秋吉 健のArcaic Singularity:爆発しないモバイル電池はすでに存在している!あまり知られていないリン酸鉄リチウムイオンバッテリーを解説【コラム】


リン酸鉄リチウムイオンバッテリーについて考えてみた!

先日ニュースを眺めていたところ、トヨタが2027年にも「全固体二次電池」を搭載した電気自動車(EV)を投入するという報を読み、ようやくブレイクスルーに達したかと喜んでいました。

全固体電池はEV向けの本命電池と呼ばれており、エネルギー密度の高さや充電時間の短さ、そして何より発火や爆発の危険性が低い点が高く評価されていましたが、耐久性や量産化などで技術的なブレイクスルーが待たれている状況でした。

このニュースに目を通しながら「そう言えばもう1つ、小型機器やモバイル製品に適した次世代二次電池があったな」と思い出しました。それは「リン酸鉄リチウムイオンバッテリー」です。

一般にはあまり認知されていないと思われるこのバッテリーは現在のスマートフォン(スマホ)やモバイルバッテリーの安全性や運用性を大きく向上させる可能性があるものです。

感性の原点からテクノロジーの特異点を俯瞰する連載コラム「Arcaic Singularity」。今回はリン酸鉄リチウムイオンバッテリーについての解説や今後の展望について考察します。

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リン酸鉄リチウムイオンバッテリーのメリットとは?

■さまざまな方式があるリチウムイオンバッテリー
現在のスマホやモバイルバッテリーなど、ありとあらゆる電子機器に汎用的に利用されている電池と言えば「リチウムイオンバッテリー(リチウムイオン二次電池)」があります。こちらは多くの人がその名称を聞いたことがあると思います。

一言でリチウムイオンバッテリーと言っても構成する素材はさまざまで、多くは正極にリチウム遷移金属複合酸化物を利用し、負極に炭素材料を用いて、有機溶媒を電解質として採用しています。

とくに広く普及しているのはコバルト酸リチウムやマンガン酸リチウム、さらに三元系と呼ばれる「ニッケル・コバルト・マンガンの化合物」を正極材料に用いたもので、スマホなどのバッテリーもこれらの材料によるリチウムイオンバッテリーが一般的です。

しかしながら、コバルト酸リチウムや三元系のリチウムイオンバッテリーは破損などで発火する危険性があり、バッテリーの製造不良や経年劣化、さらに粗悪品のモバイルバッテリーなどで発火・爆発事故も相次いでいました。

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スマホのバッテリーやモバイルバッテリーは、ほとんどがコバルト酸リチウム方式だと思って問題ない

■メリットだらけの期待の新星、リン酸鉄リチウムイオンバッテリー!
そこで注目を集めたのがリン酸鉄リチウムイオンバッテリーです。正極材料としてリン酸鉄リチウムを用いるこの方式では、過充電などの異常高温時に発煙こそしますが発火には至らず、さらに破損しても発火・爆発しないという非常に大きなメリットがあります。

その他のメリットとしては、他の方式と比較した場合、

・充電効率が高い
・充放電可能回数が多く寿命が長い
・充電したままの状態で放置しても自然放電しにくい
・高い放電特性
・コバルト酸リチウムが単体でも有毒であるのに対してリン酸鉄リチウムは無毒
・低温環境でも性能が落ちにくい(熱安定性が高い)

このように多くのメリットがあります。

それならすべての二次電池はリン酸鉄リチウムイオンバッテリーで良いのでは?と考えてしまいがちですが、たった1つだけ未だに解消できていない大きなデメリットが存在します。それは、製造コストが高い点です。

コバルト酸リチウムなどの方式は製造コストが非常に安く、1990年代から大量生産が開始されており、技術革新も含めて非常に安価に製造可能になりました。

しかしリン酸鉄リチウムを用いる方式は1997年には提案されていたものの、広範な商用化では2009年前後まで待つ必要があり、モバイル市場や小型電子機器の市場で巨大なシェアを誇っていたコバルト酸リチウム方式の圧倒的な低コストには、未だに追いつけないままでいます。

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エレコムなどごく一部のメーカーがリン酸鉄リチウム方式のモバイルバッテリーを発売しているが、コバルト酸リチウム方式のものと比べて2倍前後は価格が高い

■価格が高いなら量産すればいいじゃない
とは言え、デメリットの大部分がコストであるのなら大量生産による市場原理に基づいてある程度は解消することが可能です。

実際、リン酸鉄リチウムイオンバッテリーは非常用のポータブル電源など大きめのバッテリーを中心に販売が拡大しており、上で紹介したエレコムのようにモバイルバッテリーに採用するメーカーも徐々に増えつつあります。

安全性が高く低温環境でも性能が落ちにくく、さらに発火や爆発の恐れもないというメリットは、間違いなくモバイル用途に向いているからです。

製造面ではすでに中国で電気自動車向けとして量産が開始されており、2022年にはスズキも電気自動車向けのリン酸鉄リチウムイオンバッテリーを2026年よりインドで生産を開始するため1500億円の投資を行うと発表するなど、世界各地で量産化の流れが加速しています。

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スズキのインドへの投資は日本政府も後押ししている(スズキのニュースリリースより引用)

モバイルバッテリーや電気自動車向けバッテリーに限らず、電池に求められる最大の性能は出力でも容量でもなく「安全性」です。その点においてリン酸鉄リチウムイオンバッテリーは非常に高い性能を有しており、その他の性能でも非常に優秀です。

モバイル機器を長期間利用しているとバッテリーが膨張して危険な状態になることが少なからずありますが、そういった長期利用や長期保存においてもリン酸鉄リチウムイオンバッテリーは非常に安全で保管に適したバッテリーだと言えます。

冒頭で紹介した全固体電池はまだまだ「これから」の技術であり、普及や低コスト化などが見込める段階ではありません。ましてや現在はEV向けに開発が進められている最中であり、モバイル用途などは検討の段階にもないはずです。

人々がより快適且つ安全にモバイルライフを送るためにも、リン酸鉄リチウムイオンバッテリーのさらなる普及が期待されます。

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バッテリーとは切っても切り離せない現代社会だからこそ、安全なバッテリーの安定供給を。
記事執筆:秋吉 健

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