個人情報ビジネスとその実態について考えてみた!

3月半ば頃、世界を震撼させるある事件が起こりました。Facebookの個人情報流出事件です。もはやここでその詳細を書くまでもないほどにネット上にはニュースが溢れ、さまざまな論調の考察記事が掲載されました。

あれから1ヶ月ほどが経って状況は落ち着きを見せていますが、一度流出した情報は二度と元の鞘には収まらないのがインターネットの恐ろしい点です。単なる誹謗中傷や罵詈雑言であればいずれはネットの情報の海に埋もれ、忘れ去られるだけの存在ですが、個人情報ともなると世界は黙っていません。何しろそれは「金(カネ)のなる木」だからです。

みなさんは自身の個人情報をどこまで管理し、制御し、そして「覚悟」しているでしょうか。もしくはどこまで企業や営利団体に知られ、利用されていると考えているでしょうか。感性の原点からテクノロジーの特異点を俯瞰する「Arcaic Singularity」。今回は企業による個人情報の扱い方の変化や個人による防衛策について考えます。

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いま入力したその情報、悪用されても大丈夫ですか?


■個人情報は「カネになる」
Facebookの個人情報流出でキーとなったのは「診断アプリ」です。日本でもこの手のミニ占い的なアプリは昔から人気で、真面目な自己診断アプリからジョークアプリまでFacebookに限らずTwitterやLINEなどで話題のネタとして気軽に楽しまれる傾向があります。

Facebookの事件の場合、この診断アプリを利用したユーザーとそのフレンドの個人情報が第三者の手に渡ったことで大きな問題となりましたが、これはアプリが不正に入手した情報だとかアプリにマルウェアが仕掛けられていたといったようなことではありません。アプリ利用のために正規の手続きでユーザーが個人情報の取り扱いを許可した結果がこのような事態を生んだのです。

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データ解析企業ケンブリッジ・アナリティカによるFacebookの個人情報流出を報じたニューヨーク・タイムズの第一報


そもそも、こういった個人情報流出はなぜ起こるのでしょうか。ざっくりと結論を言ってしまえば、それは「金になるから」です。世界が情報社会と呼ばれるようになって久しい昨今、個人情報は無限に利益を生み出す「金の源泉」もしくは「金のなる木」となっています。

仕組みは簡単です。人は生活や趣味、あるいは仕事のためにさまざまな行動をします。その行動の多くは費用が掛かり、どこかで何かを購入します。単なる移動であっても交通費が掛かります。そのような消費行動の1つ1つが個人情報と結びつくことで「この人物は最近頻繁に住宅物件情報を検索している」とか「休日は必ず都市部へ外出し映画を観ている」といったような分析が行われ、その人の趣向や行動に合わせたWeb広告の展開やメールマガジンの発行などで、企業はその消費行動を自社収益へとつなげるのです。

Facebookの事件の場合、それは消費行動ではなく「人のつながり」に価値を見出されて米国の選挙活動に利用されましたが、大局的な意味合いはほぼ同じです。個人を特定し友人関係や人脈を掌握することで選挙を有利に動かそうと企んだのです。

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人々の行動の掌握とその利用はどこまで許されるべきか


■個人を特定しない消費行動の掌握
Facebookの事件が世界を揺るがすレベルの大問題に発展した背景には、Facebookの利用が原則的に実名登録であり、個人情報そのものを利用するサービスだったからですが、日本を含め世界ではもっと安全な消費行動の掌握システムが現実的に利用されています。それがビッグデータです。

ビッグデータという概念や言葉が使われ始めたのは意外と古く、2000年頃にはすでに活用が始まっていたとされています。そもそもビッグデータとはその名の通りに「巨大なデータの集合体」を意味し、データ1つ1つの分析や個体特定を目的としていません。全体を「量」として扱い、その量の動きや変化を見るのです。例えるならパチンコ台の上から大量のパチンコ玉を落とし、その動きを見るようなものです。パチンコ玉1つ1つの動きを見るのではなく、釘の位置を変えたらどう動くのか、台を傾けたらどう動くのかを俯瞰しそこに法則性を見つけ出すのです。

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個人の消費行動ではなくそこに集まる「人々」の消費行動を探るのがビッグデータの役目だ


