もはや切っても切れない「スマホゲームと課金ガチャ」の関係について考える!

既報通り、グーグル(以下、Google Japan)は4日、2017年に日本のGoogle Playにおいて最も人気を集めたアプリやゲームを発表する「Google Play ベスト オブ 2017」の表彰式を開催しました。表彰式ではエンターテイメント部門やソーシャル部門、イノベーティブ部門などさまざまな部門が用意され、また今年からユーザーによる人気投票を反映したユーザー投票部門も新設されてゲームやアプリの大賞が選考・表彰されました。

ゲーム部門ではCraft Eggの「バンドリ! ガールズバンドパーティ!」がアトラクティブ部門の大賞とユーザー投票部門のゲーム大賞をダブル受賞するなど、今年も新たなゲームの登場がゲーム業界を沸かし、大いに盛り立ててくれました。

かくいう筆者も毎日スマートフォン(スマホ)でゲームを楽しむ1人ですが、スマホゲームを遊んでいていつも悩ましく感じてしまうのは「課金」の瞬間です。筆者の大好きなガンホーの「パズル&ドラゴンズ」(以下、パズドラ)でも毎週のようにイベントが組まれ、ゲームを楽しむためには課金による継続プレイや有料ガチャで排出される強力なモンスターを手に入れる必要があります。

ここで常に問題視されるのが「有料ガチャ」や「課金ガチャ」と呼ばれているものなのは皆さんもご存知の通りです。ガチャの名の通りそこで手に入るキャラクターやアイテムは一定確率となっており、運次第ではたった1回で手に入ることもあれば、運が悪いと何十回も課金しなければいけない場合もあります。

この課金システムがいわゆる重課金や廃課金といった問題を起こしているわけですが、これだけ問題とされながらもなぜゲームメーカーは自粛や自主規制の方向へと進められないのでしょうか。また中毒的に課金ガチャへ依存してしまうユーザー心理に解決策はないのでしょうか。

感性の原点からテクノロジーの特異点を俯瞰する「Arcaic Singularity」。今回はゲーム内課金にまつわる問題点とこれからについて考えます。

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ユーザーからの熱い支持によってゲームは支えられている


■誰だって「ゲーム」がしたい!
現在のスマホゲームの主流は、ゲーム本編(ゲーム本体)を無料で配布しゲーム内課金によって継続的にゲームをプレイしてもらうことで収益を上げる仕組みがほとんどです。最近ではゲーム内で定期的に広告を表示し、それを半ば強制的にクリックさせることで収益を得る形のゲームなども登場してきていますが、まだまだ主流ではありません。

なぜゲームメーカーはゲーム本体を正当な価格で販売せずに無料で配布し、オンライン通信を必須とするにも関わらず、月額課金にもせずにゲーム内の課金ガチャという不安定な収益源に頼るのでしょうか。理由は簡単です。「ユーザーを取り込みやすく、そして煽りやすく熱中させやすい」からです。

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ユーザーは都合の良いように煽られている?


いきなり非常に辛辣な意見を述べましたが、根本にある方向性や戦略に間違いはないでしょう。ゲームを買い切り型にしてしまえばサーバーの維持などに必要なランニングコストは賄えないため、そのような販売方式は絶対に取れません。かといって月額課金の方式を取ると収益の安定性や中~長期的な経営戦略が成り立つはずですが、そもそもユーザーが月額1,000円や2,000円といった数字を見せられた時、素直にその金額を払ってゲームをプレイしてくれる人がどれだけいるのか大きな疑問が残ります。

かつてパソコン(PC)向けのオンラインゲームが隆盛を誇っていた頃でも月額利用料金の高さに躊躇する人は少なくなく、オンラインゲームのブームが終わる頃には月額課金方式に限界が来ており、より集客しやすい「基本無料のアイテム課金方式」へと切り替えるゲームメーカーも多数ありました。

