通信業界が抱える問題点をおさらいしてみた!

NTTドコモが1月16日にいわゆる「2年縛り」などの定期契約を解約した際に違約金の発生しない月数を2ヶ月間から3ヶ月間へと変更を発表したのを皮切りに、KDDI(au)やソフトバンク(サブブランドのワイモバイル含む)も翌17日付で同様の変更を発表しました。

NTTドコモ、携帯電話や固定通信の料金プランなどにおける定期契約で解約金のかからない更新月が3ヶ月間に延長!2019年3月に満了を迎える場合から - S-MAX
KDDI、auの料金プランなどにおける定期契約で解約金のかからない更新期間が更新月を含む3ヶ月間に延長!2年契約なら24〜26ヶ月目が対象。2019年3月に満了を迎える場合から - S-MAX
ソフトバンクとワイモバイルでも2年契約などの定期契約で解約金のかからない更新期間が更新月を含む3ヶ月間に延長!2年契約なら24〜26ヶ月目が対象。2019年3月に満了を迎える場合から - S-MAX

それぞれの変更の適用は、NTTドコモが2019年3月に定期契約が満了を迎える場合から、KDDIが2019年3月より条件を満たす場合から、ソフトバンクが2019年3月1日より変更となっており、変更期日や適用対象者に細かな差異はあるものの、ほぼ横並びでの改善となりました。

今回の変更は2018年6月に総務省が取りまとめた報告書「モバイル市場の公正競争促進に関する大手携帯電話事業者への指導等」に基づいて行われたものですが、2019年はこういった2018年までに取りまとめられた総務省の指導や要請を基にした料金施策や販売方式の改善や変更が多く見られそうです。

感性の原点からテクノロジーの特異点を俯瞰する「Arcaic Singularity」。今回はこれらの総務省による指導や要請、通信キャリアが抱える問題点などをおさらいしつつ、ユーザーにどのようなメリットやデメリットがあるのかを考察します。

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通信キャリアが打ち出す料金施策や販売戦略はどのように決定されていくのか


■問題山積の「異例」なインフラ業界
通信は今や電気や水道と並ぶ重要な生活インフラですが、これほどまでに総務省から業務上の改善や販売方式の是正などを求められ続けるインフラ業界はほぼありません。過去20年以上にわたる商慣習も含め、歪んだビジネスモデルを引きずったまま現在に至った「ツケ」とも言えます。

前述した2018年6月の総務省による指導の主な項目は以下の通りです。

1. 携帯電話番号ポータビリティ(MNP)の円滑化
2. 加入者管理機能(HLR/HSS)連携機能の提供に係るMVNOの費用負担
3. 貴社の迷惑メールフィルタ設定
4. ネットワーク利用制限の対象端末に関する迅速かつ明確な情報公開
5. 利用者契約における利用期間拘束
6. 利用者による利用実態に合わせたサービス選択
※項目7は報告書にある各項目への対応なので除外。
詳細はこちらのPDFを参照

冒頭に書いた定期契約時の違約金が発生しない期間の延長に関連しているのは項目5です。報告書では平成31年(2019年)3月末までに対応策を講じるようにとの提言があります。

また指導ほどは厳しくないものの、改善を求める「要請」内容としては以下の5項目が挙げられています。

1. 帯域幅の柔軟な変更の可能性
2. 音声卸料金の低廉化等
3. キャリアメールの転送サービス
4. 利用者契約における利用期間拘束
5. 月途中の解約時における日割計算
※項目4についてはNTTドコモへの要請はなし
詳細はこちらのPDFを参照

昨年8月に菅官房長官が発言し波紋を呼んだ通信料金の低価格化についても、すでに6月の時点で要請として挙げられていたものでした。

これらの指導や要請項目の多くは私たち個人契約者が関連する項目が多く、現状の通信業界の商慣習やビジネスモデルが不適切であるとの見解が、少なくとも2018年時点での総務省の総括と考えられます。

そして年が明けて今月17日にも、総務省は携帯電話料金の引き下げ等を議論する有識者会議を開催し、スマートフォン(スマホ)などの端末購入代金と月額料金を完全に分離した「分離プラン」を通信事業者へ義務付ける緊急提言も取りまとめています。

厳しい表現が並ぶ報告書に目を通していると少々行き過ぎた指導や提言なのではないかと感じてしまう部分もありますが、一旦業界の外側に目を向けてみれば、これほどまでに行政からの指導や要請、さらには業務改善命令までチラつかせた緊急提言を受けるような業界は、先にも述べたように異例中の異例です。

