スマホのディスプレイのリフレッシュレートについて考えてみた!

みなさんはスマートフォン(スマホ)の購入を検討する際、何を重視するでしょうか。価格、処理性能、バッテリー持続時間、画面の大きさ。その基準は人ぞれぞれだと思います。しかし、あえてそこで「画面のリフレッシュレート」と答える人はあまり多くないと思います。そもそも「リフレッシュレートって何?」という人も少なくないでしょう。

実はここ1~2年の間に、スマホの世界では「高リフレッシュレート・ディスプレイ」というのが密かなトレンドとなりつつあります。リフレッシュレートとは、簡単に言えば「画面の書き換え性能」のことです。スマホの画面は一般的に、1秒間に60回書き換えられていますが、これをさらに速い120回/秒や、もっと速い240回/秒で書き換えるスマホも登場してきています。

なぜそのような「画面の高速書き換え」がトレンド化しているのでしょうか。またユーザーである私たちにはどのような恩恵があるのでしょうか。感性の原点からテクノロジーの特異点を俯瞰する連載コラム「Arcaic Singularity」。今回はスマホの高リフレッシュレート・ディスプレイのトレンドについて解説します。

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画面の高速書き換えが私たちのスマホ体験を一変させる?


■ディスプレイに動画が表示される仕組み
まずはじめに、ディスプレイになぜ書き換えが必要なのかを考えてみます。当たり前のような話ですが、意外とその理由を真剣に考える人は少ないでしょう。

世の中の映像コンテンツは、全て「静止画を1枚1枚書き換える」ことで動画として記録されています。例えば古い映画であれば1秒間に24回、少し古い動画であれば1秒間に30回、一般的な動画であれば1秒間に60回、といった感じです。この映像の書き換え回数は「fps」(フレーム・パー・セカンド。1秒間に何フレームあるのかを示す単位)で表されます。

しかし、再生する映像だけがそのように記録されていても意味がありません。ディスプレイ自体に画面を書き換える性能(リフレッシュレート)がなければ、表示されるのは最初の1フレームだけの静止画になってしまいます。そこで、動画を動画として見られるように、画面も1秒間に何回も書き換えます。これは周波数(Hz)で表され、1秒間に30回なら30Hz、1秒間に60回なら60Hzなどと表されます。

これは動画に限りません。ゲームを遊べるのも、SNSでタイムラインをスクロールさせられるのも、画面が1秒間に何十回も書き換えられているからです。

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スマホに限らず、全てのディスプレイは画面が書き換えられているからこそ動きのある映像を表示できている


■液晶ディスプレイの歴史は「残像」との戦いの歴史だった
ディスプレイのリフレッシュレートが高くなるにつれて問題となってくるのが「残像」です。スマホやテレビ、PC用モニターなどは液晶ディスプレイが主流ですが、この液晶方式は残像が多く残る技術としても有名です。残像は画面の書き換えの際に発生します。

例えば黒から白へ書き換える際、まったく遅延なく一瞬で書き換えられれば文句ありませんが、現実はなかなかそうはいきません。液晶方式の場合、数ミリ~十数ミリ秒という単位ですが、色が変化し終わるまでに時間がかかるのです。この書き換えにかかる時間のことを「応答速度」などと呼びますが、液晶は原理的に「応答速度の遅い」技術なのです。

応答速度が遅いと、映像が滲むようにぼやけて見えることになります。横方向に等速で動いている物体を撮影した映像などで、物体がブレて見えたり色が混じって見えてしまう原因の多くが、この残像にあります。

メーカー各社はこの残像をいかに低減していくのかに注力してきました。液晶ディスプレイの歴史は、残像との戦い(応答速度向上)の歴史でもあったのです。しかし液晶技術をどれだけ改良しても、どうしても残像が数ミリ秒残ってしまいました。

そこで各社はリフレッシュレートをさらに向上させ、120Hzや240Hzとすることで、残像を消す(応答速度をさらに上げる)のではなく、「画面を書き換える回数を増やして滑らかさを上げる」方向で“誤魔化す”手法を編み出しました。

