KDDIとソフトバンクの副回線サービスについて考えてみた!

既報通り、KDDI・沖縄セルラー電話とソフトバンクによる「副回線サービス」がスタートします。KDDI・沖縄セルラー電話はすでに3月29日より開始しており、ソフトバンクは4月12日からとなります。

詳しくは本文中にて解説しますが、例えば、KDDI・沖縄セルラー電話(auおよびUQ mobile)の通信契約がある人なら、公式Webサイトや電話窓口などでソフトバンク回線を用いた副回線サービスの契約ができるようになるというものです。

1つの端末にわざわざ月額料金を支払ってまで2つの通信契約を入れる意味なんてあるの?と思う人もいるかも知れません。しかしながら、このサービス(取り組み)はユーザーからの要望や必要に迫られて作られたものであると言っても過言ではありません。

副回線サービスは誰に恩恵があるものなのでしょうか。そして副回線サービスを必要としない(しなくて良い)人とはどのような人々なのでしょうか。

感性の原点からテクノロジーの特異点を俯瞰する連載コラム「Arcaic Singularity」。今回はKDDIおよびソフトバンクが開始する副回線サービスのメリットとデメリットについて解説します。



as-278-002
あなたは副回線サービスが必要な人?不要な人?


■必要に迫られて生まれた副回線サービス
はじめに、各社の副回線サービスの内容を簡単にまとめておきます。

各社ともに個人向けと法人向けが用意されていますが、基本的には月額料金と通信速度の違いのみだと考えて問題ありません。

【KDDI】
・キャリアブランドはauおよびUQ mobileで提供
・povoはサービス対象外
・契約可能なキャリアブランドはソフトバンク
・SIMの提供形態は物理SIMおよびeSIM

【ソフトバンク】
・キャリアブランドはソフトバンクで提供
・YmobileおよびLINEMOはサービス対象外
・契約可能なキャリアブランドはau
・SIMの提供形態はeSIMのみ

【KDDIおよびソフトバンクの個人向け共通仕様】
・月額429円
・データ容量500MB/月(送受信最大300kbps)
・500MBを超えた場合は送受信最大128kbps
・国内SMSは送信時3.3円(全角70文字まで)、受信無料

【KDDIおよびソフトバンクの法人向け共通仕様】
・月額550円
・データ容量1GB/月(送受信最大1Mbps)
・1GBを超えた場合は送受信最大128kbps
・国内SMSは送信時3.3円(全角70文字まで)、受信無料
・テザリングなどのオプションは利用不可


サービス自体の内容はほぼ共通であり、両社が協議の上で仕様を揃えたかたちです。

通信速度を見れば分かる通り、通常時の回線として利用するには速度もデータ容量も圧倒的に足りないため、「こんな回線に月額料金を支払ってまで契約する意味ってあるの?」と思うかもしれませんが、それこそが多くのユーザーが求めてきたものであり、また通信キャリアとしても長年問題を解決できずにいた「ある事象」への解決策でもあるのです。

それは「通信障害発生時の対応」です。

本連載コラムでも過去に何度も取り上げてきたように、2021~2022年にNTTドコモやKDDIが大規模通信障害を起こしたことは記憶に新しいですが、そのたびにユーザーからは「障害対策はどうなっているんだ」「障害発生時でも通信を使える手段を用意してほしい」と強い要望が出ていました。

通信の仕組みに詳しい人であれば、それが如何に矛盾した要求であるのか、また仮想移動体通信事業者(MVNO)などを用いて自分で対策・準備しておくべきことであるなどをすぐに理解できるところですが、そういったものをすべての人々に求めることは現実的に不可能です。

そこで生まれたのが副回線サービスです。副回線として用いる通信契約をユーザーに丸投げするのではなく、通信キャリアのサービスとして提供することで、より多くのユーザーに副回線利用を推奨しやすくなるだけではなく、それによってユーザーからのクレームやトラブルを削減できるというメリットもあります。

as-278-003
通信が使えない!?そんな時も慌てずに、他社の通信回線を利用できる


■自分で複数回線契約できる人には無用なサービス
では、前述した「通信の仕組みに詳しい人」などは、この副回線サービスを利用するメリットはあるのでしょうか。

結論から言えば「まったくありません」。

例えばメインの通信回線としてソフトバンクを契約しており、副回線としてpovo2.0を契約しているような人が、敢えてpovo2.0を解約してまで副回線サービスを利用するメリットはほぼゼロです。

povo2.0であればほとんど0円で回線を維持することができ(契約期間内の180日の間に1回でも任意のトッピングを利用すれば回線が維持される。トッピングは安いものであれば220円程度)、月額429円かかる副回線サービスを利用する必要はありません。

通信速度は副回線サービスのほうが若干速いですが、300kbpsとpovo2.0の追加料金を払わない時の通信速度である128kbpsではあまり差がないことや、通信速度が欲しい場合はトッピングでデータ使い放題(330円/1日単位で購入)などを購入すれば、通信速度の制限を受けることなく通常の回線と同じように利用することができます。

ソフトバンクユーザーであれば、このように副回線サービスを利用すること自体が「無駄な出費」になりかねません。

as-278-004
基本無料で維持できる回線があるのに何故月額料金を払う必要があるんだ……そう考えたあなたは「対象外の人」だ


auやUQ mobileのユーザーであっても、同様のことが言えます。ソフトバンクには月額無料で維持できるプランはありませんが、他社のMVNOであれば月額500円以下で契約できるプランは多数あります。

