モバイル回線を用いたホームルーターのメリットについて考えてみた!

前回のコラムでWi-Fi 7の用途について考察した際、今後5Gや6Gの時代にはモバイル回線を用いたホームルーター(以下、ホームルーター)が固定回線の代替として広く利用されていくという予想について少し書かせていただきました。

戸建て住宅であれば光回線(固定回線)を引いている方も多いと思われますが、マンションやアパートのような集合住宅では固定回線が居住者共有で速度が出なかったり、別の回線を引こうにも契約上引きづらい環境にある場合も少なくありません。

果たしてホームルーターは本当に固定回線の代用や置き換えの手段になるのでしょうか。もしくは今後そのような未来は本当に来るのでしょうか。感性の原点からテクノロジーの特異点を俯瞰する連載コラム「Arcaic Singularity」。今回はホームルーターの可能性と未来について考察します。

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その固定回線、本当に必要ですか?


■頭打ちになった固定回線契約
はじめに、現在の固定回線の普及状況などを見てみましょう。

総務省が2021年に公開した「令和3年 情報通信白書」によると、日本国内における固定系ブロードバンドサービス(固定回線)の契約者数は、光回線(FTTH)が3309万契約、DSL(ADSLなど)が140万契約、CATVインターネットが671万契約、ISDNが251万契約となっており、合計で4371万契約となっています。

当然この数字には法人契約も含まれるため、戸数や家族単位での契約率がどの程度であるのかは類推するしかありませんが、インターネット普及率が2013年に80%を超えたあたりで頭打ちになっている点からも、一般的な家庭への普及はほぼ行き渡ったと言える状況です。

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法人を中心に未だにISDNの契約が残っているが、NTT東西は2024年1月にISDNサービスを終了すると発表している


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2019年だけ数値がおかしいのは調査票の設計が一部例年と異なっていたため


それどころか、グラフの推移を見ると2017年以降僅かに普及率が下がっています。

2017年と言えば、仮想移動体通信事業者(MVNO)ブームが最高潮に達し、大手の移動体通信事業者(MNO)が顧客流出を防ぐために大容量プランを次々に打ち出した年です。

それまで自宅でストリーミング動画を楽しんだりオンラインゲームを遊ぶには固定回線の契約をしないと通信容量的に難しかったものが、モバイル回線の契約だけでも賄えるようになってきたのです。これは、固定回線の品質があまり良くない集合住宅に住まう人々への福音となりました。

とくに一人暮らしの人の場合、混雑時に数Mbps(環境によってはそれ以下)にまで通信速度が落ちてしまう固定回線を使うくらいなら、数十Mbps程度であっても安定して通信が可能なモバイル回線のほうが使いやすいし通信コストも抑えられる、と考えたとしても不思議はありません。

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こんな4G回線の速度でも、自宅の固定回線よりマシだという人は意外といる


■メリットだらけのホームルーター
そして今後、こういった「1人ぐらしなら固定回線は要らない」という流れはほぼ確定的となっています。

4G回線程度の速度でもフルHD(1920×1080ドット)でのストリーミング動画視聴には何ら問題がない中、さらに高速な5G環境が整いつつあります。

仕事でもなく一般的な個人用途において、動画のストリーミング配信以上に通信速度やデータ通信容量が要求される状況はあまりありません。強いて言うならばゲームや大型アプリケーションのダウンロード購入時などに、一気に数GB~数十GBをダウンロードしなければいけない場合や、スマホデータのフルバックアップおよび復元作業の時くらいでしょうか。

4G回線では流石に厳しかったそのような作業でさえ、5Gでは難なくこなせるようになります。まだまだエリアが狭く現実的ではないという人も多い中ですが、MNO各社はすでに5G回線を自宅の固定回線(の代用)として利用する「ホームルーター」の普及に積極的です。

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NTTドコモの4G/5G共用ホームルーター。月額4,950円の専用プラン「home 5G」でサービス提供されている


ホームルーターのメリットは多数あります。最大のメリットは回線の開通工事が不要という点です。

ホームルーターとは、簡単に言えば(矛盾した表現ですが)「据え置き型のモバイルWi-Fiルーター」です。そのため、電源さえ確保できればどこに置いてもすぐに利用可能です。

一般的な固定回線の場合、契約の申込みから1ヶ月以上は工事で待たされ、時には住宅へ穴を開けたりと改造が必要な場合もあり、その上工事費用も請求されます(特典として工事費用無料などを謳う業者も多い)。