ゲーム内課金のユーザー訴求はとても簡単です。ユーザーが欲しくなるようなアイテムやキャラクターをたくさん並べ、射幸心を煽るのです。「あのキャラクターがかわいいから欲しい」、「この武器は物凄く強いからどうしても手に入れたい」……そういった感情をうまく操ったのです。

2015年には、DMMがリリースしたオンラインゲーム「FLOWER KNIGHT GIRL」において「プレイヤーがじゃぶじゃぶ課金したくなるような射幸心を煽りまくる説明文章」という開発者向け文章をそのまま掲載したゲーム画面が表示されてしまい、ネット上で大炎上する問題なども起きました。

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懐かしささえ感じるこの画面が意味するところは深い


ゲームを販売・運営する側としてのこの発言は大きな問題となりましたが、しかし一方で真を映している面もあります。基本無料という間口の広さからユーザーは手軽にゲームを試すことができ、そこで面白いと感じたなら継続してプレイする(≒さらにゲームを楽しむ)ためにゲーム内で課金をして新たなキャラクターやアイテム、もしくはシナリオなどを購入します。そのためにユーザーに魅力的なコンテンツを提示することは当然であって、魅力のないキャラクターやアイテムを買おうなどと思うユーザーはいないのですから。

上記のDMMのゲームの場合、それが行き過ぎた例として表面化してしまったことが大きな問題だったのです。適正な価格で適正にゲームの対価を得る。それであれば何の問題もないはずです。しかし多くのゲームメーカーはその後もDMMを非難できないほどに異常とも思える課金体制でユーザーに課金を強いるようになります。それはなぜでしょうか。

■セールスランキングの功罪
Google Playなどでは、ゲームやその他のアプリを一定期間の売上ごとにランク付けするサービスがあります。一般に「セールスランキング」などと呼ばれるものですが、このセールスランキングがゲームの本質とゲーム内課金を大きく歪めている可能性があります。

ゲームの面白さとセールスランキングが直結しているのはゲームが買い切り販売か、もしくは月額課金による継続利用の場合です。ゲームの初回売上などは単なる前評判で計上されるかもしれませんが、その後のロングランセールスなどは口コミによる評判やユーザーレビューなどの評価が大きく影響します。また月額課金ゲームの場合、そのゲームを長期間遊んでも面白い、もしくは飽きないというユーザーが多くないことには課金収益を維持できません。

これがゲーム内課金ではどうでしょうか。ゲームの面白さが重要なのは変わりませんが、それよりも大きなウェイトを占めるのは「課金額」そのものです。たとえ少数のユーザーでも多額の課金を行いそのゲームをプレイしたとしたら、そのゲームはセールスランキングのトップに躍り出るかもしれないのです。それは果たしてゲームの面白さとイコールで繋いで良いのでしょうか。

事実、ゲームのファンサイトや大手掲示板などではユーザーによって常にセールスランキングが追いかけられ、これからはFGOの時代だとか、もうパズドラはオワコン(落ち目)だとかとさまざまに意見が飛び交います。そのコメント1つ1つはブラックユーモアやジョークのつもりで書いているのかもしれませんが、実際に「このゲームはトップセールスだから面白いに違いない」とか、「このゲーム売り上げ落ちてきたらもうオワコンだな」と考える人は少なくないのです。

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売り上げトップのゲームアプリは本当に面白いゲームなのか?


セールスランキングが与える問題はユーザー側のみにとどまりません。ゲームメーカーも当然その数字を追いかけることになり、自社としての収益は十分に上がっているのにセールスランキングが伸びないことからユーザーに「このゲームは売れていない」と感じられることを恐れ、さらに無茶な課金要素や極端に排出率を下げた課金アイテムを投入しようとします。それによってユーザーは「いくらガチャを回しても欲しいアイテムが出ない」といった状況に陥り、俗に「闇ガチャ」などと呼ばれるほどの重課金体制に陥る場合があります。