■ポイントカードとビッグデータ
このビッグデータという考え方は、個人情報を表に出したがらない日本人の気質に非常にマッチしたものでした。自己アピールや主張を避けインターネット上でも匿名性を好む傾向がある日本人にとって、Facebookのような実名登録とその公開を前提としたシステムはビジネス以外では好まれない印象があります。

そういった国民性や昨今の個人情報取り扱いの厳格化から、個人情報と紐付けしつつも個人情報そのものは動的に扱わないポイントシステムの利用が日本では広く普及し、コンビニエンスストアやスーパーマーケットなど、ありとあらゆる場所でポイントカードが発行されることとなります。

ポイントシステム自体は元々ビッグデータと関連付けられたものではありませんでした。利用者にはポイント還元という形でお得感を出しつつ自社のエコシステムに囲い込むための施策として始まったものですが、これがビッグデータと非常に相性の良いシステムだったのです。

「誰が何を買った」というような個人の購買を特定するのではなく、いつ、どこで、何曜日の何時に、どんな天候の場合、何が多く売れるのか、といったようなデータを手に入れるのにポイントが利用されるのです。そのデータ活用の起源を辿ればコンビニエンスストアのPOSシステムなどに行き当たるでしょう。POSシステムは商品の管理システムですが、そこにポイントサービスの利用頻度やポイントキャンペーンなどの効果を重ね合わせることで、さらなる収益力の向上や潜在顧客の発掘に活用しようというのが大きな目的です。

またポイントシステムはPOSシステムと違い利用できるパートナー企業を増やすことが簡単です。そこに紐付けされた個人情報は自社内で厳重に管理しつつ、ポイント利用の有無だけを共有することができるからです。そのため日本の小売業界や流通業界ではポイント利用の共通化が進み、小売店舗の大規模化と相まって巨大なビッグデータ集積システムが構築されていったのです。

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ポイントシステムは小売業界の命綱にすらなっている


■個人情報は個人の側がリスクマネージメントする時代へ
先日もNTTドコモがマツモトキヨシと提携し、同社のポイントサービスである「dポイント」の利用範囲拡大を発表しましたが、こういった業務提携や協業の流れは今後も加速していくものと考えられます。個人情報そのものの動的価値は陳腐化し、「誰が何を購入するのか」ではなく「どのような場所で何が売れるのか」という大局観的な視点でのマクロビジネスが主体となっていくのは確実です。

しかし、そうは言っても企業が個人情報を捨てたり個人情報の時代が終わったと考えているわけではありません。単にその利用が直接的ではなくなるというだけで、個人情報はこれからも変わらず「金のなる木」であり続けます。企業は個人情報をどれだけ集め、それを基としたビッグデータをどれだけ手にできるのかに躍起になり奔走するのです。

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ビッグデータの活用は業界の垣根すら飛び越える


Facebookの事件後、インターネット上には企業による個人情報の管理のあり方や消費者自身による身の守り方をレクチャーする記事が多く掲載されましたが、何かのサービスを利用するために入力した情報は、いずれどこかで必ず流出するものだと覚悟するほかないのが実態です。強いて言うならば、その情報は流出しても大丈夫なのか、仮に流出し拡散したとしてどこまでの拡散であれば許容できるのかをよく考えリスクマネージメントしていく以外に防衛策などありません。それすらも拒否するならばサービスを利用しないか、嘘の個人情報を書き込むしかありません(しかし、それは利用規約違反であることが多い)。

記事執筆などでペンネームではなく実名を使うようになった筆者としては、個人情報の外部流出などはもはや気にしても仕方がない状況ですが、しかしそれは相応の覚悟があっての行動です。何も知らないままに個人情報が利用されるのとは意味が違います。

これからの時代、人々は個人情報の在り方とどう向き合うべきなのでしょうか。少なくとも無料サービスやユーザー特典に釣られて何も考えずに次々と個人情報を登録するのは控えるべきかもしれません。そもそも、営利企業の無料サービスが真に無料であるはずなどないのです。ユーザーが無料で利用できるのには必ず理由と仕組みがあります。そのマネタイズやエコシステムをある程度正しく把握しておくことが重要なのです。

みなさんもお暇な時に、ぜひ一度オンラインサービスやポイントサービスの登録状況を見直してみて下さい。使っていないオンラインサービスや利用頻度の少ないポイントサービスは、もしかしたらメリットよりもリスクのほうが大きいかもしれません。

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タダより高いものはない……かもしれない


記事執筆:秋吉 健


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