Geforce NOWからクラウドゲーミングの現在について考えてみた!

ソフトバンクとNVIDIAの協業によるクラウドゲーミングサービス「GeForce NOW Powered by SoftBank(以下、Geforce NOW)」( https://cloudgaming.mb.softbank.jp/ )が日本でも正式に6月10日よりスタートしました。筆者も遅ればせながら先週から利用を開始しており、現在そのプレイ感覚やどの程度遊べるのかを検証しているところです。

正直なところ、筆者はクラウドゲーミングという手法にどちらかと言えば否定的です。それは趣味として日々ゲームに数時間割き続けるコアゲーマーとして画質や遅延に不安を感じるからですが、そういった視点は時に正確な判断を曇らせます。

何を評価するにもまずは触ってみなくてはという思いから始めてみたGeforce NOWですが、実際に触れてみた感想や評価は思いのほか内容の濃いものでした。感性の原点からテクノロジーの特異点を俯瞰する連載コラム「Arcaic Singularity」。今回はGeforce NOWに実際に触れて分かったことや、クラウドゲーミングが持つ可能性と課題について考察します。

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クラウドゲーミングの強みと欠点とは


■サービスの仕組みが複雑なGeforce NOW
以前より、本コラムではクラウドゲーミングやそれに関連する技術についての考察を何度か行っています。そのため、本回では敢えて細かな技術的解説は省きたいと思います。

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皆さんはクラウドゲーミングと聞いて、どんなものを想像するでしょうか。単純に「ゲームをオンラインサーバー上で動かすもの」、「ゲームをレンタルで遊べるもの」そのような認識も少なくないかと思います。

少なくともGeforce NOWの場合、「ゲームをオンラインサーバー上で動かすもの」という認識は若干語弊があり、「ゲームをレンタルで遊ぶもの」という認識は大きく間違っています。

筆者がGeforce NOWを契約するにあたり、最初に面食らったのがゲームを遊ぶまでの手続きの複雑さと理解しづらさでした。

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Geforce NOWはWindows、Mac、Androidの3つのOSに対応している


PCでアプリをダウンロードし、Geforce NOW専用のアカウントを作っていざインストールして遊ぼうとしたところ、ゲームを選択した段階で新たに契約手続きとアカウントの紐付け作業が始まりました。

これはNVIDIA(Geforce NOW)との契約ではなく、ゲームを動作させているゲームプラットフォームとの契約です。「え?Geforce NOWってゲームプラットフォームのことでしょ?」と思う方もいるかと思いますが、ここがクラウドゲーミングを分かりづらくさせている原因の1つです。

GeForce NOWとは、簡単に言えば「購入したゲームをオンラインサーバー上に置いてストリーミング配信させることで、どこからでも好きな端末でプレイできる環境を作るサービスプラットフォーム」であって、ゲーム自体を動かすゲームプラットフォームではないのです。

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Geforce NOWでサムライスピリッツ(SAMURAI SHODOWN)を遊ぼうとしたところ……


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ゲーム提供元(ゲームプラットフォーム)であるEPIC GAMESとのライセンス契約画面に


アカウント登録したサービスプラットフォームの中に複数のゲームプラットフォームが存在し、それぞれとアカウント登録が必要になる、という構造自体が一般に理解されにくいものですが、何よりも人を選ぶと感じたのはその同意書やアカウント登録UIが英語表記しかない場合がある点です。

もちろんこれは海外ベンダーによるゲームプラットフォームの契約手続きに限られますが、仮にも日本でサービスを行う場合、利用規約から決済画面まで全て英語というのはなかなか厳しいものがあります。

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EPIC GAMESの場合、利用規約も全部英語。これをスラスラと読める英語力が欲しかった……


また、クラウドゲーミングサービスが「オンライン上に仮想PCの環境を構築して、その中でゲームプラットフォームアプリを動かして利用するもの」という認識を正しく持っていないと、利用契約を全て済ませたのに「あなたにはこのゲームを遊ぶ権限がありません」、「お使いのアカウントにこのゲームは存在しません」などといったメッセージが表示され、大混乱することになります。

