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無線通信技術の高度化は止まらない!WIRELESS JAPAN 2016の5Gへの取り組みを紹介

東京ビッグサイトにて2016年5月25日(水)から27日(金)まで無線通信技術を中心とした技術展示会「ワイヤレスジャパン2016(WIRELESS JAPAN 2016)」が開催されました。

ITおよびIoT関連企業が出展し、モバイル機器やワイヤレスソリューション、ネットワークインフラなどのさまざま展示が行われましたが、モバイル分野での注目はやはり「5G」です。2020年前後の導入を目途に策定が進められている新たな通信規格に向け、大手通信キャリアや通信機器メーカーが高速・大容量広域通信を実現させようと様々なアプローチを展開しています。

また5Gとともに目立っていたのが災害対策です。今年4月の熊本地震の影響もあり、災害対策への関心度はさらに高まっています。継続的な広域通信はもとより、そういった通信網が壊滅的なダメージを受けた場合の対策などにアプローチした製品なども参考展示されるなど、これまでよりも一段深く掘り下げた製品が多数紹介されていました。

本記事は前編と後編の2回に分け、前編では主に5Gへの各社の取り組みを、後編では主に災害対策への取り組みなどをまとめて紹介したいと思います。

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会場内には携帯電話の歴史を紹介するコーナーも設けられていた

5G規格というと、多くの人は3Gや4Gのように完全に別の通信規格として乗り換えていくものだと考えがちですが、5Gの基本的な考え方は「マルチバンド・マルチアクセス通信」です。

4Gよりもさらに広い(高い)周波数の電波帯域を複数用いて、全体として通信の高速化を実現するというもので、現状の4G(LTE)通信も置き換えるのではなく5Gの1つの通信手段として取り込まれていくことになります。

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懐かしいガラケーの内部も大公開


■「最適セル選択方式」で勝負するパナソニック
まず初めに訪れたのはパナソニックブース。パナソニックでは、NTTドコモと共同で複数の通信方式をシームレスに切り替える「最適セル選択方式」についての実証実験を展示していました。

現在、LTEなどで使われている2GHz帯から低SHF(Low-SHF)で使用される3.5GHz帯、さらに高SHF(High-SHF)で予定されている24GHz帯や現在、無線LAN(Wi-Fi)で利用されている5.2GHz帯もマルチバンドとして想定し、それぞれの基地局へのアクセスをよりスムーズにする技術を公開しました。

電波には周波数が高くなるほど直進性が高まり、なおかつ遠くまで飛ばなくなるという特性があるため、3.5GHz帯やさらに高い24GHz帯といった電波では広いエリアをカバーしづらいという欠点があります。そのため、広域通信網として利用するには多数の基地局を高い密度で配置する必要がありますが、あまりに密集させてしまうと今度は電波干渉によって速度が出なくなるという弊害が起きます。

そこで、5Gではさまざまな周波数帯域の基地局を適度に配置し、通信速度が必要な場所では高SHF帯を、安定したエリアが必要な場所ではLTEをと電波をシームレスに切り替える技術が必要になりますが、パナソニックではその切り替えに通信履歴のデータベースを活用することで、より的確で無駄のない基地局選択を可能にしていました。

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最適セル選択方式のシミュレーション画面。上がデータベース活用あり、下がなし。データベースを用いたシミュレート結果ではユーザーに最も近い基地局がより多く選択されているのが分かる

パナソニックでは今後、IEEE802.11ad(60GHz帯)に代表される高い周波数帯域である「ミリ波」の利用も想定しており、公共施設などでのスポット的な利用も含めて5G通信と繋げていけたらとのことでした。

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複数のセルレイヤをあたかも1つの通信帯域エリアとして見せかける「5G」技術


■高SHF帯向けアンテナ技術で5Gを支える三菱電機
三菱電機のブースでもNTTドコモと共同開発を行っているアンテナ技術を参考展示。前述した高SHF帯(24GHz帯)は5G通信における重要な帯域であり、高速・大容量通信を可能にするためには欠かせないものです。

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ハードウェアの進歩が通信を支えている

高SHF帯での高速通信にはMIMO技術が用いられますが、そのためにはアンテナ素子の高密度実装が不可避です。そこで、同社ではアンテナ素子の小型化と高密度実装を図りつつ精度の高いビーム形成を実現、同時に消費電力の低いRFフロントエンドも開発することで高SHF帯におけるMIMOに必要な技術を確立しました。

技術紹介パネルにもあるように、今後は実用に向けてアンテナパネルとRFフロントエンドの一体化を目指し、小型化と更なる高精度化を図りたいとのことでした。

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アンテナモジュールとRFフロントエンドモジュール


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アンテナの高密度実装と干渉を防ぐという矛盾した課題に果敢に取り組む


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アンテナの高密度化において消費電力の問題は避けられない


■より具体的なサービスへアプローチするNTTグループ
通信機器メーカーであるパナソニックや三菱電機とは若干趣を異にしていたのは、NTTドコモなどのNTTグループです。技術開発に関しては両メーカーを初めとした企業に共同開発という形で参画しつつ、NTTグループとしてはより消費者に近いところで具体的なサービスの提案が行われていました。

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5Gをどう活用していくか。それが通信キャリアの最大の焦点だ

NTTドコモ側では低SHF帯(3.5GHz帯)用のアンテナモジュールなどを展示。低SHF帯は高周波数とはいえ、現在のLTEなどに比較的近い運用が可能で、通信方式にはこれまでのFDD方式に加えTDD方式なども採用、キャリアアグリゲーション(CA)の併用などによって受信時最大370Mbpsを実現させたいとしています。

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すでに基地局やアンテナ設備も実用段階まできている

一方でNTT側では60GHz帯のミリ波を用いた近接高速転送技術の活用例などを展示。一般的にミリ波を用いた通信技術というと通信範囲が10m程度ですが、こちらは敢えて1m以内とさらに限定することで電波干渉などを物理的に抑止。TransferJetに代表されるような近接無線技術の延長としての活用を提案していました。

具体的には、デジタルサイネージなど街頭広告機器に搭載することで動画CMを瞬時にダウンロードしたり、新幹線などの車内販売などで動画コンテンツや観光案内などを販売するといった使い方です。同技術では機器を個別に認証することも可能とのことで、セキュアな決済が必要な状況でも利用できるのではないかとのことでした。

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電波が遠くに飛ばない特性を逆手に取ったサービス案


後編では災害対策に重点を置いたNECやKDDIの展示のほか、日本における無線機器認証を行っている企業、TUV SUD(テュフズード)の紹介などをします。

記事執筆:あるかでぃあ


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