eスポーツ観戦について考えてみた!

NTTドコモは19日、都内にて「NTTドコモ 2021夏 新サービス・新商品発表会」を開催し、同社のeスポーツブランド「X-MOMENT」(エックスモーメント)において対戦型格闘ゲーム「ストリートファイターV チャンピオンエディション」を用いたeスポーツリーグ「ストリートファイターリーグ: Pro-JP 2021」をカプコンと共催すると発表しました。

eスポーツが世に広く認知されるようになって4~5年が経とうとしていますが、現実にその試合の模様や実況中継を観戦したという人はどのくらいいるでしょうか。筆者の感覚では、少なくない人々が「観戦したこともなければ、そもそも興味もない」といった認識であるように感じます。中には感情的に「あんなものが“スポーツ”と呼べるか」と忌避する人もいるほどです。

そのような中でNTTドコモは2019年から積極的にeスポーツ市場へ投資しており、新たなエンターテインメントジャンルとしての確立を目指しています。敢えて困難なジャンルの開拓にNTTドコモが注力し続ける理由とは一体何でしょうか。そしてeスポーツの普及と拡大に必要なものとは何でしょうか。

感性の原点からテクノロジーの特異点を俯瞰する連載コラム「Arcaic Singularity」。今回はNTTドコモのeスポーツ市場への投資を中心に、eスポーツ普及へのカギを探ります。

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eスポーツに足りないものとは何だろうか


■eスポーツ市場にも影を落とすデジタル・ディバイド
はじめに、現在のeスポーツに対する世間の声を拾ってみましょう。

マイボイスコム(MyEL)が2021年2月に行った「eスポーツに関するアンケート調査(第2回)」によると、eスポーツを「どのようなものか知っている」と答えた人は35.3%で、「名前を聞いたことはあるが、どのようなものか知らない」および「知らない」と答えた人は合計で64.7%でした。

2018年7月に行われた同アンケート調査の第1回目で「どのようなものか知っている」と答えた人が17.7%出会ったことを考えれば、実に2年半ほどで2倍に認知度が向上したことになりますが、絶対値として見れば3人に2人はほとんど知らないと答えていることになり、まだまだ一般への認知は進んでいないと考えて良いでしょう。

ただし、この調査は集計数こそ1万以上と十分な数で男女比もほぼ半数と客観性の高い数字ですが、世代別では10代の回答が0%、20代が3%、30代が9%と極端に少なく、40代が21%、50代が31%、60~70代が36%と世代が高くなるほど回答者の割合が高くなるため、単純に高い年齢層の人々に認知されていないだけとも取れます。

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そもそもゲーム世代から外れる50~60代以上の人々がeスポーツに興味を持たないのは当然でもある


上記のような世代へのアンケート調査である点を踏まえつつ他の項目を見てみると、「直近1年間のeスポーツに関する行動」では「テレビ・新聞・ネットなどでeスポーツに関することを見聞きした」という人が56.7%に達し、その他の回答がいずれも数%以下と誤差の範囲に収まっています。

また「eスポーツに対する興味度」では、「興味がある」および「まあ興味がある」と答えた人は合計で6.6%、「あまり興味がない」および「興味がない」と答えた人は合計で82.3%で、圧倒的に興味なし、という結果です。

「eスポーツに関する考え方」という項目でも、「ゲームは遊びの1つであり、スポーツ競技としてはとらえにくい」、「実際に体を動かすことがメインではないのでスポーツと競技とはとらえにくい」、「eスポーツという名前からは、ゲームの対戦競技をイメージしにくい」など、ネガティブな印象の回答が上位を占めており、高い年齢層の人々にとってeスポーツは「不必要なもの」としてとらえられている実態を再認識した次第です。

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高い年齢層の人々からのゲームへの風当たりの強さが垣間見える


eスポーツの認知度や興味・関心なんて、若い世代でも変わらないのでは?と考える人もいるでしょう。

少々古い調査になりますが、2018年9月にCyberZが10代から60代までの各世代200人(男女各100人)、合計1200人に行った「eスポーツ」認知度調査によると、「eスポーツに関する認知」では、男性の10代~30代の認知度が圧倒的に高く、女性は若い世代でも男性の高齢者と同程度の認知度で、年齢が上がるにつれてさらに認知度が落ちていく傾向があります。

