テレビ放送と動画配信サービスについて考えてみた!

先日、新しいスマートフォン(スマホ)の話題をTwitterで眺めていた時、とあるツイートが目に止まりました。

「最近フルセグ載ってるスマホってないよね」

言われてみれば、ここ数年フルセグが搭載されているスマホをほとんど見かけません。それでも2020年までは「Xperia 1 II」や「AQUOS R5G」といった機種がまだあったように思いますが、2021年の新機種からは1つも見ていない気がします。ワンセグに限ってみても、NTTドコモから2020年9月に発売された「らくらくスマートフォン F-42A」が最後ではなかったでしょうか。

そんな中、さらに追い打ちをかけるような市場調査を見つけました。MMD研究所が9月3日に発表した「動画視聴に関する利用実態調査」から、若い世代ほどテレビ視聴時間が短く動画配信サービスおよび動画投稿サイトでの動画視聴時間が長いという実態が見て取れるのです。

時勢的にもあまり不思議ではない調査結果ではありましたが、先入観なしに調査データを精査してみると、他にもさまざまな興味深い数字を読み取ることができます。

果たして人々は本当にテレビを観なくなったのでしょうか、またテレビを観なくなったとして、その理由は一体何でしょうか。感性の原点からテクノロジーの特異点を俯瞰する連載コラム「Arcaic Singularity」。今回は最新の動画視聴に関する調査データから、テレビと動画配信サービスの現在と未来を考察します。

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筆者の記憶にある最後のフルセグスマホ「Xperia 1 II」(2020年5月発売)


■テレビ世代の60代、YouTube世代の10代
MDD研究所による「動画視聴に関する利用実態調査」では、主にテレビの視聴時間や動画配信サービスの視聴時間(利用時間)と利用サービスの種類などについてアンケートを実施しており、世代(年代)ごとや性別による細かな調査が行われています。

その中で初めに注目したのは「テレビ(地上波・BS・CS)の視聴時間」です。調査によれば、全体としては9割以上の人がテレビを視聴しており、その中でも1日に1~2時間観るという人が最も多くなるなど、ある程度予想していた通りの数字となりました。

高齢者ほどテレビ依存度が高いというのも予想の範囲内です。60代では「(テレビを)観ていない」という人が5.2%と最も少なく、さらに視聴時間も長めとなる傾向があります。

世代が若くなるほどにテレビを観ていないという人が増え、視聴時間も短くなる傾向があるの点も予想通りでしたが、若干興味深いのは10代の回答です。テレビを観ていないという人が23.1%と他の世代より飛び抜けて多く、「若者のテレビ離れ」が想像以上に加速しているように感じられます。

1時間未満や30分未満であれば理解も出来ますが、まったく観ていないというのはある意味衝撃です。

自室にテレビがなく(PC用のTVチューナーはあるがほとんど使用していない)情報の多くをウェブメディアやSNS、新聞社のスマホアプリなどで得ている筆者でさえ、食事時や休憩時間などには決まってテレビのニュース番組を観ているだけに、食事時ですらテレビを視聴しないということだろうかと不思議に感じてしまいます。

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10代のアンケート結果だけ異質な雰囲気がある


YouTubeのような動画投稿サイトやNetflixのような動画配信サービスの視聴時間に目を移すと、見事にテレビとは真逆の回答結果である点も予想通りです。

10代を頂点として若い世代ほど視聴割合や視聴時間が多く、世代が高くなるほどに視聴割合も視聴時間も落ちていきます。10代で「(YouTubeを)観ていない」と答えた割合がわずか2.1%というのは流石に驚きます。まさにYouTube世代といった様相です。

ただし有料の動画配信サービスの場合、10代はサービスの利用に保護者の同意が必要であったり金銭的な制約が大きいことから、視聴割合や視聴時間が若干下がります。

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ここまで綺麗な調査結果になるのも珍しい


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最新のテクノロジーに抵抗が少なく、金銭的にも社会的にも自由になる20代がトップになった


■「Amazon Prime Video」が最強王者である理由
有料の動画配信サービスの利用状況を調べてみると、Amazon Prime Videoが圧倒的であることが分かります。

全体(全世代合計)ではAmazon Prime Video(プライム会員)が66.0%で、2位のNetflixの23.9%を大きく引き離しています。世代別に見ても、全世代でAmazon Prime VideoがNetflixを2~3倍引き離して利用されており、不動の1位となっています。

これは、単なる先行者利益というだけではなく、Amazonプライムというショッピングサイトの有料会員のための特典サービスのような形で始まった動画配信サービスであることが大きな要因でしょう。

動画視聴しかできないサービスよりも、ショッピングからストリーミング音楽配信、さらにクラウドストレージサービスまで提供しているAmazonプライムが選択されるのは必然とも言えます。

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Amazon Prime Video(Amazonプライム)の便利さは動画視聴だけではないのが強い


動画配信サービスを有料で利用している人の割合が62.3%であることからも、人々は「お金を払って動画を視聴する」というサービス形態に抵抗がなくなってきていることが分かります。

