バーチャルアイドルたちを生み出した技術とその魅力について考えてみた!

みなさんはバーチャルアイドルというものをご存知でしょうか。いわゆるYouTuberとしての動画配信や生放送をアニメライクな2次元キャラクターのアバターを通して行うというもので、「バーチャルYouTuber」(略してVtuber)だとか、ニコニコ動画などでの活動をしている人も含めて「バーチャルLiver」(略してVliver)などと呼んだりします(ここでは総称としてバーチャルアイドルに統一)。

そのブームの起源とされているのはバーチャルアイドルのキズナアイさんで、2016年6月から活動を開始、筆者がその名前を知ったのは2016年の秋~冬頃だったと記憶しています。その後2017年夏~秋頃からポスト・キズナアイとも呼べるバーチャルアイドルが続々と誕生し、2017年~2018年の年末年始を境に爆発的にその数は激増しました。今やYouTube、ニコニコ動画などで活動するバーチャルアイドルの数は3000人を超え、筆者もキズナアイさんをはじめ数名の方の生放送や動画配信を日々楽しんでいます。

感性の原点からテクノロジーの特異点を俯瞰する「Arcaic Singularity」。今回はそんなバーチャルアイドルたちにスポットを当てつつ、その活動や普及を後押しした技術や文化、そしてその魅力について考えてみたいと思います。

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バーチャルアイドルが日本中でブームとなった理由とは


■飽きられ始めたYouTuber番組
バーチャルアイドルたちが動画コンテンツとして流行り始めるのには必然性があったと筆者は考えます。そもそもYouTuberというカテゴリーが日本に登場したのは恐らく2010年頃。あのHIKAKIN氏が初めてYouTubeへ動画を投稿した2007年には、まだYouTubeで広告収入を得て動画配信をコンテンツ化しようという流れはほとんどなかったと記憶しています。

2012年にもなるとSeikin氏やはじめしゃちょー氏がチャンネルを開設し、いよいよYouTuberの黄金期へと突入します。その後の隆盛はみなさんも知っての通りかと思いますが、ブームの拡大とチャンネル数の急増はコンテンツ全体としての供給過多を生み、視聴者の「飽き」も含めて淘汰の時代がやってきます。

とは言え、もちろんYouTuber番組が完全に廃れてしまったわけではなく、また動画視聴者の多くは動画そのものに飽きてしまったわけではありません。飽くまでも「定番化」や「マンネリ化」による疲れの状態であり、人々が1つのテレビ番組に飽きてもチャンネルを変えて別のテレビ番組を探すような行動が動画配信の世界でも起こったのです。それがバーチャルアイドル番組です。

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「〇〇をやってみた!」的なコンテンツと番組の乱立は観る人に疲れを感じさせてしまった


■バーチャルアイドルが持つエンターテインメント性
バーチャルアイドルと言っても、そのほとんどはAIで自動応答したり会話をするような高度なものではありません。いわゆる「中の人」がモーションキャプチャーによってアニメ的な3Dキャラクターのアバターを通して表示されているだけなので、そこにいるのは間違いなく「人間」なのですが、しかしそれが不思議なことにアニメキャラクターの見た目になると、ただのゲーム実況動画であってもリアルな人間が笑ったり叫んだりしながらプレイしているよりも妙に面白く感じてしまうのです。

この感覚はアニメを観ている感覚やオンラインゲームを遊んでいる感覚にとても近いのです。人間が操作している、もしくは声を当てていることは知っていながらも、アニメ番組やゲームを非現実の世界として人々が楽しめるように、バーチャルアイドルたちも同様の視点で観ることができるのです。そのため、見た目は可愛らしい女の子なのに声はオジサンそのもの、という一種異様なキャラクター性が逆に受けてしまったバーチャルアイドルすら存在するのです。

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“ギャップ萌え”の極地とも呼べる「バーチャルのじゃロリ狐娘Youtuberおじさん」。ちなみに2018年7月現在で28万人ものチャンネル登録数を誇る大人気キャラである