また、「人がゲームをしているのと見ることについて」という項目では、男女ともに10代~30代の「好き」および「やや好き」という回答が特出して高く、40代以上ではほとんど興味を示していないことが分かります。

やはり、ゲームやeスポーツへの関心は10代~30代が圧倒的であり、それ以上の世代には訴求するだけ無駄、という印象すらあります。

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男性の場合、30代と40代の間に明らかな認知度の「溝」が見える


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ゲーム観戦は平均化してしまうとマイナーと捉えられがちだが、10~20代に限定すると半数近くの人が楽しんでいることが分かる


マイボイスコムによる2018年と2021年の調査データの推移や、CyberZの調査データが2年以上も前のものである点を考慮すると、現在はさらに多くの若者がeスポーツを認知し、観戦そのものを楽しんでいるのではないかと推察するところです。

よく、デジタル・ネイティブ世代とそれ以前の世代との技術理解度の差や使いこなし具合を指して「デジタル・ディバイド」などと呼ぶことがありますが、まさにゲームやそれを利用したeスポーツへの認知度と理解度への差にもデジタル・ディバイドを感じざるを得ません。

NTTドコモが低料金プラン「ahamo」をオンライン専用としてデジタル・ネイティブの若年層へ働きかけ、若者を取り込もうというタイミングでeスポーツへの投資を強化し始めたこともまた、単なる偶然ではないでしょう。

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ストリートファイターシリーズという強力なブランドとタッグを組み、eスポーツのさらなる躍進を狙う


■NTTドコモが着目した「観戦の楽しさ」
今回のNTTドコモの取り組みで非常に面白く興味深いのは、eスポーツそのものの振興は当然として、それ以上に「eスポーツ観戦」にフォーカスしている点です。

これまでも通信各社は光回線の利用や5G普及のキラーコンテンツとしてeスポーツやクラウドゲーミングを推してきましたが、共通する部分として「回線利用者としてのゲームプレイヤーの増加」を狙っていたことが挙げられます。

ゲームをプレイする人に訴求し、「5G回線ならモバイル環境でもこんなに快適に遊べます!」と訴えかけてきたわけです。しかしながら、今回のNTTドコモのアプローチは違います。

「5G回線ならモバイル環境でもこんなに快適に【観戦】できます!」とアピールしているのです。

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プレイヤーではなく、視聴者に訴えかける施策はなかなか新しい


ゲームをプレイするeスポーツ環境そのものは安定した固定回線(光回線)を使いつつ、その視聴スタイルの回線としての5Gの活用を提案するのは、実に合理的で実用性の高い提案だと筆者は感じます。

電車の車内や喫茶店などで本格的にゲームをプレイしたり、ましてやeスポーツとしてゲームをプレイすることなど考えられません。現在でも電車で移動中にストリーミング配信の動画を楽しんでいる人はたくさんいますが、その延長線としてeスポーツ観戦を楽しんでもらいたいということなのです。

もちろん4G(LTE回線)環境でもeスポーツ観戦は楽しめますが、NTTドコモの狙いは高尚です。単なる対戦映像を配信するのではなく、解説者による実況や対戦者(プレイヤー)の姿も同時に表示しつつ、TVで野球やサッカーの実況中継を観戦するようにして楽しませようとしているのです。

そういった多数の映像情報を1つの画面に落とし込み、60分の1フレームを争う目まぐるしいゲーム展開を高い臨場感で配信するためにも、より高精細な映像を楽しめる5G環境が適している、ということなのです。

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ゲーム画面だけではなくプレイヤーの表情や動きも遅延なく同時配信することで、より臨場感と迫力のある対戦を演出する


■画期的だったゲームの「観戦モード」
1990年代から2000年代にかけて、筆者は街のゲームセンターに通い詰めるアーケードゲーマーでしたが、その筆者が思わず「おお……」と感嘆した仕組みがありました。それは対戦型格闘ゲームに実装された「観戦モード」の存在でした。

観戦モードが実装されていたのは「電脳戦機バーチャロン オラトリオ・タングラム」というゲームです。通常のゲームであればプレイヤーがプレイしている視点でしか観戦できませんが、このゲームではステージ全体を俯瞰する視点から中継するモードが用意され、対戦の様子を客観的に観ることができたのです。

