ポスト・液晶ディスプレイの筆頭技術「OLED」について考えてみた!

既報通り、ソニーは8月30日(現地時間)にドイツ・ベルリンにて開催されてた家電見本市「IFA 2018」にて新しいスマートフォン(スマホ)「Xperia XZ3」(ソニー・モバイルコミュニケーションズ製)を発表しました。本機ではディスプレイ素材として「Xperia」シリーズ初となる有機EL(OLED)が採用され、ようやく分かりやすい形でモダンなスペックになってきたと感じている方もいらっしゃるかと思います。

ディスプレイ素材にOLEDを採用するスマホは既に他社から多数発売されており、有名なところではサムスン電子の「Galaxy」シリーズがあります。同シリーズにおける日本向けの製品としては2010年にNTTドコモより発売された「Galaxy S」以来脈々とOLEDを採用した製品を販売し続けており、スマホにおけるOLED採用の先駆者的位置付けとも言えます。

またアップルが「iPhone X」でOLEDを採用したことも大きな話題となりました。ホームボタンも排した「全画面」デザインとともにその発色の美しさが話題を呼び、同端末の高級感を一層引き立てたことは間違いありません。

このようにスマホベンダー各社が高級モデルへOLEDを採用する理由は一体どこにあるのでしょうか。またOLEDとはどのような特性を持ったディスプレイ素材なのでしょうか。感性の原点からテクノロジーの特異点を俯瞰する「Arcaic Singularity」。今回はOLED技術やその歴史について解説します。

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Xperia XZ3はスマホ市場におけるソニーの窮地を救えるか


■モバイル向けディスプレイ技術の歴史
ディスプレイ技術を語る時、絶対に外せない存在は「液晶」でしょう。古くは19世紀から液晶という物理的特性については確認されており、それが工業製品においてディスプレイ素材として広く活用され始めるのは1970年代までかかります。

液晶素材は電荷をかけることで規則的な配列となりますが、それを偏光板を通して見ることで光の透過率が変わり、そこに発色用のカラーフィルタを置くことでさまざまな色を再現するというもので、その仕組み上「液晶層」や「カラーフィルタ層」、「偏光板」、そして「発光層(導光板)」といった複数の素材を重ね合わせて造られているため、構造も複雑である程度の厚みが出てしまいます。

とは言え現在では全ての素材がマイクロメートル単位から厚くてもコンマ数ミリ単位で製造が可能であり、モバイルデバイスにおいてその厚みが大きなデメリットとなることはあまりありません。そのため早くから研究開発と技術革新が進み製造技術なども広く普及していた液晶ディスプレイはモバイル市場におけるディスプレイ素材のデファクトスタンダードとなり得たのです。

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薄さを極めたNTTドコモ向けフィーチャーフォン「N705iμ」でも液晶ディスプレイだった


しかし液晶ディスプレイには大きな弱点があります。それは発色性能(色再現度)と応答速度です。液晶ディスプレイはその構造上外部から光を当てないと色が見えません。そのためバックライト技術がなかった時代はディスプレイ裏側に反射板を置き、外部の光を反射させて画面が見えるようにしていたこともあります。

またバックライト装置が冷陰極管(蛍光灯のような技術)だった時代は発光装置も大きく、また導光板も当時は数ミリレベルでの厚みが必要だったためにディスプレイにかなりの厚みが生じてしまい、手のひらサイズのモバイル機器には適さないこともありました。

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任天堂のゲームボーイアドバンスはバックライトのない反射型TFT液晶ディスプレイだったため、暗いところでは画面が見えなかった。のちにバックライト搭載のゲームボイーアドバンスSPが発売され感動した子どもたちも多かっただろう


また、液晶は「電荷により液晶素材の方向を変えることで光の透過率を変化させる」という物理的な動作原理から高速な光量変化が苦手です。そのため動きの速い映像などでは光の透過量の制御が間に合わず「残像」が発生しやすいのです。

