楽天モバイルのMNO戦略と現状の課題について考えてみた!

楽天はパシフィコ横浜にて7月31日から8月3日までファンイベント「Rakuten Optimism 2019」を開催しました。楽天モバイルとしての移動体通信事業者(MNO)での携帯電話サービス参入が目前に迫る中、筆者も取材に行ってきました。

イベントの多くは「ふるさとグルメ」や「うまいもの&いいもの祭り」といった、夏休みの家族連れを対象としたものでしたが、会場の一角には「近未来体験エリア」が設けられ、5Gや4Gエリア展開に関連したアンテナ基地局の展示や技術解説、またサードパーティーによる通信関連サービスの展示などが行われていました。

しかし取材をしていて気になったのは、通信関連ブースのスタッフによる説明の歯切れの悪さです。今年10月に予定されているMNO参入に向けたエリア整備の状況を訪ねても確かな返答が得られず、5G網の展開ロードマップなどもほとんど情報を得られません。どこか判然としないままに帰路に着きましたが、その理由はほどなく総務省より公表されることとなります。

感性の原点からテクノロジーの特異点を俯瞰する連載コラム「Arcaic Singularity」。今回は楽天(楽天モバイル)がめざすMNO戦略と現状の課題について解説します。

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MNO参入と5Gを強調したイベントだったが、その裏側は……


■総務省による行政指導の舞台裏
8月15日、石田総務大臣は定例会見の場で楽天モバイルのMNO基地局整備計画について言及し、「6月末時点において計画からの進捗に遅れが見られる」として、同社へ行政指導を行い、修正計画の提出および実行を求めたことを明らかにしました。

業界関係者などからは数ヶ月前より基地局整備の遅れが囁かれていましたが、それが正式に公表されたのは今回が初めてです。

同社は8月8日に開催した決算会見の場でも、MNOサービスのエリア展開について「ホップ・ステップ・ジャンプになる」との微妙なニュアンスで戦略を語っていましたが、それを悪い方向で裏付ける結果となってしまいました。

ちなみに同社の言うホップ・ステップ・ジャンプとは、以下のような戦略(計画)です。

・10月のMNOサービス開始当初は、エリアやユーザーを限定し安定運用を目指す

・数週間~2ヶ月程度を目処に、オンラインでの一般受付を開始

・安定運用が見込まれる状況になったのち、全国の実店舗で一般受付を開始

Rakuten Optimism 2019での取材によれば、「限定したエリア」とは東名阪地域の大都市圏(のさらに一部)であり、東名阪エリアをつなぐ道路網や鉄道網をすべてカバーするものではないとのことでした。

つまり、東京や名古屋、大阪といった都市内のみが同社回線網となり、それ以外の地域ではしばらくの間、ローミング提携を予定しているKDDI(au)回線網を利用することになります。

また、サービス開始当初に限定募集されるユーザーは、「楽天モバイルの仮想移動体通信事業者(MVNO)サービスを現在利用しているユーザー」となっており、ブーススタッフの説明によれば、「現在楽天モバイルが販売している端末はすべてMNOサービスへの対応が確認されているため、それらの端末を購入しているユーザーへMNO対応SIMを順次配布し交換して頂く予定」とのことです。

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同社サイトより引用。交換用SIMの配布順などは同社の任意となるようだ


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一般ユーザーへの大々的な宣伝が、単なる大風呂敷とならないことを期待したい


そもそも楽天がMNO参入を発表した当初、そのエリア整備計画への投資額を6000億円未満に抑えると発表し、他MNOや業界関係者からは投資額の少なさへの批判に近い不安の声が少なからず上がっていました。

同社はそういった不安を払拭すべく、今年2月には最新の「完全仮想化クラウドネイティブネットワーク」方式を採用した通信基地局および通信技術の実証実験施設「楽天クラウドイノベーションラボ」を報道関係者向けに公開しました。

この時、楽天 代表取締役会長兼社長の三木谷浩史氏は、

「これまでの通信業界のやり方は古い。20年前に6億円や7億円もしたサーバーは、今や20万円のPC程度の性能しかない。技術革新によって、少ない投資でこれまで以上に安全で強固なネットワーク構築が可能だ」

このように語り、従来型基地局整備の高コスト体質を批判しつつ、自社の効率的な基地局整備に強い自信を見せていました。しかし、現実はなかなか厳しかったようです。

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楽天クラウドイノベーションラボの設立を祝う三木谷浩史氏(中央)


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同施設では、実際の通信状態を再現した通信トラフィックの負荷テストや通信技術の安定運用テストなどが24時間体制で行われている


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Rakuten Optimism 2019に出展された4G用アンテナ基地局


■真価が問われるのは2020年から
通信会社が新たな通信サービスを開始する際に、エリア展開の遅れや運用トラブルを起こすことは珍しい話ではありません。

過去にはNTTドコモが3Gサービス「FOMA」のエリア展開で大きく出遅れ、端末側(携帯電話)の電波帯域対応の甘さや通信技術の未熟さも重なり「繋がらない・すぐに途切れる」と大不評を買い、その結果KDDI(au)などの他通信キャリアに大きくシェアを奪われるといった出来事もありました。

総務省としては、生活や経済の基幹インフラである通信の障害や混乱は努めて回避しなければなりません。同省による今回の楽天への行政指導は、そういった過去の失敗から得られたリスクマネージメントの結果だと言えます。

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物理環境の変化や経済状況に大きく依存する通信サービスは、机上の技術論のみでは上手くいかないことばかりだ


楽天によれば、10月からのサービス開始で展開されるのは4G網であり、5Gサービスは2020年6月を予定しているとのことです。4G網の整備すら不安視される中、MNOサービス開始からわずか8ヶ月程度での5Gサービス開始は、果たして順調にスタートできるのでしょうか。

「第4の通信キャリア」としてMNO業界の台風の目となれるのか、それとも期待外れに終わるのか。一般ユーザーがその評価を下せるようになるのは実質2020年1月以降となるでしょう。それまでに同社通信網への不安を払拭することができれば、利用者側には大きな選択肢となります。

料金プランの低価格化にも積極的な姿勢を見せている同社だけに、ここからが本当の正念場です。

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通信の時代への楽天のチャレンジは、ここから始まる


記事執筆:秋吉 健


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