いよいよ本格展開の「IPv6」がスマートフォンに投げかける課題とは? |
6/6から「World IPv6 Launch」と称して、GoogleやFacebookなどのWebサイトが新しいインターネットの通信方法(プロトコル)「IPv6」を利用開始しています。新しい通信環境ということで、IPv6の利用に関して様々な問題点が指摘され、その回避策も導入されてきています。IPv6の普及がスマートフォン利用に与える影響について、検証を交えながら考えてみます。
IPアドレス枯渇問題を解決するIPv6
「IPv6」は「Internet Protocol Version 6」、つまりインターネットプロトコル(通信手順)のバージョン6という意味です。これに対していままで使われていたのは「IPv4」(Internet Protocol Version 4)で、バージョン4ということになります。ちなみに「バージョン5」は実験的なもので、インターネットプロトコルとしては存在しません。
インターネットの通信には、各端末が個別の番号(IPアドレス)を持つ必要がありますが、IPv4のIPアドレスは設計上2の32乗(約43億)しか割り当てることができず、かつ現状すべてのIPアドレスが割り当てられてしまった状態です(いわゆる「IPアドレスの枯渇」)。そのため2の128乗(約43億の4乗)という大量のIPアドレスが使用できるIPv6への移行が求められている現状です。
国内独自の事情:フレッツで発生する問題とAAAAフィルタ
IPv6を利用するためには、端末とネットワークの双方がIPv6に対応する必要があります。国内で問題になっているのはNTT東西のフレッツサービスで、IPv6自体は有効になるもののIPv6でインターネットにはつながらないという中途半端な状態になり、端末がIPv6でインターネットとの通信を試して失敗するためにWebページの表示が遅くなったり一部が表示されなくなるなどの事象が指摘されています(いわゆる「IPv6マルチプレフィックス問題」)。そのため国内のプロバイダでは、端末に通信先のIPv6アドレスを教えないことでIPv4通信を強制して問題を回避する「AAAAフィルタ」を導入する動きが出てきています。
検証1:スマートフォンはIPv6に対応しているか
S-MAXでは2011年7月にスマートフォンのIPv6対応を調査していますが、新機種を加えて再調査してみます。
KDDIのWebサイト(http://www.kddi.com)をスマートフォンで表示させて、IPv4とIPv6のどちらが使用されているかを画面で確認します。ネットワークはフレッツ光ネクスト(ファミリー・ハイスピード)、プロバイダはぷららで、IPv6 PPPoE(トンネル方式)によってIPv6に対応させ、このネットワークにスマートフォンをWi-Fiで接続します。AAAAフィルタの影響を排除するため、IPv4のDNSサーバーはGoogle Public DNS(8.8.8.8、8.8.4.4)を指定します。
結果は以下のとおり。なお「IPv6匿名アドレス」は、通常のIPv6アドレスには端末の固有ID(MACアドレス)が含まれるのに対し、匿名性を確保するために端末固有のIDがIPv6アドレスから読み取れないようにするための仕組みです。
端末 | OS | IPv6対応 | IPv6匿名アドレス対応 |
SO-01B | Android 2.1 | ○ | × |
IS03 | Android 2.2 | × | × |
ISW11SC | Android 2.3.6 | ○ | × |
SC-04D | Android 4.0.2 | ○ | ○ |
iPhone 4 | iOS 4.3.5 | ○ | ○ | iPhone 4S | iOS 5.1.1 | ○ | ○ | IS12T | Windows Phone 7.5 | × | × |
一部例外はあるものの、それなりに古い機種でもIPv6へ対応していることがわかります。
検証2:AAAAフィルタの影響は
IPv6対応への影響により、NTT東西フレッツ回線において、Android 2.3以下の端末で表示の遅延や一部ページが表示できない事象が発生することが、NTTドコモ、KDDI、ソフトバンクモバイル、イー・アクセスの各社から発表されています。これらの事象はIPv6マルチプレフィックス問題に関連しており、事象を改善するためにプロバイダ側でAAAAフィルタが導入されています。AAAAフィルタが導入されると端末に通信先のIPv6アドレスが通知されないため、例え回線自体がIPv6に対応していたとしても、スマートフォンがIPv6で通信できなくなることが想定されます。そこで検証1でIPv6に対応していることが確認された端末について、AAAAフィルタが適用された環境でIPv6通信が有効になるか調査しました。
検証の条件は検証1と同一としますが、AAAAフィルタが適用された環境にするためにIPv4のDNSサーバーはぷららから割り当てられたものを使用します。
端末 | OS | IPv6通信 | |
AAAAフィルタ無効 | AAAAフィルタ有効 | ||
SO-01B | Android 2.1 | ○ | × |
ISW11SC | Android 2.3.6 | ○ | × |
SC-04D | Android 4.0.2 | ○ | × |
iPhone 4 | iOS 4.3.5 | ○ | × | iPhone 4S | iOS 5.1.1 | ○ | × |
AAAAフィルタが適用されるとIPv6での通信ができなくなることがわかります。検証環境はIPv6によるインターネット通信に対応済みなのですが、AAAAフィルタにより端末が「IPv6による通信はできない」と判断するため、IPv6が使われないという結果になります。
少し細かい話になりますが、端末が通信先IPアドレスの問い合わせ自体をIPv6で行うならば、AAAAフィルタの影響を受けずにIPv6での通信が可能になります。しかし今回検証したスマートフォンではいずれも通信先IPアドレスの問い合わせを(IPv6が有効な環境であっても)IPv4で行うため、AAAAフィルタの影響を受けてしまいます。
AAAAフィルタが適用されない状態でIPv6通信が可能な状態(写真=左)でも、AAAAフィルタを適用するとIPv4での通信となる(写真=右)。いずれもIPv6インターネット自体は有効な状態
AAAAフィルタは応急処置、IPv6インターネットの普及が必須
AAAAフィルタは端末にIPv6の通信を行わせないことによりフレッツ網が抱えるIPv6マルチプレフィックス問題を回避させますが、結局IPv6へは移行できていません。また上述の検証により、AAAAフィルタが適用されるとIPv6インターネットに対応している環境でも端末がIPv4で通信するという、ある意味本末転倒な事態も発生することがわかります。AAAAフィルタは当面の不具合を抑制する応急処置に過ぎず、最終的にはIPv6インターネットの普及とともにAAAAフィルタが解除されるのが理想的な展開と言えるでしょう。
IPv6インターネットの普及に向けて、各プロバイダや通信事業者が動き出していますが、この動きがより加速して、誰もが意識することなくIPv6へ移行できる環境が整うことを願うばかりです。一方で携帯電話ネットワークのIPv6対応は遅れており、こちらも進展が望まれるところ。
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