またリアルタイム配信による生放送番組などは、勉強やゲーム中などに「ながら聴き」で楽しむという懐かしい深夜ラジオ的な楽しさもあり、すでに動画である必要性すら超えているチャンネルも複数あります。バーチャルキャラクターであることが売りであるにもかかわらず、「中の人」の個性で楽しませる段階に早くも進み始めているのです。

この複数に混在した感覚こそが従来のYouTuberなどにはなかったエンターテインメント性でしょう。YouTuberたちは、むしろ「生の人間」が無茶なことをしたり、突拍子もない企画をテレビのお笑い番組的に行うことに意義があったわけですが、バーチャルアイドルたちはアニメを視聴するような楽しさであったり、アイドルを愛でる幸福感であったり、オンラインゲームのフレンドが演じるキャラクターとの会話であったり、果てはラジオのパーソナリティ的な面白さであったりと、観る人によってさまざまな楽しみ方が生まれたことにブームのきっかけがあったように思います。

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オンラインゲーム廃人の筆者はバーチャルアイドル番組をゲーム内フレンドとボイスチャットをしているような感覚で視聴している(画像は「FINAL FANTASY XIV」。 Copyright(c) 2010 - 2018 SQUARE ENIX CO., LTD. All Rights Reserved. )


■あなたも今日からバーチャルアイドルになれる
こういったバーチャルアイドルの一大ブームの裏にはモーションキャプチャー技術(フェイスキャプチャー技術)とそれを用いたアプリの成熟や普及があります。その導入に際して特別な機材は必要としません。ウェブカメラとアプリさえあれば誰でもバーチャルアイドルになれるのです。

具体的には「FaceRig」(フェイスリグ)といったアプリがあります。このアプリはPC向けのゲームプラットフォーム「Steam」にて1,480円(税込)で販売されており、アプリを利用してアバター動画を作成できるほか、SkypeやTwitch、Hangoutsなどのオンライン配信アプリと連携させてリアルタイム配信なども行えます。

またFaceRigのようなアプリ用の3Dキャラクターを無料配布したり製作依頼を受け付けているクラウドソーシングも盛んになっており、一般人がバーチャルアイドルを体験するための敷居も非常に低くなってきている印象です。

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技術的な知識がなくても簡単にアバターを動かせる


それだけではありません。今やスマートフォン(スマホ)さえあればバーチャルアイドルになれてしまう時代なのです。iOS用アプリ「ホロライブ」ではインカメラを用いて実際に画面上に表示されたバーチャルキャラクターを動かすことが可能ですし、「FaceVTuber」というウェブアプリであればPC・スマホを問わずブラウザだけでバーチャルアイドル体験ができます。


S-MAX:Vtuberになれるアプリ「ホロライブ」テスト動画

動画リンク:https://youtu.be/-9kbUGxU7GQ


S-MAX:ウェブアプリ「FaceVTuber」テスト動画

動画リンク:https://youtu.be/CX9bDbEZwmQ

もはやバーチャルアイドルとは観て楽しむだけのものではなく、自分たちが一緒に遊んで楽しめるコンテンツなのです。そしてその敷居の低さこそが爆発的にバーチャルアイドルを増やした理由でもあり、視聴者と配信者との距離を縮めている理由でもあるのです。

最近ではバーチャルアイドルを等身大で楽しむ派生コンテンツとして「VRChat」といったものも存在します。これはMMO系のオンラインゲームと似ていますが、ユーザー自身がVR空間にバーチャルキャラクターを表示させ、直接その空間上でほかのバーチャルキャラクターたちと会話やコミュニケーションを楽しむといったものです。

それまで動画配信サイトの中でしか観られず、リアルタイム配信での会話といってもごく限られた条件の中でしかできなかったバーチャルアイドルとのコミュニケーションをVR空間で別け隔てなく行えるという体験は、人によっては一度ハマると抜け出せなくなるほどの魅力を持っていることでしょう。そもそも、自分自身がバーチャルアイドルの仲間入りをしてしまうということ自体が変身願望の究極とも言えます。