また、いざ開通してみたら思ったよりも速度が出なかったり、オンラインゲームでは致命的な通信の瞬断が発生する回線であったなど、不具合や不都合が発生することも少なくありません。

そのような場合にはプロバイダを変更するか、通信回線契約そのものを再度変更するしかありませんが、固定回線では未だに2年縛りや3年縛りといった契約形態が一般的で、1万円や2万円といった高額な違約金が発生する場合がほとんどです。

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ようやく開通した回線がトラブルだらけ。仕方なく解約しようとしても多額の違約金。その上次の回線も開通までに1ヶ月以上待たされる。踏んだり蹴ったりである


しかしながら2022年の時点では、ホームルーターを新規契約するにあたってこのような煩わしさや余計なコストが掛かる心配はほとんどありません。

2020年以前の契約では発生していた2年縛りや違約金といったものが法改正などによって段階的に撤廃されていったことで、2022年現在では端末代金以外の余計なコストが掛からなくなったのです。

通信キャリアとプランによってはホームルーター本体もレンタル扱いで契約できることがあり、その場合は端末代金も利用した分のみに抑えられる場合があります。

固定回線で最もネックとされていた「回線を引いてみたらまともに使えなかった」というリスクに対し、ホームルーターはすぐに回線契約の切り替えが可能というだけでも大きなメリットです。

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工事期間や違約金の心配をしなくて良いという安心感は非常に大きい


■ネックとされた応答速度や通信容量制限も解消の方向へ
ホームルーターでネックがあるとすれば、これまでであれば応答速度の遅さやアップロード速度の遅さでした。しかしながら、これらも5G回線になることでほとんど問題がなくなります。

例えばオンラインゲームでも格闘ゲームやFPSのように非常に速い応答速度が要求されるゲームである場合、4G回線では応答速度が若干遅くゲームプレイに支障が出ていましたが、5Gを利用したホームルーターであれば、要求される応答速度はある程度カバーできるようになります。

どうしても最善の環境を整えたい、という人であればゲーム専用の固定回線を引くことをオススメしますが、そこまでは拘らない人やオンラインゲームはあまり遊ばないという人なら何ら問題はありません。

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オンラインゲームすらもモバイル回線で十分という時代が近づいてきている


もう1つ懸念があるとすれば大容量のデータ通信を行った際に発生していた通信速度制限ですが、こちらも5G時代に入り徐々に緩和され、現在は事実上の無制限となっているプランがほとんどです。

現在のホームルーターでも、通信キャリアによっては短期間に大容量のデータ通信が行われた場合に限り通信速度制限が発生することが稀にありますが、その内容を精査してみると、1日で500GB通信したとか、3日で1TB以上利用したなど、一般的な利用方法からはかけ離れた利用がほとんどです。

例えばフルHD画質でのストリーミング動画の場合、2時間で1GB程度です。もし12時間見続けたとしても6GB程度です。オンラインゲームに至っては1時間で数十MB程度。ボイスチャットを併用していたとしても100MB程度です。ネットサーフィンに至ってはほとんどカウントする必要がないほど少ないデータ通信量です。

かつては通信速度制限がホームルーターを躊躇する理由の1つとなっていましたが、今や過去の話です。これを気にする必要はほぼないでしょう。

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5G対応のホームルーターで通信速度制限が掛かるような使い方をしているなら、素直に固定回線を契約すべきだろう


■自宅回線で悩んでいるなら一度は検討を
1人暮らし世帯であれば、ホームルーターすら契約せずにスマートフォン(スマホ)のテザリング機能で代用してしまうのも良いでしょう。しかしながら、2人以上の家族で利用したい場合はホームルーターが断然オススメです。

筆者はコアなオンラインゲーマーであるため、最善の環境を整えるために今のところ光回線を手放せない状況ですが、そんなオンラインゲーム廃人でさえも、10年後に普及しているかもしれない6G時代には「一般家庭に固定回線は不要」と断言しているかもしれません。

少なくとも、現在の4G回線を用いたホームルーターで不満が出る人は少なく、5G回線のホームルーターであればさらに多くの人が満足できる環境を整えられます。

もちろん、通信エリアや通信環境の問題から十分な速度が出ないことも考えられますが、そこはホームルーターのメリットを活かし、別の通信キャリアのプランへと乗り換えれば良いのです。固定回線のような煩わしさはありません。

みなさんの中に自宅の固定回線について悩みや問題を抱えている方がいるなら、ぜひホームルーターのことを思い出して検討してみてください。

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家庭の通信環境は、もっと自由であるべきだ


記事執筆:秋吉 健


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