉄塔が見える。


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平壌地下鉄千里馬線の復興駅。平壌地下鉄の駅は核シェルタも兼ねて設計されているため、深い位置に設置されている。koryolinkの電波は圏外となった。



◯外国人と北朝鮮国民は異なるネットワークを利用
平壌市内においてスマートフォンで携帯電話のネットワークを検索すると「467-05」と「467-06」を検出した。これらの数字はPLMN番号(Public Land Mobile Network)を示している。PLMN番号は国や地域別に与えられるMCC番号(Mobile Country Code)と移動体通信事業者別に与えられるMNC(Mobile Network Code)で構成されている。頭3文字の467が北朝鮮のMCC番号で、05と06がkoryolinkのサービスを提供するCHEO Technology JV Companyに与えられたMNC番号となる。koryolinkのサービスは467-05と467-06の2つで提供していることが分かる。

筆者が利用した外国人向けのプリペイドSIMカードでは467-05に接続されていたが、開城市に入ると圏外になった。それでも指導員などの北朝鮮国民は携帯電話を使用しているので、指導員のものでネットワークを検索してみると467-06のみを検出した。外国人は467-05に接続し、北朝鮮国民は467-06に接続していたのである。外国人向けのプリペイドSIMカードで467-06への接続を試みたが接続することはできなかった。

467-05と467-06はいずれも2.1GHz帯のW-CDMA方式であることを確認したが、必ずしもすべての基地局が2つのPLMN番号で吹いているとは限らず、片方が圏外で片方が圏内という事象も発生する。北朝鮮の携帯電話事情は報じられることが少ないため、こうして実際に足を運んで検証することや現地の人に聞くことで、非常に貴重な情報を得られた。

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平壌高麗ホテルでネットワークを検索すると467-05と467-06の両方を検出した。


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Arirang AS1201はOSにAndroidを採用しており、発信画面にはAndroidのマスコットが表示される。機種の状態から信号強度などを確認でき、接続先は467-05となっていた。


記事執筆:田村和輝


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