プログラミング教育必修化の意義と子どもたちの未来について考えてみた!

今月5日、とある公開授業が神奈川県相模原市にある「相模女子大学中学部」の3年生のクラスで行われました。その公開授業の表題は「IoTについて考える」。政府が提唱する未来社会のコンセプト「Society 5.0」を題材としてソフトバンクロボティクスの人型ロボット「Pepper」と教育機関向けマイコンボード「micro:bit」を連携させ、先進的なプログラミング授業を行うというものでした。

2020年度から小学校から高校までプログラミング教育が必修化されます。本コラムでも何度か取り上げている話題ですが、2017年あたりから教育機関や教材メーカーを中心にその取り組みが徐々に盛り上がりつつあります。

今回取材した相模女子大学中学部では、ロボットとマイコンボードを使った非常に高度なプログラミング授業が行われましたが、それは非常に重要な意味を持つ一方、プログラミング教育が持つ「1つの側面」に過ぎません。

プログラミング教育とは一体何なのか。プログラミング教育によって日本はどう変わろうとしているのか。感性の原点からテクノロジーの特異点を俯瞰する連載コラム「Arcaic Singularity」。今回はプログラミング教育が持つ意義と、子どもたちに託すべき未来について考えます。

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プログラミング教育と教育現場の「今」から日本の未来を考える


■プログラミング教育の目的とは何か
はじめに、みなさんはどこまでプログラミング教育について理解しているでしょうか。プログラミング教育という言葉から、プログラミング言語を学んだり、プログラム技術を習得することを目的としていると考える人は少なくないでしょう。

確かに、プログラミング教育にはそのような側面は間違いなくあります。相模女子大学中学部で行われた公開授業では、先生が与えた題目に対してわずか20分少々でPepperをプログラムし、動かすというもので、生徒たちは見事にその問題をクリアし、自由自在にPepperを動かしていました。

この公開授業がプログラミング教育に関連しているものであることは明白ですし、必修化を目前にした、いわば実証実験としての授業であったことは事実です。

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相模女子大学では文科省による必修化以前からプログラミング授業に力を入れている


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生徒たちは中学1年時よりプログラミング授業を受けているため、驚くほどすらすらとプログラムを構築していく


しかし、プログラミング教育が第一に目的とするものは「論理的思考力の養成」にあります。そもそも、「プログラミング」という科目は小中高を通してどこにも必修科目として存在しないのです。論理的思考力を養成するため、各科目に「プログラミング思考」を学ばせるカリキュラムが組まれるだけです。

では、論理的思考力やプログラミング思考とは一体何でしょうか。

例えばここに、通信できなくなったスマートフォン(スマホ)があるとします。みなさんなら、その通信不良の原因をどのように調べますか?一般人が行えて、尚且つ考えられる手段には、以下のようなものがあるでしょう。

・バッテリー状態を確認する(充電する)
・通信設定を確認する
・通信設定のオン/オフを行う
・機内モードのオン/オフを行う
・電源を入れ直す
・SIMカードを挿し直す
・ファームウェアアップデートの有無を確認する
・プロファイルを確認する
・別のSIMを挿してみる
・通信できないスマホのSIMを通信できるスマホに挿して通信できるか試す

スマホに詳しい人や業者であれば、まだまだできることは多くあります。トラブルや達成すべき目標に対し、解決のための手順や手段を1つずつ確認していく作業を順序立てて構築する力こそが、論理的思考力です。

こういった「問題の要点を見つけ、解決手段を順序立てて構築する」という力は、訓練しなければなかなか身につきません。その訓練の手段として、順番通りに命令を組み立てなければ正しく動作しないプログラム手順を学ぶことが非常に適している、というだけの話なのです。

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わずか20分足らずでアイデアを考え、それをPepperに実行させることができたのも、3年間プログラミングを習ってきた成果だ


論理的思考力とは、言い換えれば「問題解決力」です。問題解決力は現代の社会において非常に重要な力の1つです。

1990年代までの日本では、社会の歯車として規律正しく動ける人材の育成に力を入れてきました。それは「電子立国日本」と呼ばれた時代に、工業中心の経済を効率的に循環・成長させるために必要な資質だったからですが、2000年前後を境に環境が一変します。

