フォグゲーミングについて考えてみた!

先週発売のゲーム雑誌『週刊ファミ通(2020年6月18日号)』に、セガがフォグコンピューティングを活用したゲームシステム「フォグゲーミング」を研究しているという情報が掲載されていました。

フォグゲーミングやフォグコンピューティングといった言葉は、まだ多くの人が聞き慣れないのではないかと思います。これはいわゆるリモートコンピューティングの1つであり、遠隔地にある演算装置(≒コンピューター)を手元の端末によって操作するシステムや仕組みの1つです。

なぜゲーム会社がそのようなリモートコンピューティングシステムを研究しているのでしょうか。またその仕組みにはどのようなメリットがあるのでしょうか。感性の原点からテクノロジーの特異点を俯瞰する連載コラム「Arcaic Singularity」。今回はフォグゲーミングおよびフォグコンピューティングの可能性について考察します。

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フォグゲーミングは私たちにどんな体験をもたらしてくれるのか


■リモートコンピューティングのそれぞれの違い
フォグゲーミングをより正しく知るために、まずはリモートコンピューティングシステムについて簡単におさらいしておきましょう。

リモートコンピューティングの定義は前述した通りですが、その運用方法やシステムとしての構成の違いから、クラウドコンピューティングやエッジコンピューティング、そしてフォグコンピューティングなどへ大まかに区分されます。

いずれも操作する端末上にその主体となる演算装置を持たず、ネットワークを利用して演算を行うものです。最大のメリットは手元の端末に高度な演算装置を必要としないことで、高価なワークステーションやスーパーコンピュータを自宅にいながら利用する、といった使い方が分かりやすいかと思います。

IT業界では当たり前となりつつあるクラウドコンピューティングなどの概念ですが、その仕組みやシステムごとの違いを理解している一般人はあまり多くないように思われます。

それぞれの仕組みをざっくりと図解すると、以下のようになります。

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基本的に、ユーザーにどれだけ近いかでシステムの呼び方が変わる


演算処理システムがユーザーから遠いほど遅延が多く発生したり、より遠くにあるクラウドサーバーで一元的に処理を行うと、セキュリティ的なリスクも高まる傾向にあります。

そのため、よりユーザーに近く、インターネットを介する前のネットワーク上で処理を行うことからセキュリティ的にもクラウドコンピューティングより安全なエッジコンピューティングが注目を集めるようになったわけですが、ユーザーに近いということはデータ処理設備も数多く必要になるということであり、クラウドコンピューティングよりもピンポイントな用途と利用者に限られてきます。

そこで考え出されたのがフォグコンピューティングです。エッジコンピューティングよりは物理的な距離があり、インターネットを介する点ではクラウドコンピューティングと似ていますが、よりユーザーに近い場所で用途をある程度限定した利用を行うことで、コスト的にも設備規模的にもシンプルに抑えられる仕組みを作ったのです。

つまり、クラウド(雲)よりもより近いところで処理をするからフォグ(霧)、ということです。

冒頭で紹介したセガを例に挙げるならば、その演算処理とはアーケードゲームを指しており、ユーザーの地元にあるゲームセンターなどをフォグコンピューティングの拠点として活用し、ユーザーに「自宅に居ながらアーケードゲームができる」という体験を提供しようというのが目的です。

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街のゲームセンターのゲームを自宅で遊べるようになる?


■ゲームとリモートコンピューティングの複雑な関係
こういった「リモートコンピューティングによってゲームをプレイする」という発想は、今に始まったことではありません。

むしろそのアイデアはかなり以前から積み上げられてきたものであり、昨今ではGoogleの「Stadia」(スタディア)やNVIDIAの「Geforce NOW」(ジーフォース・ナウ)といった、クラウドゲーミングサービス(総称としてはリモートゲーミングサービス)として開花しつつあります。

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日本ではソフトバンクが6月10日より「GeForce NOW Powered by SoftBank」を正式に開始すると発表した


技術的成熟と新しい通信技術の導入もまた、こういったリモートゲーミングサービスを後押ししています。

これまでであれば、光回線のような固定回線(有線回線)でなければゲームとして成立しないほどに遅延がひどく、また十分な画質を得られませんでした。しかしモバイル通信技術として第5世代移動通信システム「5G」が登場し、遅延においてもデータ通信容量においても、十分にリモートゲーミングサービスを受け入れられる環境が整備されつつあります。

ソフトバンクがGeForce NOW Powered by SoftBankを開始する背景も、まさに5Gの活用にあります。端末のゲーム処理性能にほとんど依存しないため(映像再生機能や入力デバイスの有無はある程度依存する)、5G回線を利用できれば自宅だけではなく外出先からも遊ぶことができるようになるのです。

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ソフトバンクはクラウドゲーミングを5Gの起爆剤の1つとして捉えている


とは言え、それでもやはり遅延は発生します。以前このコラムでStadiaについて考察した際も、送受信や映像圧縮にかかる遅延が無視できないほど大きなものであることをお伝えしました。

【過去記事】秋吉 健のArcaic Singularity:Google STADIAが夢見るゲーム世界とは。クラウドゲーミングサービスの魅力と課題、そして未来について考える【コラム】

そのため、GoogleはPCなどを介さず直接Stadiaサービスに接続されるゲームパッド型デバイスを開発し、できる限り遅延を低減させる努力を行っていますが、それでも海外でのStadiaの評価を見る限り、遅延に関してはあまり良い評価は受けていないようです。

一方で、セガのように「街のゲームセンター」をリモートゲーミングサーバーとして活用するという方法は、物理的な距離が近く遅延を減らしやすいという点で、非常にシンプルながらも有効な手段だと言えます。

また、セガがフォグゲーミングを研究する背景には、地域のゲームセンターの衰退があります。

家庭用ゲーム機の高性能化やPCゲーマーの増加、そして何よりもスマートフォン(スマホ)ゲームの隆盛によって、ビデオゲーム施設としてのゲームセンターの価値が著しく低下し、今やプライズゲームやメダルゲームによってその収益を辛うじて支えている状態です。

そのような中で、それでもなおアーケードビデオゲームが持つ魅力やゲームプラットフォームとしての強さを活かせる道として、フォグコンピューティングひいてはフォグゲーミングに着目したのではないでしょうか。

また、ゲームセンターのゲームをそのまま遊ばせるのではなく、ゲームセンター自体をフォグコンピューティングサーバーの施設として運用するという可能性もあります。そのような活用であればアーケードゲームに拘る必要もありません。

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現在のゲームセンターのビデオゲームは音楽ゲームやカードゲーム系が主体だ


■フォグゲーミングの霧を晴らすのは5G
クラウドコンピューティングやリモートコンピューティングというと、BtoB向けソリューションなどが真っ先に思いつきますが、これからの時代はよりコンシューマに近い部分での発展が大きく見込まれます。

その発展を牽引するものこそが通信技術であり、5Gです。今まで場所に縛られていたリモートコンピューティングはスマホの性能向上と5G通信の浸透によって、間違いなく「いつでもどこでも」を実現する世界へと飛躍させます。

その片鱗はすでに4G世代でいくつも実現していますが、5Gで大変革が起きることは確実です。クラウドゲーミングやフォグゲーミングもまた、「スマホでアーケードゲームを手軽に遊べる」といった世界を作り出すかもしれません。

今はまだ、全ては五里霧中です。セガのフォグゲーミングもまだまだ研究段階であり、商業サービスとして何かが動き出したわけではありません。しかしその霧が晴れた先に、素晴らしい未来が待っていることを期待しています。

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リモートコンピューティングには、まだまだ可能性が残されている




記事執筆:秋吉 健


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