ドコモネットワークオペレーションセンターの役割と取り組みについて解説!

NTTドコモは8月29日、東京・品川にある「ドコモネットワークオペレーションセンター」にて報道関係社向けの見学会を開催しました。本見学会は同社が毎年8月に行っているもので、同社の災害への取り組みや平時より通信網の管理と制御をどのように運営しているのかを公開するものです。

ここ数年、広い地域が壊滅的罹災に遭う大規模災害が頻発していますが、残念ながら2018年も9月現在までに地震や洪水、台風、またそれらに伴う土砂崩れなど、副次的災害も含めて数多くの災害が発生しました。

記憶にあたらしいところでは 北海道南西部地方を震源とし震度7を記録した「北海道胆振(いぶり)東部地震」がありますが、この地震の際もNTTドコモの通信網は停電や土砂災害の影響で多くの基地局が停止し、日本史上初となる大ゾーン基地局の稼働を行わざるを得ない状況にまで追い込まれました(大ゾーン基地局の詳細については後述)。

モバイル通信が社会の基幹インフラとなって久しい現在、同社はどのようなインフラ制御と災害対策を行っているのでしょうか。普段は知られることのないオペレーションセンターの仕事や取り組みについて解説します。

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ネットワークオペレーションセンターが入っているドコモ品川ビル


■「通信の要塞」ドコモ品川ビル
普段私たちが通信網の安定運用とその管理・制御について考えることはほぼありませんが、「電話がつながる」、「スマートフォン(スマホ)でウェブサイトが見られる」という当たり前のことも、365日24時間体制で管理されていればこそです。

NTTドコモではオペレーションセンターを東日本と西日本の2箇所に配置しており、それぞれ東京と大阪にあります。機能としてはどちらも同様で、無線基地局とその制御装置の監視、交換機やIPネットワークのバックボーンの監視、基地局や交換局などを結ぶ伝送路の監視、ネットワーク状況の監視および輻輳状態の防止などが平時の主な仕事となります。

同じ機能を持った施設が2箇所に存在するのは災害時などへの備えです。大規模災害などで一方のオペレーションセンターが壊滅的なダメージを受けた際も、もう一方のオペレーションセンターが全ネットワークの監視と制御を行えるように設計されています。



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大阪にある「西日本オペレーションセンター」(左)と東京にある「ネットワークオペレーションセンター」(右)


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普段は東日本と西日本で分割して監視しているが、一方のオペレーションセンターが機能停止しても日本全国をカバーできるように設計されている


また、各オペレーションセンターの機能が完全に停止していなくても災害などで監視業務が追いつかなくなる事態では、緊急措置として一方のオペレーションセンターが一部業務を代行するという運用方法も用意しています。

この緊急時の業務代行については今年6月に発生した大阪北部地震で初めて運用が行われました。この一部業務の代行については今年の8月からの正式運用を目指し同社内で準備が進められていたものでしたが、大阪北部地震という非常事態を受けて導入を前倒しし「ぶっつけ本番で行った」と、NTTドコモの担当者は語ります。

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大阪北部地震ではサービス中断に追い込まれた基地局が17局あったが周辺基地局による迅速なカバーなどで大きな通信途絶状態などを起こすことなく切り抜けられた


オペレーションセンターにはこういった災害への高い耐性も求められます。オペレーションセンターが入っているビル自体が耐震性や機能持続性を高いレベルで有しており、震度7の地震に耐える設計や洪水時にも浸水しないように可動式の防潮板があるほか、万が一停電状態が続いても自家発電システムによって1週間程度は機能を維持できるようになっています(機能持続時間は燃料の保管量による)。

通信を監視しあらゆる対策司令を発する頭脳としての機能だけではなく、ビル自体が災害対策に特化した構造とシステムを持ち、その重要性と相まって「通信の要塞」と呼ぶべき存在なのがオペレーションセンターなのです。

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ビルの基部に備えられた免震装置


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ビルの地下に備えられた発電システム


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火力発電だけではなく補助的に太陽光発電システムなども備えている


