Twitter改めXのスーパーアプリ化について考えてみた! |
先週は、Twitterがイーロン・マスク氏の提案によって「X」という名称へと変更されたことがネット上で大きな話題となりました。
以前にもTwitterのアイコンが青い鳥から突如柴犬(かぼすちゃん)の画像へと変更され話題になったことがありましたが、今回はどうやら一時的なジョークではなく、恒久的に名称とロゴを変更するようです。
そんなXの騒動にユーザーが右往左往する中、XのCEOであるリンダ・ヤッカリーノ氏は、Xへの投稿(今後はツイートとは呼ばないらしい)で、Xをスーパーアプリにしたいという展望を語りました。
Xの描くスーパーアプリの姿とは一体どのようなものなのでしょうか。Xはスーパーアプリとして世界を席巻できるのでしょうか。
感性の原点からテクノロジーの特異点を俯瞰する連載コラム「Arcaic Singularity」。今回はスーパーアプリの現在とXが描くスーパーアプリの実現性について考察します。
■定義が曖昧なスーパーアプリ
はじめにスーパーアプリの定義について書いておきましょう。
定義と言っても非常に曖昧であり、1つのアプリ内でSNSやニュース、音楽、動画、電子マネー決済、資産運用など、多種多様な機能をミニアプリとして内包したポータルアプリを指します。
例えば日本で十分なシェアを獲得しているスーパーアプリと真に呼べるものは、恐らくLINEのみです。
NTTドコモやKDDIなど大手通信キャリアもポイント管理アプリの機能を拡充し、スーパーアプリ化を狙ってきましたが、基本的に電子マネー決済や資産運用ばかりにフォーカスしており、SNSのようなソーシャル要素やニュースのポータル機能、さらには音楽および動画視聴のようなエンターテインメント要素はほとんど実装されておらず、飽くまでも「資産管理・運用アプリ」(フィンテックアプリ)でしかないのが実態です。
■呼称が知られていないだけでみんな使っている
それでは、日本国内でスーパーアプリという名称やその内容がどれだけ浸透しているのでしょうか。
MMD研究所が7月に公開した「スーパーアプリに関する調査」によると、スーパーアプリについて「内容について知っている」と答えた人は23.4%、「内容について知らなかった」と答えた人は76.6%でした。
さらにそれぞれの回答の中で利用したいと思うか尋ねたところ、「内容について知っている」と答えた人の中では「利用したい」と考える人が6割程度、「内容について知らなかった」と答えた人の中では3割程度となり、スーパーアプリの認知度や利用意向が思いの外低いことが分かります。
年代別にスーパーアプリについての認知度を調べてみると、予想通り若い世代の認知度が高く、年代が上がるに連れて認知度が低くなっていますが、筆者が少し意外だと感じたのは、女性よりも男性の認知度がどの世代においても高めであったことです。
スーパーアプリの機能としては電子マネー決済やそれに伴うポイント管理なども含まれるため、ショッピングでのポイント利用などに高い関心と利用度を示す女性のほうがより認知度が高いのではないかと予想していましたが、実際は男性のほうが良く知っているという状況だったのです。
これは、スマートフォン(スマホ)のアプリというデジタルデバイス上での流行やフィンテックによる資産運用などへの関心の高さなどから、男性の方がより使いこなしに興味や理解があったのかもしれません。
ここでもう1つ興味深いと感じたのは、スーパーアプリの利用意向についてです。
上記のように認知度は低く、さらに利用意向もかなり低いと言わざるを得ない現在のスーパーアプリですが、それでは今の日本でLINEを使っていない人がどれだけいるでしょうか。
SNS機能以外にも、例えばLINEでポイントを貯めたり各種クーポンを利用している人は多いはずです。ニュースな天気の確認などが日課になっている人もいるでしょう。
今やLINEのユーザー数は9500万人を超え、日本人でスマホを持っている人であればほぼ全員がアプリを利用しているか、最低でもアプリをインストールしている状況です(サブ端末などは除く)。
そのような中で「スーパーアプリを知らない」あるいは「利用したいと思わない」というのは流石に無理があります。単に呼称(単語)として認知されていないだけであり、このアンケートがもし「LINEを知っていますか?」、「LINEを利用したいと思いますか?」などの設問であれば、恐らく回答内容は大きく異なっていたでしょう。
■Xのスーパーアプリ化成功のカギはシェアと企業の信頼
Twitter改めXはスーパーアプリを目指すと宣言しましたが、果たしてその道は成功へと繋がっているのでしょうか。
スーパーアプリの成否の大部分は、アプリのシェアと企業からの信頼によって決まると筆者は考えます。Xはその点において日本では大きなシェアを獲得しているものの、米国やその他の海外では苦戦しており、SNSにおける世界全体でのユーザー数ランキングでは15位程度に甘んじています。
また企業からの信頼というのは、LINEのポイント・クーポン機能を見ても分かる通り、飲食業界やネットショッピング関連などの各種企業と提携できてこそさまざまなサービスが提供できるものであるため、ユーザー数以上に重要なポイントとなります。
しかし現在のXは、ユーザーや企業に事前告知もなくAPIの仕様を変更したり、サービスの内容を変更したり、果てはアプリ名まで突然変えてしまいました。
そんな「何の告知もなく好き勝手に仕様を変更する企業のアプリ」と提携したい企業がどれだけあるでしょうか。少なくとも、そこには既にLINEという堅実な選択肢が存在します。海外で言えば中華圏においてWeChatがそれにあたりますし、欧米圏でもWhatsAppがスーパーアプリ化へのテストを開始しています。
より高い信頼とシェアを持つアプリが他にある中、Xがスーパーアプリとして成功するかどうかは企業からの信頼を何処まで勝ち取れるのかにかかっていると言っても過言ではありません。
例えばXが日本に特化したスーパーアプリ化を進めるのなら勝算はありそうです。しかしながら本拠地は米国。現在のXの動きを見る限り、米国内でスーパーアプリとして成功する道は非常に険しいと言わざるを得ません。
もし日本でもXがスーパーアプリ化し、そこでショッピングや動画配信サービスや電子マネー決済が出来るようになったとして、みなさんは利用したいと思うでしょうか。お金をチャージしてコンビニで利用したいと思うでしょうか。あるいはサブスクリプション契約をしてストリーミング音楽を楽しみたいと思うでしょうか。
……いえ、そこまで未来の話ではなくとも、今まさにTwitter Blue(7月31日時点、この名称だけはまだ変わっていない)を契約したいと思うかどうかという話でもあります。Xという企業やアプリを信用し、課金して利用するだけのメリットを感じるかどうかという話でもあります。
もちろん、イーロン・マスク氏やリンダ・ヤッカリーノ氏が今後の本命として据えるXの戦略であるだけに、これまでの「壊したかったTwitter」とは状況が異なってくるため、今後はUXを最大化するような施策へと転換する可能性は大いにあります。しかしながらその具体策が見えてこない現状、ユーザーとしては様子見以外の行動が取れないのも事実です。
Xのスーパーアプリ化は果たして成功するのか。そもそもスーパーアプリ化を本当に実現させる気があるのか。すべてはXの名の通り「未知数」です。
記事執筆:秋吉 健
■関連リンク
・エスマックス(S-MAX)
・エスマックス(S-MAX) smaxjp on Twitter
・S-MAX - Facebookページ
・連載「秋吉 健のArcaic Singularity」記事一覧 - S-MAX