5GスマホのSub6とミリ波について考えてみた!

みなさんは5Gスマホを購入しましたか? 先週、NTTドコモやKDDI、ソフトバンクといった移動体通信事業者(MNO)が、相次いで5G通信サービスをスタートさせました。5G対応スマートフォン(スマホ)も各社が数多くラインナップし、XperiaやAQUOS、Galaxyといったお馴染みのブランドが一斉に登場しています。

本媒体でもこれらの5G対応スマホのスペックなどを紹介していますが、そのスペックを見ていて気になった方もいるのではないでしょうか。それは「Sub6」や「ミリ波」といった表記です。4G時代のスマホでは存在しなかったスペック表記だけに、何を意味するのか分からなかった人もいるのではないでしょうか。

感性の原点からテクノロジーの特異点を俯瞰する連載コラム「Arcaic Singularity」。今回は、そんな5G対応スマホの新たな指標となる「Sub6」や「ミリ波」について詳しく解説します。

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各社5G端末揃い踏み!購入前に対応電波の違いを知っておこう


■Sub6とミリ波とは
はじめに読み方ですが、「Sub6」は「サブシックス」、「ミリ波」は「ミリハ」と読みます。いずれも5G通信で使用する電波の周波数帯を示したもので、その周波数帯は以下のようになります。

【Sub6】
・6GHz以下の周波数帯を指した呼称
・「6GHz未満の電波」という意味
・日本国内では3.7GHz(ギガヘルツ)帯と4.5GHz帯がMNO向けとして割り当てられている

【ミリ波】
・30GHz~300GHzの周波数帯を指した呼称
・この周波数帯の電波の波長が1~10ミリメートル程度であることから「ミリ波」と呼ばれる
・日本国内では27GHz~29GHz帯がMNO向けとして割り当てられている

また、電波には「帯域幅」というものがあります。電波は特定の周波数のみが使われるのではなく、ある程度広い幅の周波数帯を束ねて利用するのです。

例えばSub6の場合、NTTドコモとKDDIは100MHz(メガヘルツ)幅が2枠ずつ割り当てられており、ソフトバンクと楽天モバイルには100MHz幅が1枠割り当てられています。ミリ波はすべてのMNOに400MHz幅が1枠ずつ割り当てられています。

これまでの4Gの場合、この帯域幅は10MHz~20MHz程度でした。つまり、Sub6だけでも10倍~20倍の幅を持っており、ミリ波に至っては20倍~40倍の帯域幅となります。帯域幅が広いほどに単位時間あたりの通信容量が大きくなるため、通信速度も劇的に向上するのです。

また、通信容量が一気に大きくなることで、大量の端末から基地局への同時接続に対する耐性が非常に高くなります。5G通信のメリットの1つとしてよく言われる「超多接続」とは、端末同士の通信が干渉したり輻輳を起こさないための技術の導入と合わせ、そういった帯域幅の広さによって実現したものです。

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KDDIは全部で600MHz幅分の周波数帯を獲得し、5G向け周波数帯の争奪戦に「勝利」した


そのため、Sub6とミリ波ではミリ波のほうが速度を出しやすいという特性があります。周波数が高いほど大容量化しやすい上に(単位時間あたりに送るデータ量が多い)、帯域幅がSub6に対して2~4倍も広いからです。

しかし、後述する理由などもあってミリ波は扱いが難しく、エリア展開の難しい電波となっています。速度はそこそこだがエリア展開の比較的しやすいSub6に対し、速度は圧倒的だがエリア展開が難しいミリ波、と覚えておくと良いでしょう。

■Sub6をめぐる各社の知られざる攻防
またSub6の周波数帯の中でも、端末調達においてその周波数帯ごとに若干の優劣があるとも言われます。

例えばKDDIは2019年3月期決算発表会の場において、同社が獲得したSub6の周波数帯について「非常に使いやすい、海外でも採用の多い周波数帯を獲得できた。これは端末や部品の調達でも大きなメリットになる」(高橋誠社長)と語っています。

海外でも利用されることの多い周波数帯の場合、海外端末をそのまま国内で利用できる可能性が高くなります。逆に、日本以外ではあまり利用されていない周波数帯では、海外端末が対応していなかったり、性能的には対応していても日本国内向けに専用のチューニングが必要になります。

ソフトバンクの場合、獲得したSub6の周波数帯自体が100MHz幅 1枠分のみと少なかった上に、まさにこういった「海外ではあまり使われない周波数帯」に当たると言われており、端末の調達コストや発売時期などに少なからず影響を与えると懸念されています(とは言え、ユーザーにそのコスト的なシワ寄せが来ることはほぼないと思われる)。

一般的なユーザーにはあまり関係のない話ではありますが、例えば将来、海外メーカーの5G対応SIMフリースマホなどが発売された際に、ソフトバンク回線で利用されているSub6の周波数帯だけ対応していない、などということも想定されるのです。

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ソフトバンクは周波数帯的な不利をどうカバーしていくのか。その経営手腕にも注目だ