通信という莫大な費用がかかるインフラ事業においては、各通信キャリアの言い分やビジネス戦略にも理解できる部分は多くあります。日々その取材を通して通信事業の運営の難しさや安全への取り組み、次世代技術への投資の重要性などを見聞きしている筆者としては、総務省と通信キャリアのどちらが間違っているとかではなく、恐らくどちらにも主張の根拠はあるのだろうというのが素直な感想です。

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総務省による指導が絶対ではないにしろ、事業としての歪みがないのであればそもそも指導が入ることはないはずだ


■メリットばかりの提言ではない
ここで重要なのは、その指導や要請が正しい方向を向いているのか、という点です。砕いて言えば、消費者にどんなメリットがあるのかということです。

例えば定期契約時の違約金発生にまつわる問題点は、これまでは契約満了月であるにも関わらず違約金が発生していたという点です。違約金を回避するためには満了月の月額料金を支払わなければならず、結果としてどのような解約であっても料金が発生する仕組みとなっていたことから改善が求められていたもので、これは純粋に消費者保護の観点と言えるでしょう。

しかし、17日に緊急提言された完全分離プランの義務付けの場合は少し状況が異なってきます。

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通信端末と通信回線のセット割引は“悪”なのか


この提言の根拠となっているのは、端末代金と通信料金を長期の定期契約(割賦契約)を前提としてセット販売することが、消費者の流動性を阻害し企業間の競争が抑制されてしまう点や、不透明な支払総額の設定が容易であることから端末代金が過剰値引きされていたり(不当廉売、不当競争価格の設定)、端末代金の値引きを隠れ蓑として通信料金部分が高止まりする危険性があるという点です。

この点を見るならば消費者には十分なメリットがあるように考えられますが、一方で端末とのセット販売であるからこそ受けられるサポート体制や保障があるのも事実です。

料金体系が完全分離化されれば端末代の大幅値引きは当然無くなり、新品端末の販売総量は大きく落ち込むことが予想されます。それに伴い中古端末市場やSIMフリー端末市場がさらに活気づくもことも予想されますが、通信キャリアが販売していない端末は保証ができず、また故障の際の修理もできません。使い方の案内なども現在は無料で行っているキャリアショップがほとんどですが、そういったサポートも無くなるか、有料となる可能性があるのです。

確かに通信料金の透明性は確保され、端末販売についても正しい市場競争が始まるものと思われますが、過去を振り返れば20年前から通信キャリアのインセンティブを前提とした1円販売や0円販売といった「ばらまき商法」で急成長し、現在でも大幅な値引きと通信キャリアからの補填によって成立している携帯電話市場およびその販売店は大打撃を被ります。少なくとも現在の市場構造は大崩壊を起こすでしょう。

端末代金は大幅に値上げされ、販売店が通信キャリアから分離されることで通信プランを選択する手間が増え、端末の保証は薄くなり、サポートは有料化し、時にはサポート対象外の端末と言われて自己責任で片付けられる事例も増えるのです。携帯電話やスマホに関する知識の薄い人々やITリテラシーの低い人々にとって、これからの通信端末は非常に扱いづらい道具となる可能性があります。

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料金プランの分離化はSIMフリースマホなどを利用する層にとっては良いことづくめだが、世間一般的にはそうではないだろう


■消費者たる私たちにできること
このように、総務省が提言する項目の多くには常にメリットとデメリットが存在します。例えば「通信料金が4割安くなる」などという文字だけを見れば誰でも喜んでしまうところですが、そのカラクリ(仕組み)の部分を知ることが重要なのです。

過去を振り返ってみても、日本の携帯電話市場は端末の0円販売や格安販売によって急成長し、ガラパゴスケータイ(ガラケー)などと言われるほどの進化を遂げました。またiPhoneの普及についてもソフトバンクが格安で販売を行ったことが大きな要因の1つであったことは間違いなく、世界的なスマホへのパラダイムシフトへ乗り遅れることなくガラケーから移行できたことは幸運だったとさえ思うところです。

販売施策や収益構造で多くの歪みを抱えている通信業界は、今後どのように修正され健全な市場競争を模索していくのか、注意深く見守る必要があります。時には消費者の立場として施策へNOを突きつける必要もあるでしょう。しかし、通信は絶対に必要不可欠な生活インフラなのです。

みなさんもぜひ、端末代金と通信料金が分離された時のことを想定し、自分で端末を選び通信料金プランを選択するだけの知識があるのか確認してみて下さい。道具を扱うのは自分自身です。道具に対する正しい知識を身につける良い機会かもしれません。

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道具を賢く、そして正しく使う知識を身につけよう


記事執筆:秋吉 健


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