V2X技術から未来の自動車と交通インフラについて考えてみた!

みなさま、新年明けましておめでとうございます。本年もS-MAXと本コラムを、どうぞよろしくお願い致します。

昨年は通信業界が料金施策を中心に揺れ動いた1年でしたが、いよいよ今年は第5世代高速通信方式「5G」のプレサービスが始まり、昨年末のコラムでも述べたように2020年からの5Gサービス本格始動へ向けた準備段階としての年となります。

5Gの用途はスマートフォン(スマホ)やPCといった、いわゆる通信端末として一般的に認知されているデバイスに限りません。TVやエアコンといった家電品から自動車まで、ありとあらゆる機器や道具が5G端末として機能し始めるのです。

そこで今回の「Arcaic Singularity」は、5G端末として大きな期待が寄せられている自動車とそこで使われる技術、「V2X」ついて解説したいと思います。

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通信大手各社が注力するV2Xって、なんだ?


■「V2X」技術が作る未来の交通安全
みなさんは「V2X」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。本コラムでも昨年2月に自動運転車の話を書いた際、この言葉について僅かに触れたことがありますが、詳細な説明や解説はしませんでした。

V2Xとは「Vehicle to X」の略称であり、「自動車+何か」を組み合わせて運用する通信技術の総称です。この「X」の部分が「Pedestrian」(歩行者)であれば「V2P」となり、「Infrastructure」(インフラ)であれば「V2I」となります。

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ソフトバンクが用意したV2X技術の資料


V2Pの具体例はスマホと自動車の連携です。道路の通行者が持つスマホの情報を自動車が受け取り、緊急回避を促したり歩行者の場所を知らせたりするのに用います。例えばタクシーアプリと自動車の車載通信端末を連携させることでスムーズな配車を可能にしたり、子どもたちが持つスマホや見守り端末からの情報を街のパトロール車へ伝え、安全管理に役立てることができます。

V2Iの具体例は信号機からの情報を自動車へ送るというものです。渋滞情報や渋滞予測にはサーバによる情報の蓄積や分析が必要であり、そういった技術はV2N(Vehicle to Network)と呼ばれますが、事故が交差点で発生した際に信号機から事故情報を発信することで、V2Iでは難しいタイムラグのない渋滞回避などが実現することになります。

またV2V(Vehicle to Vehicle)というものもあります。自動車同士が通信し合い連携を取ることでスムーズな運行を実現するもので、高速道路で適切な車間距離を保ったり、信号機のない交差点での衝突事故を回避する目的などで現在実証実験が進められています。

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ソフトバンクのV2X走行試験。V2V技術によって車両同士が直接通信を行い、先頭車以外は無人での自動運転を行う


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NTTドコモによるV2Nシミュレータ


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高速道路などでの車両の合流情報をサーバーで処理し、高速道路上の車両へ合流車線から退避するよう情報を送ることでスムーズな合流を可能にし渋滞を回避させる


このように、自動車に通信モジュールを搭載し、自動車自体が巨大なモバイル端末として機能することで、都市インフラを構築するだけではなく事故や渋滞を未然に防ぐことが可能となるのです。

現在の、ほぼ全てが人の目と判断力によって動かされている自動車社会ではなかなか想像が難しく、また未知の技術に対する不安や不信感も根強いかもしれませんが、少なくともこれらのV2X技術は完全自動運転車などが一般道路を往来するようになるよりも、遥かに早く実現するだろうと目されているものです。

■注意一秒怪我一生。高速応答性が求められる車載通信技術
では、これらのV2X技術に5Gがどう必要とされ、活用されるのでしょうか。その鍵は5Gが持つ低遅延性(≒高速応答性)と超多接続性にあります。

自動車を運転したことがある人なら、ほんの一瞬目を逸らしただけで危うく事故になるところだった、という経験をしたことがある人は多いでしょう。時速100kmで走行している場合、100m進むのに必要な時間は僅かに3.6秒です。自動車とはそれだけ素早い反応や判断が求められる道具であり、当然ながらそこで必要とされる通信技術も即応性の高さが何よりも重視されます。

