ネックスピーカーの魅力について考えてみた!

みなさんはネックスピーカー、もしくはネックバンドスピーカーと呼ばれる製品をご存知でしょうか。ここ数年で登場してきた新しいスタイルの音響機器で、その名の通り首に掛けて利用するスピーカーシステムのことです。

先日このネックスピーカーを友人が購入し、あまりの使い心地の良さに大絶賛していました。百聞は一見にしかずとは言ったもので、当人も使ってみるまでは大して興味もなかったそうですが、家電量販店でオーディオ担当の店員に薦められて試聴したところ、そのまま気に入って購入してしまったとのことでした。

筆者もかつて、何度かネックスピーカーを体験する機会がありました。その度に使い心地の良さに驚いていたのですが、残念ながら筆者の場合ネックスピーカーを利用する環境と状況がなかったために購入は断念していました。もしネックスピーカーを有効活用できる生活環境であったなら、間違いなく買っていたであろうと今でも思っています。

感性の原点からテクノロジーの特異点を俯瞰する連載コラム「Arcaic Singularity」。今回はネックスピーカーの魅力と用途、メリットとデメリットについて解説します。

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友人が購入したソニー製ネックスピーカー「SRS-NS7」


■メリット多数!ネックスピーカーのススメ
ネックスピーカーが日本で話題となり始めたのは2017年頃からです。製品としてはLGやBOSEといったメーカーからそれ以前にもいくつか発売されていましたが、ソニーがバイブレーション機能などを搭載し、より臨場感と迫力のある映画鑑賞などに特化させた「SRS-WS1」を発売したことで、ネックスピーカーの認知度が上がり始めました。

一見すると巨大で重そうに見える上に、肩に乗せるデジタルデバイスというものがこれまでほとんど存在しなかったことから、知らない人からすれば見た目の違和感が大きいかもしれません。しかし、ネックスピーカーにはヘッドホンやイヤホンよりも大きなメリットがいくつもあります。

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ソニー製ネックスピーカー「SRS-WS1」


1つは「耳が痛くならない」ことです。狭い日本の住宅事情や近所への騒音の配慮に加え一人暮らしが増えたことで、最近では自宅でもヘッドホンやイヤホンで映画鑑賞やゲームを楽しむ人も増えてきました。

しかしながら、ヘッドホンやイヤホンは耳への負担が大きく、長時間の利用がつらいという欠点があります。筆者もかつて長距離通学や長距離通勤の際にヘッドホンを多用していましたが、2~3時間付け続けていると耳が痛くなり、外さざるを得なくなることが多々ありました。イヤホンでもやはり耳が痛くなるというデメリットは拭えません。

また、ヘッドホンは夏場に利用すると暑く、蒸れて仕方がないというのも欠点でしょう。それはエアコンの効いた屋内であっても難点の1つです。

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ヘッドホン最大の弱点は「疲れる」こと


その点、ネックスピーカーは耳への負担や夏場の蒸れなどとは無縁です。ネックスピーカーの重量は100g以下の超軽量のものから300g台の重量級までさまざまにありますが、300g台のものであっても肩に乗せていると重さはほとんど気になりません。

そもそも人の肩というのは5~6kgもある頭部や同じく5~6kgある腕を2本も24時間支え続けている上、その腕で行う作業のすべての負担を受け持つだけの筋力を持っているため、100~300g程度のものが乗ったところでほとんど疲れたりはしないのです。

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サンワダイレクト製「400-SP085」


耳への負担が小さいことは、子どもにも使わせやすいというメリットでもあります。

成長期の子どもがヘッドホンを長期間使うことは、耳の外側(耳介)の変形や難聴などになる恐れがあり推奨されませんが、ネックスピーカーにはそのような心配がありません。

前述のように肩への負担も少なく、機種によっては100g以下という軽いものもあるため、例えばオンライン授業で利用したり、ゲームでの利用にも便利です。

子どもがどのようなコンテンツを利用しているのか周囲からも若干聴こえる点や、コンテンツ利用時も親子でコミュニケーションを取りやすい点は、保護者としては安心感の1つかもしれません。

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オーディオテクニカ製「AT-NSP300BT」


もう1つのメリットは上でも少し触れましたが「周囲の音が聞こえること」です。

人によっては音楽に集中し、純粋に音楽だけを楽しみたいという目的でヘッドホンを使っている方もいらっしゃると思いますが、そういった明確な目的があるわけではないなら、周囲の音が聞こえるというメリットは多大です。

とくに自宅利用の場合、ヘッドホンをしていて宅配便や来客に気が付かなかったり、家族の声に反応できずに無視してしまったりといったことが起こりがちです。ネックスピーカーならホームシアターのスピーカーシステムのように、周囲の音も聞こえつつ自分だけの最適な音響空間を作ることができます。

ちなみにネックスピーカーからの音が聞こえる範囲は製品によってさまざまですが、その多くは指向性があり、ネックスピーカー装着者のみに大きく聞こえ、周囲にはあまり音が聞こえない(音が漏れない)ように設計されています。