これは当時としては非常に画期的で、ゲームの順番待ちをしている人が観戦したり、ゲーム大会開催時にはエキシビジョンモニター用として大いに活躍するモードでした。

ゲーム全体の流れを掴んだり、それぞれのキャラクターの有利不利を直感的に確認できたりと、まさに野球やサッカーをTVで観戦しているような感覚で楽しむことができるというのは、それまでのゲームではなかなかシステム的に実装されてこなかったのです。

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「電脳戦機バーチャロン オラトリオ・タングラム」((c)SEGA CHARACTERS (c)SEGA/AUTOMUSS・CHARACTER DESIGN:KATOKI HAJIME)※画像はXBLA版


ゲームではなく、eスポーツの普及という部分に焦点を当てた時、今まで見過ごされてきていたのが、この「観戦」という部分ではなかっただろうかと筆者は考えるところです。

ゲームをプレイする楽しさや熱狂を伝えることばかりに注力するあまり、観戦することの楽しさを伝える努力を怠っていたか、忘れていたように思うのです。

ゲームをプレイすることの楽しさと観戦の楽しさは根本的に違います。観戦の楽しさとは、自分が遊んだら楽しいかどうかを判断することではありません。あの選手ならどう動くだろうか、この選手はどう反応するだろうか、この状況に両選手はどう出るだろうか。そういったゲームプレイヤーの一挙手一投足を予測しながら、時にはその予測を覆す動きがあるからこそ興奮しのめり込んでいくのです。

また、そういった観戦スタイルにはシーンを盛り上げる実況と解説が必須です。的確なタイミングで差し込まれる解説や技の説明などは、そのゲームを知らない人にも間口を広げ、「これは何だろう?」と興味を持たせる入り口となります。

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他のスポーツなら当然だが、プレイヤー本人にスポットライトが当たってこそ観戦が盛り上がるというのもある


■「ゲームを遊ぶ人を観る」ための手段としての5G
ゲーム業界界隈では「若者はゲームを買わずに(遊ばずに)実況動画で満足してしまう」などという嘆きや悲鳴に近い声すら聞かれるようになった昨今ですが、その言葉には1つの真理があると筆者は感じるのです。

若者は決してゲームに飽きたわけでも遊びたくないわけでもありません。それとは関係なく「ゲームを遊んでいる誰かを観たい」のです。厳密には、ゲームを遊んでいる人のリアクションを観たいのです。だからこそ、大して上手くもないYouTuberの実況配信が人気となったり、有名芸能人がレトロゲームを四苦八苦しながらクリアしていくTV番組が人気となったりするのです。

NTTドコモが画策するeスポーツ振興の真の目的はそこであり、若者の半数がゲーム実況やeスポーツ観戦を楽しんでいるという事実がある限り、その選択と方向性は間違っていないと確信するところでもあります。

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日本を代表する企業の社長同士がカメラ目線で波動拳を撃ち合う図。これはこれで「観ていて面白い」(左:NTTドコモ 井伊基之社長、左:カプコン 辻本春弘社長)


果たしてeスポーツ観戦の手段としての5G利用は進むでしょうか。ahamoの契約についてはオンライン契約のできない高齢者層からの強い要望もあり店頭サポートが追加されましたが、上記のアンケートを見る限り、そういった層がeスポーツ観戦などを楽しむとは到底思えません。

しかしながら、若者は比較的容易にeスポーツ観戦を文化として定着させるのではないかと考えるところです。どうせなら、人気YouTuberやVTuberなどにeスポーツの実況・解説をしてもらっても良いのではないかと思うほどです。

ゲーム(ビデオゲーム)が世界に登場してまだ半世紀。未だに「ゲームは害悪だ!」とのたまう高齢者がいるのも致し方ないところだとも思う一方、そろそろ次のステージにゲームを昇華しても良いのではないかと思うのです。

次のステージとは、ゲームそのものを楽しむのではなく「ゲームを楽しんでいる人を観て楽しむ」ことです。そのための手段として5Gのような最新のテクノロジーが活用されることは、とても有意義だと考えるところです。

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自分がゲームをeスポーツとして遊ぶのはナシだとしても、eスポーツを観戦するのはアリだと言う人もいるだろう




記事執筆:秋吉 健


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