5Gの応答速度は理論値で2~3ms(ミリ秒)となっており、実利用においても5~10ms程度、混雑した状況においても20ms以内だと言われています。しかし現在私たちが利用している4G(LTE)回線の応答速度は理論値で20~30ms、実利用では混雑時に100msすらも余裕で超えてしまいます。

とっさの判断が要求される自動車運転において、通信部分での遅延が0.1秒なのか、0.01秒なのかではあまりにも大きな違いがあります。渋滞情報の取得程度であれば4G回線でも十分に可能ですが、危険回避に適していないことは技術面からも理解できるところです。

5Gの多接続性の高さも大量の自動車が行き交う交通網においては大きなメリットとなります。高速道路を走行する多数の自動車へ、瞬時に合流案内や事故回避の情報を送ることができる5Gは、都市インフラとして非常に適した通信方式なのです。

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NTTドコモは時速300kmでの高速走行中の通信実験に成功しただけではなく、時速200kmでの走行中の4K映像配信にも成功してる


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実証実験に使用されたスペシャルチューンのGT-R


■5Gの弱点を克服した先にある自動運転車
これらの特徴のみを読むと、5Gは交通インフラの全てをカバーできてしまいそうな夢の通信方式に感じてしまいますが、欠点も当然ながら存在します。

最も大きな懸案は通信エリアの狭さです。5Gはその高速通信性を確保するために高い周波数帯域を用いており、電波の直進性が高く広いエリアをカバーしづらい上に、距離による通信速度の減衰が大きいという特徴があります。

5Gではこの高周波数帯域の電波が持つ弱点をアンテナ技術などで補っていますが、それでも限界はあり4Gほど広い通信エリアは確保できません。そこで、高速応答性があまり求められず、高速道路以外の一般道でも活用の幅が広いV2IやV2Nなどでは4Gも併用し、高速道路の合流地点や一般道の交差点など、ピンポイントかつ危険回避や渋滞回避が必要な場所でのV2IやV2Pでは5G通信を利用するといった、柔軟でシームレスな通信技術の活用が想定されています。

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NTTドコモによるV2VおよびV2Nの実証実験


そして現実的な問題として横たわっているのが、対応車両をどう増やしていくのかという点です。この回答としてトヨタは関係の深いKDDIと連携しつつ、ソフトバンクともコネクティッドカーなどで提携しており、日産もまたNTTドコモとの連携を深め実証実験を続けています。

地域インフラや交通インフラとしてのV2Xを整備しても、対応する自動車が走っていないのでは商用サービスとしては成り立ちません。しかしそれでも完全自動運転車よりは確実に早く普及する技術でしょう。また完全自動運転車を可能とするためにも、5GによるV2Xは前提技術として必要不可欠なのです。

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KDDIとトヨタによる遠隔監視制御での無人自動運転(レベル4)の実証実験車両


■自動車と通信の未来に期待を寄せて
新たな1年の始まりのコラムとして、そして通信業界の新たな時代の幕開けに期待するコラムとして、今回は自動車の未来をV2X技術から考えてみました。

日本のみならず、自動車は世界を動かす原動力の1つです。20世紀に爆発的に発展・普及した自動車技術は21世紀に入り、通信技術やAI、IoT技術などと並走するようにして新たな時代へと突入しようとしています。

今各社が実証実験を繰り返しているV2Xは、この先10年後や20年後、そして100年後の世界を一変させるほどの技術であると断言しても良いでしょう。私たちは、その「始まりの時代」を生きているのです。

さまざまな期待感ばかりが逸る2019年正月、みなさんは通信技術や自動車の未来に何を想うでしょうか。クルマ好きの筆者は、通信と自動車の進化する先が楽しみでなりません。

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自動運転車実現に向けた技術がいよいよ始動する