AirPods Proのレビューと不具合の現状についてまとめてみた!

10月の発売以来、異例とも呼べる超品薄状態が続いているApple(アップル)の完全ワイヤレスイヤホン(TWS)「AirPods Pro」、みなさんは購入できましたでしょうか。このコラムを書いている1月17日現在でも、アップルの公式オンラインストアで注文すると、発送日は2月18日と表示されます。一部報道では昨年末から中国サプライヤーによる増産が行われているとのことですが、その効果は今のところあまり実感できません。

これほどの品薄状態を引き起こす人気となった背景には、当然ながら「アクティブノイズキャンセリング」機能があります。他社のTWSではすでに数機種で実装されていた機能ですが、アップル純正である安心感やiPhoneなどiOS機器との相性の良さから、長らく待ち望まれていた機能でした。

筆者は自他共に認めるAirPods信者でもあり、従来機種の使い勝手の良さに惚れ込んでいたことからすぐに購入しましたが、実はそこからが長く険しい道程の始まりでした。結論から言ってしまえば、期待していた通りの満足感は得られなかったのです。

感性の原点からテクノロジーの特異点を俯瞰する連載コラム「Arcaic Singularity」。今回はAirPods Proの音質や使い勝手のレビューとともに、筆者を悩ませ続けた数々の不具合を解説します。

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AirPods Proに一体何が起きたのか


■感動の一言だったファーストインプレッション
以前執筆したAirPods Proの開封レポートでは、記事の速報性を重視して音質評価を後回しにしました。本来であればその後すぐに音質レビューを行う予定だったのですが、ここからがとんでもない“すったもんだ”の始まりだったのです。

まず音質ですが、素直に「良い」と言えるレベルでまとまっています。ドライバーユニットにダイナミック型を採用し、非常になめらかで中音域の伸びが良く、柔らかな音質です。

従来機種であるAirPodsではノイズキャンセリング機能を搭載していなかったことから、街の雑踏の中や電車の車内などで音楽を聞こうとすると騒音に負けないだけの音量に上げる必要があり、高音域が耳に刺さるような感覚がありました(とくに第2世代AirPodsで顕著だった)。

その点、AirPods Proはアクティブノイズキャンセリング機能のおかげで必要以上に音量を上げなくてもよくなり、ダイナミック型の特徴でもある低音域から高音域まで非常にバランスの良い音質を楽しめるようになったのです。

※記事掲載当初、従来機種のAirPodsについて、バランスド・アーマチュア型と表記していましたが、ダイナミック型の誤りでした。訂正しお詫び致します。


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際立って高音質というわけではないが、ダイナミック型らしい非常にフラットで快適な音響バランスだ


ノイズキャンセリング効果も絶大でした。街の中で初めて使用した時の感動は忘れられるものではないでしょう。耳に装着した瞬間に街の雑踏が「フ……」と溶けるように消え、まるで静かな図書館の中に佇んでいるような錯覚に陥ります。

そして音楽が自動的に流れ始めるさまは映画のワンシーンのようです。夕暮れ時の公園を歩きながらジャズを聴いている時など、心の底から「買ってよかった」と感じました。

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街で音楽を聴くのではなく、音楽が街を彩る、そんな感覚だ


使い勝手も従来のAirPodsを踏襲した「耳に着けるだけ」という簡単さで、嘘偽りなくほんの数秒で装着が完了します。煩わしいケーブルもなく、ケーブル由来の擦れノイズにも邪魔されません。

カナル型となったことから装着時のホールド感も向上しているため、従来型のAirPodsで「落としやすそうだ」と警戒していた人も安心して使えるようになったと思います(ちなみに筆者は従来機種も含めて一度も落としたことはない)。

若干不親切だと感じたのは設定画面でしょうか。実はAirPodsシリーズには設定画面があります。単にiPhoneなどの設定画面を開いただけでは見ることが出来ません。AirPodsシリーズをiPhoneなどに接続した状態で設定画面の「Bluetooth」を開き、接続しているAirPodsのインフォメーションアイコンをタップすることで設定画面が出現します。

