スマホの進化の多様化について考えてみた!

10月に入ってiPhoneフィーバーは一段落したものの、休む間もなく賑やかなのがスマートフォン(スマホ)界隈の毎年です。

7日にはソフトバンクおよびウィルコム沖縄が携帯電話サービス「Y!mobile(ワイモバイル)」向けの「2019年秋冬モデル」を発表し、さらに10日にはKDDIが、11日にはNTTドコモが次々と新端末の発表を行いました。このコラムが掲載された後の15日には、UQ mobileによる発表も控えています。

スマホが性能的な成熟期を迎えたと言われていたのが2015年前後。あれから4~5年間のスマホの進化は主に機能面に集中しており、限られた筐体サイズにどれだけ大画面を搭載できるか、どれだけ画質の良いカメラ(もしくは高い撮影性能)を搭載できるのかを競ってきた感があります。

しかし先月末から今月にかけて発表された通信キャリア(ブランド)各社のラインナップや端末メーカーのリーク情報などをかき集めてみると、そこにはこれまでと違った新しい進化の流れを見ることができるように思います。

感性の原点からテクノロジーの特異点を俯瞰する連載コラム「Arcaic Singularity」。今回は機能面の強化から脱して新たな進化を模索し始めたスマホ業界の「今」を追いかけ、その変化の必然性について考察します。

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あなたは各社のラインナップに時代の流れと変化を感じ取れるだろうか


■「形」が変わり始めたスマホ
各社から秋冬モデルや冬春モデルとして発表されたスマホを見てみると、言い方は少々乱暴ですが「奇をてらった」ようなデザインのものが散見されることが分かります。

ほんの数年前であれば、「画面は約6インチFHD+、2眼カメラのノッチデザイン」といったような画一的なデザインばかりで、スマホはこの形で落ち着くのかな?とすら思えるほど変化のない年が1~2年続きましたが、当然ながらそこで終わるようなテクノロジー業界ではありません。

サムスン電子は今年2月に発表していたフォルダブル(折りたたみ)スマホ「Galaxy Fold」を日本ではau独占で販売すると発表し、ソニーはアスペクト比21:9の超縦長画面が特徴的な「Xperia 1」を継承するハイエンドスマホ「Xperia 5」やメインストリーム向けとなる「Xperia 8」を各社から発売します。

一方海外を見れば、マイクロソフトが360度開閉する2画面端末(スマホとは呼びにくい)「Surface Duo」を発表して話題を呼び、さらにEssential Productsが公式Twitterアカウントにて「Project GEM」と名付けられた、アスペクト比36:9という驚きの超縦長画面を有したスマホをお披露目して大きな反響を呼んでいます。

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機構的な弱点も改善され、いよいよ市場投入されるGalaxy Fold


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21:9のシネマワイドディスプレイを普及価格帯に投入したXperia 8


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マイクロソフトがSueface Duoによって挑む「スマホの次」への挑戦


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Androidの生みの親が再びスマホを再定義する


スマホやその周辺において、これほどのデザイン的変化やバリエーションの話題に事欠かない時節は、長いモバイル業界の歴史においてもなかなかお目にかかれません。

まるで、かつてフィーチャーフォンが「ガラパゴスケータイ」(ガラケー)と呼ばれていた時期を彷彿とさせるような、アクロバティック且つドラスティックな進化と言えます。

こういった端末がほぼ同時期に登場してきたことは単なる偶然の一致かもしれませんが、しかしその裏で業界におけるスマホの未来への閉塞感や新しいチャレンジへの期待があったことは間違いありません。

■始まったスマホの「樹形進化」
まず第一に、人々がスマホに飽き始めた、という点です。性能面での成熟は2015年前後だったと前述しましたが、事実その頃を境にスマホはカメラ機能の強化や全画面化など、基本性能ではない部分へ注力するようになりました。

結果、今やiPhoneにもイン/アウト合わせて最大4基ものカメラが搭載され、メジャーなスマホの多くが狭額縁の全画面デザインとなりました。性能の成熟化に続き、機能面での強化も成熟期に入ってしまったといって良いでしょう。もはやカメラ機能や大画面が差別化要素とならなくなってしまったのです。

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iPhone 11 Proの3眼カメラは驚くほどの高画質だ。しかしこの先カメラユニットを4基・5基と増やし続けるわけにもいかない


そして生まれた流れが「多様化」です。「長方形の板」を目指してきたスマホの主流的進化は、終焉とまでは言わなくとも一旦落ち着き、メーカー各社は新たな方向性を模索し始めたのです。それはスマホの樹形進化と呼んでも良いかもしれません。

あるところでは「携帯電話」としての片手での使いやすさと大画面を両立するために画面が縦に伸び始め、あるところではマルティメディアデバイスとしての画面の広さを確保するためにフォルダブルデザインへ進化しました。またあるところではスマホとは違うPC的なスタンスからモバイルデバイスを再定義するという方向からデュアルディスプレイの提案がなされたのです。

いずれも形態こそ異なりますが、目指したのは「従来のスマホではない何か」です。超縦長画面はまだスマホの正当進化とも呼べますが、Project GEMでは「モバイルの視点を再構築するための新しいデバイス」と開発者によって明言されているように、スマホというデバイスからの脱却が最大の焦点であったことは間違いないでしょう。

