小さなモバイル端末の魅力について考えてみた!

突然ですが、みなさんはフィーチャーフォン(ケータイ)やスマートフォン(スマホ)に何を求めるでしょうか。性能?画質?デザイン?ブランド?価格?……恐らくその基準は十人十色、さまざまにあるでしょう。また1つの基準のみで決まるものでもありません。

筆者の場合も性能であったりブランドであったりと購入の基準となるものは複数あり、新しいモバイル端末が登場する度に「これは買いか?自分が欲しいと思える端末か?」と何度も何度も検討し、時には同業のライター仲間の意見を聞いたりして判断するのですが、この判断基準を完全に逸脱するにもかかわらず我を忘れるように飛びついてしまう端末があるのです。それは「極端に小さい端末」です。

手のひらにすっぽりと収まるどころか指2本でも隠せてしまうような極小のケータイやスマホ。そんな存在にかつてどこかのアニメで見たスパイグッズやSF映画の小道具のような非現実感もしくは未来感を覚え、大人気なく心躍らせてしまうのです。

感性の原点からテクノロジーの特異点を俯瞰する「Arcaic Singularity」。今回はまさに筆者の感性の原点たる「心躍る超小型モバイル端末」についてつらつらと語ってみたいと思います。

as-032-002
筆者はなぜ超小型端末に惹かれてしまうのか


■モバイル端末は大きいほうが良い?
一般的に考えて、スマホのようなモバイル端末が小さすぎることにメリットはあまりありません。ディスプレイはその筐体サイズなりに小さくなり、機能は最小限しか詰め込めず、小ささゆえにバッテリーが小さくなるため連続駆動時間も短くなります。

そもそも、これまでケータイやスマホが大型化の一途を辿ってきたのはユーザーから寄せられるさまざまな要望やアンケート調査による結果を受けてのものです。大きな画面で動画を見たい、ゲームを快適に遊びたい、バッテリー容量を増やしてほしい、防水防塵にしてほしい、等々。端末が大きければ画面は見やすくなり、排熱処理の容易さから高性能なチップセット(SoC)を搭載しやすくなり、広いフットプリントのおかげで容量の大きなバッテリーも無理なく搭載できます。

ベンダー(メーカー)としても大きな端末は比較的製造難易度が低く、コスト的にも抑えやすいメリットがあります。現在のスマホは5インチどころか6インチサイズすらも当たり前になりつつありますが、この流れを決定付けたのは中国や台湾のベンダーによるところが大きく、ユーザーの要望が先だったと言うよりは、当時技術レベルのあまり高くない新興ベンダーであっても低コストにスマホを作りやすかったから、という理由のほうが大きかったのかもしれません。

as-032-003
2013年頃人気を博したHTC製スマホ「HTC J butterfly」。当時5インチディスプレイは大きすぎると苦笑したが、今やこれすらも小さい端末の部類である


スマホが大きくなっていった大きな理由にはもう1つあります。ページャー文化に始まる英語圏の人々や漢字文化中心の中国・台湾系の人々によるスマホの両手利用です。

スマホをケータイのように片手で扱う文化が日本ほど定着していた国(既に過去形)は珍しく、英語圏ではその言語体系からかつてのQWERTYキーボードを搭載したページャー端末やBlackberryのような端末が好まれ、メッセージ中心の利用においては両手での入力が基本でした。一方日本ではガラパゴスケータイ(ガラケー)の名の如く独自の発展と進化を続け、片手で利用するスタイルを突き詰めるように小型化されていった結果、スマホでも片手でのフリック入力が中心となりました。

そのため英語圏や漢字文化圏では小さなスマホは両手入力がしづらいと不評で、結果大きな端末がひたすら好まれるようになります。現在英語圏や漢字文化圏ではQWERTYキーボードを“押す”のではなく“なぞる”一筆書き入力が主流になりつつあり、その入力もやはり片手ではなく両手での入力が中心のようです。

as-032-004
iOS用にもQWERTYキーボードの一筆書き入力アプリがある


■そんな時代だからこそ“小ささ”に価値が生まれる
閑話休題。すっかり大きな端末のメリットばかりを書き綴ってしまいましたが、それが現実なのです。人々は大きな端末を求め、またベンダーも大きな端末によるコストダウンや高性能化、高機能化に活路を見出し、市場の利害が一致したことによってスマホは大型化していったのです。

しかし、こんな時代だからこそ小さな端末に価値が生まれると言っても過言ではありません。

単に若干小さな4インチ台のスマホであるとか、そのようなサイズでは意味がありません。もっと小さな、それこそ手のひらにすっぽりと隠れるサイズであってこそ価値が生まれるのです。それは「ウェアラブル端末」としての意義です。

as-032-005
超小型端末の存在意義と価値とは


先日、キックスターターでUnihertzの超小型のタフネススマホ「Atom」のクラウドファンディングが終了を迎え、当初ファンディングゴールを5万ドル(約555万円)としていた募集金額は、なんと期待を遥かに超える129万ドル(1億4300万円)以上を集める超巨大プロジェクトに発展しました。まさに桁違いの人気です。