Geforce NOWの中で各ゲームプラットフォームを利用してゲームを購入することができますが、このゲームプラットフォームが前述のように英語圏向けにしか作られていない場合、購入システムや決済も全て英語となるため、少々敷居が高いように思われます。

こういった仕組みをPCやクラウドサーバーに詳しくない人間がすぐに理解できるのか、非常に不安です。ちなみにGeforce NOWの中でそれらを丁寧に解説するような記載は一切ありません。

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EPIC GAMESの場合、自分のPC環境で購入していないゲームを遊ぼうとすると「そのゲームはアカウントに存在しません」といったようなメッセージが出て遊べない


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その後、「DISMISS」(退出)を選択するとようやくEPIC GAMESのゲームプラットフォームが表示される。最初からこの画面に飛ぶ仕組みがない


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Geforce NOW上のゲームラインナップの詳細を見れば、自分のPCであらかじめゲームを購入しておく必要があることが分かるが、その表現や表記が非常に分かりづらい(画像の赤枠内の注釈)


■自宅用ゲーム環境としてはアリ?
このようにゲームを1本遊ぶだけでも非常に面倒な手続きと理解が必要なGeforce NOWですが、ゲーム自体は思った以上にスムーズに遊べるという印象でした。

遊んだのはLizerdcubeのベルトスクロールアクションゲーム「ベアナックル4」(海外名:Street of Rage 4)ですが、自宅の光回線の場合遅延も少なく、回線速度も十分であったために画質も非常に良好でした。

例えばPCでしか遊べない最新の3Dゲームなどを自宅のPCで遊ぼうと思った時、今までであればそれなりに強力なグラフィックスボード(外部GPU)を搭載したPCを購入するしかありませんでした。

当然そういったPCは15万円や20万円といった価格になることも多く、PC向けゲームが流行らない最大の理由となっています。しかし光回線とクラウドゲーミングサービスであれば、そういった強力なゲーミングPCを購入する必要はなく、数万円で購入できる安価なローエンドPCやタブレットPCであっても、ハイエンドゲームを比較的安価に楽しむことができるのです。

そう考えるならば、月額1,800円はそれほど高い金額ではないのかもしれません。

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通信回線さえ整っていればそれなりに快適に遊べるのはコストメリットが大きい


しかし筆者のようなコアゲーマーにとっては、さすがに不満がないわけではないのも事実です。遅延は少ないとは言え確実に存在しており、筆者の回線環境でも0.1~0.2秒程度の遅延が発生します。タイミング良くボタンを押す必要があるゲームや一瞬の判断を必要とするゲームでは致命的とも言える遅延です。

またこれがオフラインゲーム(スタンドアローンゲーム)ではなくオンラインゲームともなれば、さらに状況は厳しくなります。通常の通信遅延だけでもかなりのハンデですが、それに加えてクラウドサーバーとの通信遅延や画像圧縮遅延が重なるのです。

ランキングやハイスコアなどを気にしないライトユースであれば、そういった環境でも問題はないでしょう。しかしゲームを突き詰める人にとっては、通信遅延は常に悩ましい問題です。

Geforce NOWでも、おすすめゲームとしてオンライン対戦可能なFPS(ファーストパーソン・シューティング)や対戦格闘ゲームなどが多くラインナップされていますが、そういったゲームを本気で游びたい人とクラウドゲーミングは相性が良くないように感じます。

一方、RPG(ロールプレイング・ゲーム)やAVG(アドベンチャー・ゲーム)は非常に相性が良いゲームジャンルです。遅延に対する高い要求がなく、しかも長時間じっくりと遊ぶタイプのゲームであるため、いつでもどこでもすぐに好きなデバイスで続きを遊べるというメリットを享受できます。