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VRChatの楽しさはオンラインゲームの延長線もしくは進化した先とも言える


また現在のバーチャルアイドル界隈では各キャラクターのプロダクション化や企業による事業化も加速しています。

例えばiPhone X専用アプリである「にじさんじ」を提供する「いちから」では、同アプリを利用したバーチャルライブ配信を行う「公式バーチャルライバー」の募集やオーディションを定期的に行っており、30名を超えるバーチャルアイドルを運営する企業に発展しつつあります。

「にじさんじ」アプリは現在一般公開されているアプリではありませんが、iPhone X搭載の「Animoji」機能を利用したアプリとして提供が予定されています。

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いちからのアプリ「にじさんじ」の一般公開が楽しみだ


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筆者イチオシのバーチャルアイドル「ドーラ」さん。こういった新しい配信者の掘り起こしの楽しみは、ライブアイドル(地下アイドル)にハマる人々の気持ちに通じるところがある


ドワンゴもS-courtと共同開発した「カスタムキャスト」というVtuberになれるスマホアプリを配信予定で、Android版は8月下旬より、iOS版は未定ながらも配信準備中としています。

カスタムキャストではヘアパーツやコスチュームなどをユーザーが自由に選んで好みのバーチャルキャラクターを作成でき、AR機能によって背景を合成したり作成したキャラクターでリアルタイム配信を行うことができます。またniconicoの3D投稿共有サービス「ニコニ立体」との連動によって作成したキャラクターデータの配布も可能です。

こういった各社のスマホアプリが公開されれば、ますます一般ユーザーとバーチャルアイドルの垣根はなくなっていくでしょう。

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ドワンゴらしい機能の充実ぶり


■そしてバーチャルアイドルは浸透していく
バーチャルアイドルというと、オジサン世代としてはサブカルチャーに対する深い造詣と鋭い批評で一世を風靡したウェブサイト「バーチャルネットアイドル ちゆ12歳」を真っ先に連想してしまったこともありましたが、そのちゆ12歳さんもつい最近バーチャルアイドル化したとの話を聞き「まだ生きとったんかワレ!」とパソコンモニターの前で卒倒しそうになったのはここだけの秘密です。

またニトロプラスのイメージキャラクターとして長年親しまれている「すーぱーそに子」さんも今年に入ってバーチャルアイドルとしての活動を始めるなど、「バーチャルアイドルは収益コンテンツになり得る」という認識の下、さまざまな方面から従来のキャラクタービジネスの延長線として利用され始めている傾向も見て取れます。

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バーチャルアイドル化してもやっていることはオンラインゲームの歴史考察。ブレないちゆ12歳さんである。ついでに中の人すらいない(合成音声)


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すーぱーそに子さんは正統派のアイドル活動といったところ


個人のアイデア勝負といったユニークコンテンツからはじまったバーチャルアイドルは人々の口コミで拡がり、今や動画配信業界の話題の中心とも言える存在になりました。

このブームまでの流れやその後のバーチャルアイドル乱立、そしてコンテンツとしての消費速度の高さなどはある意味YouTuberと似通っており、今後数年でブームが終わってしまう可能性も感じられますが、しかし前述したようにバーチャルアイドルにはアニメやゲームと言ったサブカルチャーとの親和性の高さも見られ、バーチャルアイドルの淘汰こそ起きても普遍的なコンテンツとして残り続けるように思われます。

もしまだバーチャルアイドルという存在を知らない方や動画では一度も観たことがないという方は、ぜひ一度YouTubeなどで検索して視聴してみてはいかがでしょうか。アニメともゲームとも、そして従来のYouTuberとも少し違った新しい楽しみ方を見つけられるかもしれません。

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もしかしたら、明日にはあなたがバーチャルアイドルとしてデビューしているかもしれない


記事執筆:秋吉 健


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