音楽聴取の変遷について考えてみた!

みなさんは、最後にCDで音楽を聴いたのはいつか思い出せますか? 筆者は思い出せません。パソコン(PC)にインストールしたiTunesに5000曲以上も音楽を詰め込み、毎日のように大好きな音楽を聴いていますが、それをCDから直接聴いたことは、もう10年近くない気がします。

2000年代後半あたりから「若者の音楽離れ」のような言葉をよく聞くようになり、本連載でも2018年3月に「本当に若者は音楽を聴かなくなったのか?」と題して考察を行ったことがありました。その時点では「若者は音楽から離れていない」、「大衆音楽から個の音楽へ変遷している」とまとめました。

あれから2年半。人々の音楽聴取の形や音楽の流行に変化はあったのでしょうか。感性の原点からテクノロジーの特異点を俯瞰する連載コラム「Arcaic Singularity」。今回は音楽聴取スタイルの変遷を絡めつつ、通信業界の視点から見た現在の音楽事情について考察します。

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音楽の聴き方はどのように変わっていくのか


■「音楽」は死なない
まずは最新の音楽事情について、統計データを元に考察してみます。

一般社団法人日本レコード協会が2020年4月に公開した「2019年度『音楽メディアユーザー実態調査』報告書」によれば、CDの売上は現在も下がり続けていることが分かります。

とくに10代~20代の若者のCD購入の減少は著しく、一方でダウンロード配信やストリーミング配信による音楽視聴の割合が急速に伸びていることから、若者の「CD離れ」は間違いないことが分かります。

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ハイティーン(12歳~19歳)の動画配信サイトからの音楽聴取の高さが際立っている


一方、音楽全体への支出を見てみると、2015年まで減少し続けていた支出額はその後回復傾向にあることが分かります。

その内訳を見てみると、2019年にはCDの購入こそ過去最低を記録していますが、音楽ビデオ(ミュージックビデオ)や定額音楽配信(ストリーミング音楽配信サービス)、そして音楽関係のグッズおよび出版物の支出が大きく伸びており、この1~2年で音楽の楽しみ方が大きく代わってきていることが推察されます。

過去に一旦音楽から離れてしまった人々、もしくは今まで音楽にあまり触れてこなかった若年層が、音楽シーンへと舞い戻ってきているのです。

果たしてその理由や原因はなんでしょうか。

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2015年頃までは衰退の一途かと思っていた音楽は、想像以上に息を吹き返していた


■通信業界の戦略が音楽を復活させた
通信業界からの視点で最も注目すべきは、やはりミュージックビデオの盛り上がりとストリーミング音楽配信サービスの大流行です。これらには確固たる裏付けがあります。それは通信サービスの進化とサブスクリプション型課金システム(いわゆる月額課金)の再定着です。

NTTドコモやKDDI、ソフトバンクといった移動体通信事業者(MNO)は2016年頃より大容量の通信料金プランを次々と発表し、2018年頃には30GBや50GBといった超大容量の定額プランが出揃い、音楽のストリーミング聴取程度であれば実質無制限とも言えるほどの環境が当たり前となりました。

さらに仮想移動体通信事業者(MVNO)を中心に、一部のSNSや音楽配信サービスの利用を通信料金としてカウントしない「カウントフリー」な料金プランが話題となり、通信料金を安く抑えつつも音楽を常時楽しめる環境が整ったのです。

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OCNモバイルONEが提供している「MUSICカウントフリー」。Amazon musicやAWA、Spotifyなど、音楽配信大手9社での音楽聴取にかかる通信料金が無料となる


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ソフトバンクの「メリハリプラン」では、SNSや音楽だけではなく動画配信サイトの利用もカウントフリーという大盤振る舞いだ


お金にシビアでサービスの価格に敏感な若年層ほど、こういった世の中の潮流を見逃しません。

2014年まではほぼ皆無と言えたストリーミング音楽配信サービスが2015年から僅かに姿を表し、しばらく流行る様子もなくくすぶっていたものが2018年から2019年にかけて突然爆増した背景には、こういった通信各社の戦略があったのです。

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LINEモバイルのデータフリーオプション。お金にシビアだからこそ便利で安いと感じたものは積極的に活用するのは、いつの時代でも若者の特徴だ


ミュージックビデオの隆盛もまた、動画配信サイトの利用の増加が背景にあることは間違いありません。

残念ながら違法なアップロードによるPVやMVの公開や視聴は後を絶ちませんが、音楽アーティストや音楽事務所による公式サイトも徐々に増え、現在では「効率の良い宣伝活動」の場として利用されるようになりました。

画像で紹介したソフトバンクのメリハリプランのように、動画配信サイトの利用もカウントフリーとする通信料金プランなども登場し、ますます動画配信サイトの利用は手軽で便利になっています。

スマートフォン(スマホ)で無料のMVやPVを観て興味を持ち、ストリーミング音楽配信サイトで楽曲を何度も聴く機会を得た結果、アーティストやその曲が好きになって関連グッズや出版物をオンラインショップで購入してみる。

統計データを見ているだけでも、そんな流れが自然と思い浮かんできます。

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興味や関心を持てばこそ楽曲や関連商品は購入される。動画配信サイトの無料MVやPVは、CMとして大いに成功していると考えられる


■厳しい時代だからこそ輝く音楽の存在
冒頭に書いたように、筆者はもうCDを永く再生していません。しかし毎日のようにiTunesで音楽を聴いています。若い世代の人々は、さらに進んでYouTubeにあるMVやストリーミング音楽配信サービスを日々楽しみ、話題のタネとしているのでしょう。

2000年代後半に叫ばれていた「若者の音楽離れ」は、もう過去のものです。むしろ今は「若者の間で空前の音楽ブーム」に近い状況です。スマホとイヤホンを持ち歩き、いつでもどこでもどんなスタイルでも音楽を身に纏い続ける。そんな時代が来たのです。

2018年に書いたコラムでは、「音楽は以前よりも人々の「個々の生活」に環境音楽として浸透し馴染みつつある」と締めましたが、あれからたった2年半で状況はさらに激変しています。

個々の生活どころかストリーミング音楽配信サービスによって人々は再び「共通の音楽」を手に入れ始め、街中に音楽が溢れていた平成初期の様相に近くなっています。

その意味では、2010年から2015年頃までの音楽シーンは暗黒時代と言えたかもしれません。フィーチャーフォン(ガラケー)の着うたブームが過ぎ去り、スマホでのストリーミング音楽配信サービスが勃興するまでの空白期間です。

現在の筆者には、音楽シーンの明るい未来が見えています。現在世界を暗鬱とさせている新型コロナウイルス感染症問題の渦中ですら、手軽なストレス解消手段や在宅仕事の息抜きの1つとして、音楽は重宝されています。

人々は、常に音楽を欲しているのです。

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コロナ禍に、音楽が受け持つ役割は大きい


記事執筆:秋吉 健


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