メモリーカード技術やフラッシュメモリーの未来について考えてみた!

その昔、ファミコンやスーパーファミコン、メガドライブといった家庭用ゲーム機用ゲームのデータ保存には電池が使われていました。ゲームデータを格納するメモリー(RAM)は電源が切れるとデータが消去される揮発性メモリーだったため、バックアップ電池が利用されたのです。それが電池の必要のない不揮発性のフラッシュメモリーになったのはソニーのプレイステーションの世代からでした。

プレイステーション用のメモリーカードの容量は聞いて驚くなかれ、なんと128kB(キロバイト)です。MB(メガバイト)でもなく、ましてやGB(ギガバイト)なんて単位は遙か未来のお話か、もしくはSF映画でしか出てこない時代なのです。今ならイラスト1枚すら保存できないような容量のメモリーカードですら当時はとんでもない最新テクノロジーであり、「え!?電池要らないの!?電池切れでデータ消えたりしないの!?」と、感動を超えた衝撃を受けたものです。

あれから約四半世紀。これだけの時間が経てばテクノロジーも進化するもので、SD Associationは6月27日に最大128TB(テラバイト)までの容量をカバーするSDメモリーカードの新規格「SDUC」(SD Ultra Capacity)や、それに付随する最高985MB/秒の高速転送を実現可能な新規格「SD Express」を発表しました。

もはやメガでもギガでもありません。テラバイト、などという単位がこうも当たり前に仕様に書かれる時代が来るとは、筆者も歴史を感じざるを得ません。筆者が手元に持っている最も古いSDメモリーカードは4MBのものだったと記憶していたのですが、残念ながら探しても見つかりませんでした。

感性の原点からテクノロジーの特異点を俯瞰する「Arcaic Singularity」。今回はそんなメモリーカードやフラッシュメモリーにまつわる諸々とつらつらを考えてみたいと思います。

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懐かしのプレイステーション用メモリーカード。いくらフラッシュメモリーでもさすがにもうデータは消えているだろう……


■フラッシュメモリーの歴史
そもそもフラッシュメモリーとはどのような技術なのでしょうか。パソコンやゲーム機に使用されるメモリー(RAM)とは、前述のように電源を切ってしまえばデータが消去されるため「揮発性メモリー」と呼ばれます。これに対してフラッシュメモリーは「不揮発性メモリー」(不揮発性記憶装置)に分類される技術であり、いわゆる「EEPROM」(Electrically Erasable Programmable Read-Only Memory)の一種です。

フラッシュメモリーはさらに構造的にNAND型とNOR型という2つの種類に大きく区分され、NAND型はシーケンシャルアクセス(連続した読み出し・書き込み)が早く大容量化に向いた構造だとされ、NOR型はランダムアクセス(不規則な読み出し・書き込み)に有利とされているため、動画や音声データのような大容量で連続したデータのやり取りを多く行う外部ストレージとしては主にNAND型が利用され、その普及速度やシェアの拡大に合わせるように技術も急速に進歩しているわけです。

普段私たちが利用しているSDメモリーカード(microSDカード)やUSBメモリーなどは、ほぼ全てNAND型フラッシュメモリーであると言って問題ありません。

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SD Association 公式サイト


しかし世の中にSDメモリーカードが普及するまでにはさまざまな紆余曲折と激しいシェア争いがありました。最も熾烈を極めたのはソニーを中心とした団体が作った規格「メモリースティック」との覇権争いです。

メモリースティックもまたフラッシュメモリーを利用した規格であり、プレイステーション用メモリーカードで成功を収めたソニーが汎用外部ストレージとしての普及を狙い、1997年に発表したものです。共同開発企業として富士通があり、協賛企業にはシャープ、カシオ、サンヨー、オリンパス、アイワなどがありました。

当初はSDカードよりも国内での認知度も高く、2000年あたりからコンパクトデジタルカメラ(コンデジ)がブームとなりつつあったことや、メモリースティックの延長規格である「メモリースティック Duo」などが同社のゲーム機「プレイステーション・ポータブル」(PSP)で採用されたことなどから「メモステ」の愛称で一時は大きなシェアを獲得しましたが、参画企業の少なさや規格のオープン性の低さなどからSDメモリーカード陣営に徐々に押され、現在は逆転負けの様相を帯びた規格となっています。

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メモリースティック最小規格「メモリースティック マイクロ」(M2)とメモリースティックDuo型アダプター。恐らく現物を持っている日本人はほとんどいない(というか使える機器がほとんどない)


■モバイル機器の進化がメモリーカード規格を牽引する
冒頭でも書いたように、フラッシュメモリーの大容量化は凄まじいものがあります。かつて128kBしかなかった容量は、今や128GBですら当たり前の時代です。その容量比は実に約100万倍。100倍ではありません、20年ほどで100万倍になったのです。

この急速な大容量化を支えたのは製造プロセスの微細化のみではありません。1つのメモリセルに複数のビット情報を記録したり(MLC、TLC技術)、かつては平面的に作られていたメモリーチップを多層化・階層化する技術(3D NAND)が実用化され、microSDシリーズの規格の場合、現在最大64層に積層されたNANDチップを用いた400GBのメモリーカードも市販されました。今後も96層や128層、そして200層といった超高積層チップの実用化が予定されており、まだまだ容量は拡大していくことでしょう。

