フォートナイトのリジェクト問題について考えてみた!

みなさんはフォートナイトを遊んだことがあるでしょうか。全世界で3億5000万以上もアカウントがあるとされる、最大100人のプレイヤーが戦うバトルロイヤル方式のTPS(サードパーソン・シューティング)ゲームです。

その大人気ゲームが、8月14日にAppleのApp StoreやGoogleのGoogle Playといったモバイルプラットフォームからリジェクト(配信停止)されました。リジェクトの適用期間は不明ですが、その理由はガイドライン違反とのことです。フォートナイトは何を違反し、今後どうなるのでしょうか。

感性の原点からテクノロジーの特異点を俯瞰する連載コラム「Arcaic Singularity」。今回はフォートナイトのリジェクト問題から、モバイルプラットフォーマーのマーケットガイドラインの原点について考察します。

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アプリのリジェクト問題の裏に潜む重要な課題を読み解く


■課金システムをめぐる「縄張り争い」
まずは問題の経緯や現状について整理します。

事の発端と思われるのは、フォートナイトを運営するEpic Gamesが独自のゲーム内課金システム「EPICディレクトペイメント」を8月13日より開始したことです。

フォートナイトではゲーム内で利用するアイテムなどを購入できるゲーム内課金が採用されていますが、この課金システムをEPICディレクトペイメントに切り替えることで、App StoreやGoogle Playよりも最大20%安くアイテムを販売できるとして導入したものです。

安く販売できるカラクリは単純で、AppleやGoogleがアプリ配信マーケット(プラットフォーム)の利用料として徴収している費用(運営費やロイヤリティーなど)が掛からなくなるからですが、当然ながらプラットフォーマーがそれを良しとするはずもなく、今回のリジェクトへと発展しました。

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Epic Gamesの施策はプラットフォーマーの逆鱗に触れてしまった


そもそも、Epic Gamesと各プラットフォーマーとの確執は今に始まったことではありません。同社は以前より、App StoreやGoogle Playに限らずSteamなどでも利益分配率が高いとして独自のプラットフォーム「EPIC GAMES STORE」を利用したゲーム販売などを行っており、今回もその延長線上の戦略として行われたものです。

そのため、Epic Gamesとしても今回のリジェクトは想定内だったと思われ、リジェクトが行われた即日で、フォートナイト内にあるフォーラム「Fortnite Party Royale」にAppleのコンテンツ施策を批判する動画を投稿し、「Appleは市場における優越的な地位を不当に利用している」との声明とともに、Appleへ法的措置を取ることを発表しています。

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今度は現実世界でバトルロイヤル?


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Appleを揶揄するEpic Gamesの動画より


■フォートナイトがリジェクトされた真の理由
ここまでを読むと、すべては高い収益分配率を課すプラットフォーム側に非があり、低い分配率によってより安価にユーザーへ商品を提供しようとするEpic Gamesに正義があるように感じられますが、現実の問題はそれほど簡単ではありません。

各プラットフォーマーがフォートナイトをリジェクトした理由は、Epic Gamesがガイドライン違反をしたからというのが直接の理由ですが、そのガイドラインが設けられている「最大の理由」が重要なのです。

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各プラットフォームのガイドラインは何のためにあるのか


App StoreやGoogle Playといったマーケットプラットフォームだけでなく、iOSやAndroid、そして端末内のセキュリティーチップも含め、端末を構成するソフトウェアやハードウェアはすべてメーカーおよびプラットフォーマーによって適切かつ厳重に管理されているからこそ、個人情報は守られて私たちは安全にそれを利用することができます。

しかし、それらの端末でメーカーやプラットフォーマーの管理できない領域を利用された場合、そこでセキュリティーリスク起きた際に何の保証もできなくなります。

当然ながらそういった「保証外のリスク」はすべてユーザーの自己責任となりますが、しかしそれを自己責任として納得して利用するユーザーばかりではありません。保証外の利用による故障や情報漏えいの保証をしろと言ってくるユーザーは必ずいます。

プラットフォーマーがそれを無視することは簡単でしょう。しかしそれは社会倫理的にもプラットフォーマーとしての責任としても「取ってはならない行為・行動」とされるのが一般的です。

そのため、プラットフォーマーは努めてユーザー保護を最優先とし、どんなことがあろうとその原則を守ります。プラットフォームのガイドラインとはその大前提に基づいて作られるものであるからこそ、それを利用するデベロッパーやベンダーにもその遵守を厳格に求めるのです。

また、そういった管理外のシステムを簡単に利用できてしまうプラットフォームであるという時点でセキュリティ的な信用が失われます。つまりプラットフォーマーとしては仮にどんなに安全で信頼性の高い外部プラットフォームであっても、それを利用することを安易に認めてはいけないのです。

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赤枠内の文言がプラットフォーム運営における最重要事項であり、すべてである


プラットフォーム運営に関する理念や方針は、AppleでもGoogleでも基本的に変わりません。

Googleは2019年12月にGoogle Playのアプリを表彰する「Google Play Best Of 2019」を開催しましたが、その開催に先駆けてセキュリティーポリシーについての記者説明会を行っています。

