ネットワークスライシングについて考えてみた!

KDDIおよびソニーは23日、都内にて「5Gゲームストリーミングに関する技術検証説明会」を開催しました。これは5G SAの特徴(メリット)の1つである「ネットワークスライシング技術」の実証実験で、5G SAが4Gまでの通信技術にはない可能性を秘めていることを実証する貴重な発表でもありました。

5G SAについては本連載コラムでも3月第1週目に解説しており、その中でネットワークスライシングについても簡単に触れましたが、あの解説のみでは利便性や技術的な問題点についてほとんど理解できなかったのではないかと思います。

そこで今回の「Arcaic Singularity」では、ネットワークスライシングのみにフォーカスし、どういった場面で有効な技術であり、どのような技術的課題が残っているのかを、KDDIの事例を交えつつ解説します。

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「5Gの真骨頂」とまで呼ばれる理由とは何か


■5Gのメリットを100%発揮するためのネットワークスライシング技術
上の画像にあるように、ネットワークスライシングは「5Gの真骨頂」や「5Gの本命技術」とまで呼ばれます。正確には以前のコラムでも書いたように「5G SA」(5G Stand Alone)によって可能となる技術の1つです。

これまでの5G通信は「5G NSA」(5G Non Stand Alone)という方式で、「4G通信のコア設備を流用・共用した5G通信」でした。

これに対し、5G SA方式では5G専用のコア設備を利用するため、単純な大容量通信や高速通信だけではなく、超低遅延や超多接続といった5Gで実現可能とされてきた技術的メリットを十分に発揮することが可能となります。

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5G通信は、5G SA方式の導入によってようやく「本物の5G」になる


しかしながら、5G通信の特徴とされる「超大容量(超高速)」、「超低遅延」、「超多接続」といったそれぞれの特徴(メリット)は、実は同時に実現することが非常に難しいのです。

例えば、4Kや8Kといった超高精細な映像配信は超大容量・超高速通信によって実現されますが、その場合遅延性はある程度捨てた通信が必要となります。映像配信においては多少の遅延が発生しても何ら問題はないため、そのリソースを捨てて大容量通信を実現するのです(捨てると言っても4G通信程度かそれ以下の遅延に十分収まる)。

一方で、自動運転車などに搭載される通信技術(V2X技術)では、AIによる瞬時の判断や的確な遠隔監視によって事故を確実に防ぐ必要があります。こういった場面では通信容量の大きさや通信速度をある程度捨ててでも低遅延性が優先されます。

つまり5Gをフル活用するには、コンテンツやサービスの特性に合わせて利用するネットワークを「通信速度特化」や「低遅延性特化」といった具合に個別でチューニングする必要があるのです。

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放送業界から自動車業界、建設業界など様々な業種・業態で5Gが利用され始めている


それでは、こういった各々の特性に特化した5Gネットワークの設備を個別に構築したらどうなるでしょうか。

当然ながら設備コストは回線の種類だけ増加し、物理的にも場所を専有します。サービスの増加や縮小など目まぐるしく変わるビジネスシーンに合わせた設備の増減が難しく、無駄なコストや電力を消費し続けることになります。

そこで考えられたのが、1つのネットワークを仮想的(ソフトウェア的)に分割し、それぞれの特性に合わせた別々のネットワークとして運用する方法でした。それがネットワークスライシング技術です。

KDDIをはじめ、通信各社はネットワークスライシング技術について5Gサービスが始まる何年も前から準備と実証を繰り返してきており、そのための設備がようやく稼働段階に入り商用サービスの開始となったというのが、現在の状況です。

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2018年に開催された「ワイヤレスジャパン2018」に出展したKDDIブースの展示


ネットワークスライシングには、前述のようにそれぞれのコンテンツやサービスの特性に合わせたネットワークチューニングが可能になるというメリットがありますが、もう1つ重要な特徴があります。それは「他のネットワークスライスの影響を受けにくい」という点です。

