eスポーツが抱える不正行為の闇について考えてみた!

今年3月、FPS(ファーストパーソン・シューター)ゲーム「レインボーシックス シージ」のイベントにおいて「PS4国内最強チーム決定戦」のオフライン出場を1チームを除くすべての上位チームが棄権するという異例の事態が発生しました。

その棄権理由が公式から語られない中、新型コロナウイルス感染症問題(以下、コロナ禍)の拡大が危機的状況に陥る中でもあったことから安全のために棄権したという見方もありましたが、多くの観戦者や同ゲームのファンの間からは「チート(不正行為)を行っていたからオフライン会場での大会に出られなかったのではないか」という疑念の声が多く上がりました。

実際、現在のeスポーツの場において外部ツールなどによる不正行為は最大の懸案となりつつあります。本来であればリアルの競技場を必要としないeスポーツはコロナ禍においても強みを発揮しやすいエンターテインメントであるはずなのに、なぜ大きく羽ばたけないのか。その理由の1つがここにあります。

感性の原点からテクノロジーの特異点を俯瞰する連載コラム「Arcaic Singularity」。今回はeスポーツと不正行為の闇について考察します。

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eスポーツを蝕む闇とは


■勝利への歪んだ執着心が生んだ闇
eスポーツ(あるいはゲーム)と不正行為は、非常に古い時代、それこそファミコンの黎明期から切っても切り離せない関係です。

ファミコン世代の人々なら、コナミのスポーツゲーム「ハイパーオリンピック」でコントローラのABボタンに定規を当て、指で弾いて振動させることでボタンを高速連打し、尋常ならざる記録を叩き出して笑った記憶がある人も少なくないでしょう。

またハドソンが発売していた連射測定器付時計「シューティング ウォッチ」(通称:シュウォッチ)で同様のプレイを行い、秒間16連射どころか30連射なども可能でした。

あの当時は、それでも自分だけで楽しんだり、友人たちと遊ぶ程度だったために不正行為云々などといった問題には発展しませんでした。仮に友人と一緒にハイパーオリンピックを遊んでいる時に定規を持ち出そうものなら、「それずるいぞ!定規禁止な!」と言われて終わる話でした。

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少年たちの誰もが「連射の神様」高橋名人に憧れ、追いつけ追い越せと連射速度を競った時代があった


しかし時代は変わり、今やゲームはオンラインの時代です。かつてゲームセンターやキャラバンイベントなどで好評を博したゲーム大会は、プロリーグも存在する「eスポーツ」として花開き、FPSやレースゲームによるオンライン対戦を中心にプレイヤー層を拡大する一方で、その「ずるい」行為があからさまに行われるようになってきたのです。

オンラインゲームで不正が行われる背景には、「どうせバレない」というユーザー心理があります。例えばイベント会場での大会において、不正なツールを堂々と使う人はいないでしょう。しかし、ゲームをプレイする場所が自宅であれば、そこで不正ツールを使っているかどうかは非常に判断しづらいのです。

「あいつの動きだけ明らかに正確すぎる。不正を行っているのではないか」。そのように対戦相手が感じたとしても、それを証明する方法がありません。最近ではゲーム内で不正ツールなどを検出することで対策を行っていることも多くありますが、それも不正ツール側で再び対策されて使用可能になるなど、完全にいたちごっこの様相です。

人々はなぜゲームで不正をするのか。それは簡単です。対戦相手や競争相手に勝ちたいからです。友人と隣同士で遊んでいるなら「それずるいぞ!」と言われるような行為でも、誰も見ていないという誘惑がプレイヤーを不正に誘います。悪いことをしてでも勝ちたい。これを使えば勝てるかもしれない。その誘惑を跳ね除けるのは容易いことではありません。

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レインボーシックス シージを運営するUBISOFTのサービス利用規約より抜粋。規約で厳格に規制しても、不正行為は絶えない


■不正行為が生み出す負のスパイラルの恐怖
不正行為の問題点は、不正行為を行うことによるプレイヤー間の不公平さ以上に、それによってゲームジャンルやプレイヤー人口が縮小・衰退してしまうことにあります。

例えば対戦ゲームで不正を行っていたプレイヤーが連勝していた場合、対戦相手のプレイヤーはどう感じるでしょうか。「ずるい」、「不正してるヤツになんか勝てない」、普通はそのように憤ることでしょう。

そしてその感想のあとに来るものは恐らく2つです。「私も勝ちたいから不正する」、「不正の横行するゲームなんてつまらないからやめる」。どちらにしても、ゲームやゲームジャンルとして最悪の結果です。