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128GBのmicroSDカードも、今や高嶺の花でもなんでもない


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筆者が先日5万円少々で購入したPC用の2TB SSD。もはやHDDすら要らない時代になった


そして大容量化とともに進化したのは転送速度です。新たに策定された「SD Express」では前述のように最大転送速度985MB/秒となっており、PC用インターフェイスとして広く普及しているデータ転送規格「シリアルATA Revision 3.0」(SATA 3.0)ですら物理転送速度が最大750MB/秒であることを考えると、外部ストレージとしては破格すぎる次世代の規格であることが容易に想像できます。

いくら大容量化されても転送速度が遅くては使い物になりません。例えばスマートフォン(スマホ)で動画を撮った際、それをPCへ転送するのに何十分も待つわけにはいきません。また、そもそも動画を撮りたくても4Kや超高速度撮影などを行った際に映像の書き込み速度が遅くてはすぐにバッファを使い果たし、長時間の撮影はできなくなってしまいます。

今回SD Associationが発表した新規格は、カメラやスマホといったモバイル機器の進化と高性能化に追従するための重要な一歩なのです。

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SD AssociationによるSD Express規格についてのプレスリリース(PDFファイルはこちら


■気になる「発熱」問題
フラッシュメモリーの大容量化や高速化はとても順調に見える一方、気になる点もあります。それは「発熱」問題です。フラッシュメモリーに限らず電子機器は高速化すればそれに見合っただけの熱量を伴います(厳密には電子機器に限らない)。最も分かりやすいのはCPUやGPUといった演算装置です。高速なCPUやグラフィックスチップほど発熱量が大きいように、フラッシュメモリーもまたそこでやり取りされるデータが高速化すればするほど発熱が増えるのです。

数年前まではメモリーからの転送速度そのものがそれほど速くなく、またチップの集積度も余裕がある状態だったために発熱に関しては問題視されて来ませんでしたが、メモリーカード自体の集積度の上昇や転送速度の向上、そしてモバイル機器の実装の高密度化など、発熱にセンシティブにならざるを得ない状況は年々増している状況です。

例えば同じフラッシュメモリーを利用したストレージ規格としてパソコン用の「M.2(エムドットツー)」というものがありますが、この規格で利用されるフラッシュメモリーは2GB/秒を超える超高速転送を実現する一方で高速性ゆえに発熱量も膨大であり、熱対策を何もしなければパソコン側が熱による機器の破損を防ぐために意図的に速度を落として発熱を下げる「サーマルスロットリング」機能が働いてしまい、性能を出しきれなくなることがあります。

同じように、スマホの狭いスロットに差し込むmicroSDカードなどで転送速度の向上が図られた場合、排熱機構に余裕がない点や夏場の炎天下での利用などを考慮すると、パソコンよりも熱対策は難しく大きな問題となり得る可能性があります。

スマホでのフラッシュメモリーは外部ストレージばかりではありません。iPhoneのように外部ストレージのスロットを持たないスマホでは内蔵されたフラッシュメモリが全てです。メイン基板に直付けされたストレージが熱暴走を起こしてしまったりサーマルスロットリングによって本来の性能を発揮できない状況となっては機器として大問題です。

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スマホ内蔵のストレージ容量も年々増加しているが、その発熱量も無視できなくなっている


実際、スマホのカメラ機能などは高性能化によって4K動画も撮れる時代となりましたが、発熱量が高いことから長時間撮影していると熱暴走を起こして撮影が止まってしまったり、夏場の炎天下ではスマホの温度が上昇しカメラ機能そのものが利用できなくなる場合があります。

モバイル機器の高性能化と高密度化は、このような物理的な壁に突き当たりつつあるのです。

■フラッシュメモリーの進化はまだまだ続く
それでもフラッシュメモリー技術の高度化と新たな高速転送規格の登場は歓迎すべきものです。20年前、どれだけの人が手元のモバイル端末で誰でも高画質動画を気軽に撮って友人たちとシェアして楽しむ時代が来ると考えたでしょうか。10年前、どれだけの人がストリーミング配信で映画やアニメを当たり前に楽しめる時代が来ると想像したでしょうか。

通信技術やディスプレイ技術の進化とともに、こういったフラッシュメモリー技術の進化があってこそ現在のスマホやタブレットの全盛時代は築かれたのです。かつての128kBの時代や16MB、32MBといった容量の時代は遡り過ぎだとしても、2GBや4GBといった容量のストレージですら、もはや記憶装置としては実用に値しない「超小容量」です。内蔵ストレージ容量が16GB程度のAndroidスマホでmicroSDカードを追加で挿さずに満足できる人がどれだけいるでしょうか。

発熱に関しては、恐らくメモリーアクセスの並列化や積層時のホットスポットの分散、そして実装端末の排熱機構の効率化などでギリギリの調整を図りつつ実装を行っていくことになるでしょう。10年後、手元のモバイル端末には128TBのフラッシュメモリーストレージが入っているかもしれません。

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容量が増えればそれだけ多くの物を詰め込みたくなる。人の欲望は素直だ


記事執筆:秋吉 健


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