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まるでゲームの裏技のような設定画面表示方法だ


この画面ではAirPodsの操作方法以外にもアクティブノイズキャンセリング機能を「オフ」にする設定なども行え、外部音取り込みモードとともに状況によって使い分ける幅が広がります。またイヤーチップのサイズが耳に合っているかテストすることも可能です。

こういった細かな設定画面も使いこなすことで、AirPods Proは本当に便利で快適なTWSとなります。正直、AirPods Proを使い始めると従来機種のAirPodsは使えなくなるほどの快適さでした。

■次から次へと襲いかかる不具合の嵐
ところが日常生活の中で使い込み始めたあたりで、若干気になる動作が起こり始めます。それは「不意の音切れ」でした。最初に気がついたのは電車の中ででした。

音楽を聞きながらTwitterを利用していたところ、プツ……プツ……と、時々音が途切れるのです。しかもそれは数秒~数十秒に1度というかなりの頻度です。常に発生しているのではなく、音楽を聴きながら他のアプリを併用していると、10~15分後あたりから発生し始めるという特徴がありました。

こういった瞬間的な音切れは以前のAirPodsでも稀に起きていましたが、それでも頻度は数時間に1回程度で、AirPods Proの音切れとは状況が明らかに違っていました。

状況を詳しく調べてみると、駅に到着するタイミングで音切れが発生しやすかったことから、駅構内のWi-Fiとの干渉や、電車を待っている人々のスマホなどとの干渉が起きているのではないかと考え、Wi-Fi通信を切ったりWi-Fiスポットの利用設定を削除してみたりと色々試してみましたが、一向に直りません。

不具合の原因も掴めないまま試行錯誤している中で、従来機種のAirPodsでも同様の不具合が発生することに気が付きました。つまり、原因はAirPods側だけではなく、iPhone(iOS)側にもあったようなのです。

それを裏付けるようにiOS13では異例とも言える頻度で不具合修正のアップデートが繰り返され、2019年内だけでも10回近いアップデートがありました。その中にはBluetooth通信の接続安定性を向上させる修正などもあり、OSとして多くの問題を抱えていたことが分かっています。

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AirPods ProはiOS13.2から対応したが、その後も細かな修正アップデートが繰り返された


音切れが起こるタイミングや原因は、音楽アプリのバックグラウンド再生などにあるようでした。初期のiOS13ではアプリのバックグラウンド動作に不具合が多くあり、AirPodsシリーズもその影響を受けていたようです。

またゲームアプリなどでは、音楽アプリを起動しているわけでもないのに15分ほど利用しているだけで音切れが発生し始めるなど、そもそものメモリ管理に問題があるような動作も見られ、iOS13の完成度の低さがここでも感じられました。

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アップルは新型iPhone発売の日程を重視しすぎた結果、OSの完成度が低いままにリリースしてしまった


そしてまた、AirPods Pro自体にも不具合の原因はあったようです。

前述のようにAirPodsシリーズにはファームウェアがありますが、その更新や修正は利用時(AirPodsシリーズをiOS機器と接続した時)に自動的に行われるようになっています。

音切れが劇的に改善されたのは、12月16日に公開された「2C54」というファームウェアバージョンからです。このファームウェアから音切れの頻度が大きく減り、とくにゲームアプリでの利用や音楽アプリをバックグラウンド再生しながら別のアプリを利用している際の音切れが大きく改善しました(アプリの切り替えタイミングや画面オフからの復帰時、さらに過密時間帯の都内の駅構内などでは未だに稀に音切れする場合がある)。

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AirPodsシリーズのファームウェア情報は、AirPodsシリーズをiOS機器に接続した状態で「設定」→「一般」→「情報」からAirPodsシリーズの項目を選択することで見られる


これでようやく一段落……かと思ったのですが、AirPods Proの受難はまだまだ続きます。

音切れ問題は日常利用に支障のないレベルまで改善したものの、今度はAirPods Pro最大の特徴であるアクティブノイズキャンセリング機能が低下する、という問題が発生してしまいました。具体的には、主に低音域の消音効果が若干弱くなるというものです。