突如として始まったIT化社会の到来はソフトウェアの時代とも呼ばれ、働き方や雇用形態の変化と合わせ、個人単位での能力に大きく依存する社会となったのです。

個人の能力に依存するということは、あらゆる問題に個人が対応できなくてはならないということでもあります。それは単に目標達成へのプロセスを構築するためというよりも、むしろ突然のイレギュラーや仕事をする上で起こり続ける問題の効率的な解決などに必要な能力と言い換えても良いでしょう。

その点で、これまでの日本の教育は大きく遅れを取ってしまったのです。IT・ICT分野では、いわゆるGAFAに大きく遅れを取り、ソフトウェアに弱い日本、IT立国になれなかった日本とまで言われるのは、そういった個人の発想力や問題解決力を蔑ろにしてきた証左でもあり、その遅れを取り戻すために導入されるのがプログラミング教育なのです。

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フィーチャーフォン時代には国産OSと国産メーカーで健闘していた通信端末分野でさえ、今や海外製OSと海外製端末に席巻されている


■2030年の社会を形作る人材育成を目指して
Pepperのプログラミングに用いられる「Robo Blocks」のような、命令チップを並べるだけのプログラミングは、少々乱暴な言い方ではありますが「単なる遊び」です。しかし勉強や学習とは、本来遊び心から始まるものです。

幼児教育や初等教育の過程で遊びの中から興味・関心を持たせることが重要であることを考えれば、論理的思考力を養うための「入り口」としては十分です。

はじめの門戸は大きく開かれていなければなりません。そこで興味や関心を強く持てる子どもがいたなら、その先にある本格的なプログラミングの世界を学ばせれば良いのです。

プログラミングにあまり興味を持てなかった子どもであっても「遊び」として楽しめたなら、論理的思考力を養う学習教材として合格だったと言えるでしょう。

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「学び」の原体験は「楽しむこと」。人は楽しいと思えることを率先して覚えていく


公開授業で教鞭を執った、相模女子大学小学部 副校長の川原田康文氏はこう述べます。

「今の子どもたちが2020年、2030年の社会を作っていく。その頃には事務仕事の多くがなくなるとも言われ、65%の人は私たちがまだ知らない仕事に就くとの予測もある。地球環境の変化も大きくなる中、そういった時代に対応できる柔軟な発想の人材になってほしい」

「この中からプログラマーを目指す子どもたちはそれほど多くないと思うが、プログラマーは女性の社会進出に役立つ職種でもある。これからの社会で女性が自立して生きていく力を身につけるという点でも大きな意義がある」

政府が掲げるSociety 5.0とは、IoT技術やAI技術によってサイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を融合させたシステムが、人々の生活をサポートする社会を指したものですが、そうした社会において、女性が持つ豊かでエモーショナルな感覚や生活への細かな気づきは、大きなアイデアの源泉となり得る可能性を秘めています。

そのような時代に製品開発の現場やクリエイティブな仕事で活躍できる人材を育てることこそ、今必要な教育ではないでしょうか。

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これからの時代、個人の力がますます試されていくことになる


■子どもたちに託すべき未来と大人たちの反省
現在の日本社会は、大きな閉塞感に包まれています。極端な少子高齢化は労働人口の急速な減少を招き、年間60万人(月間5万人)もの労働力を失い続けています。

労働力不足をロボット技術やAI技術によって補おうという流れも強まっていますが、肝心の「人」を増やす施策を行わなければただの応急処置であり、根本的な解決には至りません。

子どもたちにプログラミング教育を行うということは、論理的思考力や問題解決力を身につけ、未来の労働者の個人の能力を高めるということです。個人の能力を高め生産性を高めていくことで、労働力不足を補いつつ効率的で住みやすい社会を構築し、ひいては少子化問題も解決していこうというのが、Society 5.0の最終目標とも言えます。

単なる社会の歯車として、企業に帰属し与えられた仕事をこなしていれば安泰であった時代は終わったのです。いや、そんな時代は20年以上も前に終焉を迎えていたはずなのに、その事実から目を逸らし続けた結果が今の日本でしょう。

同じ過ちをこれ以上繰り返すわけにはいきません。もはや手遅れとなるギリギリのラインです。自ら考える力が試される時代に、考えられる子どもたちを育てることは、大人たる私たちに与えられた絶対の使命です。

PCの画面やPepperを、笑顔と輝くような瞳で見つめる子どもたちを取材しながら、この眼差しこそが明るい未来を創るのだと確信した次第です。

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子どもたちが笑顔で暮らせる未来のために


記事執筆:秋吉 健


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