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カジュアルゲームについて考えてみた! |
みなさんは「カジュアルゲーム」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。スマートフォン(スマホ)など向けのゲームを扱っているWebサイトなどを頻繁に見に行く人なら知っているかもしれませんが、一般にはあまり馴染みのない言葉のように思われます。
カジュアルゲームとはシンプルな操作性で簡単に遊ぶことができるゲームのことです。分かりやすく言うなら、家庭用ゲームの中で遊べるミニゲームのようなものです。ロールプレイングゲーム(RPG)によくあるカジノゲームなどが典型例と言えるでしょう。
今、このカジュアルゲームにジャンル分けされるゲーム類が大きな市場を形成しつつあります。その舞台となっているのはスマホです。そしてカジュアルゲームもまたスマホ文化に合わせた独自進化を遂げつつあります。
カジュアルゲームとは何か。カジュアルゲームの何が人々を惹きつけるのか。感性の原点からテクノロジーの特異点を俯瞰する連載コラム「Arcaic Singularity」。今回はカジュアルゲームについて考察します。
■手軽で簡単なカジュアルゲームの世界
ゲームには、RPGやFPS(ファーストパーソン・シューティング)、レースゲームなど様々なジャンルがありますが、カジュアルゲームというジャンル分けは少々異質です。ゲームのプレイ内容ではなく、プレイスタイルで区別されているからです。
例えば、カジュアルゲームの1つにラン&ジャンプ系などと呼ばれるものがあります。画面内でただひたすらに走るキャラクターを左右に動かしたり、障害物に併せてタップしてジャンプするだけ、という非常に簡単なゲームです。
説明のみを聞くと非常につまらなそうに感じますが、そこはゲームとして飽きさせない工夫があり、音楽ゲームのようにテンポ良く障害物を避けさせたり、徐々に難易度が上がる仕組みを作って熱中度を切らさないようにしています。
他にも、ただ木を登るだけのゲーム、注文通りに料理を作るだけのゲーム、簡単な指示で街を発展させるゲーム等々、「ゲームのプレイ内容」としてのジャンルは様々です。
いずれにも共通するのが「簡単な操作」、「チュートリアル要らずの簡単なゲーム性」、「短時間で楽しめる」などであり、こういった手軽さを売りとしたミニゲーム的なものをカジュアルゲームと総称しているのです。
かつてのWindows OSに無料で付属していたマインスイーパやソリティア、ピンボールなどもカジュアルゲームに分類されます(ソリティアはWindows 10でも遊べる)。また、その手軽なゲーム性や開発コストの低さからインディーゲーム市場とも相性が良く、とくにスマホ向けでは数多くのカジュアルゲームが人気を博しています。
スマホ向けのカジュアルゲームは料金的にも手軽さを追求し、ほとんどが無料です。さらに、ゲーム内課金があるゲームも珍しく、多くはゲーム内広告を表示させることで収益を確保しています。一般的に、課金ガチャと呼ばれるゲーム内課金システムを導入しているゲームはカジュアルゲームには属されません。
また、最近ではゲーム内広告として別のカジュアルゲームの宣伝を行い、そこからまた新たなカジュアルゲームを遊んでもらうことで収益性を上げる「ハイパーカジュアルゲーム」と呼ばれる連鎖・還元型のビジネスモデルも流行りつつあります。
ゲームプレイヤーはずっと無料のまま次々に新しいゲームを遊べることがメリットであり、またゲームデベロッパーとしても人気ゲームに広告を出せればヒットへ繋がる可能性が上がるため、Win-Winの関係を構築できるとして広く採用されています。
ただし、最近ではゲーム内容を詳しく紹介したいがために長めの動画広告を強制的に表示するゲームも増えており、「カジュアルゲームは広告が邪魔」をいう声も増え始めています。
■ゲームを「消費する」という遊び方
では、なぜカジュアルゲームはここまで流行っているのでしょうか。
ゲーム(ビデオゲーム)の歴史を振り返ってみれば、ファミコンから現在まで、家庭用ゲームの世界ではひたすらにゲームのリッチ化と複雑化を繰り返してきました。より美しいグラフィックスを求め、より戦略的で飽きないゲーム性を求め、複雑で長大なシナリオを追求してきたのです。
しかしながら、それはゲームが持つ楽しさの一面でしかありません。そもそもゲームとは一体何でしょうか。筆者のようにゲームを「趣味」として楽しみ、そのために何万円もする家庭用ゲーム機や何十万円もするゲーミングPCを購入するのもまたゲームの楽しみ方の1つですが、そればかりではありません。
多くの人にとって、ゲームは「娯楽」であり「暇つぶし」です。単なる暇つぶしのために大金をはたいて環境を整えようという人はいません。今持っているスマホで、無料で手軽に時間が潰せれば良い。そういう遊び方もあるのです。そしてそういった遊び方をするユーザーこそがマジョリティではないでしょうか。
