NTTドコモの「触れる」ARライブ映像視聴システムを初体験!

NTTドコモは24日、都内秩父宮ラグビー場にて同社が研究・実証実験行っている次世代通信規格「5G(第5世代移動通信システム)」を活用したスポーツ観戦への取り組み「新体感!みらいスタジアム」の体験イベントを開催しました。

5Gは移動体通信事業者(MNO)各社が2020年前後のサービス開始を目標に研究・開発を進めており、今回のイベントもその実証実験を兼ねた体験会です。同社は社会人ラグビー「トップリーグ」に所属するラグビーチーム「NTTドコモ レッドハリケーンズ」を運営しており、今回のイベントは同チームの試合観戦を使って行われたものです。

今回は同イベントで初公開されたARスマートグラスによる「ARライブ映像視聴システム」の実証実験の様子をご紹介します。

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当日は多くのラグビーファンで大いに盛り上がっていた


■AR空間の映像に「触れる」スマートグラス
今回同社が実証実験を行ったARライブ映像視聴システムは、現実の空間にリアルタイム映像を投影し、スポーツ観戦などをしながら選手情報や文字による実況解説を観ることができるというAR(Augmented Reality=拡張現実)システムです。

ARを用いた情報拡張システムはかなり以前から多くの企業で実証実験や実用化が進められており、スマートフォン(スマホ)のゲームアプリ「Pokémon GO(ポケモンGO)」のヒットなどでも一般に広く知られるようになりました。

今回同社が行った実験ではスポーツの試合のライブ映像をリアルタイムに表示し、ユーザーの任意でその映像を視界外にどかしたり、拡大したりして観られるという高いインタラクティブ性が大きな特徴となっています。

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当日のカードは「NEC グリーンロケッツ vs NTTドコモ レッドハリケーンズ」


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試合は前半グリーンロケッツが押し気味だったが後半にレッドハリケーンズが押し返し13-16でレッドハリケーンズが勝利した


ラグビーに限らずサッカーや野球などの観戦に行ったことがある人であれば誰もが一度は感じることですが、スタジアムでの観戦は選手との距離が遠く、細かな動きや情報を追いかけにくいものです。

そのため、スタジアムに設置された大型スクリーンや手元のスマホで試合情報の確認などをしながら観ることが多くなりますが、その手間や観戦のしづらさを解消し、よりエンターテインメント性の高いコンテンツへと昇華しようというのが今回の実証実験の狙いです。

用いられるデバイスはメガネ型のスマートグラスです。スマートグラス本体のメーカーはエプソン製となっており、担当者によれば汎用製品を用いてシステムを構築しているとのことで、通信モジュール以外のシステム全体のコストは10万円程度とかなり安価に作られているとのことでした。

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今回使用されたスマートグラス。基となる機種はエプソンの「BT-300」と推察される


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スマートグラス本体とコントローラ部。試作であるため作りは荒い


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BT-300に専用のカメラデバイスなどを取り付けカスタム化している


NTTドコモが開発したARライブ映像視聴システムの大きな特徴は操作系にあります。一般的なスマートグラスでは空間上に映した映像などを操作する場合、専用のコントローラによる操作が必要となります。しかし同社では目の前に手をかざし映像を払い除けたり押すような動作をすることで直感的な操作を可能としました。

具体的には、スマートグラス正面に搭載された赤外線センサーによって手を認識し、その手の情報をARデータに重ね合わせて表示することで使用者からも視覚化するというものです。視覚化された手の情報はそのまま映像情報と連動させられるため、映像を動かすことができるのです。

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カメラの横にある四角い部分が赤外線センサー


本システムの操作方法や利用シーンなどは以下の公式動画からもご覧いただけます。


完成版 チュートリアル AR体験 字幕・ロゴ有りr2

動画リンク:https://youtu.be/rD3FmrfTBfI


空間インターフェース技術を用いたARライブ映像視聴システム

動画リンク:https://youtu.be/IT-oKsoOWk4

こういった直感的な操作を目指した背景として、スポーツ観戦時に応援グッズや飲食物などで両手がふさがりやすい状況を考慮したと担当者は語ります。スポーツ観戦では鳴り物やうちわ、ドリンクなどを手に持って応援するのが一般的ですが、その際にコントローラを手に持って指で操作するというのはあまり現実的ではありません。

そこで応援グッズなどを手に持った状態でも赤外線センサーであれば手を認識でき、そのまま空間上で腕を左右に動かすだけで映像をどかせるという単純な操作性を重視したと言います。

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応援用のスティックバルーンを両手に持った状態でコントローラ操作をするのは現実的ではない


■多数端末接続を可能とする5Gだからこそできるスマートグラスによるスポーツ観戦構想
実際に筆者も体験してみましたが、映像のクオリティも想像以上に高く、僅か数分程度でその操作にも慣れることができました。AR空間上には2つの映像が表示されており、それぞれのチームや別角度からの映像が同時に送られてくる仕様となっていました。また文字情報も同時に送られており、専用のオペレーターによるリアルタイム実況情報が流れてくる仕様となっていました。

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思わず実証テストの時間制限も忘れて映像の操作やスマートグラスの面白さと便利さに没入してしまうほど


この複数のライブ映像や文字情報の送信に活用されるのが同社の5G技術です。ワンセグ解像度程度の映像を単体のデバイスへ複数送信する程度であれば現在の4G(LTE)回線でも十分に可能ですが、重要なのは圧倒的な多チャンネルへ同時送信を可能にしなければいけない、という点です。

スポーツスタジアムのような数千人から数万人もの観客を動員する場所では、送受信のデータ容量以上に大量の同時通信を可能にする通信システムが必要になります。5Gは高速大容量・低遅延という特性とともに多数端末接続を可能とするシステムであるため、こういったシステムの構築に最適なのです。

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当日は観戦場所の後方に5Gの仮設基地局が設置されていた


一方で、5Gでは高周波数帯の電波を利用することから屋内浸透性(壁やガラス窓などを電波が貫通する性質)や長距離送信時の出力減衰が大きい特性などがあるため、広いエリアをカバーするような利用には向いていません。逆に言えば比較的狭いエリアにのみ集中的にアンテナを設置することでスポット的な利用が可能となるため、スタジアムでのスポーツ観戦といった用途に非常に適した規格と言えます。

同社としても5Gは4Gをリプレースする存在ではなく、4Gや3Gとともに適材適所で並行利用していく技術だとしています。

今回実証実験が行われたARライブ映像視聴システムは飽くまでも技術検証としてのものであり、このまま製品化するといったものではありませんが、同社としてはこういった技術検証を今後も定期的に行いながら、5Gモジュールの小型化や量産化への足がかりとしたい考えです。

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今回のシステムでは映像処理などに同社が取り扱うスマホが利用されていた。将来はこういった外部処理を必要としない、5Gモジュール搭載のスマートグラスが登場するかもしれない




記事執筆:秋吉 健


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