新たに発表された「Bluetooth LE Audio」と、その音声圧縮方式「LC3」について詳しく解説!

Bluetooth規格の標準化団体「Bluetooth SIG」は6日(現地時間)、アメリカ・ラスベガスで開催されている家電見本市「2020 International CES(以下、CES 2020)」にて「Bluetooth」の新しい音声用規格「Bluetooth LE Audio」を発表しました。2020年前半に仕様書の提供を開始するとしており、製品への実装は2020年後半から2021年頃を予定しています。

Bluetooth LE Audioでは新たに「LC3」と呼ばれる音声圧縮方式(音声コーデック)を採用し、高圧縮でも高音質を維持できる点を最大のメリットとしています。また「LE」(Low Energy)の名称が付けられているように低消費電力にフォーカスした仕様でもあり、ワイヤレスイヤホンなどで現在よりも長時間の連続駆動ができるとしています。

この他にもBluetooth LE Audioには「現代だからこそ」の仕様やメリットが多く盛り込まれています。Bluetooth LE Audioによって私たちの生活はどのように変わり、どこまで便利になるのでしょうか。感性の原点からテクノロジーの特異点を俯瞰する連載コラム「Arcaic Singularity」。今回はBluetooth LE Audioの仕様やそのメリットについて解説します。

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Bluetoothはまだまだ進化する!


■20年以上も「唯一の“標準”音声圧縮方式」だったSBC
Bluetoothと言えば、今や私たちの生活とは切っても切れない関係にある無線通信規格です。古くは携帯電話(フィーチャーフォン)でのヘッドセットなどで利用が急増し、その後ワイヤレスヘッドホンやワイヤレスレシーバーに活用の幅が広がりました。

最近ではApple(アップル)の「AirPods」に代表されるような、左右独立式でケーブルレスの「完全ワイヤレスイヤホン」(TWS=True Wireless Stereo)が大きなブームとなり、通勤通学のお供として定着した感もあります。

しかし、その発展と普及はBluetooth自体の標準化の恩恵と言うよりも、サードパーティによる拡張によって発展してきたと言っても過言ではありません。

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アップルの最新TWS「AirPods Pro」。デジタルノイズキャンセリングによる高品位な音楽体験ができる


これまでBluetoothでは、標準(必須)の音声コーデックとしてSBCが採用されてきました。SBCは圧縮・展開処理が軽く、策定された1999年当時の通信機器でも十分に利用できる、汎用性の高い音声コーデックとして好評でした。

本来は圧縮ビットレートも512kbpsまで選択できるなど、高音質伝送にも対応できる規格でしたが、Bluetoothの普及初期にハンズフリー通話用のヘッドセットなどでの利用が多かったことや、当時の機器でも安定した通信品質を確保するために高圧縮をかけて(ビットレートを落として)伝送するのが主流となり、「SBCは音質が悪い」という有り難くない評判が立つようになります。

その後、同等のビットレートでもより高音質を実現できるAACやaptXといった音声コーデックがサードパーティによって次々と実装されるようになり、その普及によってワイヤレスヘッドホンなどが実用に値する音質になったとして広く普及するようになりました。

そして2020年。SBCから数えて20年以上の時間を経て、新たな音声コーデック「LC3」を採用した「Bluetooth LE Audio」が策定されるに至ったのです。

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AirPodsシリーズでは音声コーデックにAACを採用している


■より高圧縮に、より高音質に、より自由に
LC3の音質特性には大きな特徴があります。それは「高圧縮時でも音声品質が落ちにくい」というものです。

高音質な音声コーデックには前述したAACやaptXのほか、さらなる高音質を謳った「aptX HD」や「LDAC」といったものまであるため、「高ビットレートで高音質を目指す」のでは他の音声コーデックと市場が競合してしまい、今更標準化する意義やメリットがほとんどありません。

そこでLC3では、より高圧縮時でも高音質を保てる技術を目指しました。Bluetooth SIGによれば、LC3ではSBCに対して50%圧縮率を上げても音質がSBCよりも良好であるとしており、より低消費電力での駆動が可能となることから、バッテリー駆動時間の延長や同等の駆動時間でもより少ないバッテリーで済むようになり、対応機器の小型化に貢献できるとしています。

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音質評価は飽くまでも人による主観だが、それでも345kbpsのSBCよりも160kbpsのLC3の方が音質が良いというのは素晴らしい


またBluetooth LE Audioでは、複数の機器間でのマルチ配信や同期配信、独立配信などが行える「マルチストリーム・オーディオ」機能や、台数制限なく音楽コンテンツのシェアが可能な「ブロードキャスト・オーディオ」機能も採用しており、複数の音響機器を1つのTWSで自由に切り替えたり、逆に1つの音響機器からの配信を複数人で同時に聴取可能にします。

こういった機能の主な用途としては、マルチストリーム・オーディオであれば自宅でのPCやスマホの使い分け、ブロードキャスト・オーディオであれば映画館での利用や会議などでの翻訳機器利用などが挙げられるでしょう。

とくにブロードキャスト・オーディオは補聴器や公共施設での音声案内など広い用途が想定され、Bluetooth LE AudioとLC3の可能性を大きく広げてくれる機能と言えます。

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複数対1、もしくは1対複数での聴取は、ワイヤレス機器のメリットを最大限に活かせる機能だ


■総ワイヤレス時代の標準規格として
Bluetooth LE Audioでは補聴器に向けた機能などもあり、Bluetooth SIGが標準化団体として目指すべき方向性がここでも確認できます。

そもそも、マルチストリーム・オーディオやブロードキャスト・オーディオといった機能は著作権などとの問題が複雑に絡み、一般向けの用途としては実装しにくい部分でもあります(もちろん機器側での制御は行われる)。それを敢えて標準仕様として策定した背景には、より公共性の高い場所での利用を強く想定している点が挙げられます。

聴覚障害者であっても今までより映画や展覧会の鑑賞を行いやすくなったり、補聴器を必要とする年配者も安心して長時間移動したり会話を楽しめるようになることが、Bluetooth LE Audioの目指す未来だと考えても良いでしょう。

マルチストリーム・オーディオのような仕様(概念)はアップルのiOS 13およびAirPodsシリーズでも実現されており、今後は他の音声コーデックやOSでも採用されていくものと思われます。Bluetooth LE Audioは、そういった「総ワイヤレス時代」に見合った規格となりそうです。

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ワイヤレス・シェアリングの時代が始まる


記事執筆:秋吉 健


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