「映像配信用」や「IoT機器用」、「自動車通信用」などに切り分けられたそれぞれのネットワークスライスは、いわば「別々の通信設備で動作している」のと同等の環境を仮想的に構築しているため、例えば映像配信サービスが混雑しても自動車通信には大きな影響が出にくいように設計されています。

これによって、安定した通信環境を得ることが最重要とされる自動車通信などで活用しやすくなり、映像配信などでも安定した配信を実現しやすくなります。クラウドゲーミングでも遅延や通信不良の少ない快適なプレイが楽しめます。

KDDIは2月にも、AbemaTVとの提携事業として5G SAを活用した映像配信サービスの試験運用などを開始していますが、モバイル回線を用いた映像配信であっても安定した品質と信頼性の高いコンテンツ提供が可能になるという点は、4G時代までのモバイル回線の常識を覆すほどの画期的な進歩だと言えます。

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大きな機材や専用設備を用いることなくモバイル回線だけで安定した高品質配信が可能になる時代が来た


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5Gとネットワークスライシング技術がコンテンツ制作やオンラインサービスの常識を変えようとしている


■残されるソフトウェアとシステム側の課題
このように5Gのメリットを100%発揮するための存在するネットワークスライシングだからこそ「5Gの真骨頂」と呼ばれているのですが、本格的な商用化にはいくつかの課題が残されています。

その1つはユーザー端末側のアプリケーション対応の問題です。

例えば、私たちが普段利用するスマートフォン(スマホ)での活用シーンを考えた場合、

・高品質動画の視聴
・オンラインゲームの利用
・カーナビアプリの利用
・イベント会場でのコンテンツ利用

こういったものが想定されますが、これらを1つのスマホで利用するには、コンテンツやサービスごとに利用するネットワークを切り替える必要があります。

しかしながら、少なくともKDDIにおいては現在のところアプリケーション単位でのネットワーク切り替えに対応していません。

つまり、例えば、ネットワークスライシングを活用したゲームストリーミングサービスを利用しようとした場合、そのネットワーク単位での通信契約が必要になってしまうということです。

当然ながらそれではネットワークスライシングのメリットは「他のネットワークに干渉されにくい」という点しか享受できません。

そのためKDDIは、

「加入(契約)ごとにサービスを提供するのか、サービス単位での加入になるのかは検討中」

「現在のところ技術的にはアプリごと(サービスごと)というのは対応できていない」

「状況をしっかりと見ながら、サービスとしてどのように提供できるのか検討している」

「現在は限定的な法人提供とし、2024年以降の本格展開に向けて調整を続けていく」

このように話しており、ネットワークスライシングという技術の基礎と設備は確立されたものの、アプリケーションレベルでの対応やサービスの展開方法について多くの課題を残している点を示唆させていました。

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理想はサービスやコンテンツ単位でネットワークを切り替えられることだが、現在はそこまで技術検証が進んでいない


■単なる4Gの延長ではない、5Gならではのサービスを実現するために
5G SAおよびネットワークスライシングに関してはKDDIのみならず、NTTドコモやソフトバンク、楽天モバイルといった移動体通信事業者(MNO)各社が揃って導入とサービス運用を目指しており、ソフトバンクは2021年10月より、NTTドコモも2021年12月から5G SAの法人向け運用を開始しています。

5Gサービスの開始から3年目を迎える2022年ですが、5Gらしいサービスという点ではほとんど何も実現していないのが実情です。一般的には「4Gをさらに速くした通信回線」くらいの認識しかないのではないでしょうか。

2Gで音声通話の品質が向上し、3Gで音楽配信が当たり前となり、4Gでは動画視聴やストリーミング音楽配信を当たり前に楽しめる時代となりました。

5Gが目指すべきはその先です。ただ高画質な映像コンテンツを楽しめるというのではなく、時には高い応答速度を必要とする対戦ゲームを遊び、時には超高画質な映画を楽しみ、時には数万人を動員したライプ会場で来場者全員が手元のスマホでライブコンテンツに参加する。そんな世界です。

ネットワークスライシングとは、そのために存在する技術だと理解していただけると幸いです。

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ネットワークスライシングがコンテンツを変え、通信の常識を変える


記事執筆:秋吉 健


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