iPhone 12 miniの存在価値について考えてみた!

例年よりも若干遅れたものの、今年も新しい「iPhone」が10月23日に発売されました。同日に発売されたiPhoneはスタンダードモデル「iPhone 12」および上位モデル「iPhone 12 Pro」の2機種です。

本コラムをお読みになる読者の方々でiPhone 12シリーズの詳細を知らない人などもはや存在しないとすら思えますが、さらに11月16日には小型モデル「iPhone 12 mini」および大型モデル「iPhone 12 Pro Max」の発売が予定されています。

デザイン面でのフルリニューアルや5G対応など、さまざまな点で注目を集めるiPhone 12シリーズですが、筆者が最も注目したのはiPhone 12 miniの存在です。海外のルーモア(噂)サイトやリーク情報などからある程度の予想は立っていたとは言え、実際に製品が発表され詳細が判明するに従い、その驚きは増すばかりです。

iPhone 12 miniは何が革新的であり、何が驚きのポイントだったのでしょうか。そしてiPhone 12 miniの登場はiPhoneシリーズや、ひいては他社のスマートフォン(スマホ)を含めたモバイル業界にどのような変化を与えるのでしょうか。

感性の原点からテクノロジーの特異点を俯瞰する連載コラム「Arcaic Singularity」。今回はiPhone 12 miniの存在意義とその可能性について考察します。

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iPhone 12 miniはスマホの常識を変えるかも知れない?


■人々に求められていたiPhone 12 mini
はじめに、日本や世界でのiPhone 12 miniに対する反応を見てみましょう。

MMD研究所が10月22日に発表した「iPhone 12シリーズに関する購入意向調査」によると、iPhone 12シリーズを「購入したい」もしくは「購入を検討している」と答えた人の合計は、iPhoneユーザーで45.6%、Androidユーザーで16.0%となりました。

これらの中で、さらにどの機種を購入したいか(購入を検討しているか)という設問では、iPhone 12と答えた人がiPhoneユーザー/Androidユーザーともに7割以上と最多だったのに対し、第2位にはiPhone 12 miniが続いており、iPhoneユーザーで45.0%、Androidユーザーで36.4%となりました。

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iPhoneユーザーとAndroidユーザーで好みの傾向があまり変わらないことも分かる


この傾向は海外でもあまり変わりません。むしろ小型端末に対する期待はより大きく、iPhone 12シリーズが発表される前である9月8日に公開された米SellCellによる購入意識調査の結果によれば、好ましいディスプレイサイズとしてiPhone 12 miniに採用された5.4インチを挙げる人が53.9%と圧倒的に多く、さらに購入を検討している機種についてもiPhone 12 mini(当時はiPhone 12という名称だと予想されていた)を挙げる人が44%で、他のモデルを圧倒していました。

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製品発表前の期待値という点で誤差はあるものの、iPhone 12 miniが当時から期待されていたのは間違いないだろう


例えばこれが、単に価格的な期待値であったとするならiPhone 12 miniの人気ぶりに筆者が驚く理由はありません。人々が生活の道具であるスマホに対し「安いほど良い」と考えるのは当然だからです。

しかし、米国での調査からも分かるように、人々は単に価格のみを評価しているわけではないのです。そのディスプレイサイズについて「丁度良い」と感じている人が大半であり、一方で6.1インチのiPhone 12(調査時点ではiPhone 12 Maxと呼ばれていた)やiPhone 12 Proを選択した人は、合計でも6.7インチのiPhone 12 Pro Max以下のわずか19.1%しかいないという結果になっている点は、強く着目すべき点です。

これらの調査結果は、これまでひたすらに巨大化・肥大化を続けてきたスマホのディスプレイ論争に一石を投じるものであると筆者は考えます。

■大きく、重くなりすぎたスマホ
かつてのフィーチャーフォン時代より、人々は「より大きく、より美しい」ディスプレイを求めてきました。メーカーはその要望に応えるようにひたすらディスプレイの大型化を目指し、搭載できるギリギリの大きさを競い合ってきたのです。

スマホの画面が5インチを超えてきた時期は意外と早く、筆者の記憶では2010年に発売されたシャープ製「IS01」や「LYNX SH-10B」、DELL製の「Dell Streak 001DL」などがあります。

しかし当時はまだまだ3インチ台のディスプレイが主流であり(2010年発売のiPhone 4は3.5インチ)、「5インチは大きすぎる」、「片手で扱いきれない」と大不評で、あまり売れませんでした。

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シャープ製「LYNX SH-10B」。5インチ台のスマホは主にキーボード付きの横向き利用がメインで、片手で扱う縦持ちスマホには不向きとされる時代だった


しかし、その後のスマホの大画面化はみなさんもよく知るところです。通信技術と通信速度の向上、そして端末技術の進化はスマホを写真や動画の視聴端末として発展させ、人々はより大きく美しい画面でそれらを観たいと願うようになります。

スマホの大画面化の流れは主に海外で先行し、日本はむしろ後発だったことも印象的です。欧米人に対し比較的体格や手が小さく、さらに多機能なフィーチャーフォンである「ガラケー」文化が発展していた日本人にとって「片手で扱えるかどうか」は大きな購入理由でもあったため、横幅の大きなスマホは長い間敬遠されがちだったのです。

それでも人々は徐々に大きなディスプレイに慣れていき、2012年には4インチ代後半が主流となり、2013~2014年頃には5インチ台へ、そして現在は6インチ台すらも当たり前となっています。

