デジタル製品の寿命とリプレースについて考えてみた!

先日、ノートパソコン(PC)を購入しました。VAIO製のモバイルノートPC「VAIO SX12」で、2022年の最新モデルです。

ノートPCを買うのは実に13年ぶりです。かつては私用でも仕事でもモバイルノートPCを持ち歩く日々でしたが、その後仕事の変化やデジタルメモ「pomera DM200」(ポメラ)との出会いもあり、2009年のVAIO X購入を最後にノートPCから離れていたのです。

実は一番欲しかったのはノートPCではなく、ポメラの新型でした。現在所有しているポメラを購入したのは2016年。取材用の筆記具として使い倒した結果、2020年頃には物理的に壊れ始めていたため後継機種の発売を待っていたのです。

しかし何年経っても後継機種は発表されず、今年6月には現行機の生産が終了しているらしいとの報も受け、限界が来ていたポメラに見切りをつけて「後継機は諦めよう」とノートPC購入に踏み切ったのです。

ところが……この新しいVAIOが手元に届いてわずか3日後。新型ポメラがまさかの6年ぶりに発表されてしまい、あまりのタイミングの悪さに苦笑しきりの状況でした。

みなさんも、スマートフォン(スマホ)やPCなどの買い替え時期で悩んだ経験や、買い替え時期を逸してしまい失敗した経験などあるのではないでしょうか。感性の原点からテクノロジーの特異点を俯瞰する連載コラム「Arcaic Singularity」。今回はデジタルガジェットの製品サイクルやリプレース時期について考察します。

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あと1ヶ月早く発表されていれば……


■デジタル製品の製品サイクルとリプレース
デジタル製品を購入する際、その製品シリーズの発売サイクルやリプレース(買い替え・取り換え)を考えることはとても重要です。

例えば2018年頃よりスマートホームやスマート家電といったものが流行り始め、今ではスマホ1つでリモート操作が可能であったり全自動制御の家電製品も増えてきました。

しかしながら、これらの製品の便利さを維持し続けるにはその製品の後継機種や新製品が次々に登場してくることが前提となります。道具は基本的に長年使えば壊れるものであり、デジタル製品に至ってはその製品寿命が他の道具と比較しても非常に短いからです。

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スマート家電は便利だが、故障したときはどうする?


理由はいくつかあります。例えば精密機器としての物理的な脆弱性と寿命です。

一般的な家具や道具と比較して、デジタル製品はCPUや各種センサー、配線、バッテリーなど非常に繊細な部品の塊です。そのため製品としての寿命がどうしても短くなります。

ましてやモバイル機器ともなれば、なおさら破損や故障も多くなります。バッテリーやディスプレイに至っては明確な寿命(連続使用時間や充放電の回数など)すらあります。

ソフトウェア(OSやミドルウェア含む)の寿命も大きな理由の1つです。例えばスマホであれば、OSのサポート期間やセキュリティアップデートの期間が決められており、それ以上の年数の使用はリスクが高くなるため基本的に推奨されません。

しかもその期間は長くても5~6年です。先日Appleが発表した新モバイルOS「iOS 16」では、iPhone 8よりも古いiPhoneシリーズ(iPhone 7/iPhone 7 Plus以前のシリーズ)がサポートされなくなります。iPhone 7やiPhone 7 Plusは2016年の発売なので、6年あまりでサポート対象外になってしまうのです。

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それでもiPhoneはまだ良い方だ。Androidスマホでは2~3年でOSアップデートが提供されなくなる機種も多い


スマート家電の場合、その操作にスマホアプリを用いる場合がほとんどです。スマート家電自体は長く使える設計になっていたとしても、スマホアプリがOSのアップデートで利用できなくなったり、そもそもアプリとしてサポートが終了してしまったらどうなるのでしょうか。

これが汎用性の高い代替の利く道具であれば別ですが、スマート家電に限らず冒頭で紹介したポメラのように、唯一無二の利便性と機能性を持った道具の場合は致命的です。他に選択肢がない、あるいは他の選択肢ではコストや利便性の面で小さくない負担を強いられるといった状況に陥ります。

だからこそ、デジタル製品には適切な発売サイクルやシリーズ化への信頼感が必須になります。「後継機は出るんだろうか」、「業界的に代替製品はあるのか?」「生産終了したらどうする?」。……さまざまに不安を抱えながら道具を利用すること自体が負担にもなるでしょう。

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iPhoneシリーズが支持され続ける理由の1つには「毎年必ず新型が出る(≒1年落ちの機種が安く買える)」といった安心感がある


これは、むやみに新製品を出し続けて欲しいという意味ではありません。

例えばポメラの場合は6年間も仕事で使い続け、ヒンジ部やキーボードなどが物理的に摩耗・破損し、買い替えざるを得ない状況になってしまったことが利用を諦めざるを得なくなった唯一の理由です。

筆者はデジタル製品を非常に大事に使うことには自負があるほど丁寧に使いますが、そんな筆者でも4~5年の使用で破損や劣化を防げない程度の品質であったとも言えます。

仕事で利用する製品のシリーズが(少なくともポメラはホビー用途で買うものではない)壊れて使えなくなるまで新製品が出ないということが問題なのです。

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もしポメラが2~3年毎に改良や新機種を出していたら、筆者も安心して買い替え続けていただろう


