さくらのIoT Platformが発表!写真はさくらインターネット 田中邦裕社長

さくらインターネットは9日、モバイルデータ通信モジュールと同社の処理やデータ保存システムを一体的に提供するIoT(Internet of Things)対応プラットホーム「さくらのIoT Platform」( https://iot.sakura.ad.jp/hc/ja )を正式発表した。2016年4月よりα版サービスを提供し、9月のベータ版を経て今年度中に正式サービスを提供する。

同日には発表会が開催され、同社代表取締役社長の田中邦裕氏がサービスの内容や戦略について紹介した。なお、α版サービスについては、2016年3月15日(火)まで申し込みを受付中だ。

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さくらのIoT Platformの特徴は、実売1万円以下をめざす安価で開発が容易な「さくらのIoT通信モジュール」を用意する点だ。

このモジュールに接続した電子機器から送られたデータは、仮想移動体通信事業者(MVNO)のソラコムや接続協議中のソフトバンクのモバイルデータ通信網を通じて、さくらインターネットのサービスに記録される。

利用者はさくらインターネットやパートナー事業者のサービスを使って、送られてきたデータの分析や、電子機器の遠隔操作に利用できる。プッシュ通知にも対応するという。

企業やホビーエンジニアの機器にさくらのIoT通信モジュールを組み込めば、各種データを携帯電話のモバイルデータ通信を経由してさくらインターネットやパートナーサービスでデータを解析できる。

発表会でのパートナー紹介では、アプトポッドによるスポーツカーなどのセンサーのデータ収集、SYMAXと双日によるトイレ後付け型の健康管理システムの実証実験での利用、アパマンショップによる賃貸住宅のロック管理といった用途も紹介された。

AmazonのAWSやIBMのBluemixなどとの接続にも対応。サービスとしてはさくらインターネットとも競合するものだが、さくらのIoT Platformを経由した閉域網で接続でき、接続に高額な費用を請求することもないという。また、MVNO事業者のソラコムとは海外展開でも協調していくとのことだ。


◯さくらのIoT通信モジュールの仕様とサービス内容
さくらのIoT通信モジュールは既存のUART、SPI、I2Cといったシリアル通信に対応し、各種電子機器のほかArduinoなど個人エンジニアにもおなじみのマイコンボードでも利用できる。田中社長によると、jig.jpが提供するBASICで開発可能な1500円の教育用IoTボード「IchigoJam」でも利用できるようにするという。

一般的な利用イメージは以下のようなものだ。各種マイコンにさくらのIoT通信モジュールを取り付けてデータを送ると、モバイルネットワークを経由してさくらインターネットに届く。クライアントはさくらインターネットが提供するAPIでデータを活用する。

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IchigoJamのような教育用マイコンのほか、mbedやArduino、Rasberry Pi(Linux)もサポートする

気になるデータ通信と金額の部分だが、データ通信に関してはRMと呼ぶメッセージ単位で必要なデータ分だけ課金する形をとる。1メッセージあたり8byte×16chという、電子機器の操作やセンサーの計測データの送信など非常に小さい単位のデータをやりとりに特化したものだ。

さらに、田中邦裕社長によると通信モジュールは1万円以下を目指しているが、これに100万メッセージの無償利用分をつけたいという。これは1分に1メッセージなら2年ほど送り続けられる量だ。

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メッセージ通信量のほか、データの蓄積やデータを活用したAPIの利用は有償となる。ただし、IoT機器で取得したデータを他者に公開、販売することで利用料の還元を受けられる仕組みも検討しているとのこと

IoT通信モジュールから送られたデータは、同社のデータプールに1メッセージ何千分の1円で記録され、利用者は過去のデータも含めて活用できる。だが、IoT通信モジュールの利用者が外部に公開しても良いと判断したデータについては、無償で記録できる形を検討しているという。

さらに、公開したデータに対してほかのユーザーが検索や分析などのAPIを多く利用した場合は、利用料の一部をデータの公開者に還元する仕組みも検討しているとのことだ。

正式サービスに向けた量産モデルの製造と設計は、小型のPHSなどで知られるエイビットが手がける。価格は1万円以下をめざすが、プラットフォーム事業部の江草陽太氏によると可能ならより安い価格での製造を目指しており、量産モデルは小型化よりも製造コストの安さを重視して設計を進めているという。

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α版サービスに向けたCerevo(セレボ)の試作モジュール。サイズは約5cm×5cmで、既存の組み込み用データ通信モジュールを載せたものとなっている。製品版の製造、開発はエイビット(ABiT)が手がけている

通信方式は送受信するデータが極めて小さく3Gで十分なので、LTEに対応するかは消費電力や製造コストを見て検討しているとのことだ。対応するモバイル回線については、接続先がさくらのIoT Platformに限定された端末なので、ソラコムや現在交渉中のソフトバンクのSIMカードのみ利用できるものになるという。

展示されたα版サービスに向けた試作モジュールはCerevoが製造を手がけており、モバイルデータ通信のモジュールにはキャセイ・トライティックのLTE汎用モジュール「SIM7100JE」が搭載されていた。microSDカードスロットも実装されているが、量産モデルではなくなる見込みだ。

さくらのIoT Platformで魅力的なのは、モバイルネットワーク対応ハードウェアの開発で問題となる機器の価格や制御の複雑といった壁を、ホビーエンジニアが気軽に開発できるレベルにまで押し下げた点だ。

さらに、IoT機器で得られたデータの活用や販売もサポートすることで、投資コストの回収はもちろん、機器設置までは手がけないユーザーもAPIやデータを通じてIoTを活用しやすい仕組みは画期的といえる。

正式サービス開始後には、法人によるサービスや機器開発はもちろん、学術からホビーエンジニアまでモバイルデータ通信を活用した様々なアイデアの機器やデータを活用したサービスの提供が期待できそうだ。

記事執筆:sureare(島 徹)


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さくらインターネット、「さくらのIoT Platform」を2016年度中に提供