Project GEMが目指す「新しいデバイス」とは何だろうか


■人々の生活のモバイルシフト
では、なぜスマホは多様化「しなければいけない」のでしょうか。もしくは、スマホの多様化を促す必要性とは一体何でしょうか。そこには人々のライフスタイルの変化が強く関係しているように思えます。

ここで総務省の統計データを参照してみましょう。平成30年5月に公開し同年6月に訂正した「平成29年通信利用動向調査」によれば、インターネット利用に用いられる端末のトップがスマホであり、とくに10代から40代までの年齢層においてはPCからの利用を大きく上回っています。

この流れは現在もさらに続いており、スマホからのインターネット利用が人々のスタンダードになりつつあります。こういった流れはフィーチャーフォン時代には考えられなかったものでもあり、わずか10年足らずで私たちのライフスタイルが激変したことの証左でもあります。

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もはやスマホとインターネットの存在しない生活など考えられないだろう


こうしたライフスタイルのモバイルシフトこそが、スマホの樹形進化を促した最大の要因であると考えます。万人が常に肌身離さず持ち歩くデバイスであればあるほど、そこに要求・要望される性能・機能が多様化していきます。

人々の移動を補助する道具が、自転車から自動車、鉄道、飛行機とさまざまにあるように、1億総モバイラーとなった今の日本社会(ひいては数十億人の世界中の人々)において、それらの要望や要求が画一的な「長方形の板」のスマホで収まるはずもないのです。

例えばディスプレイ機能1つを取っても、片手で手軽にSNSを利用したい人、動画やゲームを大画面で楽しみたい人、電子書籍化された漫画や小説を快適に読みたい人など、求める大きさやデザインが全く異なることに気付かされます。

すべての人々に、同じデザインの情報端末を与える時代が終焉したのです。人々が自分のモバイルライフに合った端末を選択し、時には複数使い分けながら、場所と時間に束縛されない自由を求め始めたのは必然だったと言えるでしょう。

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すべての人々や多数派に支持される形態ではないかもしれないが、そのニッチな提案が受け入れられる世界となったことも事実だ


■20年前のオーパーツが現実になる日
かつて携帯電話が「無骨な工業製品」というイメージだった時代に、「デザイン」という要素の重要性を強く印象付けた端末としてauの「INFOBAR」があるのは、モバイル端末に詳しい方なら周知のお話かと思います。

その生みの親である深澤直人氏は、INFOBARのコンセプト段階の最初期に、以下の画像のようなモックデザインを提案していました。

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深澤氏の先見の明は恐ろしい


「ん?ちょっと横長のスマホを持って、Bluetoothヘッドセットを付けてるだけじゃない?」と思われるかもしれませんが、これを深澤氏が発想したのは1999年頃です。スマホどころか携帯電話をインターネットデバイスとして活用する発想そのものがどこにも存在しないような時代です。

もちろんBluetoothヘッドセットすら、市販レベルでは日本には1製品もありませんでした(Bluetooth 1.0の策定が1999年、日本で最初にBluetoothヘッドセットが普及し始めたのが2003年頃)。

まるでオーパーツのようなこのモックは、技術的にも発想的にも当時到底製品化できるものではありませんでした。そこで、現実との「妥協点」として生まれたのが当時のINFOBARです。

あれから時代は流れ、「Project GEMを見た瞬間の衝撃、あるいはデジャヴュ」などと言っても、恐らく多くの人は理解してくれないでしょう。まさにそこにあったのは、深澤氏が20年前に夢見たモバイルデバイスの姿そのものだったからです。

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深澤氏の目に、今のスマホはどう映っているのだろうか


深澤氏は「INFOBAR xv」の発売を記念したデザインツアーの中で「必然」をキーワードとして扱い、「デザインも自然の必然的な流れを予見しながら素直に作っていかなければいけない」と語り、INFOBARのデザインについても「携帯電話が身のまわりに来るという感じよりは、(さらに先の)インターネットが身のまわりに来るということを予見していた」と述懐していました。

インターネットどころか携帯電話すらまだまだ普及していない1999年頃に、インターネットが人々の生活に溶け込みモバイルシーンで当たり前に利用されるライフスタイルを夢想していたという事実がすでに常人ではありませんが、スマホが多様化し、Xperia 5やProject GEMが登場した今、それを私たちが理解することは容易です。コロンブスの卵のように、私たち一般人でも理解できる時代がようやく訪れたのです。

スマホやその派生となる端末は、これからも多様化と細分化を繰り返していくでしょう。かつてスティーブ・ジョブズ氏がiPhoneを発表した時のような衝撃とテクノロジーのパラダイムシフトこそ起こらないかもしれませんが、テクノロジーの進化自体が止まることは絶対にありえません。なぜならそれは「必然」だからです。

通信技術では5Gが話題となる昨今ですが、モバイルデバイスもまた人々の求める声のままに、「必然的に」新たな進化の段階へと突入し始めているのです。

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テクノロジーとそのデザインには「タイミング」がある。早すぎても遅すぎても成功しない。それが「必然」の答えかもしれない


記事執筆:秋吉 健


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