MVNOの現状から、未来の市場動向を考えてみた!

既報通り、NTTコミュニケーションズおよびNTTレゾナントは20日、NTTコミュニケーションズが仮想移動体通信事業者(MVNO)として提供する携帯電話サービス「OCN モバイル ONE」の新料金発表会を開催し、最低利用期間と解約金の縛りがない、月額980円(税別)から契約できる新コースを発表しました。

新コースの詳細などは上記リンク先をご参照いただくとして、今回取材で筆者の目に留まったのは、MVNOの現状についての分析でした。発表会ではモバイル通信業界の動向調査やアンケートなどを行っているMMD研究所(モバイルマーケティングデータ研究所) 所長の吉本 浩司氏が登壇し、現在のMVNOおよび格安SIM市場の動向について解説され、その後OCN側からMVNOの現状を踏まえた戦略が語られたのです。

MVNOのみならず、現在のモバイル通信業界は大きなターニングポイントを迎えています。料金プランの改革、5Gサービスの登場、楽天の移動体通信事業者(MNO)サービス参入。それぞれの動きが密接に絡み合い、関係するすべての企業の経営戦略に大きな影響を及ぼしています。

MVNOはこれからどうなっていくのでしょうか。MVNOの未来に明るい展望はあるのでしょうか。感性の原点からテクノロジーの特異点を俯瞰する連載コラム「Arcaic Singularity」。今回は最新のMVNO事情を読み解き、その未来について考察します。

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MVNO市場の「今」を知る


■想像以上に堅調に推移していたMVNO市場
まずはじめに筆者が少なからず驚いたのは、MVNO市場が予想よりも順調に市場規模を延ばしていたことです。

MMD研究所の調査資料によれば、移動体通信事業全体に占めるMVNO市場は2017年に7.4%(格安SIM市場としてY!mobileを含めると10.8%)でしたが、2019年には13.2%(格安SIN市場としてY!mobileを含めると18.9%)と、大きくその数字を伸ばしています。

その数字の内訳を精査してみると、MNOではNTTドコモだけが僅かにシェアを延ばしているものの、au(KDDI)およびソフトバンクは3.5~4.6%のシェア減少となっており、消費者が月額料金の高い大手MNOから安いMVNOやサブブランドMNOへと大量に移行し始めていることが分かります。

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格安SIM市場として僅か2年で倍増に近い顧客増加は驚くべき数字だ


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大手MNOの低料金戦略などからMVNO契約者数の伸びは鈍化するものと予想していたが、良い意味で裏切られた


MVNO市場全体の利用者人口は、継続利用中の人だけでも1500万人超という試算もあります。MNOと重複して利用している人もいるとは言え、その認知率の高さや利用者意識の面から、敷居がかなり低くなってきていることが分かります。

MVNOは、当然「月額料金が安い」という最大のメリットがあります。しかし、その裏には通信環境の不安定さや絶対値としての高速通信性の低さ、そしてサポート体制の薄さなどがデメリットとして存在します。

筆者も本連載コラムなどを通じてMVNOについて語る際、常にそのデメリットについても併記することで、MVNOの正しい使い方や選び方を伝えてきたつもりですが、そういった外部からの情報やMVNO各社による認知努力が、確実に消費者へと拡がってきていることを感じさせます。

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MVNOサービスの認知はもとより、内容を理解し利用を検討している層が2300万人超というのも凄い


■MNOへの反発がMVNO市場の追い風となった
こういったMVNO市場(格安SIM市場)の堅調な伸びの背景には、MNO市場の混迷と価格水準への消費者の不満があるのは間違いありません。

2019年のMNO市場は、通信料金と端末代金の完全分離施策が法的に定められ、また長期契約の解約金の上限が1000円に定められるなど、市場の流動化を推し進める政府に振り回され続けた印象です。

政府が半ば強引とも取れる施策を講じた背景には、MNO業界に長年横たわる横並び体質と競争を避ける動きに痺れを切らした、というのがあります。

思い返せば2016年には不当廉売を防ぐ目的で、通信料金プランとの抱合せによる通信端末の0円販売が禁止されたあたりから、政府による指導や提言は内容の厳しさを増してきていたように思われます。

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今回OCNモバイルONEもオンラインストア「goo Simseller」のキャンペーンで1円販売の端末を用意してきたが、0円販売ではない上、政府が定める上限2万円までの値引きの範囲内で価格設定しているため、法令や指導には抵触しない


高止まりしていたMNOの価格水準については、2018年辺りからMNO各社がデータ通信容量の少ない安価なプランを用意し始めたことでだいぶ引き下げられてきた感がありますが、しかしその低料金で消費者が契約するにはさまざまなオプションや条件が必要となり、すべての契約者が享受できる内容になったとは到底言えません。