そしてまた、この加熱したランキング争いが企業経営そのものにも打撃を与えます。爆発的な短期売上を計上することは企業にとって良いことばかりではありません。その年度の決算は華々しい数字に囲まれますが、今度は次年度の決算に追い立てられます。もしここで前年比-50%などというような数字を叩き出そうものなら株主が黙っていません。もしその下がった収益で黒字だったとしても企業として叩かれてしまうのです。

つまり、ユーザーの射幸心を煽り焼畑営業のようにユーザーから搾取して得た収益をさらに超える数字を株主は求めるのです。これではユーザーの射幸心を煽り続け、ひたすらに「ARPPU(有料ユーザー1人あたりの平均収益額)」を引き上げ続けなければいけません。これらの原因によってゲームメーカーは意図していようといまいと、課金ガチャによる搾取体制を強めていかざるを得なくなるのです。

この問題が最も深刻化し社会問題化したのは2015年から2016年あたりで、とくに2015年から2016年にかけての年末年始に各ゲームで行われたガチャイベントでは数十万円を投入しても欲しいキャラクターが出ないといったニュースが飛び交い、ゲーム業界団体「日本オンラインゲーム協会(JOGA)」が2012年に策定したゲーム内課金に対する自主規制案としての運用ガイドラインの周知徹底を再度確認したり、ユーザーに向けて「オンラインゲーム安心安全宣言」を公開するまでに深刻化しました。

JOGAガイドライン - 一般社団法人 日本オンラインゲーム協会


こういった事態を受けてなのか、それとも別の意図があってなのかは分かりませんが、AppleのApp Storeでは「iOS 11」以降、セールスランキングの項目が削除されました。一方で有料アプリ、無料アプリのダウンロードランキングは現在も存在しています。筆者としては、同じランキングであってもこちらの方がより健全で市場評価をより正確に反映しているのではないかと考えるところです。

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ダウンロードランキングなら多少は信頼できるかも?


■ゲームを長く楽しめる環境づくりを
現在のゲームはかつてのファミコンソフトのように「売っておしまい」といった買い切り型ではなくなっています。高度化するゲーム性やグラフィック要素は開発費の高騰を生み、パッケージ価格として数千円程度で販売するだけでは利益を上げにくい状況に陥っています。そのためダウンロードコンテンツやゲーム内課金アイテムなどによって追加収益を狙うわけですが、そこでもまたオンライン対応のためのシステムやセキュリティー対策が必要となり、サーバーの運用費などで多額が投じられることになります。

まるでいっちごっこのように収益を求め続けなければいけない体制が現在のゲーム開発の根底にあるため、課金ガチャなどでユーザーの射幸心を煽り収益を上げ続けたいと考えるのも理解はできます。しかし、収益の追求だけで本当に面白いゲームはユーザーに届くのでしょうか。

かつてパズドラがヒットした時、ガンホーは「ポカポカ運営」と称して自分たちの課金システムの在り方をプレゼンしたことがあります。無課金でも長く楽しめるゲームデザイン、アイテムで釣るようなインバイト(誘導)は行わない、1人当たりの月間課金額はパッケージソフトの価格以下に抑える、といったゲームの運用戦略です。果たしてその志とも言える運営方針は現在守られているでしょうか。お正月イベントの課金ガチャに20万円以上を投入し、欲しいキャラが出なかったと肩を落とすYouTuberの姿を見て「それは自己責任だよ」と切り捨てるのみで良いのでしょうか。

そこにお金を払う人がいるのだからいくらでも使わせて良い、という考え方を基にしたオンラインゲームの運営戦略はそろそろ終了した方が良いかもしれません。安定したゲーム運用と長期的に楽しませる仕組みを作らなければユーザーは疲弊し、ゲームの面白さ以前に「もうお金がないから遊べない」、「廃課金しないと楽しめないから遊ばない」という状況に陥りかねません。近視眼的な利益の追求が業界全体を凋落させてきた事例など山ほどあります。ゲームを愛する筆者だからこそ、スマホゲームの未来がそのようになることだけは見たくないところです。

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できることならゲームは「ゲーム」として純粋に楽しみたい


記事執筆:秋吉 健


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