この問題に対する解決策として動作速度の比較的速いTN方式や、映像の切り替えタイミングのみ大きめの電荷を与えて通常よりも素早く動作させるオーバードライブ技術などが開発されましたが、それでも応答速度は数ミリ秒単位であり人間の目ではまだまだ残像が見えてしまうレベルです。

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YouTubeで「動画ブレ チェック」などで検索すれば動画ブレをチェックするための検証用動画がいくつも見つかる


これらの液晶が持つ弱点を払拭したディスプレイ技術としてOLEDやFED、SEDといった技術が次々に生まれ実用化されていきましたが、液晶技術の普及速度と低コスト化に太刀打ちできずほとんどが市場からの撤退を余儀なくされました。

OLEDについても日本はソニーやパナソニックを中心に早くから製品が実用化され普及に努めていましたが、2014年頃にその技術をジャパンディスプレイへ売却するなど一時は完全に撤退の様相でした。

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ソニーが2007年に発売した世界初のOLEDテレビ「XEL-1」。超薄型デザインと高速応答性が大きな特徴だったが低コスト化や大型化に難航しその後の製品が続かず市場からの撤退を余儀なくされた


筆者が初めてOLEDディスプレイを採用した携帯電話を手にしたのは2006年にauから発売された鳥取三洋電機製の「INFOBAR 2」でした(トップ画像の端末)。当時のOLEDは発色がビビッド過ぎてキツイ印象が強く、良くも悪くも柔らかな発色であった液晶と比較してかなり違和感があったのを覚えています。

OLEDは画素素材1つ1つが自発光するためバックライトを必要とせず、液晶のような物理的な移動による発光変化ではないために応答速度が非常に高く残像がほとんどない(応答速度は数マイクロ秒。液晶の1000倍の速度)ことや、黒を表現する際に完全に発光を止めるため真の意味での黒を表現できる(≒光らない黒が表示できる)というメリットがありますが、画素素材が自発光する特徴から画素の寿命が短めで長期間の利用に向かないというデメリットもありました。

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INFOBAR 2はOLEDというディスプレイ素材の目新しさに加え、丸みを帯びた形状であったことも未来感の強い先鋭的端末だった


またその画素の寿命から来る「画面焼け」と呼ばれる現象が起こりやすいのも長年の課題でした。画素ごとに発行させるため長時間同じ映像を表示し続けると画素によって発光時間の差が生まれ、その劣化度合いの差によって発光量や色素に変化が起きて画面に映像が焼け付いたようになってしまうのです。

この現象については未だにOLEDの大きな課題ですが、画素素材の改良や同じ画面を長時間表示させない工夫などによってある程度の解決は図られつつあります。

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iPhone Xの高い表示品質はOLEDでなければ実現しなかった


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Galaxyシリーズは画面焼けとの戦いでもあった(過去記事はこちら


■OLEDがスマホに向いているワケ
非常に分かりやすいメリットとデメリットを備えたOLED技術ですが、これをモバイルデバイス向けのディスプレイ素材として考えた場合、意外とそのデメリットが小さいことに気が付きます。

まず発光素材の寿命についてですが、そもそもスマホは長期間使い続ける端末ではありません。現在のスマホ市場における買い替えサイクルはおおよそ2年程度であり、長い人でも5年以上使い続けているという人はほとんど見かけません。またテレビやPC用モニターと違い、1日に何時間も(時には十数時間も)使い続けるといった人は稀であり、頻繁に画面のオンオフは繰り返されるものの、その点灯時間は意外と短いのが特徴です。

さらに言えば、スマホで全く同じ画面を何時間も表示し続けるといった使い方をする人はほぼ皆無でしょう。現在のスマホのUIではアプリ起動時に上部のアクションバー(ステータスバー)を隠す機能などもあるため、発光寿命の差による画面焼けもあまり気にしなくて良くなっています。

テレビやPC用モニターであれば10年単位での利用も想定される上に、タスクバーなどを常に表示させることから画面焼けのリスクが高くなりますが、2年程度での買い替えが一般的なスマホではこういった心配があまりないのです。

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Galaxy S9+の大きな画面でも液晶のバックライトのような輝度ムラがなく均一に表示できるのもOLEDのメリットの1つだろう