例えばHISモバイルなどは、月間での利用データ容量が100MB以下であれば月額290円で収まる「自由自在プラン」があります。このプランはNTTドコモの回線を利用しているため、KDDI回線で障害が起きた場合のオフロード回線として十分に利用できます。

また自由自在プランの場合、利用データ容量に応じて料金が上がりますが、1GBまでなら550円、3GB使っても770円と非常にリーズナブルで、さらに利用容量内であれば通信速度上限もありません。

as-278-005
MVNOユーザーは料金に厳しい。だからこそ業界内で競争が絶えず常に活気があるとも言える


副回線サービスをまだ始めていないNTTドコモや楽天といったMNOであっても同様のことが言えます。これらの通信キャリアであればpovo2.0やMVNOなどを自由に選択し、自分の利用方法や利用地域に合ったプランを選択することができます。

さらに言えば、副回線サービスは主回線となる通信契約を解約した場合などは強制的に同時解約となる点も注意が必要です。副回線サービスは飽くまでも主回線に紐付けられたオプションであり、単独での契約ができないからです。

副回線サービスとはつまり、自ら率先して複数の通信契約を行うのが面倒な人や、そういった契約が難しそうだと躊躇してしまうような人への「救済策」だと考えて良いでしょう。

as-278-006
1つの通信キャリアにサービスを集約しておきたいという人にも良いかもしれない


■大規模障害発生時以外でも役に立つ複数回線契約
それでは、副回線サービスを利用するにしてもMVNOなどを利用するにしても、そもそも複数の回線を契約しておくという必要はあるのでしょうか。

筆者としては「絶対に契約しておくべき」だと考えます。

大きな理由は、当然大規模災害や自然災害が起きた際の緊急回線としての役割です。NTTドコモやKDDIのユーザーであれば、2021年や2022年に起きた障害時の不便さを思い出してみてください。あの時、他の通信キャリアの通信回線が使えていたらどんなに有り難かったのかを考えてみてください。

「通信障害が起きたから別の通信キャリアを契約しよう」と、その場ですぐに契約できるものではありません。また、その契約のためにも通信が必要であったり、キャリアショップまでの移動手段が必要になりますが、KDDIが起こした大規模通信障害の際などは、決済サービスにまで障害が波及して公共交通機関での移動すらままならなくなったのも記憶に新しいところでしょう。

災害対策や障害対策とは、起きてからでは対応しきれないことが多々あります。ありとあらゆるサービスがオンライン化された高度通信社会である現代日本においては、通信関連の障害はとくに致命的になることがあります。

as-278-007
通信障害は「いつか絶対に起こるもの」と思って普段から備えておくことが重要だ


また、平時であっても通信回線の混雑や地域・環境によっては電波が届きづらく、通信が利用できない場合などもあります。

例えば最近Twitterなどで話題になっていたのが、NTTドコモの通信状況が非常に悪いというものでした。コンビニやレストランでQRコード決済を利用しようとしたところ、通信がなかなか繋がらず決済画面を表示できずに周囲の人に迷惑をかけてしまったといった内容でした。

こういった状況は通信状態が過密な大都市圏の(おもに東京)、さらに混雑時間帯に限定された話のように思われますが、早く支払いを済ませて帰りたいのに支払いができず、同行者や支払いを待っている人にも迷惑を掛けてしまう状況は、できることなら避けたいものです。

こういった場合にも、副回線があればすぐに回線を切り替えて決済することが可能です。通信障害は大規模な障害ばかりではありません。いわゆる「パケ詰まり」などによる瞬間的な不便さも含め、通信回線は常に不安定であるという大前提のもとに、不測の事態への備えをしておくことが大切です。

as-278-008
簡単・便利なQRコード決済も、通信がなければ使うことすらできない


■複数回線契約をこれからの時代のスタンダードにしよう
S-MAXのウェブサイト内で本コラムを読んでいる読者のみなさんであれば、恐らく副回線サービスは不要かもしれません。しかしながら、世の中はそういったモバイルリテラシーの高い人々ばかりではありません。

むしろ、MVNOの利用率が12%前後で推移している現状を考えれば、8~9割近くの人々はMVNOを利用したことがないか、利用したくても契約方法すらよく分からず躊躇しているという人々なのです。

そのような「世の中の大多数の人々」のために、副回線サービスは存在します。現在販売しているスマホのほとんどはデュアルSIMに対応し、iPhoneを始めとした一部のスマホは物理SIMを必要としないeSIMも利用可能です。

auやUQ mobile、ソフトバンクといったブランドの通信契約をお持ちの方で、MVNOなどの契約を自分で行うのが怖い、あるいは手続きが面倒でいつも先延ばしにしてしまうといったような方は、ぜひ副回線サービスを検討してみてください。

備えあれば憂いなし。正しい管理と運用があってこその便利さであることを忘れずにいたいものです。

as-278-009
通信料金が劇的に安くなった今だからこそ、複数回線契約もしやすくなったと考えたい


記事執筆:秋吉 健


■関連リンク
エスマックス(S-MAX)
エスマックス(S-MAX) smaxjp on Twitter
S-MAX - Facebookページ
連載「秋吉 健のArcaic Singularity」記事一覧 - S-MAX