■ミリ波対応は時期尚早?
現在発表されている各メーカーの5G対応スマホを見ると、ミリ波については対応していない端末も少なからず見られます。例えばソニーの「Xperia 1 II」などは、同社のフラッグシップモデルであるにも関わらずミリ波には対応していません(現在開発中の次期モデルでは対応予定)。

フラッグシップなのに対応しない電波があるのか?と疑問に思うかも知れませんが、ミリ波には大きな弱点があるのです。それは「エリアカバー力が極端に低い」ことです。

電波というのは、基本的に周波数が高くなる(≒波長が短くなる)ほどに直進性が強くなり、さらに物質を透過する「浸透性」が低くなります。

Sub6も現在4G回線などで使われている周波数帯と比較すればかなり高い周波数で、4Gよりも狭いエリアしかカバーできなくなると言われていますが、ミリ波ではエリア(面)というよりスポット(点)と表現したほうが良いほど、極端に狭いカバー面積となります。

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楽天モバイルのファンイベントで使用されていたNEC製のミリ波対応5Gアンテナ


当然ながら、アンテナメーカーも電波を広範囲に拡散させるための工夫や、逆に端末のある方向に向けて電波を集中させる「ビームフォーミング」といった技術などでエリアの狭さをカバーしていこうと様々に研究していますが、物理的なアンテナの配置箇所が自由に選択できるわけでもなく、また電波の距離減衰だけはどうにもなりません(とくにミリ波の距離減衰は非常に大きい)。

そのため、ミリ波の用途としては駅や公共施設といった、人が狭い範囲に集中し、混雑から従来の4Gでは通信が繋がりにくくなるような場所での「電波のオフロード利用」を目的とした使用方法が中心になります。

BtoBであれば、大型イベントでの高精細映像の転送や低遅延性を活かしたリアルタイム中継など、送受信ともにアンテナの位置が固定されるような用途にこそ、ミリ波は向いていることになります。

つまり、普段私たちがあちこちに持ち歩いたり、電車やバスでの移動中といったような頻繁に利用するシーンにおいて、ミリ波はあまり適さない、もしくは活用しづらい周波数帯なのです。

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イベント会場でのエキシビジョンモニター前など、人が動かず集中する場所ではミリ波が大いに活躍する


ミリ波はこうした電波特性であるために、広範囲のエリア構築が最優先されるサービススタート時点では、あまり重視する必要のない周波数帯だと言えます。

5Gに限らずモバイル回線では、はじめに広域エリアを構築し、その後広域用アンテナではカバーできない「電波の影」を1つ1つ見つけ、小さなアンテナでスポット的に潰していくというのが基本の流れです。

5G対応スマホの場合、5Gエリアの外ではシームレスに4G回線へ切り替わる仕様でもあるため、ただでさえスポット的な基地局配備しかできていない5Gの現状を考えれば、端末側のミリ波への対応状況にことさらこだわる必要はないでしょう。

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2020年3月末時点でのNTTドコモの5Gスポットは非常に限られた商業施設や交通施設に限定されており、同社自身が「エリア」と呼べないほどに狭い(引用元ファイルはこちら


■前途多難な5G。しかしその未来は確実に明るい
現在総務省では、エリア展開の難しいミリ波や4Gほどの汎用性には欠けるSub6に加えて、現在4Gで利用している周波数帯の5G転用なども検討していますが、

・低い周波数帯では速度が出しづらい
・そもそも4Gで利用している周波数帯の帯域幅が狭すぎて速度を出せない
・帯域幅の再編を行おうにも現在の主力周波数帯であるために不可能

こういった問題もあり、ソフトバンクなどは積極的な姿勢を見せている一方で、NTTドコモはユーザーの誤解を生む(5Gと表示されているのに4Gとほとんど変わらない速度しか出ない)として、強い難色を示しています。

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NTTドコモの5G展開計画を見ても、その道程は非常に長いと言わざるを得ない


本来であれば、先週のモバイル業界は5Gスタートに沸き立ち、10年に一度の興奮の時を迎えていたはずです。

しかし新型コロナウイルスの世界的な蔓延から東京2020オリンピック・パラリンピックは来年へと延期になり、この週末も首都圏の各都県などで外出自粛要請が出るなど、事態は5Gどころではなくなってしまいました。

筆者も5Gの取材にあたり、端末のタッチ&トライなどを行ってきましたが、取材者を大幅に制限した厳戒態勢の中で、本当に短い時間しか端末に触れられませんでした。

技術的な困難に加えて世界的な大混乱。海外メーカーの端末は問題なく発売されるのか、日本メーカーの端末ですら部品調達は大丈夫なのか。そんな不安の声ばかりがタッチ&トライコーナーで囁かれていたほどです。

しかし、それでも5Gは粛々とスタートしています。今はまだエリアも狭く、その恩恵を得られる人はごく一部ですが、1年後にはSub6のエリアが日本中に広がり、ミリ波の超高速スポットが駅のホームや駅前のカフェに展開されていることでしょう。

夢の超高速・超大容量の世界は必ずやってきます。その時には、この世界の大混乱が終息していることを心から願ってやみません。

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危機を乗り越えた時、人々が夢を描ける未来であるために、5Gは静かに始まる


記事執筆:秋吉 健


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