しかし「RPGやAVGで、一般的なPCやスマートフォン(スマホ)で遊べないほどのハイエンドゲームが存在するのか」という根本的な問題もあります。提供されているプラットフォームの関係で「PC用ゲームだけどどうしてもスマホで游びたい」といった需要が高くならない限り、敢えて月額料金を払ってプレイしたいと思う人は少ないかもしれません。

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いつでも中断しやすい上にソロプレイが基本となるAVGとクラウドゲーミングサービスの相性は抜群だが、今度は月額料金がネックになる


また対戦格闘ゲームやACT(アクション・ゲーム)の場合、前述の遅延に加えて「操作デバイスが新たに必要になる」という追加コストの問題もあります。

例えばAndroid OS向けのGeforce NOWアプリでは、画面上に仮想ゲームパッドを表示する機能があり、物理的なゲームパッドを接続しなくても遊べる仕様になっていますが、さすがにこの仮想ゲームパッドで対戦格闘ゲームを遊ぶのは至難の業です。

いつでもどこでもどんな端末からでも快適に遊べる、という夢のような環境を整えるためには、それぞれの環境用のゲームパッドやキーボードなどを用意する必要があります。それは果たして便利な環境だと言えるのでしょうか。

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今となっては非力なASUS製スマホ「Zenfone MAX (M2)」でベアナックル4をLTE回線を使ってプレイしたところ、動作は非常に快適だった


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しかし仮想ゲームパッドを使ったプレイは、遊べると言うよりも「動かせた」というだけの代物でゲームとしてほぼ成立しない


■理想に現実が追いつかないもどかしさ
これまでにも展示会や発表会などで、クラウドゲーミングサービスに触れる機会は何度かありました。そのときは通信技術や仕組みに大きな関心が持たれていました。

しかし実際にクラウドゲーミングサービスというものを自宅や自分のスマホ環境で体験してみると、もっとユーザー視点でのメリットやデメリットがハッキリと見えてきます。

NVIDIAやGoogleが語るように、たしかにクラウドゲーミングは「ゲームを場所やデバイスの縛りから開放する素晴らしいサービス」かもしれません。しかしそれを実現しようとすると、遅延や画質の問題以前に、存外高めな月額料金やゲームに適したデバイス環境をそれぞれに構築しなければいけないなど、新たなコスト(投資)や仕組み上の問題が多いことに気付かされます。

Geforce NOW特有かもしれませんが、ゲームの購入や契約の仕組みが分かりづらいのも現状では大きな課題と感じます。家庭用ゲーム機やスマホゲームのように、誰もが迷うことなくスムーズにゲームを購入して遊べる環境を整備しなければ、「クラウドゲーミングは難しくて扱いづらい」という印象を固定化させかねません。

クラウドゲーミングが掲げる理想は非常に高いものの、現実の技術や仕組みが追いついていないというのが素直な感想です。とくに現状でも改善できそうなサービスプラットフォームとゲームプラットフォームに関連する諸々の問題は、早急な対策が必要でしょう。

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モバイル通信環境で遊ぶなら、当然通信料金の問題も重くのしかかる


Geforce NOWは6月30日まで、本登録完了時より61日間無料でプレイできるキャンペーンを行っています(7月1日~7月31日までに登録すると31日間無料、8月1日以降は14日間無料)。

現状のGeforce NOWは荒削りであり、その仕組みはまだまだ改善の余地を多く残すものですが、ゲームプレイ環境としてのクラウドゲーミングサービスがどのようなものであるのかを体験するには非常に良い機会だと思います。

ぜひ皆さんも、Geforce NOWを遊んでみて下さい。恐らくさまざまに混乱しつつも、新しいゲーミング体験の片鱗を感じることができるはずです。そして良いところも悪いところもどんどんフィードバックしていきましょう。

私たちのゲーム体験こそが、未来のゲーム体験を作り出すのです。

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「ゲームプレイに自由を」。その言葉を素直に受け止められる世界を作るのは、私たち自身だ




記事執筆:秋吉 健


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