そういった「MNOの低料金プランの恩恵を受けられない人々」の受け皿として、MVNOが現在大きくクローズアップされているのは事実でしょう。

また、これまで「MNOの月額料金が安くなるのではないか」と期待してMVNOの利用を躊躇していた層が、法改正を受けてさえ思ったよりも安くならないMNOに見切りをつけ、MVNOへ流れたとも考えられます。

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低料金だけでなく、月額料金体系がシンプルで契約に関する縛りが少なく、比較的気軽に契約・解約ができるのもMVNOのメリットだろう


■OCNモバイルONEの新コースで見えてきた「MVNOの泥沼」
堅調なユーザー増加と認知度向上を続けるMVNOおよび格安SIM市場ですが、不安材料がないわけではありません。最も懸念されるのは客単価の低下です。

MMD研究所による調査では、格安SIMを選ぶ理由の実に74.2%が「料金が安そうだから」、「お得感がありそうだから」と答えており、そのほかの理由は10%前後から一桁%に留まっています。

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ここまで見事に料金以外の要素へ興味を持たれないのでは、戦略の幅を持ちようがない


さらにユーザーの契約実態でも61.4%が月額3000円未満の契約(うち、31%は月額2000円未満)で、月額7000円~1万円未満の契約が最も多いMNOとは大きな隔たりがあります。

棲み分け、と言えば聞こえは良いですが、つまり人々はMVNOに料金以外の要素をほとんど求めておらず、付加価値による収益力の増強が非常に困難であるという裏付けでもあるのです。

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契約している月額料金の傾向も見事に正反対だ


格安料金である、という一点にしか興味を持たれないということは、企業体力勝負の不毛なディスカウント合戦に簡単に陥ってしまうということです。

ただでさえほどんどのMVNO事業が安定した黒字化を達成できていない中、こういった消費者の意識は業界にとって非常に危うい傾向にあると言えます。前述したようにMVNOへの認知は進み、その仕組みや料金体系への理解は深まっていますが、それは単に「MVNOは安い」という認識のみである可能性が高いのです。

仮に、通信の不安定性などのデメリットの部分を理解していないユーザーが安易にMVNOを契約し、その後「まともに通信できないじゃないか!」とクレームを入れるような事態が増加するとなれば、業界全体の信用や信頼を損ねる事態も招きかねません。

OCNモバイルONEではこういった懸念への対策として、月額料金を一段と安くする代わりに通信速度制限時の低速通信を2段階とし、さらに通信速度を絞ることでトラフィック全体の負荷を軽減して回線全体としての通信安定性を向上させる施策を打ち出していますが、もはやMVNOに残された施策(戦略)と言えば、こういった「さらなる低料金と少しでも通信状態を安定化させる小手先のやりくり」くらいしかないという証左でもあるのです。

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MNOから回線を借り受けて運営するというMVNOの事業形態上、価格と通信環境にはどうにもならない「壁」が存在する


■健全な価格競争であるために
MVNO各社がそれでも事業を継続している理由には、MVNOという事業単体での収益化をあまり重視していない、という点も留意しておくべきでしょう。

例えば楽天モバイルなどは、MVNOを楽天グループが誇る自社経済圏(エコシステム)を動かす動力源として位置付けてきました。楽天モバイルの契約者が楽天グループのサービスを利用し、ポイントシステムなどでさらに楽天関連のサービスや提携企業の商品を購入することで、グループ全体の利益を何倍にも増やすという流れです。

その流れの中でなら、MVNOは赤字事業でも大きな問題はありません。逆に言えば、そういった自社の経済圏や別サービスへの誘導路としてMVNOを活用できない、もしくは活用が弱い企業は、今後ますますMVNO運営が苦しくなっていくのではないでしょうか。

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OCNモバイルONEの月額980円にも「OCNの光回線とのセット割」というからくりがある。自社サービスへ引き込むための導線だからこそ安くできる


MNOの新たな低料金戦略は、確実にMVNOの価格競争にも拍車をかけています。ユーザー数を順調に伸ばし続ける一方で、その客単価を下げざるを得ない業界状況となりつつあります。そしてその流れは、MNOの料金低下への指導と要請を政府が推し進める限り続くものです。

行き過ぎた市場競争は、市場のみならず事業としての健全性を失わせるきっかけにならないとも限りません。通信料金を安く抑えることは誰もが望むところですが、歪んだ仕組みによる低料金の実現であってはならないと考えます。

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MVNOも、価格以外の要素で競い合える市場であって欲しい




記事執筆:秋吉 健


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