公正取引委員会の報告内容について考えてみた! |
先週末、筆者が通信キャリアの災害対策についてのコラムを書き上げた頃にそのニュースは飛び込んできました。もはやここでその当時の報道の詳細を書くのも野暮かもしれませんが、テレビやニュースサイトの報道はひたすらに「4年縛り」が独占禁止法に抵触しているのではないか、という内容をピックアップするものでした。
あらかじめ解説すると、いわゆる「4年縛り」とはau(KDDI)やソフトバンクなどが行っている残価設定型ローンによるスマートフォン(スマホ)の割賦販売プランのことです。4年間の割賦を組み2年後から端末を下取りに出すという契約で月々の支払料金を低く抑えるというものですが、問題はその下取り(機種変更)の際に同プラン以外を選んだ場合、割賦残債を全て支払う必要があることから消費者が同プランを選択せざるを得ない状況が生まれやすく消費者の流動性を大きく阻害している、という点が問題とされたものです。
しかしこの残価設定型ローン自体は自動車業界などでも既に導入されて久しい販売方式でもあり、この販売方式のみに限って言えばそこまで大きく報道されるべき内容とは思えません。通信契約と端末販売をセットにした、いわゆる「抱き合わせ販売」の問題も含まれているものの、筆者としてもその点が気になり調査をしていましたが、28日に公正取引委員会が正式に調査結果を公開したことで多くの疑問が解決したように思われます。
感性の原点からテクノロジーの特異点を俯瞰する「Arcaic Singularity」。今回は通信キャリアが公正取引委員会より独占禁止法に抵触する恐れがあると報告された一連の問題について考えてみたいと思います。
■公正取引委員会による見解
はじめに公正取引委員会が公開した調査結果について解説します。同委員会では2016年にも「(平成28年8月2日)携帯電話市場における競争政策上の課題について(概要)」という内容で移動体通信事業者(MNO)による市場の寡占状態と消費者流動性への阻害について調査結果を公開しています。
この際の焦点は主に通信契約と端末販売をセットにした「抱き合わせ販売」の是正や割賦契約前提による「2年縛り」の常態化、「SIMロック販売」が引き起こす消費者の流動性の阻害、そして販売端末へのアプリのプリインストールによるアプリ市場の正当な競争の阻害などでした。
これらの調査結果の公開にもかかわらずMNO各社では抜本的な販売方式の修正などが実施されず、SIMロック解除などの条件の一部緩和やプリインストールアプリの明示化などへ対応したに留まり、それら以外の内容への指摘については事実上ほぼ無視された結果のまま2年が過ぎたことになります。
そして今回の調査報告の内容です。「(平成30年6月28日)携帯電話市場の競争政策上の課題について(平成30年度調査)」と題された調査報告の概要によれば、前回の報告において指摘されていた抱き合わせ販売や2年縛り、SIMロック販売などが再度問題点として提起された上で、さらに残価設定型割賦販売方式を組み合わせたいわゆる「4年縛り」やそれに伴う下取り端末の中古市場への流通の制限による拘束条件付取引および取引妨害等への指摘、またこれらの縛り契約によるスイッチングコストの高騰など、2016年の報告よりもさらに深く強い「警告」とも呼べる報告内容となっています。
今回の報告では仮想移動体通信事業者(MVNO)サービスへの競争阻害が起こらないことを目的とした報告も追加されており、MNO接続料金の監視および周波数割当時に接続料金の適正性が考慮される点やMNO接続料金の透明性の確保など、その業態が公正であるかどうかに主な焦点が当てられています。
冒頭の話に戻りますが、つまり当初報道されていた「4年縛り」問題や残価設定型の割賦販売形式のみが問題視されたわけではなく、むしろ過去の問題点が改善されていないところへ新たな問題が複数付加され、より強い指摘と今後の業界監視を強化せざるを得ない状況となった、というのがより正確な状況のようです。
■法律の限界と業界の闇
しかし、これだけの問題を指摘されながらもMNO各社はこの状況の是正には消極的というか、我関せずといった雰囲気すらあります。
一般消費者の視点からすれば「なんて横暴なんだ」と憤慨しかねないところですが、実際のところ今回公正取引委員会が公開した内容は「問題点の指摘と報告」に留まっており、独占禁止法違反であると断言したわけでも、ましてやハッキリと「警告」を示したわけでもありません。飽くまでも「現状のままでは独占禁止法に抵触する恐れがある」と述べたまでなのです。
そこが業界の闇であり問題を複雑にしている点です。MNO各社は公明正大で至極健全な企業運営をしているように振る舞いますが、実際は上記のような問題点が山積みです。事を重篤化させているのは通信事業というものが現代の社会にとって最重要とも言えるインフラである点です。
通信事業は十分な安定性を持って続けてもらわなければいけない、しかし健全性が担保されず不正が横行するようでは困る。という背反した状況が、法の監視役たる公正取引委員会にこのような一見煮え切らない姿勢を取らざるを得ない状況を作っているのです。
■MNO各社の企業倫理に望みをかけて
とは言え今回の報告は内容の具体性や独占禁止法との照会による指摘が詳細化しており、MNO各社もさすがに指摘を見て見ぬふりはできないのではないでしょうか。特に4年縛りの問題は2年縛りよりも消費者への拘束力がより強まった点がクリティカルであり、2年前よりも状況を悪化させているという点で行政側の心象は最悪です。
公正取引委員会はこれらのMNO各社の施策状況を総括する言葉として「スイッチングコスト」の上昇を挙げ、「スイッチングコストを高めることにより利用者を不当に囲い込む行為に対しては独占禁止法を厳正に執行していくことにより,MVNOの競争環境の整備,更にはMNO間の競争促進をも図っていく」と強い口調で締めています。
市場が飽和することで顧客流動性が固着化し競争を勝ち残った企業による寡占とそれに起因する搾取体制の横行が始まるのはどのような業界であってもあまり変わりはありませんが、こと通信インフラという社会の生命線とも言える業界でそれが起こってしまうことの危険性は大きな問題です。
土木・建設業界に目を移せば大手ゼネコンによる談合や不正契約が度々報道されていますが、通信業界までそのような談合体質や企業倫理の崩壊した消費者不在の施策が横行することは、業界をその片隅から眺める身として以上に、通信端末の一利用者としてもなんとしても避けて頂きたいところです。
記事執筆:秋吉 健
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いろいろ思うところがあるところ…