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400-SP085に限らず、周囲への音漏れは想像以上に少ない


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一方で周囲の音はクリアに聞こえるからこそ、生活の中で自然なかたちで使い続けられる


そして何より筆者が素晴らしいと感じているのは「音の臨場感」です。

ヘッドホンなどでも高級な機種になると立体音響や360度疑似サラウンドシステムなどに対応することで音の広がりを十分に感じられますが、ネックスピーカーによる臨場感には、よりリアルな空間的広がりを感じることができます。

例えるなら、大規模な5.1chや7.1chのサラウンドシステムを構築している部屋で音楽や映画を鑑賞しているような感覚です。耳元で音が鳴りつつも物理的に耳から離れていることがそれを感じさせ、サラウンドシステムに対応したネックスピーカーなどで映画を鑑賞すると、あたかも映画の世界の真ん中に座っているような錯覚さえ覚えます。

自宅に大掛かりな音響システムを構築するわけにはいかないけれど、ヘッドホンでは臨場感が足りない……そんなふうに感じている方にこそ、ネックスピーカーをオススメしたいところです。

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自分だけのシアターシステムを手軽に構築できるのがネックスピーカーのメリットだ


ほかにも細かなメリットとしては、ヘッドホンのようなオーバーヘッドバンドが存在しないため髪型が崩れない点や、ワイヤレス方式の場合完全ワイヤレスイヤホンなどよりも長時間の連続利用が可能な点などが挙げられます。

スピーカーとしても比較的大きなダイナミック型スピーカーを4~6基搭載しているものが多く、極小のバランスド・アーマチュア型スピーカーを採用しているイヤホンや、4基以上のスピーカーを搭載することが難しいヘッドホンよりも、安価でより良い音響システムを構築可能です。

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パナソニック製「SC-GN01」のように、ゲームメーカーと共同開発したネックスピーカーも存在する


■少ないながらも存在するデメリット
一方で、当然ながらデメリットも存在します。

まず何よりも大きなデメリットは屋外で使いづらいという点でしょう。ヘッドホンやイヤホンと違い、周囲に音が聴こえてしまう点は最大の弱点です。また、周囲の音に掻き消されてネックスピーカーからの音も聞こえにくくなってしまうのは難点です。

外出先でも、例えば社内の会議室やノマドワーカー向けのコワーキングスペースなどであれば十分に活用できるため、自分の用途に合っているのか見極める必要があります。

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街で周囲に迷惑をかけずに音楽を楽しむ目的なら、ヘッドホンやイヤホンのほうが良いだろう


また、ゲーム用途の場合は音の遅延も若干問題になります。

RPGや一般的なアクションゲーム程度のものであれば、現在のBluetooth規格とそこで用いられるAACやapt-Xといった音声圧縮規格による遅延はほとんど気になりませんが、シビアなタイミングが求められる音楽ゲームなどではやはり若干使いづらいものです。

これはネックスピーカーに限った話ではなく、ワイヤレス方式のヘッドホンやイヤホンの全てに共通した問題です。こういった用途では有線式が便利ですが、ネックスピーカーの場合有線式は非常に種類が限られます。

上で紹介したパナソニック製「SC-GN01」などはゲームに特化して開発されたゲーミングネックスピーカーであるため、有線式となっています。もしネックスピーカーで音の遅延を気にせずにゲームを遊びたい場合は、有線式を選択するのも良いでしょう。

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ゲーム特化だからこそ、遅延のほぼ存在しない有線式は有効な手段となる


■新しいライフスタイルにぴったりなネックスピーカー
このように、ネックスピーカーは自宅で個人用として利用するスピーカーシステムとしては、非常にメリットが多くデメリットの少ない製品ジャンルです。

最近は価格面でもかなり安価になっており、安い製品では3,000円前後から、普及価格帯の製品の場合は8,000円~1万円程度のものが主流です。

中にはソニーのSRS-NS7のように実売価格でも3万円弱もする高級な機種が存在しますが、それが製品ジャンルとしての上限だと考えるならば、立体音響システムにも対応したハイエンド機種でも3万円程度というのは、むしろ非常にリーズナブルだとすら言えます。

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1万円以上のものは高級機種扱いだ


ネックスピーカーはスマートフォン(スマホ)との相性も良く、自宅でもスマホを多用する現在の生活スタイルに非常に適したスピーカーシステムであると感じます。

冒頭にも書いたように、筆者は自室にオーディオシステムを組んでしまっている関係からネックスピーカーを購入するメリットが薄く未だに購入に至っていませんが、かつてソニーのショールームで体験した時の感動や家電量販電で試聴をするたびに実感する使いやすさは、もっと早く周囲の人間に伝えておくべきだったと後悔しているほどです。

みなさんも、ご自宅でのオーディオ環境やヘッドホン周りの使いづらさを感じているなら、ぜひともネックスピーカーを試してみてください。想像以上の快適さに驚くこと間違いなしですよ。

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音楽の楽しみ方に、ネックスピーカーという新しい選択肢を


記事執筆:秋吉 健


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