![]() |
AirPods買い替えに際し、思うところを書き綴ってみた! |
昨年末、いつものように「AirPods」を耳に着けて音楽を聴きながら秋葉原でのんびりとウィンドウショッピングを楽しんでいたところ、なにやらAirPodsから聞き慣れない「ぽんぽこりん」という音が聞こえてきました。やたらと可愛らしくも聞き覚えがない謎のシステム音に「なんだなんだ」と慌てて確認してみたところ、なんとバッテリー切れの警告音でした。
筆者はAirPods信者を自称するほどのAirPodsファンで、現在数多く販売されている完全ワイヤレスイヤホンの中でもAirPodsが未だに最高であるとネタ混じりに喧伝しているほどですが、そんなAirPodsにも不満がないわけではないのです。
筆者がAirPodsを購入してから約2年。購入当初は連続で5時間以上も使えたバッテリーも、経年劣化によって3時間ほどしか使えなくなっていました。一般的に小さな容量のバッテリーほど劣化速度が早いのですが、2年間で劣化の度合いが40%程度に収まっていたことは、むしろ優秀な方だったのかもしれません。
実はiPhoneを「iPhone XS」へ機種変更したあたりから、ダブルタップによる音声操作の起動もうまくいかなくなっており、そろそろ買い替え時期だろうとは感じていました。しかしAppleからは後継機種となる新型の発表もなく、買い替えを躊躇し続けていたのです。そこからさらに数ヶ月間騙し騙し使用していましたが、もはやこれまで。ついにオンラインのApple Storeで2台目のAirPodsを注文しました。
感性の原点からテクノロジーの特異点を俯瞰する「Arcaic Singularity」。今回は、そんなAirPodsの買い替えに関連したお話をつらつらと書き綴ってみたいと思います。
■待てど暮らせど2代目は出ず
何よりも筆者を困らせたのは、後継機種が発売されないことでした。AirPodsが発表されたのは2016年9月。当時イヤホンジャックを廃止したiPhone 7とともに発表され、「イヤホンの再発明」とまで言われた製品です。
その1年後となる2017年9月にはiPhone XやiPhone 8がワイヤレス充電対応スマートフォン(スマホ)として発表され、その発表の場で同じくワイヤレス充電に対応したAirPodsの充電ケースも動画で紹介されました。この時、AirPodsも順当に第2世代へと進化するものだとばかり思っていました。
しかしそこからが長い長い1年の始まりでした。AirPodsの新型どころかワイヤレス充電に対応した充電ケースすらも発売される様子はなく、モバイル業界の噂として「2018年の春には登場しそうだ」、「2018年の夏頃に延期になったらしい」といった話ばかりが飛び交い、一向に確定した情報が出てきません。
そうこうしているうちに2018年9月の新型iPhone発表日を迎えてしまいますが、なんとそこではAirPodsの名前すら出てきませんでした。2017年の、あのプレゼン動画は一体何だったのでしょうか……。
当然ながら、「どうせ買い換えるなら新型が良い」と考えてしまうのはユーザー心理としてよくある話ですが、これほどまでに全く情報が出ないまま焦らされると、さすがに買い替え時すら見失ってしまいます。
iPhoneのように「ひとまず来年の9月にはまた新型が出るし」と、製品の開発サイクルにある程度予測がつくのであれば、今買い換えるべきなのか、もう少し待つべきなのかも判断できますが、今回はその判断材料がないのです。つい「買い替えた直後に新型が出てしまったら……」と考えてしまいます。
これが、新型に繋がるような情報が全くないのであればまだ話も分かりますが、充電ケースなどが大々的に発表会の場で紹介されているのです。少なくとも「新しい充電ケースが出るんだ」と誰でも考えるはずです。むしろ、そこまで発表しておきながら発売されないのは詐欺に近いとすら感じてしまいます。
これが単なるBluetoothスピーカーであったり、接続ケーブルなどの類であれば筆者もここまで困惑することはなかったでしょう。しかしAirPodsはAppleがイヤホンジャックを廃止してまで投入した戦略商品です。その戦略商品の開発が滞っていることや「発表したのに発売しない」という姿勢そのものに、不信感や不安を覚えてしまうのです。
■プラットフォーマーとしての信用と責任