■安定した製品サイクルを持つことの重要性
他にも、筆者はAirPodsで同様のリプレース問題に突き当たったことがあります。

AirPodsはその小さなサイズと「常に満充電状態を維持する」という製品特性故に、バッテリーの劣化が激しい製品です。それにもかかわらず、初代AirPods発売から2年以上が経っても後継機種は発売されず、バッテリー寿命が来てしまった筆者は仕方なく後継機ではなく同じ機種の2台目を購入しました。

ところがそのわずか1ヶ月後に第2世代のAirPodsが発表され、2ヶ月後には発売されてしまったのです。筆者はレビューなどの目的もあり、仕方なくAirPods(第2世代)も購入しました。

当時の「新型が出ない」ことへの不満や不安は、本連載コラムでも題材にしています。

【過去記事】秋吉 健のArcaic Singularity:AirPods買い替えのジレンマ。プラットフォーマーに求められる企業資質や製品の開発体制について考える【コラム】

iPhoneの場合、毎年必ず新機種が発売されるという安心感があります。それは新型を毎年買い替えなければいけないということではありません。毎年決まった時期に必ず新型が出るという保証があるからこそ、高価な精密機器を計画的に購入し、リプレースの時期も考慮しながら利用することができているのです。

もしiPhoneが、バッテリーの交換が必要になるほど長期間新機種を発売しなかったとしたらどうでしょうか。

他社のAndroidスマホでも構いません。自分のお気に入りのスマホシリーズの新型が5年も6年も発売されず、バッテリーもディスプレイもボロボロになり、OSのサポートすら期限が迫っている状況になってもまだ新型が出ないとなったら、そのスマホのシリーズを待ち続けられるでしょうか。あるいは5~6年前の同じ機種を新しく購入したいと思えるでしょうか。

AirPodsの場合、その使い勝手やiPhoneとの連携性において唯一無二であったために代替製品が存在しなかったことが最大の痛手でした。製品としてはとても素晴らしいのに後継機種がない。どんなに丁寧に利用していても部品の寿命には抗えない。しかし買い替えるものがない。仕方なく現行機種を購入してみたら、すぐあとに新型が発売されてしまった。

モバイルガジェットマニアの筆者ではなくとも、これで納得できる人は少ないでしょう。場合によっては「このメーカーの新製品はいつ出るか分からないし、次から別のメーカーに変えようかな」と信用まで落としかねません。

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AirPodsのようにバッテリーの劣化が激しい製品の場合、製品サイクルは理想で1年、最大でも2年以内でないと安定したリプレースはかなり厳しくなる


■真に便利なデジタル社会実現に必要なこと
AirPods以外では、デジタルカメラが今まさにリプレース問題で頭を悩ませている製品です。

仕事で愛用しているソニー製デジタルカメラ「Cyber-shot DSC-RX10M4」は、手元のマクロ撮影から600mmの超望遠までレンズ交換不要で瞬時に使い分けられる超便利カメラですが、こちらも発売から今年で5年になります。

その唯一性や高機動性と画質のバランスの良さから、筆者だけではなく一般的にも主に仕事用カメラとして重宝されていますが、開発元であるソニーからは一向に後継機種の話が出てきません(噂のレベルでは2022年内に出るのでは?という話も一応ある)。

一方でソニーはミラーレス一眼の新型機種を毎年のように発表しており、人気と採算性によって製品サイクルに差が出ることは仕方がないと理解しつつも、製品寿命が来る前には新型機種を出してもらわないと困ると不安を抱える日々です。

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このカメラもすでに1回修理に出している


メーカーとしては製品の開発戦略や市場戦略、情報の機密性の担保(技術情報の漏洩や他社による製品追従などを防ぐ目的)もあるため、「1年後に新機種を発売しますのでお楽しみに」などと悠長に発表するわけにもいきません。

だからこそユーザーは発売直近の発表を気長に待つしかないのですが、その「待てる時間」には物理的な限界があります。

筆者のように道具をひたすら大事に丁寧に扱い、時には修理してまで利用し続けていても後継となる製品が発売されず、故障や破損で別のメーカーの製品に買い換えざるを得なくなることがあります。

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例えばスマホでも、修理・交換プログラムなどの補償サービスに入っていない限り敢えて同じ機種に買い替える人は少ないだろう


世の中がデジタル製品によって便利になればなるほど、製品の発売サイクルとリプレースの問題は深刻化していきます。とくにここ数年は製品同士の連動や連携が進み、製品単体での運用ではなくそのメーカーの製品全体で利便性やUXを向上させる取り組み(戦略)が積極的に行われてきています。

デジタル製品故の非常に早い製品サイクル(製品寿命)に、どこまで開発速度を合わせられるでしょうか。開発速度を合わせた結果、採算性や品質が悪化するようでも問題です。

新しい製品や新しい技術に飛びつくことをやめ、安価な型落ち製品や定番の汎用製品で満足できるのならそれほど幸せなことはないのかもしれませんが、デジタルガジェットマニアとしては「新製品」という言葉にどうしても心躍り、夢を見たくなってしまうのです。

手元にある新品ピカピカのVAIOを手に取りながら、ポメラへの愛も捨てきれずに未練を引きずる筆者なのでした。

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道具はいつか壊れる。だからこそ次にどんな道具で何をしたいのかをいつも考える