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テレワークやオンライン会議の変遷について考えてみた! |
新型コロナウイルス感染症問題(以下、コロナ禍)が始まって9ヶ月ほどが経ちます。私たちの生活や仕事は大きく変わりましたが、その中でも在宅勤務(テレワーク)のへの対応に苦労した人は多いかも知れません。
6月に行われたNECの新製品発表会でもテレワークに重点を置いた機能を特徴とした新型ノートPCが発表されましたが、自宅で仕事をする、オンライン会議中心で仕事を行う、といったスタイルは、手探りながらも人々に浸透しつつあるように思えます。
コロナ禍によってテレワークやオンライン会議はどう変わり、どう進化したのでしょうか。またこれからのオンライン会議はどうあるべきなのでしょうか。感性の原点からテクノロジーの特異点を俯瞰する連載コラム「Arcaic Singularity」。今回はオンライン会議を取り巻く環境の変化について考察します。
■大きな戸惑いとともに始まったテレワークとオンライン会議
世間にテレワークやオンライン会議が広がり始めたのは、コロナ禍が国内でも爆発的に広がり始めた2020年3月ごろからだと記憶しています。それまで直接対面で行っていた会議はもちろんのこと、製品発表会や展示会、企業説明会の類も全てがオンライン化され、できる限り人同士の接触を避ける方法が取られました。
当然ながら人々は戸惑います。それまでPCなど会社以外でほとんど触ったことがなかった人も自宅でのPC作業を強いられ、通信環境の整備を求められました。昨今では、一人暮らしの人などは自宅に固定回線を持たない人も多く、スマートフォン(スマホ)のテザリングなどを利用して急場をしのいだ人も多かったことでしょう。
企業もまた、オンライン会議システムの構築で右往左往していました。3~4月当時、オンライン会議システムを用いた発表会や企業説明会を筆者もいくつか取材しましたが、いずれの企業も使い慣れないシステムと環境構築の不慣れさから、会議が途中で止まってしまったり、アクセス過多などから回線品質を保てず画質が低下しすぎてプレゼン内容がほとんど読めないなど、さまざまなトラブルに見舞われました。
2020年4月にJ.D. パワー ジャパンが行った「テレワーク下におけるWEB会議利用に関する日米調査」でも、テレワークにおけるWeb会議システムへの接続(参加)について、日本人では2割前後の人が「難しかった・やや難しかった」と答え、さらに「とても簡単だった」と答えた人の割合が米国と比較して3割近くも少なかったという調査結果が報告されています。
そもそも自宅でPCを使う文化や習慣が定着していない日本では、オンライン会議システム導入のハードルは思いのほか高かったようです。
また、仕事のみならず学業でもオンライン授業などが行われるようになり、在宅で家族のそれぞれが個別にPCを利用する必要性が一斉に発生したことも、状況を難しくした原因の1つです。
一家に一台ではなく一人一台のPCを用意することは多くの出費を伴います。NECの調べによると、テレワーク用PCを社員が自費で用意していた割合は企業規模が小さくなるほどに高まり、従業員100人未満の中小企業では会社支給のみの割合が35%に落ち込み、個人購入のみは44%にものぼります。
仕事用のPCだからといって、全て会社が用意してくれるわけではないのが現実です。さらに家庭内の通信環境の整備においては、ほとんどが個人任せなのではないでしょうか。
すべての人が通信環境や回線に詳しいわけではありません。ONUおよびホームゲートウェイの設置に加え、状況によっては別途Wi-Fiルーターの設置や設定も必要になります。家族の複数人で同時に利用できる、安全で快適なオンライン環境を構築するにはそれなりに知識が必要です。
そういった難しさもまた、ウィズコロナ・ポストコロナ時代に求められる新たなスキルなのかもしれません。
■企業だからこその改善力
一方で、企業のオンライン環境の整備とオンライン会議システムは、目を見張るスピードで改善されていくのを実感しました。
3月頃までは稚拙の一言であったオンライン会議システムの扱い方は、約半年で、
・参加者全員がビデオチャットを必要とするもの
・主催者のみが映像を発信し、参加者は音声のみの参加で良いもの
・そもそもプレゼン映像だけを別途用意しておき、全員が音声のみでの参加するもの
・音声チャットが難しい場合に備えてテキストチャットを併用
・トラフィック過多による不具合を防ぐために複数チャンネルを用意
・プレゼン資料は別途配布しておき、オンライン会議での映像品質は敢えて落として通信負荷を軽減
このように用途や参加者数、参加者の環境に合わせて通信負荷を選択できるまでに変化しました。
例えば対外的な発表会や説明会であれば、敢えて生配信型のオンライン会議システムを用いず、映像のみを先に動画で発信しておき、質疑応答や会議の本題のみを負荷の軽い音声チャットやテキストチャット形式で済ませる方法が有効ですが、この方法のさらなるメリットとして、同時通訳を必要としないことが挙げられます。
海外メーカーとの会議や発表会などは、これまで同時通訳によって行われていましたが、聞き取りづらかったり内容が一部省略されてしまうなどの弊害がありました。
しかし、あらかじめ主要なプレゼン内容を翻訳した文章とともに映像化しておけば、言語の壁は質疑応答や意見交換のみとなります。
またオンライン会議であれば海外出張も必要ありません。実際に製品に触れられないなどのデメリットもあるため用途は限られるものの、会場の確保や移動コストなどの削減にもつながるため、用途の選択が今まで以上に重要になってきたと言えるでしょう。
■仕事の手段を選択できる社会へ
オンライン会議システムや映像配信を活用した発表会などは万能ではありません。端的に言ってしまえば直接対面による会議の代替品であり、状況と環境が許すのであれば直接対面による会議のほうがメリットは多くあります。
しかし、単なる代替品ではなくメリットも確実に存在します。直接顔を突き合わせることがないために場の雰囲気に気圧されることなく意見交換が可能であったり、自分なりのリラックスした環境で会議が進められるためアイデアが出しやすいなどです。
前述のJ.D. パワー ジャパンによる「テレワーク下におけるWEB会議利用に関する日米調査」でも、約8割もの人が「コロナウィルスが収束した後も、テレワークや在宅勤務という働き方はあってもよい」と回答しており、環境構築で四苦八苦したものの、慣れてしまえばそのワークスタイルにメリットを強く感じている人が多いという結果になっています。
私たちはコロナ禍によってライフスタイルを変えざるを得なくなりましたが、ワークスタイルも大きく変わりました。当初は失敗や不手際の連続でしたがそれも半年経たずに次々と改善され、人々と企業それぞれの対応力の高さに改めて感嘆した思いです。
今後ワクチンの開発や医療体制の確立などによって徐々にこれまでの生活様式へと戻っていく部分もありますが、敢えて戻さなくて良い部分があることも知りました。テレワークやオンライン会議などは、まさにその「戻さなくて良い部分」ではないでしょうか。
テレワークやオンライン会議に慣れてしまえば、今までありとあらゆる会議や発表会などが全て同じフォーマットで行われていたことがどれだけ非効率であったのか痛感します。重要なのは「使い分け」です。用途と目的に応じてどのような媒体と方法を用いるべきなのか、選択肢を多く持つことが大切です。
コロナ禍だから仕方なく……ではなく、この会議内容だからオンライン会議が良い、という選択を取れる社会になることを願っています。
記事執筆:秋吉 健
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