Appleは以前から、製品の発売時期が大幅に遅れることがしばしばありました。iPhoneシリーズでは、古くはiPhone 4でホワイトモデルの発売が遅延しましたし(確かな原因は不明。一説には白の発色が悪く製造が遅延したとの噂もあった)、最近ではiPhone XRでも部品調達の遅れなどから発売が遅れていたと言われています。
そもそもAirPods自体、発表当初に予定していた発売日に間に合わずに延期されていた上、生産が追いつかずに長期間予約待ちの状態が続いていました。
これが一般的な周辺機器ベンダーであれば大きな混乱はないのかもしれませんが、Appleは自社にエコシステムを持つプラットフォーマーです。巨大な自社プラットフォームを維持するための製品の発売サイクルが安定しないことは、プラットフォーム事業そのものにも影響しかねません。
「iPhone 7でイヤホンジャックを無くしたのに、AirPodsは1代限りで後継機を作らないのか。いい加減な会社なんだな」と、ユーザーの失望を買うだけです。
プラットフォーマーにとって、製品やサービスの継続を保証したり、新たな製品やサービスへの移行を正しく促すことはとても重要です。
かつてAppleがiPhoneのDockコネクターを廃止してLightningコネクターへと移行した際、AppleはDockコネクターへの変換アダブターを自社で発売し、しばらくはDockコネクター製品の販売を継続するなどのサポート体制を整えました。
もしあの時、「これからはLightningコネクター製品のみ販売します。変換アダプターやDockコネクター製品はサードパーティ製のものをご利用下さい」と、すっぱりと切り捨てていたらどうなっていたでしょうか。恐らく多くのユーザーがAppleのサポート体制に失望したことでしょう。
ただでさえ同社は高級路線(ハイブランド戦略)によって他社との差別化を推し進めているだけに、高い料金に見合った価値やサポートをユーザーが求めるのは当然と言えます。それがプラットフォーマーに課せられた使命でもあります。
■製品開発に必要な「意地」
話は逸れますが、かつてKDDIは「100年メール」と謳ったメールサービスを開始したにも拘らず、僅か6年で終了したことがあります。移動体通信事業者(MNO)という巨大プラットフォーマーが約束を反故にするような戦略転換を行ったことに対し、業界関係者のみならず、当時多くの人が不満や失望をあらわにしていたのを覚えています。
以来同社は、新しいサービスを発表するたびに、質疑応答などで「今度のサービスは100年メールのようにはならない?大丈夫?」と皮肉交じりに質問されることとなります。プラットフォーマーの信用とは、一度崩れるとなかなか取り戻せないのが現実です。
AirPodsの発売以来、それまで流行る兆しが見えていなかった完全ワイヤレスイヤホン市場は一気に盛り上がり、今やオーディオ関連で最もホットな市場とまで言われるほどに成長しました。
イヤホンジャックを廃止した企業の責任、とまで言ってしまうのは少々重すぎますが、デバイスとしてのイヤホンの在り方を根底から覆し、世界中のスマホからイヤホンジャックが無くなっていくきっかけを作った企業であるならば、その製品戦略への「意地」や「拘り」くらいは見せて欲しいと考えてしまいます。
かつてスティーブ・ジョブズが「電話の再発明」を謳ってiPhoneを発表し、その言葉通りに世界の携帯電話の歴史を変えてしまった事実は、まさにプラットフォーマーとしての意地だったと言えます。そしてその「意地を張る」ために、毎年欠かさずにiPhoneをアップデートし続けてきたのです。
AppleはAirPodsについても、自社のプレスリリースにおいて堂々と「AirPodsによってワイヤレスヘッドフォンを再発明 」と書いています。しかしその再発明品は2年以上が経った今でもアップデートされません。再発明しただけで研究開発はしなくなったのでしょうか。
デジタル製品は常に進化と淘汰の繰り返しです。1年前のガジェットが時代遅れになることなど当たり前のようにあります。この目まぐるしくも華やかな世界の牽引者を自認するのであれば、その製品づくりにも「意地」を見せていただきたいものです。
記事執筆:秋吉 健
■関連リンク
・エスマックス(S-MAX)
・エスマックス(S-MAX) smaxjp on Twitter
・S-MAX - Facebookページ
・連載「秋吉 健のArcaic Singularity」記事一覧 - S-MAX