さまざまな通信関連技術とその活用実証が行われていた情報通信研究機構ブースを紹介! |
東京ビッグサイトにて5月24日から5月26日までの3日間、ネットワークやモバイルインフラ、IoTビジネスなどの無線・モバイルに関連する技術や製品およびサービスに関する展示商談会「ワイヤレスジャパン2017」が開催されました。
ワイヤレスジャパンでは「ワイヤレスIoT EXPO2017」および「ワイヤレス・テクノロジー・パーク2017」、「運輸・交通システムエキスポ2017」、「ドローンソリューション&技術展2017」が併催され、各企業が自社のサービスや製品を発表し商談を行うほかにも、大学や研究機関などが通信技術に関する実証実験や研究成果の発表を行っていました。
ワイヤレス・テクノロジー・パーク2017における国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT)のブースでもまた最先端の通信技術を用いた実証実験などを発表・展示しており、今回はその研究成果の中からBLE(Bluetooth Low Energy)やWi-SUNを用いたIoTソリューション活用の例をご紹介します。
■BLEやWi-FiとLTEの隙間を埋める日本発の通信規格「Wi-SUN」
今回紹介する実証研究では、BLEとともにWi-SUNと呼ばれる通信規格が用いられています。一般にはまだ聞き慣れない規格ですが、Wi-SUNはNICT主導で開発された日本発の世界標準無線通信規格で、すでに東京電力の電力メーターなどへの採用が決定しています。
特徴は数百mから1km程度とWi-FIよりも広い範囲をカバーできる通信性と、乾電池1本で10年駆動するとアピールされるほどの超低消費電力です。
その名前からWi-Fiとの関連性や規格の共通性などが想像されますが、実際はあまり関係のない規格となっており、通信距離が長い代わりに通信速度は消費電力を削減するため意図的に抑えられており、50kbpsから400kbps程度となっています。
このような「低速・低消費電力」の通信規格を日本主導で策定した背景には、LTE通信網などを用いずに都市部で効率的なメッシュネットワークを低コストに構築する狙いがあります。ランニングコストの低い通信規格としてはWi-Fiがありますが、Wi-Fiでは見通しの良い場所でも100m前後が限界で、広域をカバーするには多数の基地局を配置する必要があります。
またWi-Fiは通信速度が高い反面消費電力が大きめであることからバッテリー型のIoT機器への利用ではバッテリーコストや維持管理コストが大きくなる傾向があり、こちらも広域で利用するには問題点が多くあります。
そこでNICTが新たに策定したのがWi-SUNというわけです。
■自動販売機をスポットとした見守りサービスの実証実験
NISTはこのWi-SUNを活用する実証実験として、自動販売機をスポットとした地域の見守りサービスやタクシーの運行管理支援サービスなどを提案しています。
東京23区内などの過密都市部には数多くの自動販売機が設置されており、その運用のために必ず電源があります。そこでその電源を借りてWi-SUNやBLEなどを統合した無線ルータを設置し、広域のメッシュネットワークを構築します(無線ルータから先の通信にはWi-FIやLTE回線を用います)。
そこに各通信規格を搭載したビーコン端末が近づくと通信が発生し、今どこの無線ルータにどれだけのビーコン端末を所有している人が集まっているのかが分かります。
位置情報を利用する方法として最も一般的なのはGPSを用いる方法ですが、この実証実験ではGPSを使っていません。その代わりとなるのが2つの通信方式です。Wi-SUNの電波は比較的遠くまで飛び端末の大まかな位置を取り、ビーコン所持者が無線ルータの設置された自動販売機に近づくと有効10m前後という短距離通信規格であるBLEがセンサーとして働き位置を知らせるという仕組みです。
この広域での把握と近距離での感知が今回の実証実験の核となるもので、個人を特定することなく地域の安全や安心を確保するという、プライバシーにも配慮した見守りサービスを実現しているのです。
展示されていたビーコン端末は自動送信タイプとプッシュ送信タイプの2種類があり、説明員によれば認知症の方の徘徊などを防止する目的の場合は自動送信タイプを、子供の安全を確保する目的の場合はプッシュ送信タイプを用いるなど、用途に応じた使い分けを想定しているとのことでした。
■一歩踏み込んだ「タクシーの効率の良い集客」の提案なども
非営利の地域サービス以外にビジネス的な利用方法の提案を積極的に行っているのもNICTの面白いところです。BLE/Wi-SUNビーコン端末の場合、その位置情報を使ってタクシーの効率的な集客を提案しています。
例えばあるイベント会場にビーコンを持った人が集まっていた場合、その「大まかな情報」が街を走っているタクシーへ送られます。タクシーはその情報を元に地域を走ることで効率よく乗客を獲得できるという仕組みです。また位置情報は闇雲にタクシーへ送られるのではなく、人が集まっていると思われるスポットへ近づいている車両に選択的に送られることで効率化を図っています。
現在は送られてきた位置情報をそのまま分析するモデルで実証実験が進められていますが、将来的にはAIを用いて利用者の行動予測なども行いさらなるブラッシュアップを図りたいとのことです。
現在この実証実験は墨田区やアサヒ飲料の協力を得て墨田区内で行われていますが、今後の採用などについては全て未定とのこと。2020年の東京オリンピックでの活用などについてもまだ分からないとのことで、Wi-SUN規格とともにこれから本格的な運用への道を探る段階のようです。
記事執筆:あるかでぃあ
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