かつては「お金を払ってまで動画なんて観ない」という声も散見されるほどでしたが、コンテンツの充実や画質の向上、何より「自分の時間に合わせて自由なスタイルで視聴できる」という便利さが評価されてきた結果だと考えます。

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今年劇場公開されたばかりの大ヒットアニメ映画「シン・エヴァンゲリオン劇場版」がAmazon Prime Videoに早くもラインナップされたことは大きな話題となった


■人々がテレビでテレビを観なくなる日
ここまでの調査を観る限り、「やっぱりテレビを観ているのは年寄ばかりだ」、「若者が観ないテレビに未来はないな」と落胆しそうになりますが、ここで1つ面白い調査データをお見せしましょう。

「動画配信サービスで動画を視聴する際に利用している機器」という調査項目を見てみると、当然ながらスマホが圧倒的1位……ではないのです。世代による若干のばらつきはあるものの、スマホに匹敵する視聴機器として「テレビ」があるのです。

ここで先程の筆者の驚きに対する回答が得られます。10代の2割以上が「テレビを観ない」と回答しているのは、つまり「テレビ放送を観ていない」のであって、テレビという受像機器(家電製品)を使ってYouTubeやAmazon Prime Videoを観ているのです。食事時でも休憩時でも「テレビを観ていない」理由はここにあります。

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動画配信サービスの成長を支えてきたPCすら追い抜き、今やテレビという「箱」がスマホに並ぶ視聴機器だ


日本語の面倒なところ、もしくは言葉遊びと言うべきかも知れませんが、「テレビ」と言った場合に指すものが「受像機」と「放送方式」の2つある点が非常にややこしいのです。

人々はテレビ放送(テレビ番組)からは徐々に離れている一方で、テレビ受像機はマルチメディア端末化し、動画配信サービスをPCやタブレットよりも手軽に、しかも家族とともに大画面で観られる最適なデバイスとして進化しました。

つまり、テレビ放送はもはや「テレビ受像機で観られる1コンテンツ」でしかないのです。そして、コンテンツとしての魅力やサービスとしての提供形態で動画配信サービスに劣っているから選択されなくなりつつあるのです。

それも当然のように感じます。同じ機器で観られる映像コンテンツと配信サービスが多数ある中で、テレビ放送だけが時間に縛られ、自由に観ようと思っても自分で録画設定を行う必要があり、しかもスマホやタブレットで続きをシームレス且つ簡単に観られるわけでもないからです。

動画試聴機器としてのテレビが便利になればなるほどテレビ放送は他の動画配信サービスなどと比較され、利便性や手軽さの取捨選択で脱落していきます。人の時間は有限であるだけに、最も便利で手軽なサービスが選択されていきます。

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テレビ放送はもはや、多数存在するチャンネルの1つに過ぎなくなった


■負の遺産となったテレビ放送
テレビという家電製品が残り、それがマルティメディア端末として進化して人々の支持を得る中、多数存在するコンテンツの中でテレビ放送だけが徐々に忘れ去られていきます。テレビ放送が現在の放送形態を続ける限り、その流れは不可逆でしょう。

YouTubeなどではすでに4Kどころか8Kコンテンツすら並び始めています。テレビ放送では同じことを同じ早さで実装・実現できません。そもそも、現在の地上波放送は、厳密にはフルHD放送ですらありません(1440×1080ドットの映像を横方向に伸張して擬似的にフルHD表示している)。

テレビ放送を観るために、わざわざ専用の受信機や設備が必要になるという点もデメリットです。テレビ放送という技術とサービスが、時代の流れについていけなくなったのです。

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テレビ放送はテクノロジーの進化において負の遺産になりつつある


とは言え、テレビに未来がないかと言われれば「NO」と言わざるを得ません。ラジオほどではないにしても、まだまだテレビを視聴している人は多く居ます。テレビ放送離れが顕著な10代でさえ8割近くが観ているのです。全体で見れば国民の9割が利用しているサービス、というだけでも凄まじい数字です。

近い将来、この数字が8割や7割になることは十分に考えられますが、それでもマスメディアとして、ニュースソースとして生き残り続けることは間違いありません。しかしながら、その時代が訪れた時に今の業界規模を維持できなくなり、マスメディアとしての質がどこまで低下するのかは未知数です。

人は映像作品が大好きです。何かの映像・動画を1日に1回も観ない人は本当に稀でしょう。だからこそテレビ放送は残り続けますが、現状ですら取り残され始めているテレビ放送が、この先技術的進化を伴い人々の要望に答えられ続けるとも思えません。

10年後、デバイスとしてのテレビで8K/60fps/HDR配信の動画コンテンツを楽しむ人から「そういえばテレビ放送なんてあったね」と思い出されるような存在になっている可能性は否定できません。

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テレビ放送の暗い未来はいくつも見えるが、明るい未来が見えてこない


記事執筆:秋吉 健


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