これは動画ではあまり意味がありませんが(動画のフレームレートが上がるわけではないから)、ウェブサイトやSNSをスクロール表示させるときには大きな力を発揮します。単純にコマ数が増えるため、残像は残っていてもコマ送り感が少なく、滑らかで読みやすい「残像感の少ない」映像になるのです。

余談になりますが、液晶テレビの場合、動画コンテンツが主体であるためにリフレッシュレートを上げただけでは残像感を払拭できません。そこでフレーム補完処理によって動画の中間フレームを生成し、擬似的に動画のフレームレートを上げて残像感を軽減するという強引な手法も発明されました。

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シャープ製「AQUOS R3」。120Hzの高リフレッシュレート駆動が売りの液晶ディスプレイを搭載


■残像のない美しいディスプレイ技術、それがOLED
しかしここで、残像に対する1つの大きなブレイクスルーが訪れます。それがOLEDです。OLEDは応答速度が圧倒的に速いことで知られており、理論上では液晶の1000倍近い応答速度を持ちます。実際はディスプレイコントローラの性能などから0.1ミリ秒程度の応答速度になりますが、それでも一般的な液晶ディスプレイと比較して50倍から100倍ほどの応答速度を実現しています。

そもそも残像がほとんど出ない技術であるため、リフレッシュレートを上げれば上げるほど滑らかでクッキリとした映像を表示できるようになりました。そして、この性能が最大限に生かされるコンテンツこそが「ゲーム」だったのです。動画は60fpsなどが主流でそれ以上のリフレッシュレートが無駄になりますが、ゲームは仕様と処理性能さえ許されるならば、いくらでもフレームレートを上げることができます。

より滑らかで、より美しい映像を表現する。それは映像クオリティを追求し続ける現在のゲームの至上命題でもあります。また仮にゲームが60fpsのままであってもOLEDディスプレイは残像が圧倒的に少ないため、レースゲームのように高速移動をし続けるゲームや、1フレームの見切りが勝敗を分かつ対戦格闘ゲームでは大きな威力を発揮します。

つまり、ゲームとOLED、そして高リフレッシュレートという組み合わせは、デバイスやコンテンツとして完璧な組み合わせだったのです。そのため「ゲーミングスマホ」を標榜する端末ブランドでは、次々と「OLED+高リフレッシュレート」という組み合わせのディスプレイが登場することとなったのです。

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AQUOS zero2ではOLEDで240Hzという超高速駆動を行い、さらに本来の映像のフレーム間に黒のフレームを挟み込むことで、よりメリハリの効いた映像表現を実現した(つまり映像の実質フレームレートは120fpsになる)


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Google製「Pixel 4」。ゲーミングスマホではないが90Hz駆動のOLEDディスプレイを搭載し、画面スクロール時のテキストの読みやすさなどを追求した


■弱点はコストと消費電力
このように書くと無敵の技術のように思われる高リフレッシュレートのOLEDですが、実は弱点もいくつかあります。それは価格(コスト)と消費電力です。

ディスプレイ素材としてOLEDを搭載したスマホも珍しくなくなってきたとは言え、まだまだ液晶が持つ圧倒的な低コストには勝てません。そのためOLEDを搭載したスマホは高級機種に限定されることが多く、さらにゲーミングスマホの場合はSoCの性能やメモリー容量でも妥協できないことから、かなりの高額端末となってしまいます。

とは言え、最近では中国メーカーを中心に低~中価格帯のスマホにもOLEDが搭載されるようになり、コスト的なデメリットは量産効果によって徐々に小さくなりつつあります。

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Google製「Pixel 3a」。実売5万円以下のスマホだがOLEDを搭載し、基本性能も十分でコストパフォーマンスの良さが大きな話題となった


もう1つの問題、消費電力はなかなか厄介です。

ディスプレイの書き換えには電力を消費するため、その書き換え回数を増やすほど消費電力もリニアに増えていきます。そのため、120Hz駆動を謳うゲーミングスマホであっても常にそのリフレッシュレートで駆動しているわけではなく、ゲームなど特定のアプリの動作時のみ高速駆動させ、通常は60Hzで駆動している場合がほとんどです。

