12月18日から正式に始まった中国移動のTD-LTEサービス!

中国最大の移動体通信事業者、中国移動(China Mobile)は2013年12月18日から正式に4Gサービスを開始した。サービスのブランド名は「和/And」、通信方式は時分割方式の「TD-LTE」を採用する。TD-LTEはアメリカや中東などでもサービスが始まっているが、4Gの主方式として全国展開する事業者としては中国移動が世界初となる。

現在世界的に主力のLTEの通信方式は周波数分割方式の「FDD-LTE」で、日本はもとより韓国やアメリカ、そしてアジアやヨーロッパでも多くの国で採用されている。

スマートフォン(スマホ)も今や各社のハイエンド製品はほとんどがFDD-LTEに対応しているのが実情だ。一方、TD-LTEに対応するスマホはTD-LTE互換の「AXGP」に対応した製品が日本で発売されているのが目立っているくらいで、他国ではまだ数機種が発売されているに過ぎない。

今回の連載「山根康宏の“世界のモバイル”」では、このTD-LTEを取り巻く各メーカーの状況についてまとめて紹介していく。

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中国移動向けのHTC One Max。デュアルLTEを含む5モードに対応する

世界最大の携帯電話加入者数、7億6330万人(2013年11月末現在)を有する中国移動はこれから現時点でマイナーな存在のTD-LTEの機種を揃えていかねばならない。しかしながら、TD-LTEだけに対応する製品の開発は中国移動以外に販売量が見込めないため二の足を踏むメーカーとしてもが多いだろう。中国移動としてもせっかく導入したLTEサービスが他国でローミングできず、国内限定サービスとなってしまう。

そこで、中国移動は自社で導入するLTE対応機種をTD-LTEだけではなくFDD-LTEにも対応するデュアルモード製品とすることで、中国だけではなく他の国でも利用できるものを導入する方針だ。メーカー側にもデュアルモードの採用を呼び掛けており、SamsungやLG、HTCなど大手メーカーからも揃って両方式に対応する製品が発表され、つい先日、Appleからも両方式に対応する「iPhone 5s」と「iPhone 5c」が投入されることが発表された。

それに加え、中国移動が採用する3G方式のTD-SCDMAと、世界で主流のW-CDMAにも対応。さらには、2Gの世界標準のGSMも利用可能と、TD-LTE、FDD-LTE、TD-SCDMA、W-CDMA、GSMに対応した「5モード対応スマホ」がこれから続々と販売される予定なのだ。これにより、中国移動が販売するTD-LTEスマホはほぼ全世界でシームレスに利用できる製品となる。

中国移動によると2014年中にTD-LTE対応機種を200機種まで拡大し、販売台数は1億台前後を目標としているとのこと。この数にはUSB接続型データ通信端末やモバイルWi-Fiルーター、自動販売機などへの機器組み込み型デバイス(M2M)も含まれているだろうが、それらを仮に3分の1としてもスマホだけで約7000万台以上売ろうとしている計算だ。米調査会社Strategy Analyticsによると、全世界の2013年通期のスマホ販売台数は2億7500万台に達する見通しだが、中国移動が販売するスマホの数は実にその4分の1にもなろうとしている。

これだけのLTEスマホを用意するために中国移動はグローバルメーカーだけではなく中国のローカルメーカーからも多数の製品を購買する。HuaweiやZTEといったグローバルメーカーに仲間入りした2社はもちろん、LenovoやTCL、Coolpad(Yulong)など世界トップ10入りメーカーも当然のように5モード対応の4Gスマホを中国向けに発表している。さらには、OPPOやVivo(BBK)、Gionee、Tianyu、Haisenseといった国内の大手メーカーもLTE対応機種を発表済みだ。さらには話題の新興メーカー、XiaomiもLTE対応機種を準備しているという。他にも、iPhoneや大手メーカーの端末製造を手掛けるFoxconnが自社ブランドとしてLTE対応機種を投入するほか、中国移動も自社ブランドの製品を販売する予定だ。

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中国メーカー各社からLTEスマホが登場する予定


現在中国では1000元スマホと呼ばれる1000人民元前後の製品が大人気だ。日本円で2万円前後のこれらの製品はすでに安かろう悪かろうではなく、5インチフルHDディスプレイやクアッドコアCPUを搭載するなどグローバルメーカーの上位モデルにも匹敵するスペックを有している。品質や電池の持ちなどはまだ一歩というレベルだが、中国国内の一般消費者にとっては手軽な価格で高スペックの製品を入手できるとあって大きな人気となっている。

これらのリーズナブルな3Gスマホはまだ東南アジアの一部国に輸出されている程度で、中国地場メーカーの国際展開はほとんど進んでいないのが現状だ。製品ラインナップもSamsungなど海外メーカーの後塵を拝しており、直接のライバル製品にはなり得ていない。

だが、中国移動は4G対応の1000元スマホも計画しており、SIMロックのない単体価格で2万円前後というミッドレンジ向けのLTE対応機種が中国メーカーから続々と登場する予定だ。3Gスマホでは国際競争力を持つには至らなかった中国メーカーも、中国移動向け4Gスマホの製造でノウハウを身につけるだろう。世界的にもこれからLTE市場が広がりを見せる中、中国メーカー製の4GスマホはLTE加入者を増やしたい各国の事業者にとっても魅力的な存在になるだろう。すでにCoolpadはヨーロッパの事業者向けにFDD-LTEスマホを投入する予定とされている。

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東南アジアで売られる中国メーカー3Gスマホ。2014年は先進国でもこれらが4Gスマホとして売られるようになるだろう


メーカーの勢力を振り返ってみると、2Gの時代はNokiaやEricsson、Motorolaという老舗3社がシェアを寡占していた。そして、3G時代はそこに韓国勢であるSamsungとLGが入り込み、スマホ時代になるとAppleが一気に頭角を現したのがこの15年ほどの主な動きだ。そして、最近になり中国国内の旺盛なスマホ需要にけん引され、中国国内だけでほぼ全量を売り上げるLenovo、Coolpadが昨年から世界のトップシェア10位入りを果たしている。

2014年は世界的に本格的なLTE普及の時代となるだろうが、中国メーカーは低価格品を中心にLTE対応製品を国内外に広く展開するだろう。その結果LTEスマホ市場では中国メーカーが存在感を一気に高め、先進国でもその製品を多く見かけるようになるだろう。

もちろん、日本や韓国といったハイエンド市場への参入は困難だろうが、世界的なLTEスマホの価格破壊を中国メーカーが引き起こし、結果として日本市場向けのグローバル製品も低価格化が進むという期待が持てそうだ。

記事執筆:山根康宏


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