この端末がなぜここまで支持されたのか。それはただ小型であったからではないでしょう。Unihertzはこれまでにも同様の小型端末を製造・販売してきましたが、小型なだけで性能が非力であったりバッテリーの持ちが良くなかったりと実用面に不満がありましたが、Atomでは大容量バッテリーや必要十分なCPUの強化が図られただけでなく、防水・防塵・耐衝撃という大きなメリットを付加してきました。

as-032-006
人々がAtomに惹かれた理由にこそ超小型スマホの魅力の答えがあった


このタフネス設計と超小型という組み合わせにこそ需要があったのです。そしてそれがウェアラブル端末としての“正しい在り方”です。ウェアラブル端末と言えば真っ先にスマートウォッチなどが想像されますが、スマートウォッチは基本的にそれ単体ではモバイル回線を利用した通信をできないものが多く、飽くまでも「スマホの周辺機器」扱いであることがほとんどです。

しかし、もしそのウェアラブル端末がスマホそのものであったならどうでしょうか。腕に付けてトレーニング時のライフログ&ヘルスケアに活用したり、自転車に取り付けてナビ代わりに使ったり。タフネススマホというと大きくて重い端末が連想されますが、そのサイズでは腕に付けるどころか収納する場所にすら困ります。例えば一般的なスマホですら、夏場に手ぶらで出かけたくてもスマホを入れておく場所がなくて困った人は多いのではないでしょうか。

as-032-007
いつでもどこでも“持つ”のではなく”身に着けられる”。だからこそ防水・防塵対応と耐衝撃性能が必須だった


as-032-008
Atomほどのサイズであればジーンズのコインポケットにすら入ってしまう


■テクノロジーや市場の進化が超小型スマホを後押しする
そしてアプリケーションやクラウドサービスの進化もまた超小型スマホの価値を高める一因となりつつあります。

小さな端末で何よりも困るのは画面の小ささであり、それはスマホにとって文字の入力の難しさに直結しますが、今や文字入力は音声認識で行う時代です。TwitterやLINEなど、ちょっとしたメッセージの送信程度なら音声入力で十分となったため、画面の小ささや文字入力のしづらさはあまり大きなデメリットにならなくなったのです。むしろアプリ上の送信ボタンや削除ボタンの小ささに苦笑する程度でしょうか。

as-032-009
Twitterにつぶやくメッセージ程度なら音声入力の方が本当に速くて快適だ。まさに端末に向かって「つぶやく」のだ


仮想移動体通信事業者(MVNO)といった通信会社の仕組みもまた超小型スマホの需要を生む大きな要因でもあります。超小型スマホは当然ながら多くの人々が望む大画面需要は満たせませんし、ゲームのようなリッチコンテンツの用途にも向きません。しかし格安の通信料金でスマホを利用できるMVNOという仕組みが拡がった今、敢えて1台のスマホに全てを求める必要もなくなったのです。

ましてや2台目のスマホに求めるものがウェアラブルな利用方法であったりスマートウォッチ的なものであった場合、その意義はより大きくなります。1台目のスマホが手元になくとも単体での独立運用が可能で、しかもいざとなれば電話もメールもSNSもできます。

筆者は現在運用している2台のスマホをIIJのMVNOサービス「IIJmio」の回線で利用していますが、月額料金は2回線合わせても3,000円以下です。2回線ともMVNOではなくとも、データ通信専用であれば1回線月額700円前後から、音声通話付きでも月額1300円前後から契約できるMVNOは超小型スマホと非常に相性の良い回線なのです。

これが大柄なスマホ2台の運用であれば煩わしいことこの上ありませんが、ジーンズのポケットにすら入る超小型スマホであれば持ち歩く面倒はほぼありません。自動車の鍵や気分転換のためのミントタブレットを持ち歩くのと感覚はほぼ同じです。

as-032-010
MVNOであれば圧倒的な低コストで複数台の通信端末を所有できる


■“小さな2台目端末”が求められる時代へ
高性能と多機能を売りにした“なんでもできる”一般的なスマホはこれからも大型化をやめることはないでしょう。だからこそ”なんでもはできないが小さいからこそできることがある”スマホの需要がそこに生まれるのです。最近は8インチクラスのタブレット端末の需要が低迷しているようですが、恐らくそのカテゴリーに大型化したスマホが入りつつあるという証拠です。大きな2台目端末はもう要らないのです。むしろ必要なのは小さな2台目端末なのです。

ウェアラブルに使えるということ、持ち歩きの煩わしさを感じさせないこと、そして何よりそんな小さな端末に必要な機能がぎっしりと詰まっていること。筆者はそんなところに魅力を見出すのです。

as-032-011
Atomは今年10月に発売予定。今から楽しみだ


記事執筆:秋吉 健


■関連リンク
エスマックス(S-MAX)
エスマックス(S-MAX) smaxjp on Twitter
S-MAX - Facebookページ
連載「秋吉 健のArcaic Singularity」記事一覧 - S-MAX