自室やリビングに腰を据えてじっくりと遊ぶ家庭用ゲームと、いつでもどこでも簡単に遊べるスマホゲームでは用途が根本的に違うのです。
時勢や景気からも、ゲームへ湯水のようにお金を使う時代ではなくなりました。できるだけ手軽に出費も少なく遊びたい。そういう風潮になるのも必然でしょう。そしてスマホとスマホゲームは、それを実現するための環境として最良だったのです。
クロス・マーケティングが2020年10月に公開した「スマホアプリゲームに関する調査」によれば、10代から30代の55%が毎日スマホゲームを遊び、45%が1ヶ月以内にスマホゲームをインストールしたと回答しています。
また、ゲームをインストールしたきっかけを見ると、「アプリストアでみつけて」、「友人から紹介されて」が上位となった一方、ウェブサイトやSNS、そしてゲーム内に表示される広告を見てインストールしたという人がかなりの割合で続きます。
つまり、多くの若者は暇つぶしのためにゲームを探し、少し遊んではまたSNSやゲーム内の広告から次のゲームを探す、といったかたちで新しいゲームを次々と遊んでいるのです。
一方でゲームのプレイアクティブ率を見ると、インストールしたその日は高いものの、その後一気に下降して50%前後から徐々に下がっていきます。多くの人は本当に暇つぶしの材料としてゲームを探し、インストールしては少し遊んで放置してしまっている状況も推察されます。
家庭用ゲーム市場では、ゲームは財産であり長く遊ぶために購入することが中心ですが、スマホ向けのカジュアルゲームはひたすらに「消費」されるだけのゲームとも考えられます。基本無料で課金要素の少ないカジュアルゲームは、まさにこういった消費型ゲームの代名詞とも言えるでしょう。
■今後の課題はマネタイズとユーザー離脱率の低減
ここで重要となるのは、そういった短期消費型のビジネスモデルで正しく継続的な収益をどのように確保していくかという点です。
前述のようにカジュアルゲームはインディーゲーム市場との親和性の高いジャンルですが、その大きな理由の1つが低予算・少人数で製作可能な点です。しかしこれは、粗製乱造や広告収入のみを狙った自転車操業状態に陥る可能性も高く、非常に危ういビジネスモデルと言えます。
とくに広告から広告へと誘導し続けるハイパーカジュアルゲームは「ただ広告をクリックしてもらうためだけの道具」に成り下がる危険性もあり、先のアンケート結果からもわかるように、1~2日でゲームプレイをやめてしまう人がかなりの割合で存在します。
こういったビジネスモデルは短期的には収益を上げますが、ジャンルや市場としては成長の芽が見えてきません。例えばインディゲームは多くがゲーム内広告に収入源を頼っていますが、ゲーム自体を疎かにしているわけではなく、そのゲームを長く遊んでもらいつつ、広告も見てもらうというスタイルです。
ゲーム自体が広告表示用アプリのような体裁となってしまっては本末転倒です。飽くまでもゲームありきのスタンスをどこまで貫けるか、そこが市場としての栄枯盛衰の分岐点かもしれません。
面白くなければ売れない家庭用ゲーム市場と違い、人々が「暇だ」、「退屈だ」とぼやき続ける限り、カジュアルゲーム市場は生き残り続けるように思われます。
しかしながら、ただ生き残るだけで面白くもなんともない、広告ばかり見せられるゲームだらけではいずれ市場として窒息し、別のジャンルの「暇つぶし」に駆逐されてしまいます。
例として、カジュアルゲームのランキングサイトでは常に上位に入り、某Vtuberによる対戦配信などで話題となった「ソーセージレジェンド」は、現在までに200万ダウンロードを超える大ヒットを記録していますが、ユーザーの離脱率(プレイをやめる率)が1日で50%前後にもなるという開発者の談話があります。
この数字は上記アンケート結果を裏付ける数字でもあり、無料で手軽に遊べるが故にやめるのも早いというカジュアルゲームのマネタイズや安定運営の難しさを物語っています。
大手ゲームメーカーのブランドゲームには遠く及ばないかもしれませんが、暇つぶしのゲームを自ら標榜しつつも、他のインディゲームと同じように遊びごたえやプレイフィールを重視した丁寧な作り込みを行っていくこそが、長期プレイを生み出し安定したマネタイズへ繋がるものと考えるところです。
筆者はゲームを一度始めると徹底的にやり込みたくなる性分だけに、ちょっと遊んで終わり、という暇つぶしスタイルではあまり楽しめないタイプですが、みなさんはスマホゲームをどのように楽しんでいるでしょうか。
カジュアルゲームなどという言葉は知らなくとも、意外とそのジャンルに属するようなゲームを多数インストールしているかもしれません。むしろカジュアルゲームにとって、そのようにジャンルやゲーム性にこだわらず、気軽に遊んでもらえることこそが最大の成功なのかもしれません。
記事執筆:秋吉 健
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