ライブコマースについて考えてみた!

みなさんは「ライブコマース」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。もしくは利用した経験はあるでしょうか。「そんなもの聞いたこともないよ」という人でも、例えば人気YouTuberのライブ配信や商品紹介動画を見て、「この商品面白そうだな」、「これ美味しそうね」と思って配信の概要欄から商品を購入してみたり、後日店舗へ買いに行った経験がある人もいるかも知れません。

こういった、商品紹介とともに視聴者からの質問にも答えるかたちのライブ配信や動画による宣伝をライブコマースと呼びます。

かつてはウェブ広告と言えば新聞の広告のようにサイトの本文(本分)とは関係のない、単なる広告として表示されるものでしたが、最近ではダイレクトマーケティングに近いライブコマースが流行りつつあるのです。

ライブコマースにはどのようなメリットがあるのでしょうか。またデメリットはないのでしょうか。感性の原点からテクノロジーの特異点を俯瞰する連載コラム「Arcaic Singularity」。今回は世間に浸透しつつあるライブコマースの現状とメリット・デメリットについて考察します。

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ライブコマースはどう活用すべきか


■ライブコマースの流行と変遷
はじめに、ライブコマースの実態や内容の変遷について見ていきましょう。

ライブコマースが大きく話題となり始めたのは2~3年前です。当時中国などで流行の兆しが見られ、単なるライブ配信ではなく、視聴者がライブ配信者に商品についての質問をすることができたのが大きな特徴で、インタラクティブ性の高さによる丁寧な商品解説や「自分が商品を見に行く代わりに教えてくれる」商売として大きな広がりを見せたのです。

その後、ライブコマースの潮流は世界中に広がり、日本でも冒頭でお伝えしたように人気YouTuberが企業案件としてライブコマースを行うようになりました。

日本の場合、ライブ配信だけではなく事前に収録した動画配信によるコマース活動のほうがより盛んかもしれません。

海外では視聴者とのインタラクティブなやり取りが高く評価されますが、日本人はあまりポジティブなコメントをしない点や、そもそもコメントで質問をするという人が少ない傾向もあり、双方向性は下がるものの動画配信のほうが積極的に活用されている印象です。

ライブ配信の場合、商品説明を間違えたり視聴者数を稼げないといったデメリットもあります。そのため、収録後に発言のチェックや校正および構成が行える動画配信のほうが、言い間違いや語弊に厳しい日本人には適しているのかもしれません。

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企業案件動画の帝王と言えば、やはりこの方


また、企業自身がライブコマースを行うこともあります。

例えば先日、スクウェア・エニックスのオンラインゲーム「ファイナルファンタジーXIV」のオンラインファンフェスティバルが開催されましたが、ゲームメーカーなどの場合、自社ゲーム自体をライブ配信で紹介すること自体がライブコマースとなるだけではなく、関連グッズの紹介や視聴者からのコメントを受けてその詳細について語るなど、まさにライブコマースの本領発揮といった様子でした。

ファンフェスティバルを視聴するほどのユーザーであれば高い購買率が見込まれる上、企業としても「買って下さい!」と堂々と言えるという点が大きなメリットです。

以前、日本ではYouTuberや著名人が商品宣伝であることを隠して商品を紹介する「ステルスマーケティング」が大きな問題となったことがありましたが、そういった隠し事のような手段を用いるのではなく、堂々と「これは企業案件です」、「弊社の商品を買って下さい」と宣伝するほうがフェアであるという認識が広まった結果が、現在のライブコマースにつながっていると考えられます。

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「ファイナルファンタジーXIV デジタルファンフェスティバル 2021」内で紹介されたフェンダー社製のコラボギター。商品紹介だけではなく、その後行われたスペシャルライブでも使用された。(Copyright (C) SQUARE ENIX CO., LTD. All Rights Reserved.)


■まだまだ認知と利用が浅いライブコマース
では、ライブコマースはどの程度一般に認知されているのでしょうか。

MMD研究所が2021年4月に行った「ライブコマースに関する利用実態調査」によると、「視聴し、商品を購入したことがある」、「視聴したが、商品を購入したことはない」と回答した人が合計で12.7%だったのに対し、「言葉は聞いたことがあるが、利用方法や内容はよく知らない」、「全く知らない」と回答した人は合計で71.6%と、まだまだ認知が進んでいない状況が伺えます。

ファネル分析においても「認知」は43.2%、内容理解は28.4%となっており、やはりまだ半数以上の人がライブコマースについてよく知らなかったり、全く知らないといった状況であることが分かります。

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思った以上に認知されていないという印象だ


消費者全体としては5.8%しか利用経験(商品購入経験)がないライブコマースですが、さらにその利用者の内訳を見てみると、「配信画面からすぐにアクセスできるECサイトで購入」、「他サイトとも比較し、価格が安いECサイトで購入」、「実店舗で購入」のそれぞれの購買ルートが、いずれも男女問わず40~50%付近となっており、商品購入の手段としてはライブ配信を頼っていない様子が伺えます。

好きなYouTuberやメーカーのライブ配信および動画を視聴し、その商品が気になった時に検索して購入する、といった購買行動が予想されます。

若干差が出たのは「他サイトとも比較し、価格が安いECサイトで購入」の項目です。男性の方が女性よりも20%近くも多く、より価格や購入サイトの信頼性などに厳しい様子が伺えます。

この性差については、前々回のコラムで題材としたオークション&フリマサービス・アプリについてのアンケートと似通った傾向があり、男性は商品購入のプロセス自体を細かく吟味し、女性は面倒をかけず手早く商品を手に入れたいという欲求があることが伺えます。

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全体としては、販売チャネルにこだわっていないという傾向が見て取れる


