モバイル機器の保証サービスについて考えてみた!

先日、いつものように取材先でカメラを構えて撮影しようとしたところ、なにやらレンズのズームが効きません。筆者が取材で愛用しているのは一眼カメラではなく、コンデジのサイバーショット「DSC-RX10M4」(トップ画像のカメラ)なので、ズーム操作は電動なのですが、それが動かないのです。

その時は電源を入れ直すことでひとまず直りましたが、後日自宅で撮影作業を行おうと電源を入れたところ、ついに何をやっても直らなくなってしまいました。今回故障したカメラは通常の1年保証に加えてオプションの3年保証を付帯させていたため、保証期間内の修理が受けられそうでホッとしました。

カメラに限らず、道具というものはいつか壊れます。とくに普段から持ち歩くモバイル機器の場合、誤って落としてしまったり何かにぶつけて壊してしまうことは日常茶飯事です。道具のコストや費用対効果を考える際、その故障リスクなども念頭に入れておかなければいけないことは多々あります。

今ではその代表とも言えるのがスマートフォン(スマホ)ですが、人々は意外とその扱いに気を使いません。筆者はスマホに傷1つ付けないように丁寧に扱うタイプですが、筆者の友人の中には「スマホは買って3日以内に必ず落としちゃうんだよね」と笑い話にする人もいます。

感性の原点からテクノロジーの特異点を俯瞰する「Arcaic Singularity」。今回はスマホの保証サービスやサポート体制を中心に、モバイル機器の故障とその保証をめぐる環境変化について考えます。

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スマホの画面がバッキバキの人、結構いますよね


■統計に見るスマホの扱い方
オークネット総合研究所が2018年1月に公開した「携帯端末(電話)の修理に関するアンケート」(PDFファイルにつき表示注意)によれば、過去2年の間に、使用している携帯端末の破損・故障・不具合などがあったと答えた人は約3割となっており、その男女比はあまり差がありません。

一方で、年代別に故障の有無を見てみると、10代での故障の割合が有意に多く、携帯端末を他の世代よりも頻繁に利用していることや、その扱いが若干「雑」であることが推察されます。

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高年齢層の故障率の低さは端末の使用頻度の低さも関連しているだろう(アンケートより引用)


また注目すべきは新品と中古での故障率の差や、大手移動体通信事業者(MNO)が販売するスマホと格安スマホ(≒SIMフリースマホ)での故障率の差です。

アンケートでは新品よりも中古端末のほうが故障率が低く、さらに大手MNOが販売するスマホよりも格安スマホのほうが故障率が低いという結果になっています。一見すると「中古スマホや格安スマホのほうが壊れやすいのでは?」と考えがちですが、この結果はモバイル機器を扱うリテラシーの差かもしれません。

中古スマホや格安スマホを購入する層はある程度スマホに精通している人が多く、購入する際もある程度のリスクを覚悟しています。そのため端末を大事に扱ったり「故障しない扱い方」を心得ている場合が多く、結果として故障率が下がっている可能性があります。

昔からPCの扱いに疎い人が「何もしてないのに壊れた」と言うのを揶揄する逸話などがよくありますが、同じことがスマホにも言えるのかもしれません。

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モバイルリテラシーの違いは端末の故障率にも現れる(アンケートより引用)


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故障の内訳は男女ともに「画面割れ」がトップだ(アンケートより引用)


■大手MNOの手厚い保証サービス
モバイル機器の故障や破損の際にありがたい存在が保証サービスです。例えばスマホの場合、ほとんどが1年間のメーカー保証となっていますが、大手MNOでは月額数百円を支払うことで、保証期間の延長、代替端末の無料貸出、修理代の一部を無料もしくは大幅値引きなど、充実したサポート体制を取っています。

これが格安のSIMフリースマホや中古スマホの場合、基本的にメーカー保証しか付きません。販売店によっては1ヶ月間のサポートサービスなどが付く場合もありますが店舗によって保証内容がまちまちであり、さらに保証内容も薄いことからサポートを頼りにした購入は大きなリスクを伴います。

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NTTドコモの「ケータイ補償サービス」は、最近のスマホの場合月額500~750円程度


こういった「多少値は張るが手厚い保証」を謳ったサービスは、モバイルリテラシーのあまり高くない層や初めてスマホを手にする10代の若者にとって、大手MNOで契約する際の最大のメリットになると筆者は考えますが、この手厚い保証が今後受けられなくなる可能性が出てきたのです。