その詳細については当時本連載にて紹介していますので、以下のリンク先をご参照ください。

【過去記事】秋吉 健のArcaic Singularity:そのアプリ、本当に安全ですか?Googleの取り組みやユーザー自身が気をつけるべきポイントからスマホアプリのセキュリティーを考える【コラム】

Googleは、プラットフォーマーとしてのユーザー保護で最も重要なポイントとして、

●プロテクション
 悪意のあるアプリや不正広告の監視、アプリを製作するデベロッパー側との安全への高い意識の共有

●ポリシー
 ユーザーが安心してアプリを利用できる環境のためにポリシーを頻繁に変更・更新

●レビュープロセス
 悪意あるアプリの公開や再公開の防止を最優先とするチェック体制

これら3つを挙げています。これらの努力によって「潜在的な脅威」を有するアプリは全体の約0.08%にまで抑えられ、比較的安全なマーケットが保たれていますが、それでも悪意あるアプリの公開や再申請は絶えず、常にいたちごっこの状態です。

Google Playのマーケット内だけでもその状況であるのに、それが管理の届かない外部アプリや外部プラットフォームを利用された場合、どうなるのかなど火を見るより明らかです。

重要なのは「各プラットフォーマーが利益を優先した結果としてアプリをリジェクトしたわけではない」ということです。あくまでも「ユーザーの安全を守るという最優先課題に対し、Epic Gamesが取った行動が大きく逸脱していたからユーザーを守るためにリジェクトした」というのがより正しい解釈でしょう。

それは何億ものユーザーが利用する超人気アプリであろうと、まったく無名の怪しげなアプリであろうと同じことです。プラットフォーマーとして公平で透明性の高い判断をしただけなのです。

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ユーザーが何も考えずに安心してアプリを利用できるのは、プラットフォーマーによる厳格なガイドラインがあればこそだ


■論点を間違えてはならない
前述したように、今回のリジェクト措置が今後いつまで継続されるのかは非常に不透明です。恐らくゲーム内課金システムなどをプラットフォーム内のシステムを利用するこれまでの方法へと戻さない限り再公開はあり得ないと筆者は考えますが、ユーザーからの反発の声は非常に大きくなるでしょう。

プラットフォーマーのガイドラインなど知る由もないユーザーから「AppleやGoogleは守銭奴だ」、「お金が入ってこなくなるから捨てたんだ」と批難されるであろうことは容易に想像できます。しかし、それによってリスクを追うのはユーザー自身です。

Epic Gamesの行動にも問題は多くあります。収益分配率が高いことを争点としたいのであれば、デベロッパーによる集団交渉なり業界団体を通した話し合いなりの方策もあったはずです。

事実、Epic Gamesは独自プラットフォームや課金システムについての話題では常に自社の収益分配率の低さを謳い文句としており、ユーザーのセキュリティリスクといった最重要問題をはぐらかすかのように喧伝し続けています。

こういった論点の挿げ替えに近いアピール行為もまた、プラットフォーマーとしては厄介かつ迷惑なやり方です。論点がずれたままで話し合いにならないからこそリジェクトするしかなかったとも取れます。

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プラットフォーマーにとって最も重要なものは「信頼」である。それはユーザーに対してもデベロッパーに対しても同じ


第三者としての視点から見ると、今回の件で最も「お金に執着している」のはプラットフォーマーではなく、むしろEpic Gamesであるように思えます。

プラットフォーマーにしてみれば、外部の課金システムを導入された時点でリジェクトしようがしまいが利益はなく、そのままアプリを公開し続けることはリスクしか生みません。

一方、Epic Gamesは「ユーザーのために」とは言うものの、これまでの課金システムで利益は十分に出していたわけで、セキュリティリスクやガイドライン違反を犯してまで独自システムに移行する理由を見つけられません。

単に自社でプラットフォーム事業を行い、より収益を上げたいだけではないのか、と思えるのです。

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Epic Gamesは自社が運営する「EPIC GAMES STORE」の利益分配率の低さをアピールする


それならば尚のこと、AppleやGoogleがアプリを自社プラットフォームに置いておく理由もなくなります。Epic Gamesがプラットフォーム事業を行うのであれば、そちらでアプリの管理とユーザー保護および保証のすべてを行ってください、というのが筋です。

アプリの販売(公開)では別のプラットフォームを利用しておきながら、その後の利益はすべて自社がいただく、という手法自体がビジネスポリシーに反します。

現実世界のルールは、ゲームの中ほど簡単ではありません。時にはライバルとなり、時にはパートナーともなる企業同士だからこそ、フォートナイトのように「最後に生き残った1人(1チーム)が勝利」とはいかないのです。

企業には企業なりのルールがあり、そのルールは常にユーザーを中心に考えられなければなりません。Epic Gamesにその姿勢があるのかは、今後の動向次第でしょう。

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その争いは、果たしてユーザーのためになっているのか


記事執筆:秋吉 健


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