【過去記事】秋吉 健のArcaic Singularity:捨てる神あれば拾う神あり。オークション&フリマサービス・アプリの隆盛や諸問題からコロナ禍を生きる知恵を探る【コラム】


■ライブコマースのメリットとデメリット
では、ライブコマースにはどのようなメリットとデメリットがあるのでしょうか。

最大のメリットと言えば、やはりライブ・動画配信者とのやり取りによって商品の詳細を知ることができる点です。

視聴者はライブチャットやコメント欄などで商品についての質問をすることができるため、インタラクティブ感の高さから配信者との距離感の近さを感じられ、配信者が目的で視聴しているユーザー層としては非常に満足感の高いものです。

また、商品への質問や回答は視聴している人全員が共有できるため、コミュニティ的なユーザー体験の高さもメリットの1つです。

例えば個人による出資や投資の1つとしてクラウドファンディングが広く定着していますが、この人気の理由の1つとして「多くのユーザーとともに夢を実現(製品化)していく」というコミュニティとしてのユーザー体験の高さが挙げられます。

推しのYouTuberが「これはイイよ!」と太鼓判を押し、同じファンである視聴者が「私も買う」と発言しているのを観ると、ファンとしてはつい欲しくなってしまうものなのです。

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「あのYouTuberと同じものを使える!」といったユーザー体験も重要なポイントだ


企業目線で言えば、宣伝コストが低いことがメリットの1つです。

ライブ・動画配信にはYouTubeやInstagram、LINE LIVE、Twitchなど多くの媒体が用いられますが、いずれも無料から利用することができ、配信自体にコストはかかりません。配信機材も個人で買える程度のもので十分です。配信者への依頼料などはかかりますが、新聞やTVへの広告掲載費用と比較すれば圧倒的に低コストです。

その上、配信された動画はすべてアーカイブされ、検索などでいつでも視聴してもらえるため、テレビCMのように視聴期間が決められていたり(しかも放映時間以外は視聴されない)、新聞広告のように掲載1回毎にコストがかさむといったことがありません。

上記のアンケート調査からも、視聴者による商品購入率が高いことも費用対効果の高さとしてメリットに挙げられるでしょう。

現在は認知度そのものが低いために広告としてのメリットが薄い状況ですが、「観てもらうことさえできれば購入には繋がりやすい」とも言えるため、ライブコマースの手法そのものというよりも、人気YouTuberや自社のアカウント登録者をいかに増やしていくのか、という点が最大の焦点となりそうです。

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街の看板広告なども、自社ブランドのアピールという点ではメリットが多いが、特定の商品の購入に対する費用対効果は非常に薄い


一方でデメリットとしては、やはりライブコマース自体の認知度の低さが挙げられます。

絶対的な数字として消費者層の5%少々しか利用していない実態は無視できません。マス市場を狙った商品の宣伝としては力不足です。飽くまでも他広告媒体やマーケティングの補完としての役割が強く、口コミを期待したTwitterなどでの宣伝と大差がない印象です。

低コストな宣伝方法であるがゆえにデメリットも少ないのがライブコマースのメリットとも言えるだけに、より人気のあるYouTuberに依頼したり、自社ブランドのファン層をある程度確保することに注力することが今後の課題と言えそうです。

また、基本的に企業からの依頼や企業自身が宣伝している点から、商品評価が甘いという点はデメリットと言えます。その商品が本当に自分に使いやすいものなのか、紹介している内容が偏っていないのか、視聴者側は見極める眼力も必要となります。

不当に叩くばかりの批判レビューが面白くないのと同じように、持ち上げてばかりのレビューもまた面白いものではなく、商品販売前提のライブコマースであればなおのこと、不当表示や詐欺広告と叩かれかねません。

ライブコマースを利用する際は、その紹介内容が本当に正しいのか、視聴者からの質問や疑問に正しく答えているのかなど、しっかりと判断したいところです。

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極論、「信者」と呼ばれるほどのファン層を形成することがライブコマースの最終目標かもしれない


■街で自由に買い物ができない時世だからこそ
コロナ禍によって実店舗でのショッピングを楽しむ機会が激減し、巣ごもり需要によってeコマース市場は絶頂の最中にありますが、オンラインショッピングは「商品を実際に手に取って確かめられない」という弊害を表面化させました。

そのような中で、自分の代わりに商品に触れ、商品をレビューし、事細かに解説してくれるライブコマースは大きな助け舟となっています。

例えば筆者の場合、新しいパソコン(PC)を購入する際に、PCを構成する部品の性能などをライブ配信やレビュー動画で細かく知ることができ、さらにコメント欄などで質問にも答えていただけたため、納得の行く性能と品質の部品を選択して購入することができました。

もしこれが、レビュー動画もライブ配信も何もなく、公式サイトの商品説明や紹介記事のみを頼りに購入していたら、間違いなく「思ったよりもファンがうるさかった」、「もう少し良い部品を選ぶべきだった」と嘆いていたことでしょう。

PCに限って言えば、店頭で商品を少し触った程度ではその良し悪しをほとんど判断できません。実際の挙動や性能などはレビュー動画だからこそ分かるものであり、こういった商品の場合ライブコマースは非常に相性の良い宣伝手法と言えます。

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PCのように実際に動いているところを観ないと良さが分からないものは多い


ライブコマースは、正しく使えば実に便利で確実な商品購入方法となります。企業としても現状では販売規模こそ稼げませんが、安定した購買を期待できる手段の1つとして十分検討に値するものです。

eコマース全盛の今だからこそ、企業もユーザーも積極的かつインタラクティブなコミュニケーションによってマーケットを活性化していく必要があるように感じます。

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商売で重要なのは信用。ライブコマースでも信用第一で


記事執筆:秋吉 健


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