それは1月17日に総務省が緊急提言として取りまとめた「完全分離プランの義務付け」による業界全体の変化です。

■割を食うモバイルリテラシー弱者
この緊急提言のメリットやデメリットについては以前このコラムでもお伝えしましたが(こちらの過去記事を参照)、端的に言えば「通信料金と端末販売が別々になり、全ての料金をパック化したサポートサービスも分離される」という点が大きな問題です。

基本的に大手MNOのサポートサービスは通信料金や端末代金を全てまとめているからこそ、包括的な割引が可能であったり比較的安価な保証サービスの提供が可能なのです。これが完全分離化されると、端末の保証は端末の販売利益から行わざるを得ず、少なくとも現在よりも保証範囲や保証内容が縮小する可能性があります。

とくに懸念されるのは端末を長期で利用するユーザーへの保証の低下です。現在の料金体系では端末の割引や購入額の補填を通信料金から行っているために、端末を長期間機種変更していない人ほど不利益を被っているというのが一般的な見解です。

しかし、その保証サービスやサポートもまた包括的な料金徴収からの補填によって行われていることから、通信料金と端末代金が分離した場合に保証の個別化が進み、端末を長期間買い替えていないユーザーは保証が更に薄くなり、修理代金などが高額化する可能性もあるのです。

前述のアンケート結果のように、格安のSIMフリースマホや中古スマホでも問題なく使いこなせる層には何も影響はなく、むしろ通信料金の低廉化というメリットだけを享受できる良い施策ではありますが、視点をモバイルリテラシーのあまり高くない層へと移してみれば、むしろサポート体制の縮小というデメリットやリスクが拡大することにもなりかねません。

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通信料金が安くなってもサポートサービスの月額料金が高くなったのでは本末転倒だ


また総務省は中古スマホのSIMロック解除の義務化も検討しています。その目的は端末販売の完全分離化とも密接に関わっています。

大手MNOがSIMロックを行う理由の1つに、現在の販売方式が端末代金を通信料金で補填する形であるために、ユーザーが購入した端末を勝手に他社で使われてしまっては補填分を回収できなくなり、赤字となってしまうのを防ぐというものがあります。このSIMロックを中古業者などが自由に解除できるようにすることで、端末と通信料金の支払い方法を完全分離せざるを得ないようにしてしまうのが総務省の目的の1つと考えられます。

さらに中古スマホのSIMロック解除の義務化によって中古スマホ市場を活性化させ、料金体系の完全分離化によって高額化を免れない大手MNOが販売するスマホからの移行を促し、スマホ利用者の経済的負担を軽減させようというのもまた目的の1つだと言われています。

しかし、これらの施策を端末故障の観点から俯瞰してみると、果たしてモバイルリテラシーの低い層が中古スマホを使いこなせるのか、という点に突き当たります。

筆者の経験上、モバイル機器に限らず何かに精通して使いこなせる層というのは常に1割程度で、残りの9割近くがあまり知らないか、正しく使いこなせない層であるように思います。通信端末は携帯電話からスマホへと進化し、1人1台が当たり前となった時代に、全ての人々に高いモバイルリテラシーを要求することは無理や無茶を超えて無謀と言えます。

現在の大手MNOの料金体系に歪みが多いという指摘は理解できるところですが、いざその端末が故障した際、自身ではデータのバックアップも取れず、代替端末も持っていない人にどれだけの保証とサポートを提供できるのか、そこも含めた議論が必要です。

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トラブルに遭った時、はじめてサポートのありがたさを知る


■万が一の保証コストを念頭に入れた選択を
筆者はカメラを修理に出しましたが、カメラに追加付帯させていた保証サービス「3年保証<ワイド>」の料金が5,000円であったことを思い出し、わざわざ自宅までカメラを引き取りに来た運送業者を前に「なんて割安な保証サービスなんだ」と改めて実感した次第です。

モバイル機器のコストは、ランニングコストや購入代金のみでは語れません。故障のリスクが高く、その取り扱いにもそれなりに高いリテラシーが要求されるものだからこそ、サポートコストや保証コストも含めて検討しなければいけないのです。

とくにスマホの故障は単なる金銭的損害に留まりません。人との連絡手段が途絶えることによる機会損失や端末へ保存していた情報の損失、経済活動での損失もコストとして考える必要があります。

たかが保証、されど保証。今年後半には総務省の指導や提言により、スマホの販売方式や価格が大きく変わることになります。その時私たちがどのようなプランとサポートを選択すべきなのか、それを正しく判断するための知識は身に付けておきたいところです。

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私たちは端末を修理できない。だからこそ正しい保証の選択が重要だ