「不正行為を行うプレイヤーを正規の方法で絶対に倒してみせる」という気概のある人もいるかも知れませんが、延々と不正行為をされ続けた場合、その気概が長く続くとは思えません。

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不正行為への怒りは、甘い罠でもある


結局どのような感想を持ったとしてもゲームとしての興は削がれ、真面目に遊んでいるプレイヤーは離れていきます。結果、ゲームには不正行為を行うプレイヤーばかりが残り、新規プレイヤーはことごとく叩き潰され排除されていきます。

さらに、不正行為を行うプレイヤー同士の戦いばかりになれば「このツールを使えば必ず勝てる」というカタルシスすら得られなくなり、「勝つためにツールを使う」というアイデンティティが破られることで、その不正プレイヤーすらもいずれは興味を失って離れていきます。

誰かが不正を行い、それが引き金となって不正が広がり、ゲームの面白さを潰していく。そういった負のスパイラルがそのゲームとゲームジャンルを衰退させていくのです。

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ゲームをつまらなくするのは人か、ツールか


■そもそも不正行為とは何か
何をもって不正行為とするのかもまた、難しい線引きです。例えばFPSゲームにおけるオートエイミングやアンチリコイルツールなどは不正行為の代表例です。しかし、ゲーム内のアイテムやマクロ機能を1ボタンで呼び出すプログラマブルキーの使用などは、プレイヤーやゲーム運営企業によって大きく解釈が分かれます。

MMORPGなどでもゲーム内にマクロ機能が搭載されていることは多く、その使用は当然ながら公式に認められています。しかし外部ツールによる「ゲーム内マクロの自動実行」はグレーゾーンとして黙認しているか、不正行為として禁じている場合がほとんどです。

また、ゲーム内パラメータなどを外部ツールによって視覚化することの是非も議論の対象となりがちです。そもそも外部ツールや外部機器を使った全ての行為を不正とするなら、ゲームパッドの連射機能は不正なのか、多ボタンマウスの使用は不正にあたるのか、といった重箱の隅をつつくような不毛な議論へと発展しかねません。

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MMORPG「FINAL FANTASY XIV」の推奨周辺機器一覧より抜粋。プログラマブルキーを搭載した入力デバイスがずらりと並ぶ


ここで重要なのは、「何が不正行為なのか」ではなく、ゲーム運営企業が「何を不正行為とみなすのか」です。

例えば対戦ではなく協力プレイが主体となるMMORPGでは外部ツールの使用に関するレーティングは比較的甘い場合が多く、他のプレイヤーの迷惑にならない範囲であれば黙認していることも少なくありません。

しかし対戦型(PvP)ゲームや賞金の掛かったeスポーツ大会では、非常に厳格な制限や規約が設けられます。

それは一般的なスポーツや競技におけるレギュレーション(規定)と同じです。通常のプレイであれば容認もしくは黙認するものであっても、大会や競技会の場では禁止とする、といったようなレギュレーションが必要なのです。

逆に言えば、「この大会はこのレギュレーションで行う」といった、一種の「縛りプレイ」も可能である点がメリットでもあります。

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対戦格闘ゲーム「ストリートファイターV」のeスポーツ大会「RAGE」用ルールブックより抜粋。大会ごとにレギュレーションは異なり、それに則ってプレイヤーは対戦する


■eスポーツを「人々がより楽しめる」方向へと導くために
各プレイヤーの自宅や地元から楽しめるeスポーツは、本来であればコロナ禍においてもプレイヤー・視聴者ともに楽しむことができるエンターテインメントとして、もっと注目されて良い「興行」の1つであったはずでした。しかし、様々な不正行為や配信環境の整備不足などもあり、思った以上に流行らないままです。

不正行為を確実に禁止する方法として大会会場へ直接来てもらうしかないという現状は非常に残念であり、またオンラインゲームを用いた興行としても、まだまだ未熟であることを痛感させられます。

オンラインゲームとそれを利用したeスポーツは、通信技術とIT技術の発達した21世紀だからこそ可能になったジャンルであり、巨大なポテンシャルを秘めた業界および興行であると筆者は信じます。それだけに、不正行為が蔓延し大会の運営すら危ぶまれる状況に陥ることすら起こり始めた現状に、大きな危機感と落胆を禁じ得ないのです。

「何が不正行為であるのか」に執着するよりも、「どうすれば人々が楽しく、そして熱狂できるゲーム環境を作れるのか」を、前向きに考えていきたいところです。

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ゲームやeスポーツを楽しむために何が必要か。その原点を忘れないようにしたい


記事執筆:秋吉 健


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