これは筆者も電車に乗った際に実感しており、今までよりも低音域の騒音が僅かに聞こえやすいのです。とは言え、ノイズキャンセリング効果は十分に感じられるレベルでもあり、非常に微妙な差であることから「このくらいなら気にならない」という人も多いかと思いますが(筆者含む)、ノイズキャンセリング効果の高さを重視していた層からアップルへ苦情が多く寄せられ、現在この「2C54」というファームウェアバージョンは配信が停止されています。

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「約束された名機」となるはずが、まさかの大トラブル


■音楽を「着る」ために必要な条件
まさに「こんなはずでは」の連発となったAirPods Proの不具合ですが、その原因は非常に根の深いものです。

まず1つはソフトウェアの不具合です。iOSやAirPods Pro自体のファームウェアなど、あらゆるソフトウェア部分にほころびを感じます。そもそも、iOS13は当初から「欠陥OS」とまで揶揄されるほど、過去に類を見ないレベルで不具合の多いOSバージョンとなってしまいました。

iPhoneの新機種発売に合わせる形で毎年バージョンアップされてきたiOSですが、その手段がいつしか目的とすり替わり、製品リリースを優先するあまりに不完全なOSを実装して発売するという、本末転倒な状況に陥っていたことが最大のミスです。

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毎年数多くの新機能を追加してくるiOSだが、新機能よりも安定性を重視して欲しいと思うのは筆者だけだろうか


また、AirPods Proの心臓部であるH1チップ自体の性能の限界も感じます。

一部はファームウェアの改良や最適化によって改善されていくものと思われますが、接続安定性を重視した結果、ノイズキャンセリング性能が低下したというのも偶然とは思えません。ノイズキャンセリング処理を簡略化し、負荷を下げたから安定性が向上したのでは?と勘繰ってしまいます。

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AirPods Pro専用で作られたと思われがちなH1チップだが、実は第2世代AirPodsから採用されている


本来であれば信者なりの視点から、提灯記事かと笑われるほどの大絶賛をしたかったAirPods Proですが、2020年1月現在の個人的評点は「85点」。十分に及第点ではあるものの、100点満点とは絶対に言えない微妙な点数です。

とくに、リスニング面での問題が払拭しきれないのが大きな痛手です。音質やノイズキャンセリング性能は多少低くても慣れてしまえばあまり気になる部分ではありませんが、快適に音楽を聴いている最中に突然「プツ」っと音が途切れると軽く驚き、せっかく音楽の世界に没入していても一瞬で現実に引き戻されてしまうのです。

そして「また音が切れるんじゃないだろうか」、「どんなタイミングで切れやすいんだろうか」、「一度アプリを再起動したほうが良いのだろうか」と余計なデバッグ思考が働き始めてしまうと、再び音楽の世界に没入し直すのは容易ではありません。

人を「意識の世界」に引き戻してしまうというのは、幻想と空想が形作る音楽にとってそれほど致命的なのです。

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何も考えず、ただひたすらに好きな音楽へ身を委ねる。至福の瞬間だ


かつて筆者は、初代AirPodsのレビューで「音楽を『着る』時代が来た」と評しました。音楽を聴くのではなく、いつでもどこでも、服を着るのと同じように音楽を纏い続けることができるようになったと歓喜したのです。

AirPods Proは、その「音楽を纏った世界」を更に広げてくれる……はずのものでした。発売から3ヶ月が経ち、ようやく安定性も向上してきてその夢に近づきつつありますが、まだ完全とは言えません。

ファームウェアの配信が停止したままで終わるはずもなく、今後さらに機能や安定性が改善されていくものと信じていますが、iOSの件も含め、アップルには現状の「製品発売時期優先」の戦略から、そろそろ脱却していただきたいと願うばかりです。

ユーザーが求めているのは新機能を搭載した新製品かもしれませんが、それは「何も不安なく安心して使える」という前提があっての話だと思うからです。

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ウェアラブルな製品だからこそ、使い心地には徹底的に繊細であって欲しい


記事執筆:秋吉 健


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