smartgyojo01
スマートブイで定置網漁をモニタリング

東松島としみらい機構およびKDDI総合研究所は18日、宮城県の東松島市役所鳴瀬庁舎で共同記者会見を開催し、漁業用ブイをIoT化した「スマートブイ」を用いた「スマート漁業実証実験」を開始すると発表しました。

これまでの漁業はいわゆる「漁師の勘」を基にして漁が行われてきましたが、データに基づいたより効率的な漁の実現するとともに、料理店などが漁獲量の予測を元に漁業者に直接海産物を予約するシステムの構築に向けた実証実験が産学官協同で行われることになりました。

具体的にはLTEモジュール搭載のセンサーブイ・カメラブイを開発し、ブイから送られたデータを元に水温や塩分濃度などの環境条件と漁獲量の関係を見て行く実証実験です。今回、東松島市役所鳴瀬庁舎での会見と、実際に漁船に乗っての漁場見学・ブイ設置のデモンストレーションを体験してきましたのでその模様をお伝えします。

smartgyojo02
一般社団法人東松島としみらい機構福嶋正義氏(KDDI 復興支援室からの出向で青森県八戸市出身)

記者会見はまず東松島としみらい機構からスマート漁業のモデル事業について説明がありました。同機構は東松島市が復興支援のために作った外郭団体で、登壇した福嶋氏はKDDIの復興支援室から出向しています。

smartgyojo03

これまでの漁業は「シケの次の日は魚が獲れる」とか「海の水の色を見れば何の魚がいそうか分かる」といった漁師の勘を基にして行われてきました。こうした経験則をデータ化し、データ化することで漁師も知らなかった傾向が見えてくるかもしれないということで、今回の実証実験が行われる運びとなりました。

smartgyojo04
海洋ビッグデータを活用したスマート漁業モデル事業の概要


smartgyojo05
漁獲モデルの実証

今回の事業で実現したいことのひとつは漁獲モデルの構築です。水温や塩分濃度センサーなどを備え、LTEモジュールを搭載して定期的にデータをサーバーに送れるセンサーブイ、5~7m先まで見えるカメラで定置網の中にどんな魚がいるかを見ることができるカメラブイといったスマートブイを開発し、そのデータと漁獲高の関係を見ることにより、データの裏付けがあるスマートな漁業を展開することを目指しています。今回の実証実験はこれから漁の最盛期を迎えるサケの漁獲高に絞って実証実験が行われます。

smartgyojo06
小売モデルの実証

カメラブイの映像によって海の中をお店の生け簀のように見立て、小規模料理店などが漁業者に直接海産物を予約できる小売モデルの実証もめざします。漁協や魚市場との関係を壊さないように今年度は課題の整理を行うとのこと。

smartgyojo07
株式会社KDDI総合研究所大岸智彦氏

続いて登壇したKDDI総合研究所の大岸智彦氏により、実証実験の詳細について説明がありました。

smartgyojo08
スマート漁業実証実験の構成


smartgyojo09
漁場エリアにスマートブイを設置

カメラブイを1基、センサーブイを3基の計4基のスマートブイを漁場に設置します。すでに3基は設置済みで、1基は今回のデモンストレーションに利用され、後日設置されるとのことです。

smartgyojo10
アプリで漁獲高の入力と様々なデータとの比較が可能

実証実験では漁業者にスマートフォン(スマホ)およびタブレット向けの専用アプリを使って漁獲高を入力してもらい、気温、気圧、水温、水圧、塩分濃度、潮流などのデータとの視覚的な比較が可能になっています。

データはスマートブイからLTEモジュールを通じてサーバーに送られます。3Gでも良いそうですが、LTEはデータを送る速度が速いため、省電力化が図れて、画像データなど容量の大きいデータも送れるので、LTEを採用しているとのことでした。

またブイが台風などで流されたり、盗まれたりといったことを感知するため、GPSも搭載しています。

smartgyojo11
実証実験に協力する漁師の大友水産 専務取締役の大友康広氏

会見後、鳴瀬川の河口近くに漁船で移動し、漁場見学とスマートブイ設置のデモンストレーションが行われました。ここからは漁師で大友水産の大友氏が加わり、同氏の漁船運転により漁場近くまで移動しました。

smartgyojo12
実際に設置されるスマートブイ

スマートブイ(センサーブイ)の現物も公開されました。大波に呑まれることも考えられ、LTEモジュールのアンテナ部分は2mの長さがあります。ブイの部分に約3週間くらいは持つというバッテリー(大岸氏によると3ヶ月は持たせたいとのこと。省電力化が課題)があり、そこからケーブルが伸びていて、その先には海中に沈める各種センサーが付いています。センサーをカメラに変えればカメラブイとなります。

smartgyojo13
漁場に浮かぶスマートブイ。取材日は波が高く、遠くからしか見ることができなかった

取材日は波が高く、漁場は遠くからしか見ることができませんでした。スマートブイのアンテナポールをうっすらとではありますが見ることができました。

smartgyojo14海に浮かべたスマートブイ近くでアプリを操作する大友氏

実証実験のため漁場を提供する大友氏は「データを長く取っていくことによって、今まで漁師の勘で未来を読むといったことをやっていましたが、パターン化できて先が見えるようになれば良いと思っています。自分はITは疎いのですが、今の時代こういうことをやるのが当たり前で、こうした試みにより、もっと良い漁業ができると思います」とスマート漁業に大きな期待を寄せていました。

この実証実験は総務省のIoTサービス創出支援事業で単年度事業のため、ひとまずは今秋のサケの漁獲に絞ってデータ収集・解析が行われ、年度末の3月に報告書がまとまります。漁獲と各種環境要因との関係にどういった相関があるか、発表が待ち遠しいところです。実証実験の成果に大いに期待です!

記事執筆:こば


■関連リンク
エスマックス(S-MAX)
エスマックス(S-MAX) smaxjp on Twitter
S-MAX - Facebookページ
スマートブイを用いたスマート漁業実証実験を開始-KDDI総合研究所ニュースリリース