外食産業などのモバイルオーダーについて考えてみた!

みなさんは「モバイルオーダー」や「スマホオーダー」といった言葉を聞いたことがあるでしょうか。レストランやファーストフード店などのメニューをオンラインで注文・予約し、店舗に取りに行くまたはそのまま店舗で食事をするという販売方式のことです。

厳密には料理に限ったものではありませんが、新型コロナウイルス感染症問題(以下、コロナ禍)に伴う外出自粛要請が続く中、外出はできるだけ控えたいがたまには外食もしたいという要望に応える形で、ここ数ヶ月で新たにモバイルオーダーサービスが始まったり、既存のモバイルオーダーサービスが見直される傾向にあります。

緊急事態宣言の延長もほぼ確定となり(記事を執筆している5月1日時点)、長期の「籠城戦」も覚悟しなければいけない状況下で、外食産業やサービス業では生き残りを賭けたチャレンジが静かに始まっています。感性の原点からテクノロジーの特異点を俯瞰する連載コラム「Arcaic Singularity」。今回はモバイルオーダーの現状とその展望について考察します。

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未曾有の疫病危機に、テクノロジーで挑む


■コロナ禍がモバイルオーダーに必要性を与えた
はじめに、モバイルオーダーの利用実態などを見ていきましょう。

MMD研究所が2020年4月27日に公開した「2020年4月 モバイルオーダーに関する利用動向調査」によれば、モバイルオーダーについて「まったく知らない」と答えた人は49.6%にものぼり、「現在も利用している」や「過去に利用したことがある」と回答した人々の合計値、15.6%を大きく上回っています。

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サービスの存在自体がここまで知られていなかったということに驚きすらある


これまで外食産業などでモバイルオーダーがあまり利用されてこなかった最大の理由は、意外と簡単に想像がつきます。

・結局商品を受け取りに行くなら、その場で注文すれば良い
・予約後に取りに行けなくなったり、他の商品が食べたくなったら困る
・指定した時間に取りに行かなければいけないのが面倒

新型コロナウイルスが蔓延するまでの世界であれば、そういった煩わしさから注目されないままであったことでしょう。しかしながら、状況が一変した今、モバイルオーダーの別の側面がメリットとして浮かび上がってきます。

・指定した時間に行けばすぐに購入できるため、他人との接触を最小限に抑えられる
・常にできたてが食べられる
・メニューをゆっくりと選べる
・オンライン会計できる場合は現金の授受すら必要がない(人との接触をさらに避けられる)

ネット上で小池東京都知事の「密です」発言が小さなブームとなったように、今や人々が長時間寄り集まっているだけでも危険視される中で、それでもたまには外食がしたい、ファーストフードを食べたいという人にとって、モバイルオーダーは意外と良い注文方法になり得るのです。

企業としてもモバイルオーダーによって新商品の宣伝や認知がスムーズに行え、各種クーポンやキャンペーンの利用を促せます。スマートフォン(スマホ)向けのアプリなどを用意し、会員制などにすることでユーザーの囲い込みとしても有効に利用できます。

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外食産業にこれまで足りなかった「注文するまでの時間の活用」がモバイルオーダーでは重要な要素になってくる


■顧客囲い込み策としてのモバイルオーダー
ユーザーの囲い込み策という面でモバイルオーダーを考えた場合、もはやそれは外食チェーン店や1つの企業の施策に収まらない、大規模な経済圏の話にも発展してきます。

例えば、NTTドコモが展開するモバイルアプリ「d払い」では、アプリ内で利用できるミニアプリで吉野家やJapan Taxiなどのモバイルオーダーが可能です。NTTドコモが直接タクシー業や外食業を行っているわけではありませんが、同社のdポイントを活用する経済圏活動の一環として組み入れているのです。

※編集部注:d払いのみにアプリで提供されている吉野家については5月1日未明に発生したシステムトラブルに起因し、現在、サービスを一時的に停止しています。なお、合わせて4月13日から実施していた「吉野家 d払いミニアプリ限定!50%dポイント還元キャンペーン」もサービス停止以降は中止されています(サービス停止前までは対象)。