またシャープのAQUOSシリーズのように、消費電力を抑える目的でさらに一歩進んだ大胆なリフレッシュレート制御をしているスマホもあります。例えばロック画面やホーム画面では1~10Hzと極端に少ない書き換え回数にすることで消費電力を落とし、ゲームアプリ利用時には240Hzで駆動させる、といった感じです。

スマホのようなバッテリー駆動デバイスでは、消費電力をどれだけ抑えるのかが最重要課題です。そのためにテクノロジーメーカーは何十年も省電力技術を研究・開発してきたわけで、高リフレッシュレート駆動というのは、それだけで相反する技術なのです。

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これまでIGZO液晶などで省電力ディスプレイ技術をアピールしてきたシャープが、スマホのゲーミング性能を大々的に宣伝しているというのも不思議な感覚だ


しかし、それでも各社がスマホへの搭載を諦めずトレンドへと発展させてきたのは、純粋にスマホゲームによるeスポーツ文化が世界的に花開きつつある、という証拠でもあります。eスポーツの盛り上がりやスマホゲームの高度化もまた、高リフレッシュレートなOLEDディスプレイのトレンドを後押ししたのです。

例えば消費電力をあまり気にする必要のないPCゲームの世界では、かなり以前から高リフレッシュレートのディスプレイが主流となっていました。その流れの中で、スマホゲームでも高リフレッシュレートの滑らかなゲーム体験をしたい、というゲーマーの要望が根強くあったことは想像に難くありません。

とは言えスマホはモバイル端末です。高リフレッシュレート・ディスプレイを必要としている層はニッチであり、大容量バッテリーを搭載できる大型の機種に限られている現状では、広く一般に普及する技術とは言えないかもしれません。少なくとも、映像ソースの標準的なフレームレートが120fpsになるなど、コンテンツ側のトレンドに変化がない限りは難しいでしょう。

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Apple製「iPhone 11 Pro」のカメラ設定。通常の撮影モードのフレームレート上限が60fpsである以上、120Hzや240Hzといった高リフレッシュレート・ディスプレイは基本的にオーバースペックとなってしまうため採用されていない


■動画&ゲーム全盛時代のスマホ選択基準
筆者はコアなPCゲーマーでもあり、自宅のデスクトップPCでは165Hz対応のゲーミングモニターを使用しています。そこで様々な設定を試したところ、筆者の目では120Hzまではゲーム画面の滑らかさがリニアに変わっていくのを感じられました(144Hzや165Hzでは120Hzとの違いをあまり感じられなかった)。

こういった映像の描画品質への感受性や体感は個人差が大きく、またディスプレイの品質や素材、本体性能、さらにはコンテンツによっても大きく異なってきます。

例えば筆者のPC用ゲーミングモニターは液晶であるため、残像感そのものはどれだけリフレッシュレートを上げても劇的には変化がなく、変わってくるのはコマ送り感の軽減でした(リフレッシュレートを上げるほどに滑らかになっていく)。

むしろ「映像と映像のコマ(フレーム)の間に黒を挿入して残像を消す」(※)という手法のほうが、残像感に対しては劇的な改善を感じられます。つまり、高リフレッシュレートと黒挿入の両方を同時に行うAQUOS zero2は、技術的にも原理的にも非常に理に適った正しいアプローチを行っていると言えます。

※この技術は一般的に「モーションブラー・リダクション」(残像補正)などと呼ばれる

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映像を徹底的になめらかに、そして残像感なく表示するため、最新技術を惜しみなく投入している


ディスプレイの品質というと、一般的には色の再現性や解像度の高さばかりに目が行きがちです。しかし、かつてのフィーチャーフォン時代ならまだしも、現在のスマホは静止画を見ることよりも、動画を観たりゲームを遊んだりする目的で選ばれることが多いのではないでしょうか。

ゲームを遊ぶならどんなディスプレイが向いているのか、また動画を楽しむならどのようなディスプレイのスマホが良いのか。ウェブサイトやSNSでテキストを読み流すだけでも、残像感の違いは快適性に大きく関わってきます。

みなさんも次にスマホを買い換える際は、ぜひディスプレイ品質についても気にしてみてください。あなたの用途にぴったりのディスプレイを持つスマホが見つかるかもしれません。

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残像が少なく滑らかな表示品質を一度知ったら、もうやめられない


記事執筆:秋吉 健


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