タイプCと従来規格のアダプターやケーブルを使うときにちょっとだけ注意

USB規格で新たに定められた「USB Type-C」(以下、タイプC)コネクターは、向きを気にせず挿し込める利便性を持ち、USB 3.1やThunderbolt、DisplayPortなどさまざまなデータ転送に対応できる期待の新規格です。現状で対応するスマートフォン(スマホ)は「Nexus 5X」や「Nexus 6P」などの一部に限られますが、今後普及の拡大が見込まれます。

タイプCと従来のUSB規格を混在できるように現在、スマホなどで主流のmicroUSBなどの従来コネクターと変換するための規格が定義されており、アダプターも登場してきています。しかし、これらの初期製品の中には規格を完全に満たしておらず、スマホや充電器にダメージを与えてしまうリスクを抱えているものがあります。

今回の連載「スマホのちょっと深いとこ」では、このようなタイプCの初期製品が抱える問題について、タイプCの規格とともに説明します。

【製品紹介:タイプCとマイクロBのアダプター】

従来規格とタイプCを変換するアダプターの例として、USB充電器やモバイルバッテリーで知られるアンカーの製品「USB-C to Micro USB Adapter」を紹介します。

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アンカーの「USB-C to Micro USB Adapter」

この製品は一方にmicroUSB(マイクロB)の差込口、もう一方にタイプCコネクターを備えており、タイプC対応機器とmicroUSBケーブルの間に挟み込むようにして使います。

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サイズは非常にコンパクト
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アダプターで従来のマイクロUSBケーブルをタイプC機器に接続

後述するようにこの製品は規格を満たしており安全に利用できます。それではこのようなアダプターが満たすべき規格とはどのようなものなのでしょうか。

【タイプCと従来規格の互換性、カギは電力供給】

USBの規格はWebサイトで公開されています。今回はタイプCの規格を含むUSB 3.1規格を参照します。記事執筆時点で参照した規格書は2016年3月25日に改版されたばかりの「Revision 1.2」です。

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USB 3.1の規格書はWebサイトから入手できる

従来からUSBはデータ通信と同時に電力を供給できることが特徴でした。電力供給モードは従来「USB 2.0」「USB 3.1」「USB BC 1.2」の3モード(以降「従来モード」と記載)が存在しましたが、タイプCでは新たに「USB Type-C Current @ 1.5A」「同3.0A」「USB PD」の3モードが追加されました。なお、USB PDは最大20V、5Aを給電できるノートPCなどを意図した規格で、本記事ではこれ以上は紹介しません。

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USBの電力供給モード(規格書より抜粋)

ここから少し複雑な話になってきますがご容赦ください。タイプCで電力供給モードを判定するためには、特定の抵抗値(Rp)を参照します。例えば、56kΩの抵抗が利用されている場合、スマホなどの機器は充電器に対して従来モードでの給電を要求します。

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Rpと電力モード。赤枠部が従来モード(規格書より抜粋)

このRpについて規格書では「タイプCとマイクロUSBのアダプターや、タイプCとタイプA(従来USB)のケーブルなど、過去互換性を提供するケーブルでは56kΩでなければいけない」と明確に定義されています。

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Rpについての記述。赤線部に注目(規格書より抜粋)

これは過去互換性を提供するケーブルは「電源の能力を知る機能がない」ので、安全のため従来モードでの給電を指示する必要があるためです。もしこれらのケーブルでタイプCの「1.5A」や「3A」を要求するRpが設定された場合、スマホが電源に対して能力以上の電力を要求し、トラブルが発生する可能性があります

【規格を満たさない初期製品はCheckRアプリでチェック】

タイプCの仕様書は何度か改版されており、初期の仕様書ではRpをどう設定するべきかの記述が不明確でした。そのため、初期の製品ではタイプCとマイクロUSBのアダプターなど過去互換性を提供する製品であるにも関わらず、タイプCの「1.5A」や「3A」を要求するRpが設定されている場合があります。

Nexus 5XやNexus 6Pでは「CheckR」というアプリを使って規格を満たすかどうかを判定できます。冒頭のアンカー製品は規格を満たします。

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アンカー社製品は規格を満たすのでCheckRでグリーン表示

一方、規格を満たさない例として、初期に発売されたサンワサプライの製品はCheckRが警告を表示します。

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サンワサプライのマイクロB-タイプC変換アダプター
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規格を満たさずCheckRで警告表示

このような規格に準拠しない製品の登場は、新規格の出初めにはよくある話といえます。幸いタイプCの製品はまだそれほど登場していないので、一般に広く普及するころには問題にならなくなっているはずです。しかし、すでにタイプCケーブルやアダプターが手元に存在している人は、規格に準拠しない製品を忘れたころに使用してトラブルを起こす可能性があり、注意が必要でしょう。

なお、CheckRアプリは現在、アプリ配信マーケット「Google Playストア」からダウンロードできなくなっています。アプリファイルを直接配布しているサイトがありますが、利用は自己責任でお願いします。

■関連リンク
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USB 3.1 Specification(USB.org)
CheckR(APKMirror、アプリファイルを直接配布)
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