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2018年に発売され人気を博したソニー製「Xperia XZ3」。6インチ画面を搭載する大型のスマホだ


しかし、ディスプレイの大型化は本体の重量化にも繋がりました。そもそもスマホの大画面化は、ディスプレイサイズのメリットだけではありませんでした。本体内部の容量拡大に伴い、さらに多くの機能を詰め込み、大容量のバッテリーを搭載するのに適していたからこそメーカーにも歓迎されたのです。

各種部品の小型化や専用部品の開発に注力しなくても製造できることから、コスト面でのメリットも多くあったことでしょう。

そうして大型化と重量化を繰り返した結果、ついに人々が毎日手にするスマホとしての閾値に達してしまったのです。「大画面は欲しいけど重い端末は疲れる」、そんな声が少なからず聞かれるようになりました。

iPhone 12 miniは、そういった大画面・重量端末へのアンチテーゼとしての意味合いすらあったと筆者は感じています。盲目的にスマホを大きくする時代は終わったというAppleからのメッセージであると受け取ったのです。

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小さいと言っても、iPhone 12 miniの画面は5.4インチもある。かつての基準で言えば大きすぎるほどだ


■小さく軽くても性能で妥協したくない
日本では、これまでも小型端末への需要は非常に少ないながらも常に一定数ありました。ソニーのXperiaシリーズにおける「compact」系統のラインナップや、シャープの「AQUOS」シリーズにおける「mini」系統などです。

いずれも端末の横幅を65mm前後に抑えた端末で、今回のiPhone 12 miniも横幅64.2mmと、これらの仕様に習ったものとなっています。この「横幅65mm前後」という数字はマジックナンバー的な意味合いがあり、初代iPhoneが61mm、事実上の最初のヒット製品となったiPhone 3Gの横幅が62.1mmであったことが大きく関係しています。

片手でも扱いやすく、両手利用でも問題なく、画面サイズでも不満が少なく、重さでも疲れの少ない「程良い大きさ」こそが、この横幅65mm前後に集約されるのです。

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スマホの最適なサイズは初代iPhoneの時点ですでに完成されていた


事実、iPhone 12 miniの重さはわずか133gです。これは驚くべき軽さであり、180gや200gといった重量級のスマホが主流化している現在、手にとった瞬間に「え!?」と驚くほどの軽さであることは容易に想像できます。

スマホが軽いということがどれだけ重要であるのかは、以前本連載でも考察したことがありますが、その中でもスマホの重量化の限界や軽さも追求していく時代に入ったと考察させていただきました。

【過去記事】秋吉 健のArcaic Singularity:そのスマホ、重くないですか?大画面化や重量化が続くスマホ業界の中で新たなトレンドの予感を追いかける【コラム】

iPhone 12 miniは、まさにこのコラムで考察した「小型・軽量であることを理由に性能で妥協する必要のないスマホ」の模範的な製品ということになります。

基本的な性能や機能はiPhone 12とほぼ変わらず、サイズのみを小さくしたハイエンドコンパクトです。ディスプレイサイズが5インチ台のスマホをコンパクトと表現して良いのかという問題もありますが、ディスプレイのインチ表記はディスプレイの対角線の長さであるため、19.5:9という超縦長のアスペクト比を持つ現在のiPhoneの場合、iPhone 3Gなどとあまり変わらない横幅である以上、コンパクトな端末と表現して問題はないと考えます。

そういった「小さく軽く、しかし性能と機能はハイエンドのまま」というモデルが、2020年の世界にどれだけ支持されどのように評価されるのか、非常に強い関心があります。

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最新・最高の性能を手のひらに


■スマホが進むべき「真の多様性」を持つ未来
iPhone 12 miniの登場は、世界のスマホ市場に「小型端末ブーム」という新しい風を呼ぶかもしれません。

XperiaやAQUOSシリーズでのハイエンドコンパクトやプレミアムコンパクトへの試みは、ほぼ日本国内だけに限定されたものであり、世界的な潮流となり得ませんでした。しかしiPhoneは常に世界がターゲットです。むしろ日本は「その他大勢」に与する地域です。

恐らく、iPhone 12 miniの登場への驚きは、日本人よりも海外の人々のほうが大きかったことでしょう。それほどに、海外で有名ブランドメーカーによるハイエンドコンパクトやプレミアムコンパクトというジャンルは存在してこなかったのです。

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日本人が愛する「小さな高性能」の価値観は世界に通用するのか


少なくとも、AppleはiPhone 12 miniを「小さくて性能と価格を抑えた廉価機種」とはしてきませんでした。安価なiPhoneとしては第2世代iPhone SEを据え、さらにサイズを小さく、重量も軽くしつつ性能は最高を掲げてきたのです。

これこそが、本来あるべきスマホの多様化でしょう。性能や価格でのみカテゴライズするのではなく、同じ性能であることを前提として「使いやすさ」で選択する多様性が必要だったのです。

そしてそのような選択肢を用意できることこそが、大手スマホメーカーとしてのブランド価値になる時代に到達したとも言えます。

みなさんが理想とする「スマホの条件」とは一体何でしょうか。大きなディスプレイを重視する人もいるでしょう。画質にこだわる人もいるでしょう。ゲーム性能を最重要とする人もいるでしょう。価格と性能から最高のコスパを追求する人もいるでしょう。

そういった多様な要求の1つとして、ハイエンドコンパクトやプレミアムコンパクトといったジャンルが世界中で確立されることを願っています。

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スマホの性能が成熟期を迎えて数年。スマホメーカーは新たなステージを迎える






記事執筆:秋吉 健


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