ディスプレイ形状においてもOLEDには液晶に対してアドバンテージがあります。OLEDは構造的に液晶よりも少ないレイヤー数(素材層の数)で構成される上に柔らかなフィルム基板などもあるため、非常に薄く湾曲したディスプレイを作ることも容易です。

前述の通り残像が少なく動画に強い点も非常にスマホに適している点でしょう。メモリー容量の増加と通信技術の向上、そしてスマホの処理性能の向上によって「スマホで動画を見る」という文化は完全に定着しました。かつてのフィーチャーフォン時代には動画に強いというメリットを活かしきれませんでしたが、スマホであれば何よりも大きなアピールポイントになり得ます。

OLEDは製造技術的にまだまだ発展途上ということもあり、数年前まで50インチなどの大画面化の難しさも指摘されていましたが、当然ながらその点においてもスマホでは無縁のデメリットと言えます。解像度も十分に高精細化された今、スマホ向けのディスプレイ素材として液晶に劣る部分はほぼ見当たらなくなったのです。

■解決すべきはそのコスト
そんな敵無しの性能に思えるOLEDですが、現時点で最大の弱点があるとすればそれはコストでしょう。「枯れた技術」である液晶ディスプレイは製造コストも十分に低くありとあらゆるデバイスへ利用されていますが、OLEDはまだまだそのシェアも低くコストは高いままです。そのためスマホベンダー各社も自社のフラッグシップ端末やハイエンド端末への採用に留めているのであり、いくら液晶よりも発色が美しく動画ブレの少ない高品質な映像表現が可能だとは言っても、全ての端末へ採用できるものではありません。

しかし、そのような高コスト状態も次第に緩和・改善されていく市場感は強くあります。スマホ市場において世界一のシェアを維持し続けるサムスン電子が何よりの牽引役としてOLEDを採用し続けていることに加え、アップルのiPhone XがOLEDを採用したことによる「OLED=高品質」というブランドイメージへの定着は後に続くスマホベンダーが高品質を謳う際の格好の宣伝材料となり得ます。

それに加え、今回ソニーがXperiaシリーズへOLEDを採用したことも業界的なトレンドへと進む可能性をさらに引き上げました。事実、中国のベンダーであるOPPOは新型スマホ「OPPO R15 Pro」においてOLEDディスプレイを採用しており、市場想定価格で69,800円(税別)と低価格化へのチャレンジを見せています。

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XperiaシリーズへのOLED採用には大きな意義がある


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OLEDを採用しギリギリ6万円台を実現した「OPPO R15 Pro」(過去記事はこちら


スマホは3~4年前からその基本性能において成熟点を迎えつつあり、1~2年ほど前からはカメラ性能の向上がそのトレンドとして一大ブームとなりましたが、ベンダー各社はそろそろカメラに変わる「次のトレンド」を模索し始めています。そういった中でOLEDは「消費者に向けた分かりやすいトレンド」として非常に適した素材なのです。「高品質なカメラで撮影された美しい写真を、OLEDの美しいディスプレイで堪能しよう」……近い将来、そんな謳い文句がスマホ売り場のあちこちで見られるようになるかもしれません。

Xperia XZ3の興奮も冷めやらぬままに、9月12日(現地時間)にはアップルが新製品発表会を予定しています。噂が正しければiPhoneの新型機種やApple Watchの新型が発表されるようですが、恐らくその新製品の多くがOLED採用のものとなるでしょう。

OLEDディスプレイをじっくりと見たことがない皆さんも、ぜひ一度家電量販店などのスマホ売り場でGalaxy S9シリーズやiPhone Xなどを手にとって、動画サンプルを視聴してみて下さい。液晶では絶対に見ることができない、残像がなくメリハリのある美しい映像表現に驚かれると思います。携帯電話がモノクロからカラーになり、表示色が256色から1677万色になってその表現力を高めてきたように、今またモバイルデバイスのディスプレイ表現力は進化の段階に来ているのです。

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これからは、OLEDだ


記事執筆:秋吉 健


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