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河川の氾濫や豪雨、高潮などによる浸水を防ぐ防潮板でビルの機能維持を行う


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吹き付けるビル風も設備の冷却風として活用する「スーパーボイド」構造によって停電時の冷却システムなどの負担を軽減する設計のドコモ品川ビル


■“使われたくなかった”大ゾーン基地局
同社の災害対策には「システムの信頼性向上」、「重要通信の確保」、そして「サービスの早期復旧」という3大原則があり、この原則を死守するために平時より年間400回を超える社内訓練や自衛隊との合同防災訓練などを行っています。

またシステムでも常に冗長性を確保し、重要基地局を中心とした中ゾーン・大ゾーン基地局の緊急運用や移動基地局の用意を常に行っています。また地上路(道路)の寸断や途絶を想定し海上から基地局を運び入れる船舶基地局の導入も進められています。

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NTTドコモと自衛隊による合同防災訓練の様子


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最新の移動基地局車両。大型のトラックではなくワゴン車を用いているのは狭い道路や瓦礫で埋まった悪路でも進路を確保しやすいことや、普通免許で誰でも運転できるメリットから


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衛星回線を用いることで通信を確保する。通信半径は最大500m程度


中ゾーンや大ゾーン基地局といったシステムについては「今まで一度も稼働したことはないし、これからも一度も稼働しないことが一番良いことだ」と担当者は語っていましたが、この取材からわずか1週間ほどで起きてしまった北海道胆振東部地震によって、ついに大ゾーン基地局が稼働する事態となってしまいました。

中ゾーンや大ゾーン基地局とは、平時は一般的な基地局として可動する一方、各基地局がサービス中断に追い込まれエリア確保が難しくなった場合に電波出力やその出力範囲を広げることで広いエリアをまとめてカバーするというものです。

大ゾーン基地局では1つの基地局で直径約14km程度までカバーできますが、1つの基地局であるために収容可能な容量に限りがあり、一度の多くの通信接続が行われた場合にその負荷に耐えられません。そのため緊急時のみの運用となるわけですが、この「万が一」の運用が行われてしまったことを振り返り、自然災害の恐ろしさを改めて痛感せざるを得ません。

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使われないことが最善だが、最悪を想定した準備こそが最悪を回避する唯一の方法だと再認識させられた


■利益とコストの狭間で戦うオペレーションセンター
オペレーションセンターには東西合わせて400人程度のスタッフがおり、東日本を管轄するネットワークオペレーションセンターでは1チーム17人体制での24時間監視が行われています。

これだけの人員を配置していても同社としては「極力効率的な人員配置をしている」としており、利益を生まない部署であるだけにそこに掛ける経費と安全対策とのせめぎ合いに常に苦慮している様子が伺えました。

また2020年にはオリンピック需要や次世代通信規格「5G」のサービス開始も控えており、これらへの対応についても「装置や監視設備の高度化も進んでいるので、人員増は極力抑えつつ最適な増強を行っていきたい」として、増え続ける通信トラフィックと高度化する通信技術にも追従していく姿勢を語りました。

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常に平時を保つことこそがオペレーションセンターの最大の役目だ


8月には菅官房長官による通信費の4割削減発言などが業界に大きな波紋を呼びましたが、収益額の是非はともかく、その利益によってこれらの設備と災害時の迅速な復旧体制が整えられていることは間違いありません。

通信キャリアにとって、通信料金とインフラの維持は常に頭を悩ませる問題です。暴利を貪って良いものではありませんが、安くしすぎて万が一の備えにほころびが出てもいけません。自然災害が起きた時、家族や友人との連絡が取れるという喜びを人々は思い出します。正確な情報がリアルタイムに入ってくることで安心感を得られます。

毎月のように巨大災害が発生している今年、通信業界ではそんな「安心・安全の価値」について考えさせられる機会が非常に多いように思います。いつでもどこでも全世界と繋がっているのが当たり前の現在、その当たり前を今一度振り返って考えてみる必要があるのかもしれません。

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万が一の備えは、万が一が起きてからでは遅い




記事執筆:秋吉 健


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