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「d払い」アプリで吉野家の牛丼も注文できる。dポイントでの支払いも可能だ


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自社で電子決済システムを持ち、スマホアプリで簡単に支払える仕組みを持つ巨大インフラ企業ならではの戦略だ


NTTドコモのようなインフラ企業ではなくとも、日本マクドナルド(マクドナルド)やモスフードサービス(モスバーガー)など、大手ファーストフードチェーンはモバイルオーダーに非常に積極的です。

外出自粛要請によって外食産業やサービス業が壊滅的な打撃を受ける中、そのまま何もせず沈んでいくのを待つような企業はありません。「ピンチはチャンス」と捉え、モバイルオーダーの認知向上と顧客の囲い込み施策へ攻勢を掛けているのです。

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ケンタッキーフライドチキンのモバイルオーダーサービス「KFCネットオーダー」。同社のカーネルクラブ会員以外もゲストとして利用できる


■モバイルオーダーの強みは不満点の少なさ
モバイルオーダー自体の認知度は前述の通り非常に低い状況ですが、その利用満足度が概ね高めであることも、各企業がモバイルオーダーの推進に強気である理由の1つです。

ふたたびMMD研究所の調査データに目を通すと、モバイルオーダーに「満足」、「やや満足」と答えた人の割合は合計で85.1%となっており、非常に高いことが分かります。

「モバイルオーダーを知らない人が多いが、使ってみると意外と便利」。これがモバイルオーダーの総評といったところでしょうか。

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「不満」や「やや不満」と感じている人がわずかに2%しかいない点も特筆に値する


一方で、若干ながら課題もあります。ユーザーの声としては高評価が多く見られる中、

「ネットから予約してもレジ待ちがあるのでそれがなければ良いと思う(49歳・男性・やや満足)」
「注文は満足だけれど、受取時にドライブスルーを利用する際、前に車がいて、結局待たされる時が不快(50歳・女性・やや満足)」

※「2020年4月 モバイルオーダーに関する利用動向調査」より引用

こういった声も、少ないながら散見されます。

これらはモバイルオーダーの注文システムやその利用自体の不便さというよりも、実店舗における受け渡し方法(窓口)の問題であったり、来店客の動線の問題であることから、モバイルオーダー自体には高い集客ポテンシャルがあると考えて良いでしょう。

上記の声にしても、ただ不満であるというのではなく「やや満足」と評価しながらの声であることからも、利便性の良さを感じつつ「惜しい」と感じていることが読み取れ、ユーザーとしてさらなる利便性の向上に期待していることを伺わせてくれます。

■コロナ禍にテクノロジーで打ち勝とう
料理などのオンライン注文というと、UberEATSのようなデリバリーサービスを思い浮かべる人もいるでしょう。

こちらは外出の必要すらなく注文商品を手に入れられる非常に便利なサービスですが、マクドナルドやモスバーガー、ケンタッキーフライドチキンといった大手ファーストフードチェーンのモバイルオーダーでも、一部店舗でデリバリーサービスが利用できます。

「一切外出せず自宅にいながらファーストフードを食べたい!」といったような要望に応えられる体制も、実はすでに各社のモバイルオーダーによって実現しつつあるのです。

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配送可能な地域は限られるが、自宅に届けてもらえるのはとても便利だ


コロナ禍の長期化と深刻化によって、私たちの生活だけではなく商売の形態すら変わりつつあります。各企業の経済活動は窮地に立たされていますが、しかし今の私たちにはテクノロジーという武器があります。

幸いにも私たちは、1~2年ほど前からさまざまな電子決済システムを使いこなし始めています。もしこのコロナ禍が5年ほど前にやってきていたなら、モバイルオーダーやデリバリーサービスの普及もなく、ファーストフードを中心とした外食産業は打つ手のない詰みの状態に陥っていたかもしれません。

みなさんが毎日手に持ち、暇さえあれば眺めているスマホは、Twitterやラインやこのコラムを読むためだけにあるわけではありません。それは経済を直接回す道具でもあるのです。ぜひ一度、モバイルオーダーを使ってみてはいかがでしょうか。

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気分転換のドライブついでに、気軽にモバイルオーダーも悪くない


記事執筆:秋吉 健


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